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漆黒のエリュシオン  作者: カブヤン
最終章 白百合の中で空を仰げば
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第2話 世界を解放する者たち

 その者たちは集った。ここより始めるために、その者たちは集った。


 彼らが目的、それはただの一つ、世界を取り戻すこと。人々の手に取り戻すこと。


 集った理由は人それぞれ。しかしながら、彼らには思いがあった。意志があった。


 だから、集った。旗の下へ。純白の鎧を着た戦姫の下へ。


 彼ら9人、純白の翼の旗の下へ。


 彼らは反逆者。世界に反逆する者。


 彼らは破壊者。世界を破壊する者。


 彼らは解放者。世界を解放する者。


 正面、巨大な旗の下、中央に座る純白の戦姫、ファレナ・ジル・ファレナ。創られたその身体と魂。決してそれに目を反らすことなく、彼女はここまで来た。


 その佇まいは、王の気品すら感じさせる。決意に燃える彼女の瞳は、もはや迷いなく。


 ヴェルーナ女王国城が一角で解放者の旗の下、彼女を中心に8人が円卓を囲む。ファレナを入れて9人。後に伝説となる9人。


「たぶん、ここにこうやって皆で集まるのは最初で最後になると思う。だから、ここで意志を固める必要があるわ。わかってるわね?」


 豪華な赤色のドレスを着たハルネリアが最初に口を開いた。その服装、そして装飾品の数々。ヴェルーナ女王国に帰還した彼女は、正しく女王国が王女だった。


「はいハルネリアさん。あ、いや、シルフィナ様でしたっけ。すみません」


「いいのよどっちでも。どっちも私だから。別に魔法機関やめてないし」


 ハルネリアは微笑みながら、そう言った。彼女の顔は憑き物が落ちたかのように晴れやかで、ただただやわらかかった。


「それじゃファレナさん。あなたが長よ。始めて」


「はい」


 立ち上がるファレナに、その場にいる全員の視線が集まった。その視線を受けても、一つも怯むことはなく、彼女は真っ直ぐとした目でこの場にいる全員の顔を一人一人見回す。


 そして真正面。赤色のマントを纏った王のところで、彼女は視線を止めた。


「私たちは、解放者。ファレナ王国に伝わる世界を解放したという"偽物"の伝説を、本物にする者達。だから名乗ります。私たちは『戦皇女ヴァルキュリエの使徒』。世界を解放する者」


 純白の翼は、解放者の証。嘗ていたとされていた。世界中の暴力を壊して回ったファレナ女王が掲げた旗。


「人々は苦しんいます。ファレナ王国に下った国々は、その悉くを食い荒らされています。人々を犠牲にしながら、辛うじて国を維持している世界。そんな世界を、壊します」


 ファレナは自分の意思で、剣を抜いた。純白の柄の、剣を抜いた。


「私たちは世界に宣戦布告します。そして悉くを侵略します。ファレナ王国に堕ちた国全て、侵略して、そして渡します。人々の手の中に」


 ファレナは剣の刃に手を添える。そして強くそれを握ると、彼女の純白の肌から赤い血が流れた。


 血は手のひらを伝い、円卓に滴る。円卓に落ちた血は、刻まれた溝に沿って中央に伸びていく。


「私たちは侵略者。私たちは反逆者。私たちは破壊者。私たちは解放者」


 ファレナは刃から手を放した。不思議なことに、離した瞬間に彼女の掌の出血は止まっていた。


「人にとって、これが最後の戦いになるとは思いません。これが終わっても、次、また次と戦いは起こるでしょう。ですがあえて言います。これで最後にします。全てを救うための、最後の戦いにします」


