menu135 相棒登場
ごめんなさい。
今日はまだ実食回にまでいけませんでした。
でも、あの相棒が颯爽と登場です。
今日もどうぞ召し上がれ!
ヘルカイトの炎息は凄まじいものだった。
魔族をあっという間に炭に変えてしまう。
ダイダラボッチの肉も消し炭に変わっていた。
これでは食うことはできないだろう。
しかし、大竜王ヘルカイトは満足したようだ。
大きく翼をはためかせる。
その度に周りは嵐のようになるが、ヘルカイトはお構いなしだ。
ダイダラボッチの肉を食べたかったのか。
単に臭いに釣られたのか。
それとも偉そうな魔族にいらついていたのか。
もしくは本当にこの土地を守る守護竜としての役目を果たしに来たのか。
それは定かではない。
問おうにも、ヘルカイトはすでに遠い空の向こうであった。
「竜って……。なんか気まぐれなヤツが多そうだな」
ディッシュは頭を掻く。
かつて出会った赤帝竜のことを、ふと思い出す。
そこに目を覚ましたアセルスが【光速】で飛び込んできた。
余りの勢いにアセルスともつれ合いながら、地面に倒れる。
頭を強かに打ったのは、ディッシュの方だった。
「痛ッッッ……」
「だ、大丈夫か、ディッシュ。怪我はないか?」
「おかげさまでな」
「すまん。肝心な時に私は……」
アセルスはしょぼんと俯く。
いつも元気良く飛び出しているアホ毛もまた、下を向いていた。
今にも涙に濡れそうな頬を、ディッシュはそっと撫でる。
「アセルス……」
「な、なんだ?」
「よく見ると、お前の頬って白くて柔らかくて、その……」
うまそうだな……。
・・・・・・。
「なななななな、何を言うのだ、ディッシュ!」
アセルスは思わず飛び退く。
ディッシュに褒められた白い頬は真っ赤になっていた。
「なんだよ。俺は褒めたのに」
「ほ、褒め言葉になってない。いや、ディッシュに言われると、その……。ちょびっとだけ嬉しいが……。私は、食材は好きだが、食材になるつもりはないぞ」
「にししし……。元気が出たな」
「なっ――――!」
「いつもありがとな、アセルス」
「いや、その……別に感謝されるようなことは」
「おう。感謝してるぞ。……だからかな。たまには俺がお前を守ってやりたいなって思ったんだ」
「え?」
「俺も一応冒険者だしな。お前と比べればひよっこだけどよ。でも、ずっとお前に頼りっぱなしってのは、なんかこう……公平じゃねぇ」
「私は不公平なんて……」
「食べるヤツがいて、食べてもらうヤツがいる。人間ってよ。持ちつ持たれつの関係だろ。たまには、俺だって守る側になりてぇって話だ」
アセルスはちょっと首を捻る。
たまにディッシュの思考に追いつけないことがあるのだが、でも言ってることは間違っていないようには感じた。
何か煙に巻かれたような気もするが、アセルスは無理やり己を納得させる。
「わかった。だが、あまり危険なことはしないでくれ」
「ああ……。どうも俺はそっち側の人間じゃないって、今回よくわかったからな」
ディッシュは力を入れる。
起き上がろうとしたうまく立てなかった。
よく見ると、足ががくがくと震えている。
今さらではあったが、怖かったのだ。
心底あの魔族が……。
すると、ディッシュに向かってアセルスが手を差し出す。
ゆっくりと身体の傷を確かめるように立ち上がった。
「イチャつく時間は、もう終わりか?」
ニヤリと笑ったロドンが腕を組み立っていた。
竜騎士たちも降りてくる。
魔族に傷を負わされた竜騎士の手当も始まっていた。
「それよりもディッシュ。早いところ、スカイドラゴンを捌かないと腐っちまうぞ」
「ああ。シメたから多少は持つと思うが、早くしないとな」
「早くみんなにも食べさせないとな。な、アセルス」
ディッシュが振り返る。
ぐおおおおおおおおおお!!
