第5話 神も仏も居ないかも
負けてなるものかと、成績トップを貫くとイケイケ貴族の特に成績のよろしくない生徒に目の敵にされるという息苦しい様な灰色の学生生活だったのであるが、見てくれる人は居るもので、二年生になる頃には、
「無償で図書館の本を修復している生徒が居る」
という話が図書館の司書さんから先生方に伝わり、生徒会の役員でもある辺境伯様の次男であるバートン先輩に声をかけて貰える様になると、一気に学校中の酸素が濃くなった様に生活しやすくなったのである。
僕を馬鹿にしていたイケイケ貴族の子供達は、バートン先輩の目を気にして表立って僕を馬鹿にする事はなくなった…まぁ、裏ではまだチクチクとはしてくるが、
『以前の事を考えると屁みたいなもの』
という感想である。
勿論、バートン先輩の効果は凄いのだが、それよりも長らく続いた戦争がどうやら終戦に向かっているらしく、武闘派の貴族達の勢いが下火になって来たのも大きいと考えられる。
これからは隣国との交渉などが大事になり文官職になる為の学力が重要視される事から学校の勢力図がガラリと変わる転換期でも有ったのである。
『風はコッチに吹いてる!』
と感じて神に感謝する僕は、前世の記憶から人生2度目みたいな感じであるが、しかし、2度目だからと言って人間が出来ているかというとそうでもなく、イケイケ達は言うまでもなくアイツらに尻尾を振っていた奴等とは相変わらず言葉すら交わさずに、学力トップの僕に勉強を教えてもらおうとすり寄ってきても、この一年間で身につけたスルースキルによりサラリと回避してやったのである。
だから友達の本性を一年をかけて吟味出来た事により現在僕の周りにいる生徒達は全員、身分とかは関係なく性格が穏やかな良いメンバーばかりであり、ほぼ奴らに虐げられていた生産系のギフト持ちの為に僕と話が弾んだのであった。
中には少々気弱だった為に奴らから僕と同じような扱いを受けていた【錬金術】や【ゴーレムマスター】というこのリント王国でも最高位の有益ギフト持ちの友達も増えて、
「凄いね錬金術師になったら魔法のギフトが無くてもファイアボールの魔法が出せる魔道具とか作れるんだ…」
などと僕が未来に就くことの出来そうな修復師以外の専門職にも興味が湧く話が聞けたり、
「俺は、簡単な指示をこなすゴーレムではなく、一つの作業に特化した新しいゴーレムが作りたいんだよ」
などという熱い夢を語ってくれる友達との出会いは僕の人生において最高の宝物であったのであるが…しかし、人生とは残酷であり、長らく続いた戦争が終わり国が落ち着いた十三歳の夏の事である。
僕は現在、三年生に上がる事は叶わず牢屋の中で新学期の始まる時を鉄格子の向こうの空を眺めながら過ごしているのである。
それは何故かというと、全く寝耳に水な話ではあるが、簡単に説明すると、
【親父がやらかしていた】
という一言に尽きる。
あのクソ親父はなにやらコソコソと忙しいそうにしていたのだが、それもその筈であり、領主とは別に副業…というか、力の入れ具合からいくと領主が副業であった可能性が濃厚で、あのクソ野郎は盗賊崩れを配下に抱える違法奴隷商人という裏の顔があったのだそうだ。
領主としての才能は皆無だが、違法奴隷商人としての才能には恵まれていたのか、アイツは裏の顔の方が何倍もデカくなっていたらしく、戦争が落ち着いてようやくリント王国内の悪に集中出来る様になった国王陛下の鶴の一声で始まった大捜査の結果、戦争の間に行われた悪事が出るわ出るわで、見事にクソ親父も捜査の網に引っ掛かったというオチなのである。
しかし、普通ならば、
『違法奴隷商人の黒幕だった親父は打ち首獄門となり即時息子に代替わり』
なんて辺りのお沙汰でも良さそうなものであるが、悪い事に今回の戦争のきっかけの一因があのクソ親父であった事が問題なのである。
全ての始まりは些細な事であったらしく、無理やり嫁いで来た母が僕を生んだ事により、
「世継ぎは生んだから…」
