第67話 命の光
人のために剣を握り、戦いの果てに死んだ人がいた。
死の間際に、彼は思った。これで自分は終わるのかと。こんなところで自分は終わるのかと。
悲しかった。悔しかった。家に帰れば妻がいるのだ。子がいるのだ。自分がこの戦いで戦果をあげて、凱旋するのを家族は待っているのだ。
だが、自分はここで死ぬ。止めどなく流れる血が、それを強く感じさせる。
そして彼は死んだ。大軍の中の一兵士である彼は死んだ。彼の身体を、仲間が、敵が、踏みしめて駆けていった。
一人孤独に病の中で死んでいった人がいた。
彼女は来る日も来る日も窓から外を見ていた。日が昇り、空が明るくなり、日が落ちて、空が暗くなり、そしてまた日が昇り。
日に日に弱っていく身体。訪れる人は、周期的に顔を見に来る医者だけ。
毎日毎日繰り返し。死ぬまで繰り返し。死の間際に彼女は思った。何のために産まれたのかと。何のために生きているのかと。
苦しみの中、ぷつりと何かが切れた。そこで彼女の生は終わった。彼女の身体は医者が姿を現すまで数日を、そのベッドの上で過ごし、朽ちていった。
友のために、恋人のために死んだ人がいた。
彼は大切な友人を生かすために、自分が囮になって敵に向かっていった。
誇らしかった。自分が誇らしかった。大切な友人に、大切な恋人を預け、自分が命を賭ける。なんとも英雄的で、なんとも素晴らしいことではないか。
友人が言った。死ぬなと。だから精一杯戦った。精一杯生きようとした。
でも死んだ。結局は敵兵に追いつかれて死んだ。死の間際、彼は誇らしかった。友と恋人を守れた。それが誇らしかった。
実際に、友も恋人もそのすぐ後に殺されてしまうのだが、彼はそれを知らずに死んでいった。
今までにたくさんの人が死んだ。幸せな死を迎えれた人は決して多くはなかった。
もしも、死の先があるのだとしたら、そこでは幸せになれるのだろうか。
本当に、皆が幸せになれるのだろうか。
本当に、理想郷はあるのだろうか。
きっと、それは誰にも断言することはできない。目指す理想郷は、一つだけではないから。
この夜もきっと、全ての人にとっての理想郷ではないのだろう。
だから人は目指し続ける。理想郷を目指し続ける。魔の果てなど関係ない。魂の果てなど関係ない。生きて、生き続けて、死んでも先を見続けて、幾多の過去を超えて未来を歩き続けて、人は目指し続ける。
自分だけの理想郷を求めて、人は進み続ける。遥か未来、遠い世界に、確かにあるエリュシオンへと、全ての人は進み続ける。
だから、ここで終わるわけがない。
終焉など永遠に来ない。
――巨大だった。
あまりにも巨大だった。
空に浮かぶ月、月光のエリュシオン、その後ろに、一回りも二回りも大きなそれが立っていた。
途方もない距離の先にいるのだろう。だがそれでも、それは巨大だった。月よりも巨大だった。
よく見れば、それは輪郭があいまいで。七色の光に輝くそれは、真っ赤な眼以外はぼんやりとしてて、光の中に人の形を見せて。
腕がある。足がある。翼がある。どこまでも、どこまでも巨大。
それは全ての人の色を身に纏って、この世界に顕現した。名をつけるならば、『極光のエリュシオン』
光の中に、色が移り変わっていくそれは、正しく極光。
振り返る月光のエリュシオン。目の前に、巨大ななにかがいる。すぐにこれは敵だと、月は理解した。意思がないはずの月は、目の前の光を敵だと思った。
全ての人の魂を複製し、自らの魂の中に自分が思う理想郷を創り上げた月光のエリュシオンにとって、全ての人の魂を蘇らせ、人が生きる世界を理想郷に作り替えたモノなど、受け入れれるはずがなかった。
だから、憎悪した。そこに現れた、本物の魂がある世界を憎悪した。
「ウゥゥゥアアアアアア!」
