第51話 村一番の鍛冶屋
武器、防具屋のレディーはドワーフ族の鍛冶職人であるゴンザさんの娘のキミーさんなのだそうで、
「父さん、お客さんだよぉ~」
と作業音がカンカンと響く工房に金づちの音に負けないぐらいの声量で呼び掛けると、キミーさんの声量に負けないボリュームで、
「客はお前の担当だろう、キミー!」
と不機嫌そうに現れたのは長い髭を三つ編みに纏めた小柄なムキムキおじさんである。
僕は、顔を動かさずに目だけでゴンザさんとキミーさんを見比べて、
『いや、こっちもお爺ちゃんというよりオッチャンじゃないか! キミーさんとの違いは髭と筋肉量だけだろ…』
と、思っているのを隠しつつ、僕は、
「冒険者ギルドの支店長さんからの紹介で来ました」
と頭を下げると、ゴンザさんはチラリとボクを見た後で、紹介状に目を通しながら、
「とりあえず兄ちゃん…キミーだけは止めとけ…」
とだけ僕に話しかけてくる。
『ん?』
と、僕は勿論、後ろで盾の重さを比べているベルも、その手伝いをしているリーグさんも首を傾げながら止まっていると、ゴンザさんは紹介状から目を離さずに、
「紹介状にあるジョンって言うのが兄ちゃんだろ…見りゃまだ若いだろうにウチの出戻り娘を熱い視線で見つめていたが…」
というと、ゴンザさんに手紙を渡したキミーさんが、
「ちょ、父さん…止めてよ…ねぇ…」
とゴンザさんを止めつつ、頬を染めながら僕に助けを求めるような視線を飛ばしているのだが、ゴンザさんは止まらず、
「コイツは酒好きが過ぎてな…有能な弟子に嫁に出したんだが…まぁ、まずは毎晩の様に葡萄酒をバケツ一杯ほど飲めるようにならなきゃウチの娘は許してくれないだろう」
などと、紹介状を読み終えてこちらに視線を戻した瞬間に、キミーさんは、
「お、お客さんだって言ってるだろ! 馬鹿!!」
とゴンザさんをシバいて奥に行ってしまったのである。
かなりの力でシバかれたゴンザさんは、笑いながら、
「照れて隠れてしもうたわい…」
と満足そうにした後に、
「さて、冗談はこれぐらいにして仕事の話にするかな」
と…
『いや、冗談のセンスが終わってるけど…この人…』
とは思うが、流石はギルドからのオススメの職人さんであり、筋肉の付き方や体のバランスなどで、
「獣人族のお嬢ちゃんは、足が売りなんだろうから重い装備は止めて、盾も良いがこっちのアームガードを使って受け止めるより避けて一撃入れる戦い方にしてみな」
とか、リーグさんの筋肉を触って、
「お前さんはスカウト職かなにかか? 筋肉の張りからして復帰冒険者とかだろうが、一回ついたクセは変えるのは大変だから…兄ちゃんやお嬢ちゃんの為にタンク役でもしようとしてるんなら止めとけ」
などと、的確なアドバイスをくれ、僕には、
「どれどれ…」
と僕の体を触ったゴンザさんが、
「どうした兄ちゃん、脇がびしゃびしゃだぞ!」
と驚いたのだが、
『オッサンかと思ったらオバサンだし、爺さんと言われた方もオッサンだし…髭のオッサンが髭なしオッサンをイジって、髭なしオッサンが頬を染めながら隠れる…これに反応しない様に我慢したら変な汗で脇も湿るさ…』
とは思うが、それを今ぶちまけると、きっとキミーさんはオッサンと思われていた件について傷つく筈であり、
「いつもは中古の店なので…初めての事が続いてまして…」
と言い訳をすると、ゴンザさんは、
「おや、冗談のつもりだったが兄ちゃんもキミーを見て汗ばむなんて、満更で無かったのか?!」
と、楽しげに僕をイジリ出すと、店の奥から、
「ガタン!」
という音が聞こえ、ゴンザさんは、
「シシシッ…兄ちゃんでなくウチのがどうやら意識しちまったらしいな…」
と楽しそうにしているのであるが、
『いや、勘弁してください…』
としか思えない僕であるが、ここでビシっと「No!」と言えないのは前世の記憶から、
『強く拒否したらキミーさんに失礼だな…』
と、変な空気を読んだからと、
