menu119 回復クラゲの足〇〇〇
書籍版昨日発売されました。
皆様、手に入れていただけたでしょうか?
Web版とはまた違った魅力のある料理が揃っております。
どうぞ書籍版も召し上がれ!
ドンッ!
まさにそんな擬音が見えるようだった。
新鮮な野菜、熱々のハンバーグ。
その熱によって溶かされ、広がったチーズ。
それらすべてを挟んだカリカリのパン。
焼いた肉の匂いに、パンの香ばしい匂い。
そしてほのかに香るチーズ。
視覚、そして臭覚によって、場を制圧したそのハンバーガーは、巨大な要塞のように皿の上に鎮座していた。
「うっっっっっっまそぉおおおおおお!!」
瞳を輝かせ、うなり声を上げたのは、アセルスだ。
青い目には圧倒的な迫力を有したハンバーガーが映っている。
「ブライムベアのハンバーガーなんて!」
「おいしそう! じゅるり」
「匂いを嗅いでいるだけで、お腹が搾り取られていくようですぅ!」
もちろん、アセルスだけではない。
ヘレネイ、ランク、フォン、そしてウォンも虜になっている。
匂いに酔いしれ、その味を想像した。
ウォンはボタボタと涎を落とす。
まずは一番槍と大きく顔を上げたが、不運にも主であるディッシュに見つかってしまった。
「ダメだぞ、ウォン。まだ料理は完成してないんだ」
「ん? どういうことだ、ディッシュ」
「え? 料理は完成してないの?」
アセルス、ヘレネイ――乙女2人組が首を傾げる。
すると、ランクは顎を撫でながら言った。
「そういえば、ディッシュくんはセット料理だって言ってたっけ?」
「ハンバーガーのセットといえば……」
フォンも思い出す。
ハンバーガーはカフェなどでは定番メニュー1つである。
サンドウィッチと並び、朝これを食べて仕事場に行く人間も少なくない。
カフェでは、ここに飲み物と軽い揚げ物が付くのが鉄板だ。
「つまり、ここにもう1品と飲み物を付けるのか、ディッシュ?」
「ああ。ちょっと待ってろよ」
再びディッシュは自分の背嚢に手を付けるのかと思ったが違う。
目の前に立ったのは、軽く燻製にした回復クラゲである。
すると、その足を1本1本千切り始めた。
ぶちぶち、という音が響く。
すべて取り終えると、俎上に載せた。
回復クラゲの足はとても多く、そして細い。
羽ペンより少し太く、色も薄黄色をしていた。
「む……。ディッシュ、それはもしかして――」
アセルスの第六感が働いたらしい。
その色と艶、何かの食材をスティック状に切り裂いた形。
それはカフェの定番セットメニューの1つであった。
ディッシュは口角を上げる。
皆まで言わず、そのまま調理を続けた。
回復クラゲの足を軽くデンプン粉にまぶし、あらかじめ油を張っておいた鍋に投入する。
じゅわわわわわわわわわわわわわわ……!
大量の気泡が上がり、音を立てながら足が油の中に沈んでいく。
おいしい音だ……。
揚げ物の際に必ず聞く魅惑の音色。
聞いた者の心をワクワクさせる。
もはや料理界のセイレーンの歌声とでも称すべきだろう。
同時に香ばしい匂い。
鼻腔を通った香りは、アセルスたちの胃を直撃する。
たまらん!
とばかりに、皆が同時に涎を拭う。
薄黄色だった回復クラゲの足が、次第に飴色に染まっていく。
ディッシュは頃合いを見計らって、鍋から取り上げた。
油切れの良い葉の上に乗せ、皆の前に披露する。
回復クラゲの足フライの出来上がりだ!!
細いスティック状の形。
飴色に染まり、香ばしい匂いを放っている。
間違いない。
「これはディッシュ流フライドポテトだ」
馬鈴薯を油で揚げた料理は、ルーンルッドでは古くから親しまれる料理である。
作るのが簡単で、何よりもおいしい。
野菜嫌いの子どもでも食べられることから、間食の定番料理だった。
1度は皆食べたことがあるはず。
だが、その場にいる全員が釘付けになっていた。
ただのフライドポテトではない。
魔獣――それも回復クラゲの足を切り取ったものなのだ。
見た目はともかく、一体どんな味がするのか、想像もできなかった。
皆が逡巡してると、ディッシュはいきなりパクッと味見する。
「うめぇえええええええ!!」
うなり声を上げる。
料理をしている時は真剣だった顔が、一気に綻んだ。
「でぃ、ディッシュよ」
「ん?」
「それってどんな味がするのだ?」
「へへ……。気になるか? 1本食べてみろよ」
ディッシュは差し出す。
アセルスはごくりと唾を飲み込んだ。
そして恐る恐る1本――回復クラゲの足フライを摘まみ上げる。
パクッ!!
