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ゼロスキルの料理番  作者: 延野正行
第5章
149/209

menu132 連係攻撃

本日コミカライズの更新日です!!

応援よろしくお願いしますm(_ _)m


WEB版ともども合わせてお召し上がり下さい。


 気配を消しながら、そっとディッシュたちは近づいていく。

 岩陰に隠れながら慎重に進んでいった。


 スカイドラゴンの視野は、すでにディッシュも分析済みだ。

 目は口の側にあり、前方と側面に視界が広がっていると思われる。

 基本的に背後から忍び寄るのが、得策だ。


 だが、嗅覚は鋭いらしい。

 火喰い鳥の群れに反応した様子からして、確かだろう。

 さらに耳も決して悪くはない。


「けど、魔獣にも人間にも言えることだけど、満腹時ってのは生物が1番油断してる時なんだよ」


 ディッシュが言うには、お腹にたまった食物を全力で消化しようとするから、他の感覚が鈍ってしまうらしい。


「ご飯を食べる時って、普通は家に帰ったり、山の中だとしてもなるべく安全な場所で食べようとするだろ。あれは生物の本能みたいなものなのさ。満腹になって、油断してる自分が狙われないようにするためのな」


「むぅ……。確かに一理あるな」


 アセルスはディッシュの話に強く頷いた。

 自分もディッシュのご飯を食べた直後は、何もしたくないと思ってしまうからだ。

 特に満腹時は思考がぼんやりするし、眠気も襲ってくる。

 こうしたことは、生物として本能だと思えば、確かにと頷きたくもなる。


 ロドンがディッシュの隠れる岩にやってきた。


 初撃はロドンのスキル【必中】だ。

 まずスカイドラゴンに銛を当てて、ダメージを与える。

 銛の柄にはロープがついていて、うまくいけばスカイドラゴンの動きを封じることができるだろう。


 だが、【必中】のスキルも万能とは言い難い。

 10割当てるためには射程距離の中に、スカイドラゴンを収めなければならない。


「ロドンのおっさん、どうだ?」


「まだ遠いな。必中させるにはもう少し近づかないと。湖畔に近づいて来てくれるといいんだけどなあ」


 ロドンは周りを見る。

 大昔の噴火が原因でできあがった湖は、湖畔の傾斜が高く、あまり隠れるような場所がない。

 加えて、スカイドラゴンは気まぐれで、不規則に湖を周回している。

 進路を変更するたびに、ディッシュたちは隠れる場所を変えなければならず、なかなか容易に近づくことができなかった。


「こうなったら、仕方ねぇ」


 ロドンは腹這いになりながら、ゆっくりと湖畔に近づいていく。

 泥にまみれながら、ロドンは進んだ。


「海の漁師が、山の猟師みたいなことをしなくちゃならねぇとはな」


 悪態を呟きながら、湖畔にたどり着く。

 そこでロドンは立ち止まるかと思ったが、そのまま進んでいった。

 湖面の中に身体を入れると、見事な泳ぎを披露する。


 銛を口にくわえ、なるべく水面を揺らさず、スカイドラゴンに接近していく。


「さすが、ロドンのおっさんだな」


 伝説の『白鯨討ち』という言葉が、枕詞になりがちではあるが、その前にロドンは漁師だ。

 これまで白鯨を含めて、様々な魚を捕らえてきた。

 たとえドラゴンであろうと、ここが湖だろうと、関係ない。

 漁師として意地が、ロドンを突き動かした。


「よし。こんなものか」


 いよいよロドンは口にくわえていた銛を離す。

 手に持ち帰ると、立ち泳ぎしながら銛を構えた。

 力は必要ない。

