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ゼロスキルの料理番  作者: 延野正行
第7章
183/209

menu161 外交員からのお誘い

☆☆ コミカライズ更新 ☆☆

ヤングエースUP様で、コミカライズ更新されました。

竜に美味しい鱗を使った料理を作ると無邪気に言い放ったディッシュの奔放さをお楽しみ下さい。

応援の方もよろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)


※ 次回更新あたり、『ゼロスキルの料理番』について何かお知らせができそうです。

「ヘレネイ! 右から来るよ!!」


 声を上げたのは、冒険者のランクだった。


 薄い金髪に、誠実そうな青くパッチリと開いた瞳。上背はあるものの、ややとっぽい印象を残す彼は、いつになく真剣な顔で右を向く。


 それに反応したのは、パートナーのヘレネイだ。


 燃えるような赤銅色の髪を靡かせ、同時に皮製のブレストアーマーに収めた胸を震わせた。桃色の瞳を光らせ、剣を握り直す。


 ランクの声に応えると、森の影から現れたマグマクラウドを一刀両断する。


 直後、赤い雲状の魔物は消滅した。


「ふぅ……。終わった」


 ヘレネイは息を吐いた。


「やったね、ヘレネイ」


 ランクが手ぬぐいを差し出しながら、親指を立てる。


 先ほどまで固く真一文字に結んでいた口を開くと、ヘレネイはようやく破顔した。


 パチパチと拍手が聞こえ、2人は同時に振り返る。


 立っていたのは、ディッシュと相棒のウォンだ。


 本日は久しぶりに冒険者活動だ。冬の間、山は雪に覆われる。特に祖国祭の前後はひどく、遭難の可能性も考慮して活動を休業する冒険者も少なくない。


 ヘレネイとランクもそういう組の1つだ。


 最近、春の兆しも見え始め、気温も上がっている。


 まだ山には雪が残っているが、凍死するほどではなくなっていた。


「おー。すごいなあ、ヘレネイ、ランクも。まるで冒険者みたいだったぞ」


「ディッシュくん、それなんの褒め言葉にもなってないよ」


「そうよ。私たちとっく昔から冒険者なんだから」


 ランクがガックリと肩を落とせば、ヘレネイは水筒に入った水を含んだ後、怒りをぶつけた。


「悪い悪い。でも、さっきのは格好良かったぞ」


 ディッシュは褒め称える。


 実際、最近のヘレネイとランクは調子が良かった。


 Dランクに上がったことによって、アルバイト感覚で始めた冒険者が板についてきたらしい。


 戦法も定まってきたことも要因だろう。


 ランクがスキル【解聴】で森の情報を収集。魔物の気配を見つけた後、いち早くヘレネイが反応し、先制するか、スキル【植物操作】を使って相手の動きを封じるか決める。


 この戦法において、ランクのスキルによって先制できるのは大きい。


 2人のペースに引き込むことができるからだ。


 いずれにしろ、あのブライムベアとの対決がヘレネイとランクを大きく成長させたことは間違いなかった。


「ふふん。でしょでしょ! 私も最近の自分たちって結構イケてるように思えるのよね」


「名前も売れてきたからね。最近、知らない冒険者に声をかけられることも多くなったよ」


「おお。有名人じゃないか」


 ディッシュは感心する。


「とは言っても、ディッシュくんのことを聞かれることの方が多いけどね」


「まだ私たちってディッシュくんのおまけなのよねぇ」


 2人は揃って「「ハア……」」と溜息を漏らす。


 確かにヘレネイとランクは地道にクエストをこなして、名前が売れてきた。


 だが、それ以上にディッシュの功績は大きい。特に祖国祭の一件は彼を有名にしていた。さらには他国での活躍によって、世界的に知られようとしている。


 ホントを言うと、こんな森で冒険者業なんてやっていられるほどの人物ではないのだが、本人は当たり前のように月一の冒険者稼業に参加していた。


「こういうのは地道にやっていくしかねぇんじゃないか?」


「ディッシュくんがそれを言うの……」


「まあまあ。ボクたちはボクたちで頑張ろうよ、ヘレネイ」


 気合いを入れ直し、ヘレネイ、ランク、ディッシュ、ウォンのパーティはさらに魔物を狩るために再び出発する。


 その時だった。茂みの奥が震えた。


「魔獣?」


「待って! ヘレネイ!!」


 ヘレネイは剣を構えるも、ランクがそれを留めた。


 ウォンは反応していない。機嫌よく、尻尾を振ってるだけである。


 現れたのは、金髪を七三に分けた如何にもお役人といった風情のエルフだ。


 厚いレンズがついた片眼鏡をつり上げると、ブラウンの瞳をやや神経質そうに光らせた。


「あなたでしたか、ディッシュ・マックホーン」


「あ、あんたは確か………………」


 ディッシュは首を捻ったが、名前を思い出せないらしい。