 嘗て、闇の中に手を泳がせていたファレナの姿はすでにない。ここにいるのは、人を救うために戦う戦皇女。


「さぁ、新しい世界を創りましょう。きっと創れます。皆がいるんですもの」


 微笑み。優しく慈悲深い微笑み。彼女の朗らかさに、どこか皆の心が沸き立つ。


 立ち上がる。ファレナのその言葉を受けて、他の全員が立ち上がる。そして皆思い思いに剣を、短剣を抜く。


「もう何も迷うことはない。私は、人のためにやっと戦える」


 手を伸ばすハルネリア。短剣で指先を切り、血を円卓に落とす。血は、溝に沿って中央へ流れていく。


「生まれて気がついたら魔法師だった私ですからね。人を助けるのは生きる意味ってものですよ。それに師匠だけじゃ不安だし」


 長い銀髪を揺らしながら、マディーネ・ローヘンが手を切り血を落とした。それもまた、中央へ。


「私はどこまでもいつまでもファレナ様の傍に。騎士としてではなく、従者としてではなく、一人の友人として、私はファレナ様を守ります」


 自作の退魔の鎧に身を包み、リーザ・バートナーが剣で指を切り血を落とした。血は、円卓の中央へ。


「僕がいていいのか、未だに迷います。ですが、それでも誇らしい。国を、いえ、人々を救いましょう」


 自国に反逆した王子ランフィード・セイ・ロンゴアド。王家の剣を抜き、親指をそれに押し付け血を流す。血のついた指を円卓に押し付けて、血を円卓の中央へと進ませる。


「このボルクス。隻腕の身ですが王子殿下をお守りしますよ。国に残した妻と子を救うついでにまとめて全部救ってやりますぜ」


 銀色の左腕で剣を器用に抜き、ボルクスは右手の甲を切りつけた。派手に血が飛び、それは円卓に落ち、そして中央へ流れる。


「王妃としての鍛錬も悪くはないが、やはり私は戦いだな。ここまで来たんだ。最後まで付き合ってやるさ」


 新調した黒い装束に身を包み、セレニアが短剣の刃を握りしめた。刃を沿って血が落ちる。中央に血は流れていく。


「セレニアさんは別に王妃になったわけではないのですよ。勘違いしないでくださいね。まぁ、作り物の身に、魂の欠片を押し込んだこの身体ですが、こうして意志がある間は私の力は若様にお預けします」


 イザリアが眼にも止まらない速さで手を切り裂いた。彼女の身体は作り物、故に流れる血も作り物。赤い作り物の血が、円卓に落ちて流れる。


 そして赤色の王。深紅のマントを背に、誰よりも大きく、誰よりも力強くそこに立つ男。


「同じ命を投げ出すならば、捧げるならば、俺は人を救うために、ファレナを導くために捧げよう。もう心配はいらない。お前の敵は全て俺が倒してやる。俺が、俺達がお前の剣であり、盾だ。存分に振え」


 ジュナシア・アルスガンド。そして次期ヴェルーナ女王国国王、ジュナシア・ヴェルーナ・アポクリファ。


 彼は左手を出す。刻印が赤く輝く。光は強く、強く。


 そして一瞬のうちに彼は姿を変えた。深紅のマントを飲み込み、四枚の赤い翼をもつ漆黒のエリュシオンに。


 一瞬でその場が魔力の奔流で包まれる。爆風となって、円卓を包む。


 彼は、手を握りしめた。強く強く。手が潰れるほど強く。


 メキメキと音を立てて、漆黒の手は自らの握力に潰され血を流す。深紅の血を流す。その血は円卓へ、円卓の中央へ。


 集う。彼らは集う。彼ら9人はここに集う。


 彼らの血は、円卓の中央に集まり、そして昇る。円卓の中央に立てられた旗を昇る。


 旗は染まる。深紅の血に染まる。そして現れる、純白の翼の紋章。赤い旗に、純白の翼が舞う。


 旗は漆黒のエリュシオンと化した際に発した魔力風に乗ってはためく、強く、強く。


 姿を人に戻したジュナシアは見ていた。その強くはためく旗を見ていた。それはまるで、大空を舞う翼のように。強く、壮大に、はためいていた。


「私たち全員が倒れ、死した時、この旗は燃えてなくなります。これは意志の象徴。私たちはこの旗がある限り、終わりません。終われません」


 ファレナが告げる。旗の意味を。


「さぁ行きましょう。出陣の準備をしていきましょう。最初は、ロンゴアド国を侵略します。初陣です。思い切りの良さが大事らしいです。出陣は明朝。今日の日が落ちる前に、準備は終わらせておいてください」


 皆一斉に刃物を仕舞う。金属の音が重なり、大きな音となって円卓の間を包んだ。


 そして一斉に彼らはその部屋を後にする。ぞろぞろと連なって。


 彼らは解放者。これより彼らは、世界を解放する。


 世界を征服した者に対して反逆する。


 最後の戦争が、始まろうとしていた。

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