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07話 仮面男の嘲笑

 「ハァ……ハァ……」


 荒い息づかいをしながらも、獣の凝視でメフィストを睨む暁斗。それを受けながら、涼しい足取りで暁斗にせまるメフィスト。ふたりの激突まであと少し――


 ピタリ

 二人のメフィストは暁斗から数メートルほど手前で止まった。

 されど暁斗はまだ仕掛けない。仕掛ける隙を見出せないのか。


 「つらそうですね。今にも倒れそうだ」

 「ですね。しゃがんで楽になっては?」


 二人のメフィストはまるで暁斗の様態を気遣うかのようにやさしい声。

 でも優しいのは言葉だけ。仮面の裏も仮面と同じ表情で嘲笑しているのだろう。


 「ああ、アンタを殺してからな」


 「フフッ、欲張りさんですね。出来るといいですね」

 「では、そろそろ幕引きといきましょう」


 ユラリ、ふたたび動きはじめる二人のメフィスト。

 それを凝視する暁斗の緊張は最大。

 二枚の滞空しているソーサーは、限界まで引き絞られた弓のように攻撃命令を待つ。

 メフィストの足が浮き地面を踏む刹那の瞬間に――



 ピピピピピ


 ふいにメフィストの懐から電話のコールが鳴った。


 「おや」


 メフィストがコールに気をとられた瞬間。

 二枚のソーサーは猛然とメフィストに襲い掛かった。


 ブウオオオオオッ


 ふたりのメフィストのいる地点を縦横無尽に引き裂いてゆく。

 やがてソーサーの動きが止まったその跡には――



 「お待たせいたしましたドクター。やっと静かになりましたので、ご用件を」


 「バ、バカな!?」


 暁斗の後ろに、携帯電話で平然と会話をしているメフィストがそこにいた。

 しかも、いつの間にか一人に戻っている。

 ボクから見ても、いつ一人に戻ったのか、いつ後ろにまわったのか、まるで見えなかった!


 「なんですって? ……なるほど、ドクターの探求心にも困ったものですね。では、お嬢さんは? ……わかりました。そのように」


メフィストは携帯をしまうと、大仰に手を広げた。


 「残念ながら皆さんに吉報です。私はこのまま帰還することとあいなりました。巫女もお嬢さんもそちらに預かっていただいてね。少年、あなたの執念勝ちです」


 「…………また嘘だな。テメェの嘘に何度も引っかかるか!」


 ズブッ


 ああっ! メフィストが暁斗の胸の傷に指を差し入れた!!

 そしてそのままグリグリ中をかき回す。痛そう!


 「ぐあああああっ!!」


 「愚者が知恵者のフリをするのは見苦しい。こんな状態のあなたに、どうして策など必要があると?」


 やがて「ズボッ」と指を抜き取る。

 暁斗はその場にドサッとへたり込んだ。


 「あと少しで死にそうですね。まぁ、あなたの事はとくに何も言われていないので、それでも良いのですが………巫女とお嬢様のことを頼まねばなりません。いま少し生かしておいてあげましょう。


 「ぐっ………策じゃないなら、どういうことだ。なぜここで撤退などする?」


 「ドクターが新しい実験を考えたようです。巫女が敵にまわった今、出来る実験だそうです」


 「実験だと? また大勢の人間を巻き込むような残忍で非人道的な実験か!」


 「ええ、それです。巫女の星宮獣であるバッシュノードは、こちらにあるうちは危険すぎてヘタに使えません。ですが敵にまわったのなら、その力を存分に見せてもらいましょう。都市をまるごと巻き込んでね」


