33話 巨大蟹と対決
突然にあらわれた星宮獣の設定を知る金髪白人の少年!
いったい何者なのか?
「どうして、それを知っているんです。いったいあなたは……」
「待ったアメリア。彼のことについては保留だ。たった今連絡が来た」
「連絡? もしかして暁斗から?」
「彼のいるチームからだ。敵勢力を排除し原発システムの奪還に成功したそうだ。ただちにこちらの作戦を実行せよのサインが出た」
しかたないか。まず本来の仕事を片づけなきゃ尋問も出来やしない。
全長三十メートル級の巨大蟹は変わらず第一原子炉に張り付いている。
一方レイラさんは未練があるように彼を睨む。
「あなた。いろいろ聞きたいことがあるから待ってなさい。名前は何ていうの?」
「今は聞かない方がいい、レイラ」
「あなたねぇ。馴れ馴れしいんじゃない? 初対面なのよ」
「………そうだな」
彼にはミゲルさんがしっかり付いているし、後まわしだ。
ボクたちは第一原子炉を目がけて、施設の機器に隠れながら進む。
「レイラさん、集中できてませんね。これから蟹退治なのに」
「そうね。良くない精神状態だわ」
「どうしたんです。作戦中だっていうのにレイラさんらしくない」
「あの子、妙に気になるのよ。言っている事もだけど、どこかで知っているような人間な気がして、どうしても気にせずにいられない」
「ま、すべてはこの後です。彼に聞けば、ボクがなぜゾディファナーザになったのかも分かるかもしれません」
「そうね。数志くん……だったわね」
ボクは獅子宮の星宮石を取り出して詠唱を始める。
「星宮より来たれ、猛威の権能。百獣震わす暴虐の獣王。金のたてがみ靡かせ咆哮轟かし、呼べよ嵐。震わせ大地。天地鳴動、驚天動地。獅子のほむらを掲げよ。バッシュノード!」
「グオオオオオオンッ」
顕現させたバッシュノードの体長は十メートルほど。この大きさなら制御の負担も少なく、バッシュノードの完全コントロールも容易だ。
しかしパワー不足を補うためには一工夫必要だ。
「あっ、アメリア! なにを?」
レイラさんの驚く声を背に、ボクはバッシュノードの背中にヒラリと飛び乗った。
「今回はバッシュノードに乗って戦います。これだけ近ければよりバッシュノードのコントロールが出来るし、精密な動きも可能です」
「無茶よ! 体がバラバラになるわ!」
「バッシュノードの能力を借りて身体強化が出来るようになりました。遠慮せずにバフをかけてください!」
すでに気づかれた。
ディスマグヌスは第一原子炉から降りてこちらに向かい、鋏の巨腕を突き出し襲ってくる。
今回の難しいところは、バッシュノードのみならず周りの設備にさえ被害を出してはいけない事。
原子炉の稼働はすでに止まっていても、熱の上昇を抑えるシステムは止まっていないし、止めちゃいけない。
もしそれが止まれば、たちまちメルトダウン待ったなしだ。
だからこのスルドイ鋏は絶対設備に当てるわけにはいかないのだ。
「ええいっ!」
バッシュノードを鋏の巨腕の関節に突入させる。
ディスマグヌスは腕をあらぬ方向にねじられ、振り下ろしを止められる。
バッシュの背に乗っているからこそ可能の精密動作。狙った場所に寸分たがわず攻撃させることが出来るのだ。
まずは、この厄介な鋏を潰す。
この鋏の両腕は、怪力のうえに先端が鋭く、さらに飛ぶ飛行機さえ正確にとらえ両断する精密動作が可能なディスマグヌス最大の武器だ。
「うおおおおっ! バッシュ、筋肉をむさぼり食ってしまえ!」
ブチブチブチッ
バッシュノードは頭を突き入れた関節の間から筋肉を齧り、引き裂いてゆく。
これで、この腕は殺した。
「あと、もう一つ!」
タンッ
「しまった! 読まれた?」
左の腕に飛びつこうと、バッシュにジャンプをさせた時だ。
その左腕の鋏が先端を向けて、ボクとバッシュに突いてきた!
回避を! いや、避けたら設備が!
しかし、このままでは死ぬ! どうしたら……
ラァーララララァーー♪
と、清涼なる女性の歌声が響いてきた。
見るとレイラさんは処女宮のベーネダリアを召喚しており、その星宮獣の彼女が歌っているのだ。
ベーネダリアの聖なる調べ! 良い時に!
