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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第4章 偽物

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4-30.海への憧れ

 もしかして。


「そう。海の研究がしたいって。そのきっかけが、小さい時に来た、この水族館。特にこの潜水服さんがインパクトに残ったんだって」

「そうだったのか。いつの話だ?」


 兄貴にそんな過去があったなんて知らなかった。


「悠馬はまだ小さかったから覚えてないでしょうね。春馬が小学……一年か二年の頃だから」


 俺が物心つく前のことなのかもな。


「小学生くらいは、みんなこれを怖いって言って見ないようにするものだけど、春馬は違った。格好いいって思ったんだって」

「そうなのか」

「うん。何百年も前に、こうやって知らない世界に行くための方法を考える人がいたこと、すごいって思ったそうよ」

「確かに格好いいよな。俺もこれに怯えないで済むようになってから、ようやく良さに気づいた」

「だよね。わたしも」


 愛奈は小さな声で笑った。


「春馬はすごいよね。本当に。……なんで東京の大学なんかに行きたかったのかな。海の研究なら、地元でもできるのに」


 なのに東京に行く最中に、兄貴と両親は事故で死んだ。


「ううん。悔やんでも仕方ないことだよね。とにかく、この潜水服さんには春馬の想いが込められている。お墓参りではないけど、こうやって訪ねるのもいいかなって思ったの」

「そっか。いいな」


 これが、愛奈が水族館に来たがった理由か。


「みんな怖がって逃げるだけなんだけどね。これで学者の道に進もうって思える人がいたら、潜水服さんも浮かばれるでしょうね。もちろん、春馬も」

「自分と同じ道に進む人間が出てきたってことだもんな」

「ええ。もちろん潜水服さんじゃなくて、ここの魚とかペンギンとかを見て、学者を志してもいいけどね。わたしはペンギンかわいいとか魚は楽しそうとか思うだけだけど」

「実は俺も同じこと考えてた。自分には適正がないけど、学者になろうって子供が出てきたらいいなって」

「姉弟だねー」


 考え方が似てくるものなのだろうか。この愛奈と。

 でも、ちょっと嬉しかった。


「さ、行きましょうか。潜水服さんを見たいって子供のために、わたしたちが前を占領してたら悪いし」

「そうだな」


 自然と手を繋いだまま、展示コーナーの先へ移動していく。


 直後、背後が騒がしくなったのに気づいた。さっきまで俺たちがいた方向だ。

 振り返ると、青い魔法少女のコスプレをした女の子がいた。


 キエラだ。彼女の後ろで、移動に使うらしい穴が作られているのが見えた。

 突然コスプレ女が現れればざわつくものだろう。周りの来場者たちが、本物なのかとか、何が起こってるのかとか口々に同行者と話している。


「あはっ。パインの言うとおり。面白いもの見つけたわ」


 キエラはといえば、さっきの潜水服を見て笑顔になった。そして手をかざす。


「おい! やめろ!」


 それは兄貴の。


 俺の制止を聞くキエラじゃない。聞こえてすらない可能性が高い。


「フィアアアアァァァァァ!!」


 直後、潜水服が咆哮を上げる。しかも二体ともだ。


 つまり、フィアイーターが二体作られたということか? 何が理由かは知らないけど、キエラは相当な目的を持っているのだと思われる。


「さあ。行って。あの男を殺して」


 未だに開いている穴をフィアイーターがくぐる。向こうには緑地が広がっていた。俺たちも追いかけようとしたけれど、キエラが穴を通った途端、それは消えてしまった。


「姉ちゃん、行くぞ」

「ええ。あの潜水服さんに悪いことはさせないから!」


 いつになく本気だな。


 あちこちのスマホから怪物出現の警報が鳴るのを聞きながら、俺たちは出口まで走った。



――――



「ライオンさん強そう。モフりたい……」

「やめておけ。ライオンがかわいそうだ。怯えてるぞ」


 檻の向こうの百獣の王は、つむぎから発せられる殺気に見るからに怖気づいていた。


 今は少年の姿になっているラフィオは、心から同情しながらも自分がつむぎの餌食になることを警戒して常に注意を払っていた。

 これはデートだからと、つむぎとは手を繋いでいる。つまりお互いに片手が塞がった状態。奴が片手で襲いかかってこないか、気が抜けなかった。


「うー。動物園ってモフモフいっぱいだけど、モフることはできないんだね」

「当然だ。普通の人間は猛獣に触ろうとは思わない。逆にやられるからな」

「わたしなら勝てるのに」

「勝とうとするな」

「この檻、登れそうだよね。上も開いてるし、中に入れそう」

「おいこら! やめろ!」


 つむぎがラフィオの手を振り払い、檻を掴んで登ろうとした。それを必死で引き剥がす。

 こいつなら本気でやりかねないし、たぶん実際にできてしまう。


「えー!? なんで止めるの!? ライオンモフモフしたい!」

「駄目だ! ええっと」


 なんで止めるのかといえば。


「つ、つむぎと、もっと手を繋いでいたいな」


 檻にしがみつくようにして登ろうとするつむぎに、ラフィオは後ろから抱きついた。

 彼女の両手の甲に手のひらを重ね、指を絡みつかせる。


 ああ。こういうの、恋愛ドラマでみたことある。さすがに、ヒロインがライオンをモフモフしに行くシーンではなかったけど。


「ふあっ!? そ、そっかー。ラフィオがそんなに、手を繋ぎたいなら仕方ないかー」


 こちらを振り返ったつむぎは、少し顔を赤くしていた。


「うんうん。これがラフィオ流のデート術なんだねー! 悠馬にも教えてあげないと」

「おい。待て」


 車椅子の上の遥がこちらを見ながら笑顔で頷いている。なにに対しての笑顔だ。お前は悠馬とのデートで同じことするつもりなのか。ライオンの檻を登るのか。


「えへへっ! ラフィオー」

「おいこら。くっつくな。ベタベタするな」

「ラフィオすきー」

「だから!」


 手を繋いだのはつむぎの凶行を止めるため。ライオンを救うためだ。決して、この悪魔とくっつくためじゃない。

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