 魔力を込めれば、後は目標を凝視するだけで銛が動いてくれる。


「(行けッ!!)」


 いよいよロドンは銛を投擲する。

 水中という安定しない足場だが、それでも銛は力強く加速した。

 空気を切り裂き、スカイドラゴンにぐんぐんと近づいていく。



「「「「(行けっっっっ!!)」」」」



 遠巻きに見ていたディッシュ、アセルス、グリュン、そしてロドンの心の声は重なった。


 銛はスカイドラゴンの背後に迫る。

 やった、と思われたが、寸前でスカイドラゴンは反応した。

 魚のヒレのような翼をばたつかせる。

 水面を打ち据えると、離水しようとした。


 だが――その前にロドンの銛がスカイドラゴンを貫く。


『ギイイイイイイイイイイイ!!』


 スカイドラゴンの悲鳴がルルイエ湖に響く。


「やった!!」


 歓喜の声を上げたのは、アセルスだ。

 湖畔でガッツポーズを取る。

 しかし、ロドンは首を振った。


「いや、まだだ!!」


 スカイドラゴンは生きていた。

 銛で貫くことはできたが、ヒレの先だ。

 致命傷には至らない。

 それにスカイドラゴンは、なお浮上しようとしている。


「あのまま空に逃げるつもりか!」


 アセルスは岩陰から出る。

 すると、その上をホーデンが飛んでいった。

 当然のその背中にはグリュンが跨っている。


 すでに加速態勢に入っていたホーデンは、あっという間にスカイドラゴンに近づいた。

 まだ水面付近を飛んでいたスカイドラゴンの上を取る。

 グリュンはすかさず槍を投げた。

 見事貫通に成功するが、スカイドラゴンはしぶとかった。


 翼を必死に動かして、浮上する。

 加速もついてきた。

 ホーデンもなんとか食らいつこうとする。


 スカイドラゴンの顔がいよいよ空へと向けられようとしたその時、その視界に映っていたのは、紅蓮の集団だった。


「あれは! 火喰い鳥!?」


 スカイドラゴンに気を取られているうちに、ディッシュが焚き上げた煙に反応して再び集まってきたらしい。


 まるで仲間の仇だと言わんばかりに、行く手を阻む。

 スカイドラゴンも黙っていない。

 威嚇するように火喰い鳥に向かって吠声を上げた。


「にしし……。もうこれ以上は食べられないだろ?」


 ディッシュは意地悪い笑みを浮かべた。


 身体の大きいスカイドラゴンが、火喰い鳥の群を突破することは難しくない。

 だが、火喰い鳥の属性は炎だ。

 強引に突破すれば、火にくるまれてしまう。

 そのためには腹の中に入れてしまえばいいのだが、今は腹がいっぱいだ。


 そもそもスカイドラゴンは満腹で動きも鈍かった。


「今だぞグリュン! ホーデン!!」


 ディッシュは腕を振り上げ、飛竜と竜騎士を応援する。

 その期待に応えるようにホーデンは翼を広げた。

 1度は離された距離を縮め、スカイドラゴンに接敵する。


 もう1本用意していた槍を、ホーデンの横っ腹から抜くと、グリュンは構えた。


「うおおおおおおおおお!!」


 裂帛の気合いが湖の上空で響き渡る。

 グリュンの槍はついにスカイドラゴンを串刺しにした。


『ギィイィイィイィイイィィィイィイイ!!』


 けたたましい悲鳴が響き渡る。

 今度こそ致命傷だ。

 スカイドラゴンは空の上でもんどり打つ。

 大きく身体を反り返し、今度はゆっくりと湖の方に逃れた。


「やべ! あいつ、まだ生きてるぞ!」


 ロドンは指摘する。

 おそらく水中に逃げるつもりだろう。


 だが、地上に降りてしまえばこっちのものだ。


 ガキンッ!!


