15-12.終わりは近い
夏にやってた28時間テレビの地元限定パートの放送だ。全国でやっている内容じゃないから情報は見つかりにくかったけど、悠馬の名前で検索したら番組自体は出てきたし、SNS上にいくつかキャプチャ画像が出てきた。動画は、公式が上げた予告編的な短いものしか見つからなかったけれど。
とにかく、限定的な情報と自分が見聞きしたことから、推論はできた。
覆面男が普段から着ている制服と、ドキュメンタリー中に双里悠馬が着ていた制服から同一人物と見て間違いないと思う。中の体型も似ているし。
つまり、魔法少女セイバーは彼の姉だ。ドキュメンタリーの中にその存在は出てこなかったけど、ティアラが初めてセイバーが変身した時のことはよく覚えている。
さらに、昨日悠馬が倒れる直前、彼はライナーに遥と呼びかけていた。ドキュメンタリーの車椅子少女と名前が一致している。
つまり、ライナーの正体は神箸遥だ。
「すごい! すごいわ! 魔法少女の正体をふたりも暴くなんて! ティアラは天才ね!」
起き上がったキエラはぴょんぴょん跳ねながら喜びを表す。機嫌が直って良かった。
「でも、あとふたりの魔法少女の正体はわからなかった。……コスプレしてる奴も」
「あの赤いコスプレ魔法少女? ラフィオの作った魔法少女じゃないわ、ただ勝手に参加してる奴のことなんか、どうでもいいわ」
「そう……」
でも、一番肝心な魔法少女のことも、やっぱりわからない。
青い魔法少女は何者なんだろう。
「ふん。あいつね。そんなのすぐにわかるわ。この悠馬って男、自分の姉と彼女を魔法少女にしたんでしょ? ラフィオにくっつくムカつく青い奴もきっと、悠馬の知り合いよ」
「そうなるの、かな?」
「ええ。絶対にそう。どうでもいいけど、緑の奴もね。だから、覆面男とわかってる魔法少女の正体を世間に公表してやるの。そしたら人間たちは大騒ぎ。あとは人間が、残る魔法少女の正体も明かしてくれるわ」
「それは……うまくいくかな?」
「きっとそうなるわ。少なくとも人間は混乱する。そこに、世界を終わらせるフィアイーターを投入するのよ」
小屋の窓から、外に浮かんでいるメインコアを見つめる。
「タイミングが重要ね。タイミングが……ふふっ」
これは、勝利を確信した時に出る笑み。
今度こそ勝てるかな。勝てればいいんだけどな。
キエラはそこを疑うことなく、新しいコアの製作にとりかかった。これが最後のコアになるだろうから。
――――
テレビ局の車に送られてマンションに帰ったラフィオたちは、夕飯の用意をする。
愛奈は相変わらず部屋で寝ていて、かなり疲れてそうだからそっとしてあげてほしいと麻美に言われた。ラフィオたちよりひと足早くに帰ってきたセイバーは、そのままフラフラと部屋に戻って、変身解除してスカート履いてない姿に戻ったかと思えばベッドに倒れ込んだらしい。
スカート履いてない情報はいらないんだけど。とにかく愛奈は心労もあって疲れ切っているらしい。明日も休むことになるだろうな。
そんな麻美も帰ってしまって、双里家では家主がいないままの食卓で夕飯を食べることになった。
珍しいことだった。
「愛奈さん、普段からあんなに仕事したくないって言ってるのに、一番疲れる原因は悠馬の記憶喪失なんだよね。やっぱりお姉さんなんだなって思いました」
「そりゃそうだよな。ひとりだけの家族……というか、肉親なんだから」
家族だと、自分たちも該当しそうだ。だからアユムは訂正して、すぐに話題を変えた。
「それにしても、あの調子じゃ記憶が戻るまで時間がかかるか?」
「んー。みたいだねー。わたしたちの顔を見たら思い出すかもって、ちょっと期待してたけど」
「そうだなー。それはある。……告白までし直したのに」
「本当だねー」
遥が、ちょっと気まずそうな顔を見せた。
あんな勢いのままに告白したことに対してか。それとも。
「向こうの世界に行ける宝石もできそうなのに、今のままだとちょ行けないね。悠馬さんがいないと、愛奈さんも全力出せないだろうし」
つむぎが、溶き卵をご飯にかけながら喋った。おかずはちゃんとあるのに、それはそうとご飯は卵かけご飯にする姿勢は嫌いではないけど。
それより。
「え、あの宝石、完成するの?」
「マジか。聞いてねえぞ」
遥とアユムは驚いた顔を見せた。
「確かに。この件、つむぎとしか話してないもんね」
「いつもわたしたちだけ、石拾いしてるもんねー」
ふたり、肩を寄せ合うようにしてくっつき頷き合う。
「あー。見せつけてくる」
「仲がいいのはいいことだけどな。おい、詳しく教えろ」
「その通りの意味だよ。明後日くらいには石が完成する。今日、最後の石拾いをするつもりだったけど予定が狂った。でも完成までの日程に変化はないだろう」
「そっかー。それはそれは……悠馬が元に戻って、愛奈さんも心配がなくなって元気になってくれないとね。向こうに攻め込むにも戦力が足りない」
「だなー。さすがに本拠地に攻め込まれれば、向こうも本気で迎え撃つだろうからな」
「こっちも全力だね。……というわけで、アユムちゃん明日もお見舞いよろしくね」
「お、おう。……遥には付き添わないでいいのか?」
「わたしはほら。ひとりでなんとかできるから。たぶんお母さんも付き添ってくれるし」
別の病院まで義足の調整。遥にとっては悠馬の見舞いに負けないくらい大事なこと。放っておくことはできない。
ラフィオたちが石拾いに行くなら、明日の見舞いはアユムひとりで行くことになる。愛奈がどうするかは、正直わからないけど。
「そうか。そうなるよな……任せてくれ」
早く、記憶を取り戻させたい。明日にも。
アユムには少し期待があるようだけど、それは戦いの終わりに関係することだけとは限らない。
まあ、いいさ。本人たちが幸せで、納得の行く結論を出してくれるなら。
卵かけご飯を食べながら、こちらにニコニコと笑顔を向けてくるつむぎを見返して、ラフィオも笑みを浮かべた。




