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ゼロスキルの料理番  作者: 延野正行
第5章
147/209

menu130 スカイドラゴンの生態

1週お休みして申し訳ない。

活動報告にも書きましたが、目の腫れと書籍化作業が重なってしまい、

こちらの方の更新まで手が回りませんでした。

1週1回の鈍行更新ですが、引き続き投稿していくので、よろしくお願いします。


そして今日もどうぞ召し上がれ……。

 スカイドラゴンはそのままどこかへ行ってしまった。

 どうやら自分の速度に付いてきた飛竜に驚いたのだろう。

 雲間の中に逃げ込むと、スカイドラゴンが戻ってくることはなかった。


 かのドラゴンがルルイエ王家領に現れて、1番被害が少ない日となり、他の竜騎士たちはホーデンとグリュンの活躍を讃える。

 ベテランの竜騎士も混じって、降りてきたグリュンを手荒く歓迎したが、謁見の間で食ってかかったベテラン竜騎士だけが、冷たい視線を湛えて、その場を後にした。


「ディッシュ、無事か!!」


 竜騎士たちの駐騎所で待機していたアセルスが駆け寄る。

 その後ろからロドンもゆっくりと歩いていきた。


「怪我はないか、ディッシュ」


 アセルスは思わずディッシュの手を取った。

 いつもなら触れただけで顔を赤くするアセルスだったが、そのまま心配そうにディッシュを見つめる。

 自分の手と違う感触、その温かさに、逆にディッシュの方が頬を赤らめる。


「お、おう……」


 照れくさそうにこめかみの辺りを掻いた。

 その中途半端な反応が、アセルスを余計に不安にさせたらしい。

 さらに1歩踏み込み、ディッシュに顔を近づける。


「ほ、本当か? 足とか手とか痛くないか?」


「だ、大丈夫だって……。あ、あと――近いぞ、お前」


「――――ッッッッ!!」


 そこでようやくアセルスも、自分がやっていることに気付く。

 地中からマグマがせり上がってくるように、顔を赤くした。


「す、すまない」


 慌てて手を離す。

 【光速】を使って、思わず20歩ぐらい後ろに下がった。

 それでも、なお顔を赤くしている。


「おいおい。何もそんなところまで下がらなくてもいいだろう」


 ロドンは頭を掻きながら、若い者に忠告する。

 2人は「「……」」と互いに沈黙するのみだ。


 やれやれと肩を竦めたロドンは、話題を変えた。


「それよりもディッシュ。首尾はどうだったんだ?」


「うん? ああ……上々だぜ、ロドンのおっさん」


 ディッシュは手の平に乗った苔を見せる。

 顎を撫でながら、ロドンは目を細めると、「なるほど」と唸った。


「その苔がどうしたのだ?」


「私もそれは気になります」


 戻ってきたアセルスと、仲間たちに揉みくちゃにされたグリュンが、ディッシュに質問した。


 しかし、ディッシュは歯を見せ、笑うだけだ。


「答えはすぐにわかるよ。……それよりも、明日は早いからな」


「またスカイドラゴンを追いかけるつもりか。危険だぞ、ディッシュ。それに明日も現れてくれるとは」


「早とちりするな、アセルス。俺が行くのは、あそこだ」


 ディッシュは北を指差す。

 その方向にあったのは、山だった。




 翌日――。

 宣言通り、ディッシュは山に登り始めた。

 住んでいる山よりも標高は低いものの、傾斜が鋭く、なかなか骨が折れる。

 普段、ディッシュの家に通っているアセルスはともかく、海に生きるロドンにとっては、重労働らしい。

 先ほどから息を切らし、「ひー。ひー」と喉を鳴らしていた。


「何も……。他国まで来て、山に登ることはないだろ。それにオレは漁師だ。山登りは苦手なんだよ」


「たまにはいいものだぜ、ロドンのおっさん。そら、あと一息だ」


「くっそー。オレも飛竜に乗れば良かったぜ」


 恨めしそうに空を見やる。

 空の上では、ホーデンとグリュンが上空を旋回していた。

 上から見て、魔獣の気配があれば教えてもらうようになっている。


 ホーデンを使えば、ひとっ飛びで山の頂上に立つことができるが、ディッシュはあくまで徒歩での登山することにこだわった。

 ディッシュは山の申し子だ。

 何か感じることがあるのだろう。

 アセルスも徒歩を選択し、ロドンも倣った。

 だが、ロドンだけでもグリュンたちに預けておけば良かったかもしれない。


「もうちょっとだ、ロドンのおっさん」


 ディッシュはロドンの背中に周り、サポートする。

 その側でアセルスが鋭く目を光らせていた。


「ディッシュ、気付いているか?」


「うん? ああ、アセルスも気付いていたんだな」


 ディッシュも周りを見渡す。

 動物どころか、魔獣の気配すらない。

