第9話 春の新・追放者生活
さて…国外追放というモノを経験したわけなのだが、前世の記憶にある【追放もの】なる物語では、強いのに認められなかったり、誰かの陰謀で追放される話ならば
『追放した相手を見返す!』
とかいう盛り上がりがあるだろうが、僕の場合は残念ながら直接的ではないだけで、正規ルートの真っ当な追放な為に、見返す相手も居なければ、隠された実力などもなく、ちゃんと放り出されただけのガキである為に、
【死ぬ前に町に到着し、冒険者など元手が無くても何とか始められる仕事でお金を手に入れる】
という第一段階すら高難易度なのである。
無課金で貰えた追放者セットの皮袋の中のパン1個ではチビチビ食べても3日が限度…途中で食べられる物を手に入れないと町まで毎日移動する事を考えると使用カロリー的にも危険であり、水筒なども無い為に水場が有れば暫くそこで野宿をして食べ物を集めるという手もあるが、
『いや、ナイフで集められる食料って植物ぐらいだな…』
と、進むも地獄、止まるも地獄という辛い状況なのである。
乗り物も無く、数時間歩いてもまだ遠くに収容されていた町の壁が見える小高い丘の上にて、
「さて、どうしようかな…」
と、あと数時間で暗くなりそうな空と、ペコペコのお腹と相談をしてみたのであるが、
『夜…移動するのは…無い話だな…』
という結論にいたり、
「先ずは水の確保だ!」
と丘の上から見える小川の方を目指して南東方面に伸びる、ここ数年は両国の戦争の最前線だった為に街道としては踏み荒らされた様な荒れ地にうっすら残る荷馬車の轍を頼りに歩き始め、
『パンは出来るだけ残したいから、学校の図書館で覚えた知識もフル活用して食べられそうな物を探すか…』
などと考えたのだが、直ぐに、
「待てよ、野草を集めても鍋も無いから塩味のスープなんて無理だし、そもそも火なんて起こしたことすら…いや、ナイフが有るから先を尖らせた木を溝を切った木にコスコスすれば摩擦熱で起こせるかも知れないが…」
とブツブツ言っているうちに川に到着はしたのだが、既に、
「う~ん、川に来てはみたが…」
と出来ない事だらけな現状に途方にくれてしまっていたのである。
そして、火も起こせず月明かりの下で魔物に怯えて夜が明けるのを待ちながら、何とか追放一日目の夜を越したのであるが…現在、僕は項垂れながら、
「半分近く…食べちゃった…」
と、嘆いているのである。
何故ならば、なけなしの1個のパンをナイフでチビチビ切って口に含んで味わっていたのだが、やることもなく、眠るのも怖く、結局は腹ペコも手伝い、
『パン、ウメェぇえぇぇ!』
と、勝手にパン祭りを開始する事になり、ハッと気がついた時にはもう…というオチである。
夜中に、
『これ以上は駄目だ!』
と、日が暮れる前に一応集めておいた焚き火用の枝が、火がつけれずに放置されていたので、パンの誘惑を忘れる為にもう一度ナイフで溝を切り手頃な枝をコスコスと錐揉みスクリューさせてみたのであるが、川のせせらぎとコスコスという乾いた音が響いたのと、手が痛くなっただけで火はつかなかったのであった。
「ふん、春だから夜も凍えるほど寒くないモン!」
と強がって肩から支給されたひざ掛けサイズの使い馴れた毛皮の毛布を羽織り、何とか夜をやり過ごしたということなのだが、
『フッフッフ…パンは予定以上に食べちゃった僕だが、しかし、失敗したけども、ただでは起きないのだ!!』
という事で眠気覚ましがてらで仕上がったのが僕の新装備である【木のヤリ】である。
『薪にでも使えるかな?』
と集めた枝の中で一番長くて良い感じの物をナイフで加工した自信作であり、これさえ有ればスライムだって核を狙って突き刺すもヨシ、尖っていない方で核ごとブッ叩くもヨシの優れ物(僕調べ)なのである。
『まぁ、長旅の杖になるのが一番の使い道かもしれないが…』
という事で、
「川沿いに文明は栄えるらしいから、この川伝いに進みますか…」
と明るくなり始めた空の下、今日も歩き出したのであった。
ちなみにではあるが、半分程になったパンにリペアの魔法を使ってみたが、ウンともスンともいわず、
「そりゃ…そうだわな…」