 「この野郎………!」


 「では、さようなら。せいぜい生き延びられたことを喜びなさい」


 「クルリ」メフィストは背を向け、気取った足取りで離れたゆく。

 その後ろ姿は圧倒的強者。悔しくても見送ることしか出来ない。


 ――「ゾディ、どうなったの? なんで、アイツは私たちを見逃すの?」


 と、向こう側で気を失っていたはずのレイラさんが、いつの間にか近くに居て聞いてきた。どうやら目を覚ましたようだ。


 「ドクター・ベウムが新しい実験のためにボクたちを見逃すみたいです。この後にどこかが酷い事になるかもだけど、とりあえずは、みんな助かりました」


 「そう、またアイツが……」


 レイラさんは少しだけ切ない顔をした。

 父の新たな実験というのが、どのような犯罪か。それを思えば、こんな顔にもなるか。

 そして、へたり込んで痛みに苦しむ暁斗を見て眉をよせる。


 「暁斗も手ひどくやられたみたいね。見たところ、かなりの重傷だけど」


 「でも、生きています。ケガを治しながら対策を考えましょう」


 「ええ……」


 レイラさんは不思議そうな目でボクを見ている。ま、ゾディファナーザは味方みたいなセリフを言うのはおかしいキャラなんだけどね。

 でも推しキャラ側の方を応援したいし、状況的にも良心的にも、サクラモリ側に味方するのが当然だよね。組織を裏切ったもっともらしい言い訳とか考えとこう。

 とにかく、まだメフィストの悠々去っていく後ろ姿が見えている。アイツが視界から消えるまでは、大人しく待つのみだ。


 「くそっ、糞オオッ!! ここで殺さなかったことを後悔させてやる! いつかぜったい!」


 負け犬の遠吠え。暁斗の絶叫が虚しく響き渡る………


 ――クルリ


 え? メフィストが向きをかえた? 


 「そうですか。後悔したくないので、こーんなことしたりします」


 メフィストはふたたび双児宮(ジェミニ)の星宮石を取り出した。

 まさか!? あんな負け犬の遠吠えなんかに挑発されちゃったの?

 どこまでアオリ耐性のないヤツなんだ!!


 「そぉら、後悔させてみなさい」


 掲げた石からもう一人のメフィストがあらわれる。

 また双児宮(ジェミニ)の星宮獣セバイラヴィッシュだ!


 「ぐううっ!」


 暁斗はいまだ出したままのソーサーを動かし、盾のように展開する。

 セバイラヴィッシュは、それ目がけて猛烈なラッシュをはじめる。


 「ホラホラホラホラホラホラホラァ!!」


 ソーサーでしっかりガードするも、その高速ラッシュを受け止めるのは苦しそう。


 「う……ぐぐっ……ぐおおお……」


 ピシリッ


 「ああ! ソーサーが!!」


 ガードするソーサーにヒビが入りはじめた。やがてそれは大きな亀裂となっていき、ボロボロに崩れる寸前となる。

 マズイ! 星宮獣の体が破壊されると、そのマスターは命を失う。

 ソーサーの破壊は暁斗の死と同義だ!!


 「暁斗ぉぉぉ!!」


 レイラさんは彼の名を叫びながら暁斗のもとへ駆けだす。

 くっ、ボクも行くしかないか。


 「………と、ここまでにしますか。処女宮(ヴァルゴ)の力で癒してさしあげなさい。では、ごきげんよう」


 処女宮(ヴァルゴ)は使えないんだよ。アイツはそのことを知っているのか違うのか。

 ともかくボクはまた星宮石に干渉して、天秤宮(リーブラ)の石にソーサーを戻す。星宮獣は星宮石の中で再生や修復を行う。完全破壊の前に帰せば、暁斗は助かるはずだ。


 「壊れる前に帰せました! レイラさん、暁斗さんは?」


 「目を……覚まさないわ。呼んでも応えてくれないの」


 え?


 暁斗は、先ほどの牡羊座(アリエス)のマスターのモヒカンと同じような顔で眠っていた。

 まるで力尽きたかのような、終わった物語かのような顔をしている。


 まさか………主人公の死? こんな序盤で?

 これからどうなっちゃうんだ!?



 

 

 

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― 新着の感想 ―
>ここで殺さなかったことを後悔させてやる!  こういう台詞の場合、大抵みのがして貰えるのですが……。斬新なハターンですね。 >主人公の死? こんな序盤で?  まさに「これからどうなっちゃうんだ!?」…
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