エピローグ 漆黒のエリュシオン
道があった。長い長い一本の道があった。
たくさんの人がその上を歩いた。皆一緒に、その道を歩いていた。
同じ歩調の者は一人としていない。だがそれでも、皆真っ直ぐにその道を歩いていた。
何の気なしに、必死に、楽々と、苦しみながら、人は歩いていく。
一人、また一人と歩くのをやめていくが、それでも道は真っ直ぐに続いていて。
人は歩き続ける。その道を。その道に、終わりはなくとも、人は歩き続ける。
たくさんの人が生きている。この世界で生きている。これまでも、これからも。
――――今日も日が昇る。いつも通りの朝が訪れる。
鐘が鳴っていた。
朝を告げる鐘が鳴っていた。2度、3度、カランカランと心地のいい音が鳴り響いていた。
眩しい朝日がヴェルーナの国を照らしていく。
本日は晴天なり。
花が咲き誇る町を超えて、巨大な城を日の光が照らす。
本日は晴天なり。
今日も始まるいつもの一日。門番があくびをしながら城門を開く。
今日も始まるいつもの一日。門の外には長蛇の列。
今日も始まるいつもの一日。ヴェルーナの城に、国民たちが並んでいる。片手に思い思いの花を持って。
今日から始まる新しい一日――――
「はっくしょん!」
「おいおい……きたねぇな。鼻水出てるぞ」
「お、おうすまねぇ親父……ぶぁっくしょん!」
ヴェルーナの城門の前で立つ二人の男がいた。クシャミを繰り返す若い男と、それを苦笑いしながら見ている壮年の男。
東方が大国、ロンゴアド国が兵団を束ねる男ボルクスと、その息子リンカード。二人は煌びやかな正装に身を包み、肩を並べて立っていた。
「兄者たちはまだ宿舎かなぁ。リンカード、何か聞いてねぇか」
「ベルクス伯父さんは何も言ってなかったぞ」
「そっか……って、話をしてたらなんとやらだ。来たぜ」
「え? あ、本当だ。伯父さんでかいから遠目にもすぐわかるなぁ」
ボルクスたちは遠くを見て手を挙げた。それに気づいたのか、巨体を揺らしてロンゴアド国執政官ベルクスが勢いよく手を左右に振った。
遠くから人々の列を横目に、黄金の衣装に身を包んだ王と王妃がベルクスに連れられてボルクスの方へと歩いてきた。ボルクスたちは王と王妃に頭を下げる。
「やあ、すまないこの服がどうにも着にくくてさ。遅れてしまった。待ったかいボルクス」
「いいえ、大丈夫ですランフィード国王陛下」
「寒かったかいリンカード副団長。鼻が赤くなってるけど」
「あ、いえ、すんませんなんか花粉にやられたみたいで」
「ああ、ここ多いもんなぁ」
カラカラと笑うランフィードの顔は、晴れやかでさわやかで。ヴェルーナを覆う朝日に照らされて、彼の黄金の服は光り輝く。
列を作っている人々が興味深そうにランフィードたちを見ていた。その視線に少し居心地の悪さを感じたのか、ランフィードはちらりと列を見ると小さな声で話しだした。
「やっぱり金色って変かなメリナ……? 今日のために急いで仕立てたんだけど」
「よくお似合いです国王陛下」
「そう? ははは。よしじゃあ皆中へ入ろう。えっと、あそこの門番に言えばいいのかな」
「俺が呼んできましょうか?」
「いやいいよリンカード副団長。忙しそうだ。こちらから行こう」
ランフィードを先頭に、ロンゴアド国の一団は城門の傍で人々を誘導している門番の方へと向かった。ランフィードがいなくなったあと、列に並んでいた国民たちはあれはどこの国の王だと思い思いに話していた。
門番がランフィードたちに気付く。彼は、顔をパッと明るく輝かせてランフィードの下へと駆け寄った。
「すみませんお迎えに行かずに!」
「いやいいんだ。えっと、このまま僕ら中に入っていいのかな?」