「うううううっっっっま!!!!」
食べた瞬間わかった。
「ぽ、ポテトだああああああああ!!」
そう!
普通に馬鈴薯なのだ。
外はカリカリに揚げられ、中はふっくら熱々。
ただちょっと違うのは、繊維だろう。
こっちの方が繊維が太いからか、コリコリとした歯応えがある。
まさしく烏賊や蛸の足に似ている。
そこに絶妙にかかった塩がまたいい。
熱い揚げ物に浸透して、いくらでも食べらる。
たまらずアセルスは手を伸ばした。
しかし、ディッシュにすげなくかわされる。
「ディッシュ……」
「そんな目をしてもダメだ。お前に食わせると際限がないからな」
「うう……」
自覚があるだけに、アセルスは反論できない。
がっくりと肩を落とすしかなかった。
「ところで味はどうだった?」
「う、うむ! フライドポテトだった!!」
「だろう」
子どもみたいな感想を聞いて、それでもディッシュは満足そうに頷く。
「しかし、不思議だ。何で回復クラゲの足が、馬鈴薯の味と似ているのだ?」
「それは簡単だ。回復クラゲは一応植物系の魔獣だからな」
「あ! 確かに……」
ポンと手を打ったのは、フォンだった。
ディッシュに負けるが、彼女もギルドの中では魔獣の専門家だ。
加えて、【鑑定】というスキルを持っている。
その分類は、すべて頭の中に入っていた。
「回復クラゲの足は、植物でいうところの根っこの部分なんだよ」
「あ! そうか! 馬鈴薯の実も、言わば根っこの部分だった」
アセルスは以前、ディッシュが再生させた村の畑のことを思い出す。
「馬鈴薯の実は栄養を蓄える部分だけど、回復クラゲの足の部分も栄養の通り道だ。そこに養分が詰まっていてもおかしくないだろ」
「な、なるほど!!」
アセルスは唸った。
フォンも感心する。
「ね、ねぇ……。とりあえず、回復クラゲの足フライの味はわかったわ。それで、飲み物はどうするの? 帰って、紅茶でも淹れる?」
「その必要はねぇよ、ヘレネイ。飲み物ならすでにあるぞ」
「え? 私たち飲み水しか持ってないわよ」
ヘレネイは水筒を掲げる。
それを見て、ディッシュは首を掲げた。
「にししし……。すでに俺たちはこのセットに必要な飲み物をゲットしてるぜ」
「うん……。ディッシュ、それはまさか――」
アセルスは気付く。
すると、ディッシュは側にあった袋のようなものを取り出す。
中には大量の液体が入っていた。
黒く――正直に言って――何かおぞましい色をした液体。
そこからは、何か泡のようなものがぷくぷくと浮いている。
「ディッシュ、それを飲むのか……」
アセルスはゴクリと唾を呑んだ。
それは回復クラゲが貯蔵し、寄生主が危機に陥った際に注入して、回復させる養分である。
「そうだ。回復クラゲが貯めた養分だよ」
1杯、飲んでみたくねぇか……?
いつも通りディッシュは、にししと笑うのだった。
実は、1巻よりも販売部数が搾られているため、
お近くの書店にない可能性がございます。
もし、ない場合は書店で注文することを推奨させていただいてます。
お客様から注文いただけると、作品に対する書店さんの印象が良くなります。
1冊だけではなく、さらに複数の注文いただくこともあるようです。
色んな人に作品を伝える意味でも、ご注文いただけると嬉しいです。
書店員さんに話しかけるのは恥ずかしいという方は、
私のTwitterの方に『書店・取り寄せ用紙』を貼ってあります。
それを見せてもらえば、スムーズにコミュニケーションが取れると思うので、
是非ご活用下さい。
打ち切るにも、続けるにも、2巻の売上次第と聞いております。
もっとおいしいゼロスキルの料理と、ディッシュとアセルスを描きたいと思っているので、
是非召し上がり下さい。