低い声だった。空一面に響き渡る声は、月光のエリュシオンが放つ叫び声だった。
月の魔物は腕を突き出す。両手を広げ、真っ直ぐに七色に輝く極光に向かって腕を突き出した。
魔物の両手に、強い光が集まる。それは魔力の光。もしもその光が人々が住む星に撃ち込まれたのならば、悠々と星を貫き、全ての人を消し去ってしまうだろう。
圧倒的魔力の奔流。月光のエリュシオンは叫びながらそれを放つ。巨大な光の束となったそれは、すさまじい光を放って極光のエリュシオンに向かって飛んでいく。
その一撃は、簡単に人を滅ぼせる一撃。それは、魂すらも消す光。
だが、簡単にそれは止められた。光り輝く極光の魔者の右の掌が、その光の束を受け止めて消してしまった。
「ウオオオ……」
眼を丸くして、月の魔物はその光景を見る。月の魔物の元となった魂が叫んだ。何故だ、と。
複製とは言え、月光のエリュシオンの中には全ての魂がある。生きてきた全ての人の魂が。いかに本物とは言え、違いなどあってたまるか、と。
「違いは、ある」
赤い眼を輝かせ、極光の魔者は語る。人の声で。彼の声で。
「皆、意志がある。自分たちの死を無駄にしてたまるかという意志が。お前を許さないという意志が」
――ただの意志だけで、ここまで差があるのか?
「人は意志を持って生きる。意志のない人など、ただの抜け殻だ。ただの人形だ。お前は間違っている。複製するならば、人そのものを複製し人生を歩ませるべきだった。そうすれば、きっとお前と俺に差はなかった」
――エリュシオンは魂の座。魂のための世界。肉体と心など、その世界には不要な物。
「不要なものか。人は生きている」
――あ、あ
「そんなこともわからなかったのかアズガルズの王。そんなことだから、国民全員に嫌われるんだ。そんなことだから、国民全員がお前を追い出すために手を貸したんだ」
――そんな、馬鹿な。
「報いを受けろ。全ての人の魂の報いを。一人の少女の希望を踏みにじった報いを」
振りかぶる。巨大な拳。力が入っていた。その右手に、力が込められていた。
――馬鹿な。
「私は、私はエリュシオンだ。私の中ならば、何でもできる。何でも、何でもできる! 救いは、我が中にこそ! お前も確かに、私の中で理想郷を見たはずだ! 確かにお前は救われたはずだ! あの娘と話せて、父が、母が、動く姿を見て、未来が希望を見て!」
「黙れ」
「何が違う! 理想の未来がそこにあるのだ! 肉体を捨て、私と一つになればそれは、確かに本物になるのだ!」
「黙れ! ただあるだけでいいわけがあるか! 貴様の勝手な理想郷に人を巻き込むな!」
「ふざけるな小僧が! 人を殺すしか能のない小僧が! 私を否定できるはずがない!」
叫ぶ月光のエリュシオン。彼には肉体は無く、心もない。だがそれでも、叫んでいた。全力で叫んでいた。
偽物の王。偽物の魂。偽物の理想郷。
「ふざけるなぁ! 私は、私は帰るんだ! 人の世に還るんだ! お前たち全てを殺してでも私は人を救ってみせる! ファレナ・ユネシアが想いのままに!」
「お前に救える人などいないぃ!」
そして彼の右腕は振り下ろされた。力強く、圧倒するその右拳。輝く極光の拳は、真っ直ぐに月光のエリュシオンを貫く。
触れた瞬間に、粉々に消し飛ぶ月光のエリュシオン。偽物の理想郷。
嘗て、アズガルズには若い王がいた。
王は、王宮の上から魔の力で発展していく自らの国を見ていた。
昨日までできなかったことが、今日はできるようになっていく。夜は暗かったはずの町が、いつの間にか明かりで溢れている。
王は思った。魔の力があれば、人はいずれ死すらも超越して、永遠の幸福に至れるのではないか、と。
王は夢中になった。魔の力に夢中になった。それが魂から生み出されるのだとわかったら、次は人の魂に夢中になった。