「はい、ロンゴアド国の方々は我がヴェルーナ女王国の王家が親族ですので、城内に席があります。このまま門をくぐり、内門の前に我が国の執政官案内がいますのでそちらの方に」
「わかったありがとう。民の誘導、大変だろうが頑張ってくれ」
「ありがとうございます」
ランフィードたちは言われるがままに城門を通った。ヴェルーナの王には二つの門があり、外門をくぐり曲がりくねった道を通って、内門へと至る。二つの門の間は緩やかな坂道となっていて、女王に会うにはその道を通らなければならない。
「でっかい城だなぁ」
歩きながらリンカードがそう言った。ヴェルーナの城は魔法師が始祖が築いた城。万年の歴史の中で何度も何度も補修と修繕を繰り返したこの城は、どこの国の城よりも大きい。
巨大な石造りの城。数十万の人を中に入れても数日は生活ができるその城は、偉大なりしヴェルーナの象徴。
外門の内側にもたくさんの人が列を作っていた。その人の列を、城内の役人たちが四苦八苦しながら誘導している。
旅人だろうか、剣を腰にしている者もいた。役人たちはそういう者たち一人一人の武器を封印していく。それを拒否する者は一人としていない。
皆笑っている。皆喜んでいる。今日は式典。50年ぶりの式典。ヴェルーナの戴冠式――
「あ、ランフィード国王陛下!」
「おおリーザさん。久しぶりです」
内門の近くまで歩くと、そこには赤い服に身を包んだリーザが立っていた。左胸に輝くはヴェルーナが執政官の証。彼女の赤髪と相まって、ひたすらに彼女は赤く、目立っていた。
駆け寄るリーザ。ランフィードの前で、一礼し、ロンゴアド王妃がメリナの前で一礼した。そして彼女は一輪の花を二人に渡した。
「これは?」
「えっと、式典の最後にその花使いますんで、持っててください。あ、すみませんボルクスさんたちの分もあります」
「なるほど、ありがとうございます」
「では、行きましょうか。ネーナ! ごめんあと任せる! 王族の方は奥から入れていってよ!」
「わかってる!」
「さ、こちらです」
リーザに促されて、ランフィードたちは城の中へと歩いていった。城の中に一歩入ると、花の匂いがより強くなった。
場内を見る。いたる所に花が植えられ、飾り付けられている。城の召使だろうか。遠くで小さな女の子たちが花を並べている。
その光景は、何とも美しくて、何とも平和で。
「変わりませんね。ヴェルーナの城は」
この城で産まれ育ったメリナ・ヴェルーナ・アポクリファが、ぼそりとそんなことを言った。嬉しそうな顔をして。
「女王陛下がかなりこだわっているらしくて。細かい指定が本当に多くて。さっきもいましたけど侍女の方々が交代で毎日花の世話をしているんです。女王陛下の言うとおりにするのが大変すぎるって侍女長のセイレンさんが愚痴ってましたよ」
「お母様口うるさいですからね。自分では掃除とかしないくせに」
「そうなんですよねぇー」
「ふふふ」
メリナが笑う。つられてリーザも笑う。広い城内に笑い声が広がる。
「えっと、お二方、女王陛下に先にお会いになります? 上階にいますけど」
「どうするメリナ」
「そうですね……後にしましょう。戴冠式ですから。お母様あの衣装でしょうし」
「あの衣装って?」
「ふふ、見れば分かりますよ国王陛下」
「そうかい? わかった、それじゃリーザさん。僕らの席に案内してくれるかな?」
「はい」
彼らは場内を歩いた。階段を上り、行きかう侍女たちが礼をする中、彼らは赤じゅうたんが敷かれたバルコニーへと向かった。
リーザはバルコニーへの扉を開く。そこには大きな傘が立っていて、宝石がちりばめられたいくつかの椅子があった。
