menu148 試飲はいかがでしょうか?
果たしてニャリス仮面とは!?
今日もどうぞ召し上がれ!
とぅっっっっっっ!!
とばかりにニャリスは建物から飛び降りた。
周りは騒然とし、悲鳴も上がる。
4階建てとはいえ、かなりの高さがある。
そこから無傷で着地するなど、あり得ない話だった。
皆が顔を背ける。
だが――――。
シュタッ!
何事もなかったかのように、ニャリス仮面は着地した。
悲鳴が一転し、歓声に変わる。
凄まじい称賛の嵐を聞きながら、ニャリス仮面は満足そうに応えていた。
その騒動をやや遠巻きに見ていたディッシュたちの間には、微妙な空気が流れていた。
「へぇ。すげぇなあ。ニャリスのどんな場所でも着地できるってスキル、初めて見たぜ。あんな高いところから落ちても、大丈夫なんだな」
「いや、それよりニャリス仮面ってなんですの?」
「というか、ニャリスって言ってるし」
だが、ニャリス劇場はこれで終わらない。
いや、始まってもいなかった。
ニャリスはディッシュたちの方に近づいていく。
挨拶もそこそこに、エーリクの屋台のカウンターに並んでいたジュースを受け取った。
それをまず自分が一気に飲み干す。
「ぷはぁぁぁぁぁああ! うまいにゃあ! とっても甘いのに、程よい酸味があって、喉越しはすっきりした味にゃ! こんなジュース飲んだことないにゃ」
唇についたジュースを拭いながら、満足そうに笑みを浮かべる。
すると、どこからかトレーを取り出し、屋台に並んでいたジュースを数本置いた。
「みんなはこの絶品林檎ジュースを飲んだかにゃ? 飲まないと損にゃよ。今なら試飲をやってるにゃ。おいしかったら、どんどん宣伝してにゃ!」
トレーを掲げると、高らかに宣伝する。
戸惑う聴衆たちをよそに、ニャリスはあっさりとソーシャルディスタンスに踏み込んでいく。
「どうぞ。飲んでみるにゃ」
ぐいっと杯を突き出す。
ここまで来ると、受け取ってしまうのが人の性だろう。
ついにラニクランド王家――いや、吸血鬼名物キングアップルジュースが、一般民衆の手に渡る。
ニャリスの攻勢は留まることを知らない。
トレーにある杯を次々と皆に渡していった。
とうとうエーリクが3時間経っても、1杯も売れなかった杯が、屋台から消えてしまう。
だが、杯を渡された民衆たちは戸惑っていた。
ニャリスを見る限り、どうやら無害のようにも見える。
だが、どうやらこのジュースは、あの吸血鬼が作ったらしい。
本当においしいのか、疑問だった。
けれど、ニャリスの反応から見て、嘘を言っているように見えない。
「どうする?」
恋人同士が、家族連れが、友達同士がお互い目を見合わせる。
だが、答えはわからないだろう。
飲まない限りは……。
「じゃあ、ちょっと……」
と言ったのは、意外にも女性だった。
隣には同い年ぐらいの男性もいる。
どうやらカップルのようだ。
「お、おい。本当に飲むのか」
「だって……。すっごく良い香りよ」
「あ? 本当だ。吸血鬼が作ったから、血の臭いがするかと思ったのに」
「じゃあ……」
女性は一気に喉に流し込んだ。
瞬間、カッと目が見開く。
さっきまで自嘲気味だった喉の動きが、途端勢いよく動き始めた。
いつの間にか静まり返った祭りの真ん中で、ゴクゴクという音だけが聞こえる。
ついに飲み干すと、女性はかくんと首を垂らした。
「お、おい……」
男性は心配する。
しかし――――。
「うっっっっっっっっまああああああああああああああああああ!!!!!」
女性は叫んだ。
「何……。これ――普通の林檎ジュースじゃない。とっても甘いわ。こんなジュース飲んだことないわよ、私……」
最高の感想を聞いた瞬間、ニャリスはニッと笑った。
「お嬢さん、なかなかいい飲みっぷりにゃ。もう1杯いかが?」
「いいんですか? こんなおいしいものを2杯も飲ませてもらって」
「お、おい。お前、大丈夫か?」
男性が心配するが、女性の方はどこ吹く風だ。
注がれるジュースを見て、うっとりとしている。
「気になるなら、お兄さんも飲んでみるにゃ」
仮面のニャリスは挑発する。
こう言われると、男は弱い。
まして恋人の前ならば、俄然興味が湧いてくる。
何より杯の口から漂ってくる芳香に抗えない。
鼻をくすぐるというより、妙な引力を以て、唇に引き込まれていった。
「じゃ、じゃあ……」
ままよ、とばかりに男性の方もジュースを呷った。
最初はゆっくり、恐る恐るという感じで、喉が動く。
だが、次第に動きが早くなり、あっという間に飲み干してしまった。
「ぷははああああ!! うっめぇぇぇぇええええ!!」
この世で一番の美酒に出会ったかのように、男性は「かぁっ!」と口を開く。
満面の笑みを浮かべ、空になった杯を覗いた。
「うまい! こんな林檎ジュース初めて飲んだよ。濃厚で甘いのに、後味がすっきりしてる。キレのいい麦酒を飲んだみたいだ」
感想を叫んだ。
1人なら主観的意見に過ぎないだろう。
だが、2人なら見方はがらりと違ってくる。
周りの目の色が変わり、集まってきた人を見て、自然と足を止めるものも現れ始めた。
特にまだ杯を持ったまま固まった人間たちの反応は、顕著だ。
呆気に取られていた聴衆は、杯と2人のカップルを見比べる。
やがて魔性のように漂ってくる芳香に、ついに抗えなくなる。
くびくびと音を立てて、キングアップルジュースを飲み始めた。
「うっっっっまっっっっ!!」
「なんだ、この甘さ」
「でも、喉越しも悪くない」
「こんなに濃厚な林檎ジュースは初めてだわ」
絶賛の嵐だ。
みんな、それが吸血鬼が作ったブラッドジュースとは知りながら、次々に杯を空にしていく。
香りと味に酔いしれ、称賛するのだった。
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