と完璧に関係が冷えきってしまい、親父は欲望の捌け口として母に隠れて、購入しても口を封じても足のつかない違法奴隷の女性に有り余る性欲をぶつける事にしたらしいのであるが、裏社会の人間と関わってしまったが最後、普通であればシャブリ尽くされてしまうところ、あのクソ野郎は変な才覚を見せて貴族としての人脈を使い自分が闇の商人としての黒幕にのし上がったのである。
その過程でウチ町近くの隣国の町から配下の盗賊達を使い商品となる女性…それも若い獣人族をメインに誘拐していたらしく、その際に誘拐現場をその町の人達にバレて後をつけられ、武装したその町の集団が娘さん達を取り戻そうと盗賊団の逃げ込んだペアの町へと乗り込んできた結果として、我が家の騎士団と戦闘に入ってしまったのだ。
そして、この事がありなにかとピリピリムードだった隣国とバチバチの戦争に発展した原因の一つとなった事が戦争が終わった今、隣国との意見交換から分かったのだとか…戦時中であれば、親父から違法奴隷を買っていたエロ貴族やスケベ金持ちなどが、
「敵国の話など…」
と親父を庇ってくれていたが、戦争が終わって隣国の国王とお互いに腹を割って話したウチの国王陛下が、
『どうやらリント王国側の一部の輩が戦争の原因では…』
と気がつき、国を上げて調査した結果として、こうして【国賊】の息子として見事に牢屋へご招待されている…という状況なのである。
予定通りならば新学期を謳歌している筈の僕は連日、
「本当に親父の裏の仕事について知らなかったのか?」
などと、学校の建つエレナの町にある辺境伯様のお屋敷の地下牢にて王都から指令を受けた騎士団の方々に取り調べを行われる日々である。
どうやら騎士団の方々の中に嘘を見抜くギフト持ちの方が居るらしく、僕が質問に答える度に何やら確認作業を挟むためにテンポが悪いやり取りにウンザリしてしまうのだが、何を聞かれようと、あのクソ親父が違法奴隷商人だった事すら恥ずかしながら初耳だったのに、
「何人の女性を食い物にして来たか分かっているのか!」
と言われても、
「お前の親父は獣人族の娘が好みだったようだな…領地の外れにあったアジトには親父のハーレムが有った…まさかお前もお世話になってたのか?」
などと、クソ親父の性癖を教えてもらったところで…
『えっ、ハーレムだと!?…あのクソが…領地の皆が貧しさに堪えていた時に…』
という怒りがこみ上げた以外は、
「そうなんですか…」
と、耐え難い真実を飲み込む作業に追われるだけで、彼らの望む様な証言を僕が提供できる筈もなくズルズルと時間だけが流れ、騎士団の方々のプライドからか、
『牢屋にブチ込んだからには、何とか罪状を…』
という雰囲気の取り調べが続いただけであり、そうこうしていると僕が地下牢で暮らしている間に、季節は秋を迎え、少し肌寒くなった頃には親父の配下の盗賊崩れは勿論、顧客だったエロ貴族やスケベ金持ち達も全て芋づる式に捕まり王都にて厳しいお沙汰が下されたと、毎日の様に取り調べという進展のない世間話をしていた騎士団の方々から報告してもらったのであった。
「ジョン…お前さんも気の毒だな…本当に何にも知らないってのに…」
と、今では僕の境遇に同情さえしてくれている騎士団の方々であるが、国王陛下はブチ切れて王都の刑場が晒し首の見本市状態であり、ペアの農家さんが僕を救おうと辺境伯様に嘆願書を送ったりしてくれ、学校の友達からもバートン先輩経由で
「ジョン君は優秀ですから…」
などと、辺境伯様にお願いが届いたらしいのだが、今回の件は、
【辺境伯派閥のペア子爵が起こした罪】
という事から、国王陛下にそのペア子爵の息子である僕の減刑をやらかした本人であるウチの親父の派閥のトップの辺境伯様がお願い出来る訳もなく、ただ事実として僕が何も知らなかった事や、領地の皆からの
『御領主様はどうでも良いからお坊ちゃまだけは…』
と、幼くして貧しい町の民の為に働いた成果を合わせた農家の方々からの減刑の嘆願書を王都から派遣された人に託す事しか出来なかった事を騎士団の方々は僕に申し訳なさそうに語ってくれたのだが、この時の僕はこの世界の理不尽さに打ちのめされ空っぽの心でその話をボンヤリと聞くのがやっとであった。
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