「ランフィード国王陛下とメリナ王妃殿下は前に。すみませんボルクスさんたちは一方後ろの、白い椅子に腰かけて下さい」
「わかりました。ああ、ボルクス。僕の剣を頼む」
「はい」
抜けないよう封印されたランフィードの剣をボルクスは片膝をついて受け取った。そのままランフィードは椅子に腰かける。
ランフィードは見た。メリナは見た。バルコニーを見上げる沢山の人たちの顔を。遠くには国民たちの顔。近くには諸国が長たちの顔。
彼らの下で、たくさんの王たちが、たくさんの国の代表たちが思い思いに談笑している。そこに蟠りはなく、憤りもない。全ての国が平等に、全ての国が平和にその場所にいる。
あそこで王たちの会話に混ざれないのが少し残念だなとランフィードは思った。それほどに、王たちの姿は楽しそうだった。
「まだ世界で細かい戦闘行為は行われているけど、それでも国同士は本当に平和そのものだ。いい時代になったものだねメリナ」
「そうですね」
「リーザさんは、執政官になってどうですか? やっぱり、大変かな?」
「まぁいろいろ覚えることが多くて。でも結構やれるようになりましたよ。元老院の方々も私を補佐してくれますしね。それに女王陛下は決断力がすごいんで、正直執政官としてはそこまで仕事多くないんですよね」
「なるほど、確かに、やってしまえることはやってしまうタイプでしょうしね女王陛下。でも、次の方は、どうでしょうか?」
「一人はひじょーに心配ですけど。まぁ、もう一人いますからね次は」
「女性が政をする……本当にヴェルーナは面白い国だなぁ」
「ええ本当に。それじゃ私そろそろ式典の準備がありますので。そうだ、何か飲み物を持ってこさせましょうか? ヴェルーナ名産の薔薇酒ありますよ」
「朝食会のあとはここで諸王会議だから、酒はやめておきます。紅茶を貰ってもいいですか?」
「ああ、そうですね。すぐ持ってこさせます。どうぞごゆっくり」
「ありがとう」
リーザが城内へと姿を消した。遅れて侍女の服装をした少女がティーセットを運んできた。手慣れた手つきで侍女はランフィードとメリナの間にある机にお茶を置く。
紅の茶が湯気を出し、まだ肌寒さを残す外の空気を和らげる。平和な世界は、何とも暖かいものだ。
ふと、ランフィードは気配を感じて後ろを向いた。自分たちと同じように茶を受け取ったボルクスたちもそれにつられて振り返る。
そこには、真っ赤なドレスに身を包んだハルネリアが、ヴェルーナ女王国第一王女シルフィナ・ヴェルーナ・アポクリファが立っていた。
「遠路はるばるお疲れさまですランフィード国王陛下。お隣の席、お借りしても?」
「あ、はい。お久しぶりですシルフィナ様」
「ええ、久しぶりですね。えーっと……三か月ぶりってところでしたっけ?」
「それぐらいですね」
ランフィードの隣に座るハルネリア。豪勢なドレスに大量の宝石を纏い、気品のある佇まいは正しく王族の姿。
「ふぅー……やっと落ち着けるわ……メリナ、そっちはどう?」
「はい、ロンゴアドは復興も大体終わりましたし、かなり平穏を取り戻しています。ヴェルーナももうすっかり元通りみたいですね」
「ええ、国庫の半分飛んだけどね。見栄えだけは整えたつもりよ。そろそろ魔法機関に戻れるかなってところ」
「戻るんですかお姉様」
「まぁね。やっぱり私の仕事はあっちかなって。マディーネも早く戻ってきてってずっと言ってるし」
「大変ですね」
「まぁーねぇー、ランフィード国王陛下は、お変わりないですか?」
「はい、貴国から我が国に十二分に支援いただきましたから。そろそろ返済の方も考えれるようになりましたので、そちら含めてお話を、諸王会議の後したいのですがお時間は大丈夫ですか?」