そして王は魂を創るようになった。
この力は、人々のために、民のために。そう、その時すでに王は、魔に溺れていたのだ。
王は民のために月になった。もっと発展させよう、もっと便利にさせよう、もっと、幸せにさせよう。
王の願いは、結果としてアズガルズの民全てを消し飛ばし、自らも三人の男の手で星から追放された。
王は、何処で間違えたのか。
その中には全ての人の魂がある。それに触れることができれば、死んだ人にだって会うことができる。
確かに、その中には救いはあった。幻想の救いが。確かにそこにいれば、人は救われるだろう。もう二度と会えないはずの自分の大切な人に、よく似た大切な人の人形に、会えれば人は救われるだろう。
だが、それは違う。結局、彼のようにそれにいつか人は気づく。まがい物だと、人は気づく。
そうなれば、もうそこに浸り続けることはできない。夢は、夢だと理解した瞬間に、覚めてしまうのだ。
砕ける月。欠片は光となって世界に降り注ぐ。真っ暗な空に、月の欠片が線となって降り注ぐ。
それは、月の流星群。輝く夢の欠片たち。王が創り上げた、人形の世界。
輝く流星の先に、光り輝くエリュシオンが立っている。星を見下ろし、その眼下にいる全ての人を、彼は見ていた。
皆、笑っていた。光り輝く魂となった過去の人が、今の人と話していた。皆笑っていた。
ファレナ王国の王都が見える。いなくなった都の人たちがみんないる。輝く魂となって、彼らはそこで火を囲み、生き残ったファレナ王国の人たちと共に笑ってさわいでいる。
ヴェルーナの赤い女王が椅子に腰かけている。傍にいるのは一人の老人の魂。静かに二人は語り合っている。
この世界では、死んだ夫に会える。死んだ恋人に会える。
ヴェルーナ女王国の都が見える。綺麗な花の前で、魂となった両親が小さな赤ん坊を抱いた少女を抱きしめている。
少女は泣いている。赤子は笑っている。子供を残して死んだ夫婦。さぞや無念だったのだろう。両親は子に対して、何度も謝罪の言葉をかけている。
この世界では、死んだ親に会える。死んだ家族に会える。
ロンゴアドの国を見る。光り輝く王が、執政官たちの前で最後の言葉を発している。
執政官たちは敬礼をしたまま、その言葉を胸に刻んでいる。しかとこの国を守れと、王は言っている。
この世界では、死んだ王に会える。死んだ主に会える。
世界中のいたる所で、人々が再会していた。確かに、一人寂しく座る魂もいる。でもそれでも、この世界の懐かしさを、誰もが感じている。
足元を見る。アズガルズの大地が見える――――
「ハルネリア」
「……何?」
「いい子を産んでくれた。あいつは、俺なんかが持つにはもったいないぐらいの、最高の子だった」
見上げる先代アルスガンド。見下ろす極光の魔者の赤い眼と、彼の漆黒の眼があった。
「いいえ違う……産んだのは、エリンフィアさん。私は、あの子を守りきれなかった。だから、あの子は私を母とは呼ばない」
「産んだのはエリンフィアかもしれない。確かに母はエリンフィアだ。でもな、あいつは、お前の子なんだ。だから、抱きしめてやってくれ。あいつには、寂しい思いをさせちまった」
「……うん、ありがとうアルス」
地平の先が、ぼんやりと赤みを帯びた。もうすぐ夜が明ける。夢が終わる。
「あいつらはもう、辛気臭いなぁ全く……」
頭を掻きながら、少し離れた場所でエリンフィアがそうぼやいた。傍にいるイザリアとセレニアは、ただ黙ってエリンフィアの背を見ていた。
「イザリア」
「はい」
「よくたえれたな。魂だけでこの世界にしがみ付くとは、本当に神童だなお前は。そこまでとは私も思わなかった。ははは。あいつの傍に、これからもずっといるんだぞ」
「はい、師母様。若様の墓の世話までしてみせます」
