menu164 不死身の竜!?
☆★☆★ コミックス明日発売 ☆★☆★
コミックス4巻が、ついに明日発売です!
王宮編完結、悪魔の魚、ウィンデルとの出会い、ゼロスキルの料理人爆誕、
結構濃い内容となっておりますので、是非手に取ってくださいね。
目もなければ、口もない。
ただ真っ黒というより、真っ暗な巨体を前にして、冒険者たちは総じて鼻白んでいた。
それも竜種だという。
総じて竜と名の付く魔獣は、ランクが高い。
1番低いワイバーンとて、Aランクに数えられている。
それ以上となると、もはや伝説の存在だ。
Sランクは勿論、SS,さらにはSSSランクも存在する。
もはや逆鱗に触れれば、人類が滅びかねない。
果たして蛟竜がどのランク付けされているか知る者は少ないが、Aランク以下ということはない。そして、その戦闘力は空の雄でもあるワイバーンの戦力に引けを取らないということだ。
その時、ディッシュが背負っていた道具袋が動く。
『おっっしゃあああああああああああ!!』
スポンッ、と飛び出したのは、豚に似た頭蓋だった。
ビリビリと口の周りに巻かれていた布を破り、哄笑を上げる。
『か――――っかっかっかっかっ!! ふっかぁぁああああつ! マジックスケルトン、ふっかぁぁあああああつ!!』
「なっ!」
「あれは?」
「あらあら、マジックスケルトンですねぇ」
いきなりディッシュの道具袋から出てきたマジックスケルトンを見て、因縁のあるアセルスたちは揃って驚く。
『こら! 小僧!! よく我が輩をこんな狭い道具袋に入れやがって!!』
「仕方ねぇだろ。『留守番はイヤだ。我が輩もついてくぅ』って駄々をこねてうるさいお前を連れて行くには、道具袋の中に入れとくしかねぇだろ」
『アホォ! これは連れていくとは言わんわ!! 拉致○禁というのだ!!』
マジックスケルトンは激おこだ。
見た目が骨なので、顔が赤くなることも髪や角が逆立つこともなかったのだが、地底湖に流れる空気を読まずに喚き散らす。
そしてやがて眼窩のない目で、周囲を見た。
落ちくぼんだ瞳は、ようやく蛟竜を目撃する。
『な、な、なんだ! あれは蛟竜か!!』
マジックスケルトンは絶叫する。
「お前も蛟竜を知っているのか?」
『知っておるわい。我が輩を舐めるな。これでも魔族の中でも知識人だったのだからな』
「ディッシュ殿……。その喋る骸骨はなんですか?」
ルヴァンスキーは額に手を当てながら尋ねた。
「ああ。これか? これはうちの出汁担当だ」
『はああああああ! ふざけるな!! 誰が出汁担当だ! いいか、聞け! 人間ども、我が輩はマジック――――』
瞬間、マジックスケルトンはウォンに捕まる。
パクッと頭から噛まれると、ベロベロと舐め出した。
器用に空中で一回転させてから、さらに舐め回す。
『ひゃん! や、やめっ! ウォンさん! ウォン兄貴! お願いです! 甘噛み、甘噛みでおねがしゃーーーーす! は、歯が! はうぅぅうううぅうぅう!!』
マジックスケルトンの顔が緩みきり、ついには昇天する。
「一体、あいつ何のために出てきたんだ……」
アセルスもまた額を押さえる。
「ちょ! ボケとツッコみをやっている暇ないよ」
「来ます!!」
エリーザベトの声が、いつになく鋭く響く
それほど、状況が切迫していることを示していた。
マジックスケルトンの登場によって、狼狽えていたのは冒険者たちだけではない。
それは蛟竜も同じだった。
だが、突然の魔族の登場も、それが無害だと判断したらしい。
黒い大きな巨体を揺らしながら、ついにその鼻先を冒険者たちの方に向く。
その先にいたのは――――。
「ルヴァンスキーさん!!」
同じエルフ族のランクが、かつてのエルフの英雄の名を叫ぶ。
まるでそれが号砲であったかのように蛟竜は動いた。
真っ直ぐルヴァンスキーの方に向かって、突進してくる。
生半可な冒険者であれば、腰を抜かしてしまうような事態だ。
蛟竜が持つ独特の雰囲気に飲まれたならば、きっと1歩も動けないだろう。
しかし、英雄ルヴァンスキーは片眼鏡を吊り上げると、冷静に腕を剣のように払った。
スキル【疾風】
突如、見えない剣が地底湖の空気を切り裂く。
それだけではない。
向かってくる蛟竜の頭部を、×の字に切り裂いた。
「すごっ!」
「さすがルヴァンスキーさんだ」
ヘレネイとランクが、手を叩く。
引退はしたが、ルヴァンスキーは元英雄。
そして、そのスキル【疾風】は健在。
たとえ、Aランクでも後れを取る訳がない。
――と思ったのは、ルヴァンスキー以外の冒険者たちだ。
本人の感触は違った。
「まだです!!」
ルヴァンスキーは表情を崩さず叫んだ。
まさにその通りのことが起こる。
×の字に切り裂かれた蛟竜の頭部は瞬く間に修復されていく。
元の姿に戻るのに、5秒とかからなかった。
そして何事もなかったように、ルヴァンスキーに再び迫る。
スキル【疾風】
今度、×の字だけではない。
2、3、4と連続で切り裂いた。
蛟竜の頭部はバラバラになったが、それでも動いている。
やがてまた元に戻った。
「不死身ですか、この魔獣は――――」
ついに英雄も不可解な魔獣の特性を見て、苛立ちを露わにする。
「斬っても死なねぇのか」
『かっかっかっかっ!! 無駄だ、人間。蛟竜とは、すなわち水の中にいる竜のことを指す。人間如きの力では、そやつは倒せまいて』
マジックスケルトンの眼窩の奥が光るのだった。