「え? ああ、大丈夫だと思います。あとで彼女たちに言っておきます」
「ありがとうございます」
時が経つ。バルコニーから見える景色は、時間と共に人で埋まっていった。
日がゆっくりと昇っていく。そして、ついに花咲くヴェルーナの巨大な中庭は、人で一杯になった。
まだ入りきらない人がいるのだろうか。城門の外にはまだ人がいる。皆花を片手に。
鐘が鳴る。城の最上階につけられた鐘が。大きく二度、鐘がなった。
大きな音を立てて、バルコニーの中央にあった扉が開いた。その奥は玉座の間。王が座る椅子の間。
騒めいていた人々が一斉に静かになった。皆、固唾を飲んでその扉を見ていた。
現れる、世界で最も赤い女王。ヴェルーナ女王国女王、ファルネシア・ヴェルーナ・アポクリファ。何枚も重ねた巨大な赤色のローブに身を包み、輝く黄金の冠を頭に現れた女王の姿に、そこにいる全ての人が固まった。
式典用の衣装に身を包んだ侍女たちが整列する。侍女たちは深々と礼をして、その前を、赤色の髪を輝かせてヴェルーナの女王は歩く。
前へ、前へ。女王は眼下の人々の前まで来ると、両手をゆっくりと挙げた。
そして女王は大きな声で告げた。
「国民よ。そして諸王たちよ。よくぞ、ここまで来てくれた。このファルネシア・ヴェルーナ・アポクリファが感謝する」
女王の声は大きく、澄んでいて、その場にいる者全てに届いた。人々は皆女王を見上げる。
「この一年、我が国において、また、世界諸国において、多大な被害があった。町を消された国もあった。国を消された者もいた。命を奪われた者もいた」
人々の胸中に浮かぶのは、虐げられていた記憶。苦しめられてきた記憶。
「苦しきことばかりであった。だが、皆よ。あえて言おう。よくぞ、ここまでたどり着いた。皆、大儀である、よ」
結局は、どんなに形を取り戻そうとも失ったものは戻らない。人々は静かに、女王の言葉に耳を傾けていた。
「これよりは、我らは前へと進まねばならない。50年と少し、わらわは女王としてここにいた。国民たちよ。そして諸王たちよ。わらわは宣言する。王の座を、次が王に譲ることを。さぁ、前へ出よ。主が臣民たちが、待っておるぞ」
女王は腕を降ろし、後ろを見る。城内、玉座に座っていた赤いマントを来た男がゆっくりと立ち上がり、歩き出した。城内に差し込む光はゆっくりと彼の足元を照らし、胸元を照らし、そして顔を照らす。
現れたのは漆黒の王。ヴェルーナ女王国始まって以来の、黒髪の王。
漆黒の服に赤いマントを羽織り、彼は人々の前に出る。眼下の民たちは皆彼を一目見ようと背伸びをしたり、乗り出したりしている。
そして彼の背から現れる二人の王妃。二人とも赤い衣装に身を包み、彼の両脇に立つ。
「名を告げよ。王よ」
「ジュナシア・アルスガンド・ヴェルーナ・アポクリファ」
「ヴェルーナ・アポクリファが名。アルスガンドが名と共に大事にするがいい。頭を向け、よ」
人々は静かに彼を見る。若く、力強い王。赤と青の双剣を二人の王妃に一本ずつ手渡して、彼は女王の前に膝をついた。
「良くぞ王となる決心をしてくれた。感謝する我が孫、よ」
小さな声でそういうと、ヴェルーナ女王はその頭の上に乗っていた冠を外すと、それを彼の頭に乗せた。
静かだった。静かな戴冠式だった。あっけなくも感じる戴冠式だった。それでも、その場から溢れる何とも言えない圧力に、人々は圧倒されていた。
一人、また一人、その光景を見て手を叩く。拍手の音がだんだんと大きくなっていく。
拍手の音が、その場を支配する。城を揺らすが如く、拍手が鳴り響く。
ジュナシアが立ち上がった。それをみて、拍手がピタリとやんだ。
彼は周囲を見回す。沢山の人々が、彼の言葉を待っている。
