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漆黒のエリュシオン  作者: カブヤン
第二章 輝ける君のために
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第24話 アラヤの国

「はい、では入国書をお返しします。ただ、できる限り首都には近づかないようにお願いします。今はかなりごたついてますので、きっと魔法師様たちにとっても気持ちのいいことにならないかと」


「ありがと。大丈夫今回は首都には用は無いから」


「はい、ではアラヤの加護の有らんことを」


「行きましょうマディーネ」


「はい師匠」


 所々木漏れ日が落ちるその道は、深い森の中にあって。魔法師であるハルネリアとマディーネの二人は森の中にある関所を歩く。


 木でくみ上げられた簡易な造りの関所には兵士が数人。表に立つ一人と、奥に座る一人、そして休憩中なのだろうか、一人は床に敷物を敷いてそこに寝ている。通行を許可されたハルネリアたちに声を掛ける者はもういない。彼女たちは悠々と、砦を後にした。


 アラヤの国は、世界がファレナ王国に次々と下っていくこの状況でもまだ平穏さを持っていた。それは、アラヤの国独特の文化が成す光景。


 アラヤの国の人々は自然を愛し、自然のままに生きている。故に、彼らは基本的に、おおらかなのだ。


「ほんと、アラヤの国はいつ来ても平々凡々って感じ。マディーネは初めてだっけアラヤの国」


「そうですね。私オーダー狩りはヴェルーナ女王国近郊ばっかりでしたし。師匠は何度も来てるんですか?」


「まぁね。オーダー狩りっていうか魔法機関の仕事でよく来てたのよね。この国意外と旅人が多くて冒険者ギルドが賑わってるのよ。たぶん観光にはいいところだからだと思うけど」


「へぇ、確かに都市に住んでるんだったらこの大自然、新鮮かもしれませんね」


「そうね。セレニアさんは来たことある?」


「無い」


 木々の間からスッと現れるそれは、黒い装束に身を包むセレニア。何とも面倒そうに彼女は自分の髪を指先で丸めながらハルネリアたちに合流する。


 セレニアの服には獣道を歩いて来たせいか、葉や植物の種がへばりついていた。それを一つずつ服から剥がしながら、歩調をハルネリアたちに合わせていった。


「さっすがセレニアさん。よくあの岩山登ってこれたわね」


「ちっ……通行書もう一人分用意してもよかっただろうが。何で私だけがあんな道を……」


「時間が無かったのよ。魔法師は魔法機関の登録証明があるから関所で簡単に入国書貰えるけど、普通の人は入国書貰おうとしたら一か月はかかるし。特にセレニアさんの場合は所属国の証明できないんだから尚更よ」


「……ちっ」


 自らの臀部につく植物の種をプチプチと取りながら、セレニアは不機嫌そうな顔をみせる。その様子を生唾を飲み込みながら見るマディーネ。


「何だハルネリアの弟子、私に用でもあるのか」


「あ、いえ、気になさらずに。ふへへ……」


「……何なんだお前」


 その何とも言えない表情をするマディーネに不信感を感じたのか、セレニアは眼を閉じて少し困惑した表情を見せた。


 三人は並んで木々の間に続く道を歩く。周囲から漂ってくる匂いは、青臭さを感じる木々の匂い。


「……ところでハルネリア。そろそろ目的地と今回のオーダーに関して聞かせてくれないか」


「そうね、わかったわセレニアさん。まぁでも、すっごい単純よ。まず目的地だけど、アラヤの国の首都であるユイの里からちょっと離れたところにある屋敷よ。そこに二人、夫婦で住んでるの」


「オーダーは二人か?」


「うん、彼らは魔術師の夫婦。二人の魔術系統は再生。根源は命。彼らは、人肉による魔力供給を主としている」


「随分効率が悪いな」


「ええ、術式の魔力源としてはね。でもね、やつらは人の肉を直接体内にいれて身体を変異させるために人を食べてるの。自らの身体を作り変えることで、先へ行こうとしている。たまにいるのよね形から入る人。魔法ちょっと齧ってたら、そんなの無駄だってすぐわかるのに。ねぇマディーネ」


「え、あ、は、はい? 何で無駄なんです? 良い悪いは置いといてそれ何か結構いけそうな気がしてきましたけど」


「えぇ……」


 落胆と呆れの混じったような顔をして、ハルネリアはマディーネを見る。その顔を受けたマディーネはオロオロと焦りだした。


 手を組んで首を傾けて、考え込むマディーネ。


「……エリュシオンは魂の座。魔の先。こことは違う世界」


「あっ、そっか。根源が動かないから」


「そう、正直エリュシオンに関しては私もまだよくわからないけど、少なくとも身体だけ強靭にしたってこの世界から出ることはないのよ。世界の先を定義づけてないからね。先を探すことから始めなきゃ駄目だと私は思うわ」


「なぁるほど、師匠さすがです。無駄に歳とってませんね」


「るっさい。っていうかあなた何か素になってない? 私魔法師らしく優雅にふるまえっていわなかったっけ?」


「あーそういえばそんなのありましたね。まぁファレナ様がいないから大丈夫じゃないですか? セレニアさんには私を私として見て欲しいですし」


「えぇ……」


「ふへへ」


 またもや呆れたような顔をするハルネリア。対照的に、言ってやったと自慢気な顔を見せるマディーネ。


 セレニアは、二人を交互に見て思った。何とも仲がよさげな師弟だなと。自然と彼女の顔も緩む。


「まぁー……オーダーに関してはそれぐらいね。ああ、名前はアルカー。アルカー夫婦。オッド・アルカーと、シー・アルカー。オーダーナンバーは二人まとめて10。何か身体能力が人のそれじゃないらしいけど、セレニアさんなら大丈夫だと思う。身体能力とかそんなレベルじゃないし」


「そうか。ああ、まぁ、いいさ。やってやろう。だがなハルネリア」


「うん?」


「報酬は用意しておけ。一応オーダーだからな」


「はいはい、そこは魔法機関から出すわよ。こんな時に報酬とか、ちゃっかりしてるわねセレニアさん」


「こんな時だからこそだ。曖昧にすると簡単に踏み倒すからな。私たちには金が必要だ」


「ふふふ、わかりました。それじゃ急ぎましょうか。アルカー夫婦のいる場所、人食い屋敷へ。今更だけど、セレニアさんと仕事するの久しぶりね。懐かしいわ」


「何年も経ってないだろう。全く、年寄りはすぐに過去にしたがるな」


「あんたまでねぇ……こんな若くてぴっちぴちなのに何で年増扱いされなきゃいけないのよ。あー……お母様の気持ちが何となくわかって来たわ……はぁ」


 歩く三人に、木々は安らぎと、一時の猶予を与える。


 アラヤの国は静かで、ただ静かで。


 彼女たちは森を出る。そこに広がるは草原、道は続き、草原には家畜が歩き、そして片隅には花が咲いている。


 ふと、この光景が自分の故郷であるアルスガンドの村の風景に似ていると、セレニアは思った。その胸元に輝く黄金の魂も彼女の心に答えて、輝きを放ち。


 遠くにみえるのは人の集落。セレニアたちはゆっくりと味わうように、その穏やかな道を進んでいった。

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