 ディッシュが住む山の中なら、ひと度迷い込むだけで、獣臭が鼻を衝くというのに、土と腐った枯葉の匂いしかしなかった。


「やはり原因はドラゴンだろうか。これほどの魔素に溢れているというのに」


 アセルスは顔をしかめる。

 濃い魔素に抗うように、鼻と口を腕で押さえた。


「だろうな。この辺の魔獣を粗方食い尽くしたんだろう」


 一部炭化した木々を見やる。

 一直線上に焼き払われていた。

 おそらくドラゴンの炎息の跡だろう。

 ディッシュの山とは違う、特殊な事情が山の生態系を歪つに変えていた。


「ディッシュさん、魔獣が魔獣を食うのですか?」


 グリュンが空から質問する。

 ディッシュは即座に頷いた。


「種類によるけどな。魔獣を食べる魔獣は、どっちかと言えば人間よりも魔獣の方が好物だぞ。魔獣の方がいっぱい魔力を持っているからな」


 おそらくこの辺りの魔獣を食い散らかした末、ドラゴンたちは今ルデニア連邦の各都市を襲うようになったのだろう。

 その凄まじい食欲に、ディッシュですら震え上がった。


 だが、同時に自分の予測が事実であると確信する。


「間違いねぇ」


「何がだ、ディッシュ?」


「ドラゴンの巣穴は間違いなく、この山のどこかにある。」


「むっ? ドラゴンとはずっと空を飛んでいる生き物ではないのか?」


「そんなことねぇよ。空を飛ぶって、それなりに体力が必要だしな。大型になればなるほど、魔力も消費する。一旦地上のどこかに降りて、回復する必要があるんだ。そういう意味でも、山は最適だ。外敵も全部食べちゃったから、安心して休むことができるしな」


「な、なるほど……」


 その話は、ドラゴンの専門家である竜騎士グリュンにとっても、寝耳に水だった。

 度々、竜の巣穴について竜騎士の間で議論になるが、大抵の場合、その巣穴は空の上にあって、大きな雲の中に隠れているとされてきた。


 だが、ディッシュの説明を受けてみると、なるほどと納得する部分は多々ある。


「ですが、ディッシュ殿。スカイドラゴンには足も手もありません。どうやって、地上に降りて休むのでしょうか? 胴体着陸をするなら、肌に傷のようなものが出来てしかるべきだし、地上に何らかの痕跡が残るはずですが」


「グリュン、さすがだな。いい指摘だ」


「あ、ありがとうございます」


 いつの間にか案内役から生徒役になっていたグリュンは、思わず照れてしまう。


 一方、ディッシュは背嚢の中から地図を取りだした。


「俺も同じことを思ったよ。最初聞いた時にな。だから、1度スカイドラゴンをこの目でじっくり観察する必要があったんだ」


「それで、ディッシュの結論は?」


「慌てるなよ。もうすぐだ。ほら……到着だぜ」


 ディッシュは地図を畳み、そして顔を上げた。

 山の縁に立つと、景色を望む。

 広がった風景を見て、アセルス、ロドン、そしてグリュンが息を呑んだ。


 それは大きな円形の湖だった。


「大きい湖だな」


 アセルスは目の上に手でひさしを作って、感心する。

 潮――とまではいかないが、水のある光景に、ロドンも満足そうに顎の髭を撫でた。


 グリュンとホーデンは湖畔に着地する。


「ルルイエ湖ですね。ルルイエ王家領の代表的な勝景地です」


「まさか……。ここにスカイドラゴンがいるのか、ディッシュ」


 すると、ディッシュはしゃがんだ。

 岩に付いた何かをこそぎ落とす。

 ほら、とアセルスに見せた。


「あ……。昨日見た同じ苔だ」


「ああ。俺の予測が正しければ、スカイドラゴンは地上に降りてるわけじゃない。少なくとも土の上にはな」


「では――――」


「ああ。間違いない。スカイドラゴンは水の上に着水してるんだ。そして、これはもしかしたらなんだけど――」


 ディッシュが言いかけた瞬間、それは起こった。


 突如、水柱が立ち上ったのだ。

 大きく、まるで雲にすら届こうというぐらい高々と。

 水しぶきをまき散らして、現れたのは紛れもない――。


「「「「スカイドラゴン!!」」」」


 皆の声が揃った。


 円形の体躯をヒレのように動かし、猛スピードで空へと昇っていく。


「あいつ、水の中にも潜れるのかよ」


 漁師ロドンは感嘆するのだった。


来週ですが、コミカライズの更新が予定されてるみたいです。

お楽しみに!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回も美味しく頂きました。 体調は宜しいですかな? 鈍行速度でいきましょう。 いやー、スカイドラゴンが驚くくらいのスピードとは、豆凄いですね。 グリュンが軽く英雄扱いですね。謎の古参騎士…
[一言] 漁師さんの出番やな 先ずは禁止漁法の電撃と爆弾からかねえ(スットボケ
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