彼は右を見る。友であるランフィードが、母であるハルネリアが、二人微笑んで彼を見ている。
皆、彼が何を言うのかを待っている。人を救った彼が、何を言うのかを。
ジュナシアは片手をあげた。少し考えるような仕草をした後、彼は言った。
「皆、一つ、だけ言いたいことがある。時間はとらせない」
透き通るような声だった。大きな声ではなかったが、不思議とその場にいる全ての人たちの耳に届いていた。
「涙を流して、血を流して、今に来て、どうだ? 今は、皆が思った未来になってるか?」
――あの時気づいた。
「ヴェルーナも、ロンゴアドも、ファレナ王国も、それぞれがそれぞれの形で復興している。どうだ? 皆が思った今になっているか?」
――初めて人を助けたあの日、彼のは気づいた。
「皆は、救われたか?」
――こんな汚れきった自分の手でも、人を助けてもいいんだと。
「確かに、皆の命は助けれた。でも、わかるだろう? 本当の意味で、本当に思い描いた救いは、皆が感じていないことに」
――人を救ってもいいんだと。
「両親を失った者がいる。家族を失った者がいる。故郷を失った者がいる。失ったものは、もう二度とは戻らない。だから、それを求める心は、永遠に救われない」
――それは、自分がやりたかったことで。だから初めて満足した。自分の行いに満足した。
「でも、俺たちは生きているから。それでも進むしかない。皆、しっかり生きてくれ。もう二度と、この国を焼かない。もう二度と、世界を焼いたりはさせない。俺が、もう二度と、この平和を失わせたりはしない」
だから――
「皆、もう心配はいらない。精一杯、生きよう」
大勢の人が死んだ。大勢の犠牲があった。
涙を流して、涙を流した意味を忘れるぐらい涙を流して、たどり着いた今。
決して世界中全てが平和になったわけではない。凶悪な魔術を研究する魔術師たちは依然としているし、山を行けば山賊が、海を行けば海賊がいる。
だから、救わなければならない。全ての人に救いを。もう、報いを受ける人はいない。ただ、救いを。この美しい世界で掬いを。
「セレニア」
「うん?」
「苦労をかける。これからも頼む」
「いいさ。気にするな。私が選んだんだからな」
「……ファレナ」
「はい」
「俺、腹の子の名を決めたいんだ。俺が名づけても、いいかな?」
「はい、是非お願いします」
「ありがとう」
夢は終わらない。道は終わらない。
人は歩き続ける。どこまでも、いつまでも。
苦しんで、もがいて、それでも生きたのだから。それでも生きているのだから。
歩き続けよう。どこまでも。きっと、生きるだけ生きた先にこそ、理想郷はあるのだから。エリュシオンはあるのだから。
「陛下」
「どうしたイザリア」
「魔法機関から依頼が来ています。いかがいたしますか?」
「オーダーか?」
「はい。集団のようです。数は500」
「やれやれ規模だけは大きくなり続けるな……セレニア、諸王会議、ヴェルーナの代表を頼む」
「任せておけ。第一王妃の役割、果たしてやるさ」
「ファレナ」
「はい」
「今日の謁見は馬鹿みたいに数が多い。リーザに押し付けて適当に切り上げてくれてかまわないから、無理しないでくれ。腹の子に障る」
「大丈夫です! 私、食欲も十分ですし、きっと丈夫に生まれてくれます!」
「ああそれで……ちょっと太った気が……」
「え?」
「いやなんでもない。頼むぞ」
「はい」
世界は変わらない。嘗て、ファレナ・ユネシアが言った通りに、世界は変わらない。
だから誰かが救わねばならない。
人知れず死んでいくものに救いを。弱き者に救いを。
――――世界に救いを。
漆黒のエリュシオン 完