『ここで反応すれば、どう転んでも面倒くさい事になる!』
という人生二回目の経験値からであり、やはり無反応な僕を見たゴンザさんは、
「いや、ふざけ過ぎたか…スマン」
と、仕事モードに戻ってくれたのであるが、ゴンザさんの見立てでは僕は、
「後衛職か? どこぞのボンボンみたいにろくに筋力もついてないし、片手剣も飾り程度だろう…」
と、元貧乏貴族の残念追放者経由の駆け出し冒険者である事を見抜かれてしまったのである。
ゴンザさんが、
「鍛冶屋なら今からでも間に合うぞ…どうだウチの弟子になるか? 気に入ったのならキミーもつけるぞ…」
と、ダメ押しでふざけた事を言ってきたので真顔のままで、
「素材としてコレと、コレと、コレを渡しますから安くしてくれますか?」
と鉱石や金属素材や皮素材などを渡すと、ゴンザさんは、
「3人分のフルプレートメイルでも作るつもりか!? 3人とも軽鎧向きなんだからこんなに必要ないぞ!!」
と驚かれたのだが、流石はこの村一番の鍛冶職人であり、ゴンザさんは方眉をピクリと上げて、
「この量のアイアンアントの素材を3人で…」
と聞くと、ベルが、
「違うよ、ボクとリーグおじちゃんの二人でだよ」
とバラしてしまい、その言葉で何か気がついたゴンザさんは、
「そうか…この量を無事に倒せてあの筋力ならば魔道具…いやマジックアイテム使いか…それか、凄い魔法系ギフトって線も…」
と簡単に推測してしまったのである。
するとゴンザさんは、
「こりゃあ、駆け出しのヒョッ子野郎の装備なんて薦められないから、特注で凄いの作ってやるよ! 鉱石が豊富だからここで工房を開いちゃいるが、来る客が今一つだからよぉ!!」
と、何か分からないがヤル気スイッチが入ったらしく、
「いや、マーチンの町で用を済ませたらすぐに戻って来てボス討伐の周回をする予定でして…すぐに使える装備を…」
僕が言うと、ゴンザさんは
「ならロックリザード討伐には、ここら辺の装備を使うと良いから…頼むよ」
と、あくまでもオーダーメイドを作るつもりらしいのである。
リーグさんに相談すると、
「職人がこれ程ヤル気になってくれてますし…」
というし、ベルも、
「お兄ちゃん、いっぱいお金入る予定だからお爺ちゃんに凄いのお願いしようよぉ~」
とおねだりをされてしまったからには僕も、
「そうだね…」
という事となり、ゴンザさんに、
「では、夕方の便でマーチンの冒険者ギルド本店に行って報酬を受け取る予定なのでそのお金でオーダーメイドでお願いできますか?」
と僕が頼むと、ゴンザさんは、
「おぉ~い、キミー! 今から皆さんと一緒にマーチンの町に行くから!」
と凄い声量で叫ぶと、店の奥からキミーさんが、
「作業場でないのにそんなデカい声じゃなくても聞こえるよ!」
負けないぐらいの大声で現れ、彼女は、
「どうしたのさ、急に?」
と不思議そうにゴンザさんに聞くと、
「久しぶりに本気の作品を作りたくてな…鍛冶師ギルドに追加の素材を買いに行く」
とキラキラの笑顔で答える父親を見たキミーさんは、
「おや、兄さん達凄いじゃない。 父さんの本気の作品なんて…あぁ、ここに並ぶ商品も勿論手抜きはしていないんだけど、ドワーフが魂を籠める作品なんて金を積んでも中々なのよ…特に父さんはお酒を飲まないから酒を餌にも出来ないし、はなからお金に興味はないし…」
と感心していたのであった。
という事で、当面の装備として必要以上に納めた素材と交換という形で僕たち3人は魔鉱鉄と皮素材の軽鎧を手に入れたのであるが、
『これでも十分強そうなんだけど…』
と感じる出来映えの作品なのだが、ゴンザさん的には、
「ちゃんと作っただけの面白くも無い鎧…」
という評価らしく、このゴンザさんの本気の作品が今から楽しみな僕たちであった。
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