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ゼロスキルの料理番  作者: 延野正行
第6章
171/209

menu150 ゼロスキルの宣戦布告(前編)

挿絵(By みてみん)


お待たせしました。

コミックス第3巻が6月10日発売されます!

是非合わせてご賞味下さい。

 まさに血も滴るような大きな腸詰め(ソーセージ)だった。


 太く切られた竹串に、王宮で食べたものよりも大きい腸詰め(ソーセージ)が刺さっている。


 少し脂に濡れて、テカテカしており、その赤さがより鮮やかに見えた。


 その姿に、アセルスたちもゾッとする。


 けれど、目を離すことは難しい存在感だった。


 吸血鬼族(ヴァンパイア)の名物にふさわしく、禍々しく、また雄々しい。


 けれど、さすがに見た目がおどろおどろしすぎる。


 ニャリスが言ったようにマイナス要素が多すぎるのだ。


 事実、キングアップルジュースで喉を潤したお客は、皆絶句していた。


 だが――――。


「おお! なんか吸血鬼っていう感じがする!!」


「へっ?」


 突如声を上げたのは、最初にキングアップルジュースを飲んでくれた女性だった。


 目をキラキラさせながら、赤くそそり立った腸詰め(ソーセージ)を見つめている。


「確かに……。吸血鬼の腸詰め(ソーセージ)っていわれて、この姿はピンとくるよな」


 女性の恋人も、うんと頷いた。


「だよね。このジュースもおいしかったけど、吸血鬼っぽくないっていうか」

「ちょうどお腹空いてたし、こっちの方の腸詰め(ソーセージ)もいただけますか?」


 カップルは手を上げる。


 その反応に、アセルスをはじめエーリク、ニャリス、キャリルが驚いた。


 唯一ディッシュだけがいつも通り笑っている。


「じゃあ、俺も……」

「私もいただいてみようかしら」

「ちょうどお腹空いてるし」

「お肉なら血の味がしてもおかしくはないからねぇ」


 次々と集まった客が手を上げる。


 さっきまで閑古鳥が鳴いていた屋台に、一瞬にして10人ほどの客が群がってきた。


「吸血鬼と聞けば、畏怖と差別を口にするようなものなのに」


「以前、お話を聞いた反応とは全く別ですわ」


 アセルスが呆然と口にすれば、横のキャリルも呆気に取られていた。


 主従コンビの後ろで、不敵な笑みと笑声を響かせたのは、ニャリス――いや、ニャリス仮面である。


「ふっふっふっ……。このニャリス仮面にはお見通しだったニャよ」


 仮面を着けると途端に胡散臭くなるニャリスは、胸を張りながら説明した。


「これはきっとみんなの吸血鬼への警戒心が、キングアップルジュースによってほぐれたのが原因ニャ」


「警戒心が……」

「……ほぐれた?」


「そして、吸血鬼らしくないキングアップルジュースに対して、今度は吸血鬼らしい名物が出てきたことによって、逆にイメージによる共感が生まれたのニャ」


「イメージの共感って?」


「例えば、アセルス。薬草汁(カレー)って聞いていたのに、真っ青薬草汁(カレー)が出てきたら、食べたいと思うかニャ?」


「うっ……。それは食べるのをためらうかも」


「それと似たような現象ニャ。みんな、吸血鬼といえば“血”っていうイメージが出てくるニャ。けど、キングアップルジュースはそれらしくなかった。だからみんな飲むことができたニャ。そうなると、今度は吸血鬼らしいものを食べてみたくなるのが、お客様の心理ニャ」


「つまり、ディッシュが考案した赤い腸詰め(ソーセージ)は、今ここにいる客たちの心理に、10割応えていたということか」


 アセルスは驚愕する。


「ディッシュ、凄いニャ。狙ってやってるかはわからないニャいけど、お客様の心理を掴みかけてる。お店を開いているわけでもニャいのに、凄いニャ」


「ディッシュは幼い頃、料理屋を転々としていたそうだ。客の心理はそこで学んだのかも知れないな」


 アセルス、さらにニャリスがディッシュの言動を見て感心する。


 特に人に厳しく自分にも厳しいアセルスは、自省を促した。


 ディッシュが赤い腸詰め(ソーセージ)を持ち出した時、折角上がった吸血鬼への良いイメージが崩れると思った。


 見た目で悪いものだと思ってしまったのだ。


 それはエーリク王子に向ける偏見と同じだ、とアセルスは考えた。


 血や、それを想起させるものはダメだと、頭ごなしに否定しようとしてしまった。


 だが、ディッシュだけはそう考えていなかったらしい。


 むしろその偏見ですら利用しようとしている。


 群がる客を見て、嬉しそうに笑うディッシュを見ながら、アセルスは頭が下がる思いだった。


 そのディッシュは、殺到した注文を受けて早速赤い腸詰め(ソーセージ)を焼き始める。


「はいよ。早速、今焼き上げるからよ」


「ディッシュさん、僕も手伝いますよ」


 エーリクは1度深呼吸した後、腕まくりをする。


 ふんと、鼻息を荒くし気合いを入れると、ディッシュの横に立った。


「エーリク王子が料理をするんですか?」


 アセルスは思わず質問してしまう。


 対するエーリクは頼もしく微笑んだ。


「アセルスさん、ここは誰の屋台だと思ってるんですか? 任せて下さい。この時のために特訓したんですから!」


コミック3巻 お品書き

・シロップたっぷり吹雪かき氷 聖霊を添えて

・金髪王女と食べる熱々石焼き芋

・北極熊もビックリ!? 薬草チョコチップアイス

・噛めば噛むほど味が出る大猪の燻製肉。


さらにさらに……。


5000文字に及ぶSSを寄稿させていただきました。

作者にとっては久しぶりに書いた『ゼロスキルの料理番』になります。

なんと、あのマジック・スケルトンが主人公のお話ですので、そちらの方もお楽しみに。


すでにAmazonなどでご予約できます。是非ともよろしくお願いします。


※1 コミカライズの更新ですが、延長が続いていて申し訳ありません。

   今しばらくお待ちいただければ幸いです。


※2 「魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する」の書籍が、

   6月15日に発売です。こちらもおいしいのでどうぞお召し上がり下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回も美味しく頂きました。 アセルス、ディッシュのこと良く知ってますね。 やっぱりこの通い妻は、違うのかな? ニャリス仮面の解説がなかなか良かったですな。 お客様の心理を読み解くディッシ…
[良い点] 久々の更新で嬉しいなあ♪ ソーセージ! ソーセージ! お、美味しそうっ! オレンジプリニーは持病の関係で食べれなくなったソーセージ! うらやましか〜! あ、魚肉ソーセージは食べれますが(笑…
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