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ゼロスキルの料理番  作者: 延野正行
第7章
184/209

menu162 若い力

☆☆ コミカライズ更新 ☆☆

本日ヤングエースUPにて、

『ゼロスキルの料理番』のコミカライズが更新されました。

ついに書籍オリジナルのゴーレムのお話が入ってきました。

是非ご覧下さい。


挿絵(By みてみん)

 ルヴァンスキーに案内されるまま、ディッシュ一行は未踏窟のダンジョンにやってきた。


 そこには人だかりができていた。


 他の冒険者だ。


「え? 冒険者?」


「僕たちだけじゃなかったのか?」


 ヘレネイとランクはちょっとしょんぼりする。


 英雄と謳われるルヴァンスキーに選ばれたのだ。


 誇らしい気分に浸っていたのが、台無しになる。


「私は他の冒険者がいないとは言ってませんよ」


 ルヴァンスキーの言うことはもっともだった。


「未踏窟のダンジョンには何があるかわかりません。当然、魔獣の種類も。先ほどもいいましたが、ランクも付けられていない未知の魔獣も存在するでしょ。そんな場所に、あなたたちだけ連れていくわけにはいきません」


「まあ、そうだよね」


 ランクは肩を落とす。


「ですが、何らかの遺跡を発見した場合、Aランクの冒険者であろうと、Dランクであろうと関係なく、表彰されます」


「チャンスってことよ、ランク。ここで私たちの名を上げましょ」


 ヘレネイは気を落とす相棒の背中を叩いた。


 そんな時である。


「おお! ディッシュじゃんか!」

「あ~~ら。ヘレネイと、ランクもいますねぇ」


 聞き知った声が聞こえて、ディッシュは振り返る。


 燃えるような赤髪を伸ばしたフレーナと、おっとりしたエリーザベトが立っていた。


「フレーナ、エリザ……。お前たちも来てたのか?」


「まあ、いつものことだ」


「未踏窟のダンジョンにはいつも駆り出されるですよ~」


「じゃあ、2人がいるってことは?」


「ディ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッシュ!!」


 山を貫くような声と共に、それはまさしく光速でやってきた。


 シュタッとディッシュの前で着地すると、ディッシュの手を叩く。


「なんでディッシュがここにいるのだ? 何か料理を作るのか? 今度はなんだ? 焼きか? 揚げか? それとも叩きか? うーん! 楽しみだなあ」


 現れたのは【光速】の騎士アセルスだ。


 ウォン同様に、その口元から涎が垂れていた。


「落ち着け、アセルス。俺たちはこのルヴァンスキーのおっさんに言われて、未踏窟のダンジョンを探索しに来ただけだ」


「ルヴァンスキー殿に……」


「ほら、ヘレネイとランクもいるぞ」


 ディッシュは後ろで苦笑いしているヘレネイとランクを指差す。


「ご無沙汰してます、アセルスさん」


「こんにちは」


 2人の表情を見て、アセルスはたちまち顔を赤くした。


「おいおい。どうした、アセルス」


「そうですよ~。今回の探索はアセルスがリーダーなんですからね~」


「お腹空いたっていって、ダンジョンから飛び出さないで――――」


 バン! アセルスの【光速】の拳がフレーナに突き刺さる。


 その辺の木に激突し、フレーナは昏倒した。


「お前たちは私を何だと思っているのだ!」


 腰に手を当て、ムスッと仲間たちを睨む。


「アセルス殿、茶番はそれぐらいで」


 ルヴァンスキーが間に入った。


 アセルスは慌てて、咳払いする。


「す、すまない、ルヴァンスキー殿。人数も揃ったし、そろそろ出発しようと思うのだが……」


「構いません。参りましょう」


 そして総勢30名の冒険者たちは、未踏窟のダンジョンへと足を踏み入れるのだった。





「エリミネーターだ!」

「何体だ?」

「3体!! 突進してくるぞ」

「盾を持つ冒険者が前に!!」

「防御系のスキルを頼む」

「任せて!」

「よっしゃ! 停まった!!」

「槍だ! 槍をかませ!」

「刺さった! 刺さった!!」

「よし! 怯んだぞ!!」

「一斉攻撃だ」

「「「うおおおおおおおおお!!」」」


 冒険者の流れに乗って、ヘレネイとランクが突撃していく。


 目指す相手は大型のトロル。


 狂戦士トロルと呼ばれるエリミネーターだ。


 膂力と体力に優れ、持っている石斧で簡単にダンジョンを吹き飛ばしてしまう。


 力には力。


 こちらも力を合わせて、動きを封じると、リーダー役であるアセルスが「一斉攻撃」を命じた。


 比較的広いダンジョンの廊下を、冒険者たちが走っていく。


 それはダンジョンに注がれた鉄砲水のようだった。


「1体仕留めた!」

「2体目!」

「3体目は逃げたぞ」

「まずい! 仲間を呼ぶぞ、あいつ」

「その前に――――」


「私が行く!!」


 飛びしたのは、アセルスだった。


 光の航跡を生みながら、ダンジョンを駆け抜けていく。


 エリミネーターは鈍足だ。


 【光速】というスキルを持つアセルスが追いつくことなど、造作もないことだった。


 あっさりとエリミネーターの前に回り込む。


 魔獣は足を止めるかと思いきや、そのままアセルスに突進していった。


 それを華麗に避けたアセルスは、大きなエリミネーターの足に向かって剣を振る。


 筋を狙って斬ったのだろう。


 エリミネーターはたちまち頽れた。


 息はある。トドメとなった時、追撃役に現れたのはフレーナだった。


