menu132 連係攻撃
本日コミカライズの更新日です!!
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気配を消しながら、そっとディッシュたちは近づいていく。
岩陰に隠れながら慎重に進んでいった。
スカイドラゴンの視野は、すでにディッシュも分析済みだ。
目は口の側にあり、前方と側面に視界が広がっていると思われる。
基本的に背後から忍び寄るのが、得策だ。
だが、嗅覚は鋭いらしい。
火喰い鳥の群れに反応した様子からして、確かだろう。
さらに耳も決して悪くはない。
「けど、魔獣にも人間にも言えることだけど、満腹時ってのは生物が1番油断してる時なんだよ」
ディッシュが言うには、お腹にたまった食物を全力で消化しようとするから、他の感覚が鈍ってしまうらしい。
「ご飯を食べる時って、普通は家に帰ったり、山の中だとしてもなるべく安全な場所で食べようとするだろ。あれは生物の本能みたいなものなのさ。満腹になって、油断してる自分が狙われないようにするためのな」
「むぅ……。確かに一理あるな」
アセルスはディッシュの話に強く頷いた。
自分もディッシュのご飯を食べた直後は、何もしたくないと思ってしまうからだ。
特に満腹時は思考がぼんやりするし、眠気も襲ってくる。
こうしたことは、生物として本能だと思えば、確かにと頷きたくもなる。
ロドンがディッシュの隠れる岩にやってきた。
初撃はロドンのスキル【必中】だ。
まずスカイドラゴンに銛を当てて、ダメージを与える。
銛の柄にはロープがついていて、うまくいけばスカイドラゴンの動きを封じることができるだろう。
だが、【必中】のスキルも万能とは言い難い。
10割当てるためには射程距離の中に、スカイドラゴンを収めなければならない。
「ロドンのおっさん、どうだ?」
「まだ遠いな。必中させるにはもう少し近づかないと。湖畔に近づいて来てくれるといいんだけどなあ」
ロドンは周りを見る。
大昔の噴火が原因でできあがった湖は、湖畔の傾斜が高く、あまり隠れるような場所がない。
加えて、スカイドラゴンは気まぐれで、不規則に湖を周回している。
進路を変更するたびに、ディッシュたちは隠れる場所を変えなければならず、なかなか容易に近づくことができなかった。
「こうなったら、仕方ねぇ」
ロドンは腹這いになりながら、ゆっくりと湖畔に近づいていく。
泥にまみれながら、ロドンは進んだ。
「海の漁師が、山の猟師みたいなことをしなくちゃならねぇとはな」
悪態を呟きながら、湖畔にたどり着く。
そこでロドンは立ち止まるかと思ったが、そのまま進んでいった。
湖面の中に身体を入れると、見事な泳ぎを披露する。
銛を口にくわえ、なるべく水面を揺らさず、スカイドラゴンに接近していく。
「さすが、ロドンのおっさんだな」
伝説の『白鯨討ち』という言葉が、枕詞になりがちではあるが、その前にロドンは漁師だ。
これまで白鯨を含めて、様々な魚を捕らえてきた。
たとえドラゴンであろうと、ここが湖だろうと、関係ない。
漁師として意地が、ロドンを突き動かした。
「よし。こんなものか」
いよいよロドンは口にくわえていた銛を離す。
手に持ち帰ると、立ち泳ぎしながら銛を構えた。
力は必要ない。
魔力を込めれば、後は目標を凝視するだけで銛が動いてくれる。
「(行けッ!!)」
いよいよロドンは銛を投擲する。
水中という安定しない足場だが、それでも銛は力強く加速した。
空気を切り裂き、スカイドラゴンにぐんぐんと近づいていく。
「「「「(行けっっっっ!!)」」」」
遠巻きに見ていたディッシュ、アセルス、グリュン、そしてロドンの心の声は重なった。
銛はスカイドラゴンの背後に迫る。
やった、と思われたが、寸前でスカイドラゴンは反応した。
魚のヒレのような翼をばたつかせる。
水面を打ち据えると、離水しようとした。
だが――その前にロドンの銛がスカイドラゴンを貫く。
『ギイイイイイイイイイイイ!!』
スカイドラゴンの悲鳴がルルイエ湖に響く。
「やった!!」
歓喜の声を上げたのは、アセルスだ。
湖畔でガッツポーズを取る。
しかし、ロドンは首を振った。
「いや、まだだ!!」
スカイドラゴンは生きていた。
銛で貫くことはできたが、ヒレの先だ。
致命傷には至らない。
それにスカイドラゴンは、なお浮上しようとしている。
「あのまま空に逃げるつもりか!」
アセルスは岩陰から出る。
すると、その上をホーデンが飛んでいった。
当然のその背中にはグリュンが跨っている。
すでに加速態勢に入っていたホーデンは、あっという間にスカイドラゴンに近づいた。
まだ水面付近を飛んでいたスカイドラゴンの上を取る。
グリュンはすかさず槍を投げた。
見事貫通に成功するが、スカイドラゴンはしぶとかった。
翼を必死に動かして、浮上する。
加速もついてきた。
ホーデンもなんとか食らいつこうとする。
スカイドラゴンの顔がいよいよ空へと向けられようとしたその時、その視界に映っていたのは、紅蓮の集団だった。
「あれは! 火喰い鳥!?」
スカイドラゴンに気を取られているうちに、ディッシュが焚き上げた煙に反応して再び集まってきたらしい。
まるで仲間の仇だと言わんばかりに、行く手を阻む。
スカイドラゴンも黙っていない。
威嚇するように火喰い鳥に向かって吠声を上げた。
「にしし……。もうこれ以上は食べられないだろ?」
ディッシュは意地悪い笑みを浮かべた。
身体の大きいスカイドラゴンが、火喰い鳥の群を突破することは難しくない。
だが、火喰い鳥の属性は炎だ。
強引に突破すれば、火にくるまれてしまう。
そのためには腹の中に入れてしまえばいいのだが、今は腹がいっぱいだ。
そもそもスカイドラゴンは満腹で動きも鈍かった。
「今だぞグリュン! ホーデン!!」
ディッシュは腕を振り上げ、飛竜と竜騎士を応援する。
その期待に応えるようにホーデンは翼を広げた。
1度は離された距離を縮め、スカイドラゴンに接敵する。
もう1本用意していた槍を、ホーデンの横っ腹から抜くと、グリュンは構えた。
「うおおおおおおおおお!!」
裂帛の気合いが湖の上空で響き渡る。
グリュンの槍はついにスカイドラゴンを串刺しにした。
『ギィイィイィイィイイィィィイィイイ!!』
けたたましい悲鳴が響き渡る。
今度こそ致命傷だ。
スカイドラゴンは空の上でもんどり打つ。
大きく身体を反り返し、今度はゆっくりと湖の方に逃れた。
「やべ! あいつ、まだ生きてるぞ!」
ロドンは指摘する。
おそらく水中に逃げるつもりだろう。
だが、地上に降りてしまえばこっちのものだ。
ガキンッ!!