 金属を打ち込むような音がする。

 それは杭だ。

 その先にはロープがあり、ロドンが最初に放った銛に繋がっている。

 ロドンの銛は、まだスカイドラゴンに刺さったままだった。


 すでに縄の限界は来ている。

 湖面の上をピンと張ったロープはスカイドラゴンへと導いていた。


「この先にスカイドラゴンがいる」


 クライマックスが迫る。

 その最中でも、アセルスは静かに集中する。

 ディッシュの皿の前にいる食いしん坊な騎士は、そこにはいない。

 国境を越えて名を馳せる聖騎士アセルスの姿があった。


 細剣を握り、縄の上に立つ。

 絶妙なバランス感覚で、態勢を保持した。

 そのままゆっくりとアセルスは歩き出す。

 徐々に速度を上げて、加速を始めた。

 そして――。


 【光速】


 スキルを発動する。

 縄の上を一振りの光の剣となったアセルスが駆け抜けていく。

 その奇跡的な光に、見ていたすべての人間が息を飲んだ。


「おおおおおおおおおおおおおお!!」


 アセルスは叫ぶ。

 光を煌めかせながら、スカイドラゴンとの距離を潰す。

 そして一瞬にして駆け抜けていった。


 スカイドラゴンの頭付近にアセルスの剣が刺さる。

 瞬間、ドラゴンの動きがぴたりと停止した。

 そのまま滑空しながら、水面に着水する。


「やった……」


 グリュンは呟く。

 その声に応えるように、ホーデンが嘶いた。


「よっしゃ!」


 ロドンも水中から拳を突き上げ、喜びを露わにする。


 スカイドラゴンを切った後、飛び石のように水面を走り、湖畔にたどり着いたアセルスは、再び光の速さで戻ってきた。


「ディッシュ! スカイドラゴンを仕留めたぞ! 食べよう!!」


 なんの躊躇もなく宣言する。

 どうやら楽しみで仕方なかったらしい。

 すでに格好良く立ち回っていたアセルスの姿はない。

 皿の前の食いしん坊騎士が、涎を我慢しながら目を輝かせていた。


 対してディッシュは惚けている。

 アセルスの食欲に呆れたかといえば、そうではない。

 その視線の先にあるのは、空を覆う火喰い鳥だ。


「あれをどうにかしないとな」


「わ、忘れていた! ど、どうする? さすがの私もあれを1人では――」


 アセルス、ロドン、グリュンで手分けすればなんとかなるかもしれないが、時間が経てば経つほど、スカイドラゴンの鮮度が落ちていっている。

 魔獣料理の基本は、狩ったらすぐに調理だ。

 早く食べないと、一般的によく知られるまずい魔獣料理になってしまう。


 その時だ。

 火喰い鳥に迫る影があった。

 その正体に気付いた時、ホーデンは高らかに嘶く。


「仲間だ!!」


 グリュンは目を輝かせる。

 どうやら騒ぎに気付いて、竜騎士団が出撃したらしい。

 始めは何事かと思っていた竜騎士たちも、水面に浮かんだスカイドラゴンを見て、皆の目の色が変わる。


「すげー!」

「グリュンのヤツ! ついに仕留めたのか!!」

「じゃあ、とっととこの火喰い鳥をやっつけなきゃな!」

「ああ! 早くスカイドラゴンの死骸を見てやらねぇと!!」


 竜騎士たちは散開する。

 スカイドラゴンには後れをとったが、今の相手が火喰い鳥である。

 竜騎士団の敵ではない。

 空を自在に飛び回り、紅蓮の翼を持つ魔獣を蹂躙していく。

 その制圧力は凄まじい。

 竜騎士団の面目躍如とばかりに、空の上で暴れ回った。


「私も行きます」


「待ってくれ、グリュン。スカイドラゴンを引き揚げる方が先だ」


 ディッシュは空戦に挑もうとしていたグリュンを押しとどめる。


「ここは大丈夫だ、グリュン。手伝ってやれ」


 仲間の竜騎士の1人に忠告されると、グリュンは頷いた。


 そしてみんなで仕留めたスカイドラゴンに対面しにいくのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 今回も美味しく頂きました。 ロドン、ホーデン、グリュン、アセルスの連携技が炸裂。最後はやっぱりアセルスなのでしょうね。しかし、この皿には一体どんな料理が乗るのでしょうね。 ディッシュのサポー…
[一言] 水面に着陸?着水じゃなくて?
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