歌声の強力なバフがかかり、バッシュノードに力が満ち溢れる。
「このまま行けぇ! 狙うは鋏の結節点!」
鋏の先端をギリギリかわし、そのまま鋏の結節点に突撃をかます。
バキャアッ
その一撃で、左腕の鋏はコナゴナに砕かれた。
これで最大の武器、両腕の鋏は両方とも潰した。
脅威度が大きく下がった今こそ、勝負時!
「バッシュノード、巨大化だ。三十メートル級!」
ゴゴゴゴゴゴゴッ
ディスマグヌスと同じ大きさにすると、その甲羅に噛みつき一気に解体をはじめる!
「グオオオオオンッ」
バキュッ ベリベリッ ベキィッ ブチィッ
「いけえええッ! 蟹のむき身踊り食いだァァァッ!!」
なんだか、お腹がすいてきた。
ちょうど東北三陸海岸で漁が盛んな場所だし、帰りにカニ鍋でも食べていくか。
――「ぐああああああッ!!」
とか、カニ妄想にいそしんでいると、解体中のディスマグヌスから男の悲鳴があがった。
見ると、甲羅の隙間に怪物のマスクを被った男が隠れていた。
「そういやマスターのヘルマスクは、怪物のマスクを被っているんだっけ。ディスマグヌスの中に隠れていたのか」
普通なら星宮獣に乗るなんて危なくてやらない。いや、今まさにボクはやっているけど、それはバッシュノードの制御を完全にするためやむを得ずだし。
だけどディスマグヌスだけは堅い甲羅に覆われているため、その中に入ればかなりの安全が確保できる。だけど……
「でもそんな場所に隠れているんじゃ、視界はずいぶん悪かったんじゃない? 現にボクたちの接近にまったく気がつかなかったみたいだし」
「クッ!」
「で、どうする? おとなしく捕まるなら完全破壊はやめてあげる。もっとも君のこれまでの所業じゃ、死刑か一生監獄はまぬがれないけど」
「ク……ククク。その情け、人を殺せない甘さと視た。星宮獣は殺せても、人を殺すのはそんなに嫌か。結果的には同じだというのに」
たしかに星宮獣を倒せば、そのマスターも死ぬ。直接の人殺しが嫌で、こんな提案をしているのも自覚している。でも……
「たしかに人殺しは嫌だけどね。危ないテロリストを野放しにしたら、大勢の人たちが死ぬ。それを防ぐために手を汚す覚悟はあるよ」
「いいや、貴様には無理だ。こんな問答で、隙を許している時点でなぁ!」
カァッ
いきなりディスマグヌスの頭に相当する部分が眩く輝く。
「カニ光線!? ここにきて!」
カニ光線は飛ぶ飛行機を落とすくらいの射程と正確性はある。けれど威力はさほどでもない。
ガードを固めていれば問題なく耐えられる。
ボクが乗っている頭にバッシュノードの前足を交差させて、それを迎えた。
だけれども……
「あれ?」
カニ光線はバッシュノードを大きく逸れてあさっての方向に放たれた。
「なんだノーコンか。せめてバッシュノードにかすり傷くらい付けて終わりなよ。冥土のみやげにさ」
「ククク、かすり傷? まだ気づかないのか。我は今、貴様とバッシュノードを殺したのだ」
「え?」
「光線の撃ち抜いたものを見るがいい。死神がじつに楽しく踊っているぞ」
そう言われて、思わず後ろを振り返る。
その先にあったものは……
「ああああああっ! げ、原子炉がぁ!!」
それは悪夢のような光景だった。
第一原子炉の外壁は、熱で大きく融解して変形している!
しかもそこから、アヤしい白い煙がもうもうと噴き上がっている!
メルトダウンだ!!!
おそらく放射能は被爆死レベルにまで漏れ出している。
ボクもレイラさんも暁斗も桜庭さんもミゲルさんも助からない!
「フハハハハ! ウワァーハッハハハハァ! さぁ一緒に楽しく死ぬとしよう。核の光に包まれてな!」
溶けてむき出しになった原子炉の奥からは、妖しい光が輝いていた。
どう考えてもバッドエンドな危機!
このまま全滅エンドで、次回は雑に最終回にするしかないのか?