金属を打ち込むような音がする。
それは杭だ。
その先にはロープがあり、ロドンが最初に放った銛に繋がっている。
ロドンの銛は、まだスカイドラゴンに刺さったままだった。
すでに縄の限界は来ている。
湖面の上をピンと張ったロープはスカイドラゴンへと導いていた。
「この先にスカイドラゴンがいる」
クライマックスが迫る。
その最中でも、アセルスは静かに集中する。
ディッシュの皿の前にいる食いしん坊な騎士は、そこにはいない。
国境を越えて名を馳せる聖騎士アセルスの姿があった。
細剣を握り、縄の上に立つ。
絶妙なバランス感覚で、態勢を保持した。
そのままゆっくりとアセルスは歩き出す。
徐々に速度を上げて、加速を始めた。
そして――。
【光速】
スキルを発動する。
縄の上を一振りの光の剣となったアセルスが駆け抜けていく。
その奇跡的な光に、見ていたすべての人間が息を飲んだ。
「おおおおおおおおおおおおおお!!」
アセルスは叫ぶ。
光を煌めかせながら、スカイドラゴンとの距離を潰す。
そして一瞬にして駆け抜けていった。
スカイドラゴンの頭付近にアセルスの剣が刺さる。
瞬間、ドラゴンの動きがぴたりと停止した。
そのまま滑空しながら、水面に着水する。
「やった……」
グリュンは呟く。
その声に応えるように、ホーデンが嘶いた。
「よっしゃ!」
ロドンも水中から拳を突き上げ、喜びを露わにする。
スカイドラゴンを切った後、飛び石のように水面を走り、湖畔にたどり着いたアセルスは、再び光の速さで戻ってきた。
「ディッシュ! スカイドラゴンを仕留めたぞ! 食べよう!!」
なんの躊躇もなく宣言する。
どうやら楽しみで仕方なかったらしい。
すでに格好良く立ち回っていたアセルスの姿はない。
皿の前の食いしん坊騎士が、涎を我慢しながら目を輝かせていた。
対してディッシュは惚けている。
アセルスの食欲に呆れたかといえば、そうではない。
その視線の先にあるのは、空を覆う火喰い鳥だ。
「あれをどうにかしないとな」
「わ、忘れていた! ど、どうする? さすがの私もあれを1人では――」
アセルス、ロドン、グリュンで手分けすればなんとかなるかもしれないが、時間が経てば経つほど、スカイドラゴンの鮮度が落ちていっている。
魔獣料理の基本は、狩ったらすぐに調理だ。
早く食べないと、一般的によく知られるまずい魔獣料理になってしまう。
その時だ。
火喰い鳥に迫る影があった。
その正体に気付いた時、ホーデンは高らかに嘶く。
「仲間だ!!」
グリュンは目を輝かせる。
どうやら騒ぎに気付いて、竜騎士団が出撃したらしい。
始めは何事かと思っていた竜騎士たちも、水面に浮かんだスカイドラゴンを見て、皆の目の色が変わる。
「すげー!」
「グリュンのヤツ! ついに仕留めたのか!!」
「じゃあ、とっととこの火喰い鳥をやっつけなきゃな!」
「ああ! 早くスカイドラゴンの死骸を見てやらねぇと!!」
竜騎士たちは散開する。
スカイドラゴンには後れをとったが、今の相手が火喰い鳥である。
竜騎士団の敵ではない。
空を自在に飛び回り、紅蓮の翼を持つ魔獣を蹂躙していく。
その制圧力は凄まじい。
竜騎士団の面目躍如とばかりに、空の上で暴れ回った。
「私も行きます」
「待ってくれ、グリュン。スカイドラゴンを引き揚げる方が先だ」
ディッシュは空戦に挑もうとしていたグリュンを押しとどめる。
「ここは大丈夫だ、グリュン。手伝ってやれ」
仲間の竜騎士の1人に忠告されると、グリュンは頷いた。
そしてみんなで仕留めたスカイドラゴンに対面しにいくのだった。
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