 男は咳払いした。


「ルヴァンスキーです。ギルドの外交員の」


「ああ! うちでマンドラゴラの漬け物を食べてた!」


「どうして私が食べた食べ物の名前は覚えているのですか、あなたは!!」


 ルヴァンスキーは憤然とした様子でツッコみ入れる。


 すると、ディッシュ以外の冒険者に顔を向ける。


 ヘレネイとランクは、突然のルヴァンスキーの登場に、口を開けたまま固まっていた。


「え? え? うそ! 本物?」


「ほ、本物だよ。僕、昔ギルドに絵が飾られていたのを見たことがある」


 ルヴァンスキーを指差しながら、手を震わせていた。


 その彼に、ヘレネイは近づいていく。


「あの~。つかぬ事をお伺いするのですが、もしかして【疾風】のルヴァンスキーさんですか?」


 ヘレネイが質問すると、途端ルヴァンスキーの片眼鏡が刃のように閃く。


 一瞬、「ひっ」とヘレネイとランクが悲鳴を上げるほど、殺気めいた空気を漂わせるのだが、すぐにルヴァンスキーは気配を引っ込めた。


「昔の話です。今はギルドの外交員ですから、お間違いなく」


「やっぱり!」


「すごい! エルフの英雄【疾風】のルヴァンスキーさんに会えるなんて! 光栄です!!」


 ヘレネイとランクは歓喜に震える。


 しかし、ルヴァンスキーは素知らぬ顔だ。


 唯一取り残されたディッシュだけが、首を傾げる。


「英雄? 【疾風】のルヴァンスキー??」


「ディッシュくんが知らないのも無理ないわね。ルヴァンスキーさんは、エルフの間では超有名人なんだ」


「私は人族だけど、英雄ルヴァンスキーの話は聞いてるわ。コモロ村の防衛の話は、聞くだけで胸熱になるわよ」


「へ~。あんた、有名人だったんだな」


 ディッシュはルヴァンスキーの方を向く。


 照れているのか。それとも昔の話を好まないのか。


 相変わらずルヴァンスキーは2人から距離を取って、そっぽを向いていた。


「先ほども言いましたが、昔の話です。ところで、ここで何をしているのですか?」


 ルヴァンスキーは話を変えようとする。


 どうやら、あまり詮索してほしくないようだ。


「冒険者の仕事をしてるんだ。ヘレネイとランクと一緒にな」


「そう言えば、冒険者になったんでしたね。あの聖騎士はいないのですか?」


「アセルスはいない。今はヘレネイとランクと組んでる」


 ディッシュがあっけらかんと答えると、ルヴァンスキーは頷いた。


「今のランクは?」


「え~~っと……。なんだっけ?」


 ディッシュはヘレネイたちの方に振り返る。


「そ、それも忘れたの? 本当にディッシュって、料理以外のことに興味がないわね」


「僕たちがDランクで、ディッシュくんがEランクです」


「ふむ……。まあ、いいでしょう。ちょっと私の仕事を手伝っていただけないでしょうか?」


「ルヴァンスキーさんの仕事を……」


「この先にダンジョンを見つけまして、どうやらまだ未踏窟のようなのです」


 未踏窟というのは、まだダンジョンに誰も足を踏み入れていないということだ。


 それはつまり、何らかの歴史的な遺産などがそのまま残っている可能性が高い。


 何か古代の遺物を発見できれば、一躍有名になれるし、運良く宝を見つけることができれば、ギルドにお金を支払えば、丸々もらうことができる。


 冒険者にとっては、名声と富をゲットするチャンスなのだ。


「や、やります!!」


「やらせて下さい!!」


 ヘレネイとランクは、即答した。


「ディッシュ・マックホーン、あなたはどうします?」


「ダンジョンかぁ……」


 ディッシュは首を捻った。


 名声やお宝よりは、ディッシュにとって何より大事なのは、料理だ。


 未踏窟といっても、ピンと来ていないらしい。


「運が良ければ、そのダンジョン内にしか存在しない未知の魔獣がいるかもしれませんね」


 ちらりとルヴァンスキーは、ディッシュに視線を向ける。


 ヘレネイとランクは心の中で(うまい!)と唸らざるを得なかった。


『うぉん!!』


 ディッシュの横でウォンが鳴く。


 すでに牙と牙の間から涎が垂らしていた。


「わかったよ、ウォン。俺だって、楽しみだ。未知の魔獣……」



 どんな味がするんだろうな……。


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挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
[一言] 今回も美味しいく頂きました。 ディッシュ、真面目に冒険者してたのですね。 ある出来事で他国にも有名になって、祖国祭の出来事でさらに有名になってと、知名度が上がったんでしょうね。 ゼロスキル…
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