再び竜が現れたのかと思うほど、大きな腹音が鳴る。
その音に、竜騎士たちが慌てて構えたほどだった。
アセルスは顔を真っ赤にしながら、腹を押さえたがもう遅い。
「準備万端だな。よし。ここからが本当の俺の出番だ――」
ディッシュはエプロンを結び直す。
その直後だった。
「おのれぇええええええええ!!」
世界を呪わんばかりの絶叫が、周囲に響いた。
黒く炭化した魔族の身体が震える。
ディッシュたちの方を向くと、ゆっくりとこっちにやってきた。
「己! 許さぬぞ、ゼロスキル!!」
魔族は呪詛の声を漏らす。
魔族にすらその言葉が知れ渡ったことはある意味珍しい。
だが、もっとも記憶してほしくない相手であることは間違いない。
「あいつ、まだ生きているのかよ」
「ディッシュ、下がってろ」
「ここは我らが今度こそ……」
ロドン、アセルス、そしてグリュンが得物を構える。
3人の勇士たちに囲まれても、魔族は怯まない。
その圧倒的な存在感は増すばかりだ。
すると、魔族はもはや骨と皮だけになった手を掲げる。
魔力を収束させた。
「あれは?」
「まさか自爆魔法か?!」
アセルスの言葉に、魔族はほくそ笑んだ。
「その通りだ、聖騎士よ。もはや俺には人間を滅ぼす力はない。だが、辺り一帯を吹き飛ばすぐらいの力は残っている。魔族に逆らったことを後悔しながら、死ぬがいい」
「まずい! 誰か! デラン王を退避させろ」
グリュンが指示を出す。
「遅い! 死ね、人間共!!」
黒い光が収束する。
周りが闇に染まった。
ディッシュはまたもやアセルスに庇われる。
だが、そのディッシュは別のもの見ていた。
闇の中で銀毛が閃く。
同時に妙に懐かしい吠声を聞いた。
「うぉん!!」
その瞬間、闇が晴れる。
元の湖の光景が広がっていた。
ともかく、魔法は放たれなかったらしい。
ディッシュは恐る恐る顔を上げる。
それに追随するように、アセルスも瞼を開いた。
見覚えのあるシルエットに気付き、絶叫する。
「「ウォン!!」」
美しい銀毛に、鋭い爪。
黄色の瞳は、今は好奇心に満ちていた。
ディッシュの方を見て、舌を伸ばし、大きな尻尾をぶんぶんと振っている。
間違いなく神獣ウォンだった。
その下敷きになっていたのは、例の魔族だ。
意識を失っている。
魔法も中断されてしまったらしい。
「ど、どうして、ウォンがここに?」
アセルスが尋ねる。
すると、ウォンは尻尾を翻す。
柔らかな桃色をしたスカイドラゴンの身を見て、涎を垂らしていた。
「まさか、あいつ――」
「あの匂いに釣られて、はるばるここまで来たんじゃないだろうな」
アセルスとディッシュは揃って呆れる。
ウォンはまさにその通りだとばかりに「うぉん!」と吠えた。
これにはさすがのロドンも呆れる以外に他はない。
ただ頭を撫でた。
「ははは……。どうやら、あのウォンの食い意地は、聖騎士以上ってことだな」
「うぉん!」
まるで己を誇るようにウォンはまた吠える。
結果的に間一髪のところで助けてくれたウォンに対し、ディッシュは優しく撫でてやる。
すでにおいしい食べ物の期待からか、すでにモフモフになっていた。
「ありがとな、ウォン」
「うぉん!」
満足そうだ。
そして、ディッシュはくるりとみんなに翻る。
「みんなもありがとな。お礼ってわけじゃねぇけど、俺の料理を堪能してくれ」
「ディッシュ、体調は大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。相棒を見たら、吹っ飛んだよ」
「で? 今日は何を食べさせてくれるんだよ、ディッシュ」
ロドンは髭を撫でながら、ニヤニヤと笑う。
ディッシュは顎に手を置いて考える。
「そうだな…………」
スカイドラゴンづくしのコース料理ってのはどうだ?
ディッシュはいつも通りの笑みを浮かべると、早速包丁を握るのだった。
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