と、魔力で素材を生み出すなんて真似は勿論、素材として別のパンが有ったとしても僕にはまだ、それらを一つのパンとして修復する力は無いと思われ、
『学校の図書館で暇潰しの為にしていた本の修復でギフトの熟練度はそこそこ上がっただろうけど、僕本人のレベルがねぇ…』
と、予定では三年生から初級者用のダンジョンに申請したら学校の仲間とチームを組んで潜れたので、そこで上げるはずのレベルは、あの収容施設での奉仕活動中に出会った畑の害となる虫魔物を鍬などでサクッと退治した程度で3から上がっているのかさえ怪しいのである。
今現在、杖代わりに手元にある木のヤリを見ながら川沿いを南下する僕は、
『ヨシ、川沿いならばスライムだって居るはずだし、ホーンラビットは…まだ怖いけど…動きの遅い敵ならば!』
と気合いを入れ直し、町に到着する迄に入学前にも散々倒したスライムや虫魔物を木のヤリにて撃破し、追放者セットで支給されたナイフにて解体し小石程度の粒魔石を集めて、
【レベルアップ&旅の資金の足しにしよう大作戦】
を開始したのであった。
正直な所は、
『肉を食べられそうな魔物を狩りたい!』
というのが本音であるが、手頃な獲物として農家の皆さんが農作業の合間に畑に盗み食い等に入った奴を駆除して、そのお肉を晩の食材に追加するというホーンラビットにボロ負けして搬送された経験のある僕は、あの時の金属の刃のついた鍬よりも攻撃力が劣りそうなお手製の木のヤリではまだお肉にはありつけそうにはなく、
今日と明日ぐらいならパンと…最悪そこら辺の知っている食べられる野草を川の水で丁寧に洗ってから生でモシャモシャと食べれば少しは腹の足しにはなるだろうからと、
『とりあえず、動きの遅い獲物とバトルだ!』
と昨日とは違い移動よりも探索メインで進む事にしたのであった。
川原近くの草むらで手頃な敵を探し、ついでに食べられそうな自然の恵みも探して行く、幸い貧乏だった事により普通の貴族家庭より食べられる自然の恵みには詳しく、メリーさんとこんな春の晴れた日には木苺などを集めに行ったし、イケイケ貴族達から逃げる為に図書館に入り浸った時にも、追加で食べられる野草の知識を知る事ができ、そして、最悪知らない物でも前世の知識から皮膚にチョンと擦り付けてから暫く待って赤くならなければ毒が無いと判断出来るパッチテストのやり方だって知っているので、
『そこら辺の物を適当に食べて毒状態になる事はないな…』
という自信が僕の足取りを軽くさせてくれたのである。
移動してスライムを見つければ木のヤリにて奴の体内にあるゴルフボールサイズで、前世のお婆ちゃんの家で出てくるカラフルな四角い【なんちゃらゼリー】っぽい固さの部分である核を傷つければドロリと絶命し、ナイフにてその核を切り裂くと中から小石サイズの魔石が手に入る。
この世界ではこの魔石は魔道具を使う時の乾電池の様な役割を持ち、こんなサイズでも幾つかあれば屋台で買い食いが出来る程度のお小遣いにはなるのである。
冒険者ギルドには10歳以下は登録は出来ないが、保護者として冒険者登録をした者が居れば買い取りカウンターにて粒魔石は換金して貰えるというのは入学前に経験済みである。
なので、まだ冒険者ギルドの有る町にすらたどり着いてないのにも関わらず、
『この粒魔石で何を食べよう…』
などと考えてしまう。
あと、魔石を回収したスライムの亡骸であるが、プルプルと清涼感のありそうな見た目であるが、少し酸性が強く手についた粘液も川にてジャブジャブとしっかり洗い落とさないと痒くなる可能性があり、スライムの種類によったら毒性のある奴も居るので草むらで毒消し草を採取しておいた方が良いほどであるために、
『黒蜜ときな粉あたりで食べたら美味しそう…』
とは思うが、とても食用に向かないことも既にウチの料理人だったダグおじさんとの会話で、
「坊っちゃんはあんな鼻水みたなモンを食ってみたいので?!」
と、ドン引きさせたので経験済みである。
『なんか…貧乏のおかげで普通の貴族の子供よりサバイバル向きかもな…僕って…』
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