 拳に真っ赤な炎を燃やしながら、倒れたエリミネーターに下段突きを突き放つ。


 見事貫通すると、3体目のエリミネーターは断末魔の悲鳴を上げながら、炎に包まれ、炭になった。


「よし!」


 フレーナはガッツポーズを取る。


「フレーナ、油断するな。まだどこかに魔獣が潜んでいるかもしれないぞ」


「わかってるよ、アセルス。だが、ちょっと安心だな。そんなに魔獣は強くないぞ、ここ」


「私たちにとってはな。だが、他の冒険者にとっては別だ」


「わたしたちが~、付いてきて正解でしたね~」


 エリーザベトが早速、傷付いた冒険者の治療に当たっていた。


「ディッシュを守れてよかったな、アセルス」


 フレーナがアセルスの脇を肘で突く。


 アセルスは真っ赤になりながら「そ、そうだけど、それだけではないのだ」と照れていた。


 一方、そのやりとりをヘレネイとランクは最後列の付近で眺めていた。


 ディッシュとウォンも隣にいる。


「すごいわねぇ、アセルスさん」


「アセルスさんたちだけじゃないよ。他の冒険者も実力者揃いだよ」


「なんで、私たちが呼ばれたんだろう」


「ルヴァンスキーさんがディッシュくんと面識があったからとか?」


「やっぱり私たちって、ディッシュくんのおまけなのかなあ」


 ヘレネイとランクは深く溜息を吐く。


 そんな2人を励ましたのは、ディッシュだった。


「そんなことねぇよ。そもそも俺は戦闘力皆無だしな。スキルもねぇ。できることといえば、料理ぐらいなもんだ。それにな、ヘレネイ、ランク」


 それぞれの肩を叩く。


「ルヴァンスキーのおっさんは、意味の無いことはしない」


「なんでわかるの、ディッシュくん」


「2、3度面識があるぐらいって話していたわよね」


「同じ飯を食い合った仲だからな」


「ぷっ! 何よ、それ!」


「でも、ディッシュくんらしいね」


 ようやくヘレネイとランクに笑顔が戻る。


 そんな時だった。急に冒険者の動きが止まる。


 どうやら先頭の方で何かがあったらしい。


「どう、ランク?」


「どうやら、行き止まりみたいだね」


「ええ! ここまで来て何もないの」


 ヘレネイはまたしてもヘナヘナと頽れた。


 だが、ランクの反応は違う。耳をそばだてる。


 どうやら【解聴】のスキルによって、何らかの声が聞こえたらしい。


「え? 道があるって?」


 傍目には独り言のようにしか聞こえないが、ランクの耳には確かに何かが聞こえたようだ。


 対して、先頭のアセルスは引き返そうとしていたが……。


「アセルスさん、ちょっと待って下さい」


 ランクが留める。


 すると、ダンジョンの天井付近を指差した。


 暗がりでよくわからないが、何か穴のようなものが開いている。


「あそこからさらに道があるようです」


「本当か?」


「はい。ダンジョンに蔓延っている木の根っこから聞きました」


 ダンジョンはかなり古いらしく、壁や天井などあらゆるところに木の根が伝っている。


 一部には湿気の強い場所でしか咲かない野草なども生えていた。


 ダンジョンという割に、緑が豊富なのだ。


 これはつまりどこかに水源があることを指し示している。


 アセルスはギルド代表のルヴァンスキーに対して、目で合図を送る。受信したルヴァンスキーは、黙って頷いた。


「よし。行こう」


「そうはいっても、アセルス」


「あそこに昇るには、ロープを垂らさないと~」


 ダンジョンの天井は高く、単純な跳躍では届きにくい。


 加えて壁は滑らかで、昇るのはなかなか困難だ。


「木の根が壁に這っていれば、登りやすいんだがな」


「あ! 私できますよ」


 手を上げたのは、ヘレネイだ。


 【植物操作】を使って、木の根を誘導する。


 しばらくして、木の根を使った梯子ができあがった。


「「「おお!」」」


 他の冒険者も感心したように声を上げる。


 アセルスも満足げに頷いた。


「よくやった、ヘレネイ、ランク」


 褒め称える。


 急な褒め言葉に、2人はうっと詰まった後、表情を弛めた。


「い、いや~」

「それほどでも~」


 頬を染める。


 先ほどまで落ち込んでいた表情は消し飛んだ。


 それを見ながら笑ったのは、ディッシュとルヴァンスキーであった。


☆☆ コミック 4巻発売予定 ☆☆

お待たせしました!

『ゼロスキルの料理番』4巻が、3月10日に発売予定です。

ついに王宮編が決着! 果たしてディッシュが作った王宮料理とは??

今回もおいしい料理が揃っておりますので、よろしくお願いします。


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今回も全編書き下ろしです。WEB版にはないユランとの出会いを追加
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『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』待望の第2巻
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― 新着の感想 ―
[一言] 今回も美味しくいただきました。 ヘレネイとランクの活躍の場が出来て良かったですね。 頼りにされないと、自信も気持ちも落ち込んでいきますものね。自分の仕事、役割があると、嬉しくて自信にも繋がり…
[一言] ゴーレムにヤドカリみたいな中身とか 軟骨みたいな食いでの有るもんが存在するものとばかり
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