「よしよし、いい子だ。セレニア」
「は、はい」
「よく生き残ったな。よく私の代わりにあいつを支えてくれた。さすがは私の弟子。誇りに思うよ」
「……はい」
「ただな、私は出来の悪い母親だったからな。そこは代わりにならなくていい。丈夫な子を産んでやってくれな」
「そんな、師母……様こそ、最高の母親だと私は思います」
「はははは、口が美味いなセレニアは」
空が、段々と黄色く、赤く染まっていく――
「それじゃあ……そろそろ行きますリーザさん」
「そんな、姫様、どこに……」
「エリュシオンの中に。私たちがいたら、あの人はずっとあの姿のままですから」
「そんな……待って、待ってください。まだ、まだいっぱい話したいことがあるんです姫様。まだ、ほら、前に言ってた、果物が私の家にあったんです。甘くて、美味しい、果物が……」
「それは、食べてみたかったですね」
「ですから、ほら、一緒にいましょうよ。そんなちょっと光ってるぐらいいいじゃないですか。夜が明るくなっていいってもんですよ。ほら、こっちにいましょうよ」
「駄目ですよ。だって、死んでるんですから私たちは」
――――日が昇る。
「私たちがいれば、皆進めません。未来に進めません。だから、行かなきゃ」
「そんな、そんな……あんまりじゃないですか! だって、だってこの太陽を! 朝を迎えられるのは姫様が頑張ったからなんですよ! あんまりじゃないですか! 姫様だって、本当はやりたいことがいっぱいあるはず! 思い残すことがいっぱいあるはずです!」
「……そうですね。いっぱいありますね」
「だったら!」
「でも、もう無理ですよ。あの人を、この世界に返さなきゃいけません。エリュシオンの門を閉じなきゃいけません。私たちは消えなきゃいけません」
「そんな……会えたのに、会えたのに別れるなんて……そんな、残酷なことを……」
再会が嬉しくて、楽しくて、だから、別れは辛くて。
リーザは何度目かの涙を流した。離れたくないと彼女はファレナの手を取ろうとしたが、魂となったファレナの手をすり抜けてしまった。
寂しそうに、申し訳なさそうに、ファレナはリーザを見る。
「……ごめんなさい。そんなに、私のために泣いてくれるなんて、私思いませんでした」
「姫様……姫様……」
「ねぇファレナ、あなた少し酷くありませんか?」
すぐ傍から、声が聞こえた。リーザは顔をあげる。ファレナは振り返る。
「……アリア、王妃?」
リーザがその名を口にした。ファレナと同じ顔をした女の魂が、そこにいた。
赤く輝くアリアは、優しく、母親のように笑っていた。
「友人がこんなにあなたを求めているのですよ。それを振り切って消えてしまおうだなんて、酷くありませんか?」
「お母様……しかし」
「口答えはいりません。ほらファレナ。あそこを見なさい」
「あそこ……?」
アリアが指さす方向を、ファレナは見た。リーザは見た。
そこには、座り込む純白の人がいた。白い白い白百合よりも白い、純白のドレスに身を包んだモノがいた。
「……あれ、私ですか?」
ファレナが、確かめるようにそう言った。
「ええ、死の間際に、私はあなたが振るっていた旗と、私の身体をつかってもう一度創ってみました。ファレナ・ジル・ファレナを」
「……え?」
「ふふ……ふふふ! そうそう、その顔。いつもその顔。眼が見えない時、私が本を読むのをやめて寝なさいといったら、あなたはいつもその顔をした」
「お母様……どういうことですか?」
「身体があれば、魂はそこに戻る。ファレナ、あなたはエリュシオンに行くことはできない。彼の中に入ることはできない。残念でした。ふふふ!」
「ほ、本当……に?」
「うん、まぁ信じなさいな。私は世界最高の魔術師。失敗はない。まぁ? 私の汚い身体が元だから? ちょっと汚れてるかもしれないけどそこは湯浴みでもして綺麗にしてね?」
「あ、ああ……お母様」
「ファレナ、私の大切なファレナ。生きなさい。必死に生きなさい。私が終ぞ得ることができなかった幸せを、得なさい。大丈夫、あなたはよくやった。だから、幸せになってもいい」
「お母様!」
「もうすぐ夜が明けるわ。一夜限りの、いいえ、たぶん時間にして一刻もない。そんなわずかな時間だけど、今この瞬間は確かにエリュシオンだった。この光景をあなたたちは、私たちは見てしまった」
「はい……はい」
「きっと、これから世界中の魔術師たちが、魔法師たちが、魔を志す人たちが目指すわ。今日を。きっと、これからも人は涙を流す。人は苦しみ続ける」
「……はい」
「だから、助け続けなさい。あなたたちにはその義務がある。精一杯、できることを精一杯やりなさい。そして、次の世代に託しなさい」
「はい」
「私子供ができなかったのよね。まぁその、いろいろやられたし、自分の魔力のせいもあるし。月経なんて数年に一回しか来ないし。その一回も数分で終わるし」
「……そうなんですか?」
「ふふ、だから、子供が見たいわ。私、ファレナの子供が見たい。ねぇ見せてくれる? 私に見せてくれる?」
「えと……が、頑張ります!」
「ふふふ、頑張ってね」
――日が、姿を現し始めた。
「うし、そろそろ行くか。エリンフィア!」
「わかってる」
先代アルスガンドの身体が強く発光する。エリンフィアの身体が、強く発光する。
「ハルネリア……いや、シルフィナ。辛抱強く待っててやってくれ。あいつの中で説教しまくっていつか絶対あいつに母親と呼ばせてみせるからな」
「うん、期待してる」
「おう、それじゃまたな!」
子供のように笑いながら、アルスガンドの長は消えた。ハルネリアの顔を見て、嬉しそうに消えていった。
「イザリア、セレニア。本当によくやってくれた。ありがとう二人とも。あとな、あそこの木陰。ずーっとルシウスがいたぞ? ははは、我が子なのに死んでも会いにくいらしい。顔だけでも見せてやってくれ」
「はい、師母様」
「おお? やっぱり姉妹だな。声完全に重なったぞ。ははは。それじゃ、死んだらまた会おう。幸せになるんだぞ二人とも」
「はい!」
変わらない笑顔を、胸に。エリンフィアは消えた。最後まで師として、母として彼女は消えていった。
木の陰からイザリアたちの父であるルシウスが二人の女性に脇を掴まれてひょっこり顔を出した。照れくさそうに顔を赤らめて、彼らも消えていった。
強く、強く世界が輝いた。世界中に現れた魂たちが、名残惜しそうに言葉を残し、一人、また一人と消えていった。
この夜は、全ての人にとって忘れられない夜となった。
大切な人に会えた。そのことを胸にして、人々は更に前へと進む。
アリアとして、ファレナの母親として最後に消えたファレナ・ユネシアは、晴れやかな顔をしていた。最後の最後に、彼女は母としての自分を選んだ。
白百合の中に、純白の姫が立っていた。光り輝く日に照らされて、白百合はより白く、白い姫はより白く、輝いていた。
彼女が手を広げる。空に向かって手を広げる。そして言う。一番言いたかった言葉を、彼に向かって言う。
「おかえりなさい。さぁ――帰りましょう?」
きっと、それは全ての人にとって救いではなかった。
でも、彼らは救われた。人々は救われた。
生きて朝日を見る。それができる幸せに、彼らは眼を潤ませた。
理想郷、それは全ての人が目指す場所。そこに至れば、人は救われる。
人々は目指す。エリュシオンを。いつかそこに至れると信じて。
夢は終わらない。永遠に終わらない。明日のために、美しい明日のために。
彼は、人の世界に帰ってきた。愛しい人たちと明日をいきるために――――




