第44話 年明けのカサール
年が明け、季節は徐々に春に向かうまだ肌寒い日にカサール男爵様達は馬車を連ねて王都へと向かい出発をしていった。
一つ締まらないのは、新型ゴーレムであるバルザックの材料に貴族馬車を使ってしまった為に男爵様達まで騎士団の幌馬車であることである。
エルバ師匠達も一緒に王都へ向かい、友であったバルザックさんの研究を引き継ぎ作った新型ゴーレムであるバルザックの研究を完成させる事を目標とするらしく、
「まぁ、死ぬまでには帰ってこれるかのぅ?」
と、やる気に満ちている弟子の手前ついて行くが、本当は長旅もあまり乗り気ではないエルバ師匠に手を振り、王都へと向かわない兄弟子さん達も旅の途中で自分の町に降ろして貰う形で幌馬車に揺られてカサールの町をあとにされたのではあるが、約一名…
「師匠、兄さん方、お気を付けてぇ~」
と僕の隣で手を振りニコニコしている兄弟子の方が居る。
それは長年エルバ師匠の一番下の弟子として、結束力の強い兄弟子さんの中で、ずっと下っぱ弟子扱いに耐えて来た27歳の男性であるライト兄さんであり、
「ほら、師匠の工房の管理とかあるし…」
などと言ってはいるのであるが、ライト兄さんは実のところ魔道具を作る錬金術師に憧れていたのであるが、今は亡くなったライト兄さん父親の薦めでエルバ師匠の弟子となり錬金術師の道に入ったのであるが、そのエルバ師匠がポーション類の作成を得意とする錬金術師だと知ったのは弟子になった後であり、
『なんか、違うんだよなぁ…』
というモヤモヤを抱えたままリント王国との戦争が始まってしまい、戦地に近いカサールに師匠が引っ越してからは、新たな弟子は現れず…兄弟子達に何か有ると呼び出される為なのか、宿なし、嫁なし、目標なしという下っぱ錬金術師としての暗黒時代を耐え抜き、ようやくここに僕という自分の弟弟子なる人材と、
『自分に足りなかった自由な発想での魔道具作りがジョンと居れば叶えられるかも!』
と、今までは兄弟子たちのサポート役としてしか生きて来れなかった自分を変える為にカサールの町に残ったという可哀想な兄弟子なのだ。
ライト兄さんのギフトは我が家の爺やだったベックさんと一緒の【記憶】のギフト持ちであり、彼の頭脳には錬金術師の全て…特に回路図や設計図などがミッチリ詰まった歩く錬金術師大図鑑のような人物で、手先も器用で何でもこなす万能錬金術師なのであるが、
『だれも作った事の無い便利な魔道具を作り後世に名を残す!』
という野心とは裏腹に、壊滅的に新しい物を生み出すセンスが無いという残念な天才錬金術師なのである。
それが、前世の記憶から異世界の便利なアイテムのアイデアだけはある僕という人間と出会い、このカサールの町に来てから今日までに作った物の中で、新型ゴーレムという錬金術師の枠からはみ出るような新しい物や、魔石ランプをベースに作った前方に明かりを集める反射板の説明だけで新型ゴーレムに標準装備する計画の魔石ライトを作り上げ、
「魔石ライトだって…俺の名前が入った新たな魔道具だ…」
などと、
『いや、ライトの魔法回路からでしょ?』
とは思うが、新しい物を作り出した事が余程嬉しかったらしく今では、
「何か、欲しい魔道具はないか?」
と聞いてくる状態なのである。
そんなライト兄さんも微妙に仲間になった僕たちは、現在、引退したカサール男爵様の作る新しい町に土地を貰う予定であったが引退は白紙になり、新たな町の計画も白紙となり、間借りしているカサール男爵様のお屋敷に居続けるのも気が引けて、
「じゃあ、他の町で土地を探すか…」
などと皆で話していたのを知ったクリスト様が、
「父上!皆さんが出ていかれたらどうするんですか!!」
と詰め寄り、大半がマルダートに戻り、盗賊の居た廃村からの避難民だけなら何とかカサールの壁の中でも避難生活を送れる数となったので、焼け落ちたままで、まだ手をつけていないスラムをカサールの町の正式な区間にして整備する事となり、その一部を我が家の土地として貰えることが決まったのであった。
元スラムの住人達も帰る家を男爵様がゴーレムパンチにて、破壊した可能性が高く、
「王都から帰り次第に皆の暮らせる場所を作るから…」
と約束してくれた為に、僕たちはスラムで暮らしていた皆さんと、
「どうします?将来的には壁も作ってくれてカサールの正式な住民として商いも出来るそうですよ」
と楽しく話しながら、スラムの片付けをする事にして、
「私は、子供達を男爵様の為に働ける立派な兵士にしたいけど、縫い物しか知らないからあの子達に読み書きも教えてやれないし…」
というお母さんにベルは、
「大丈夫、ボクも字を覚えれたから、お兄ちゃんに習えば誰でも字が読める様になるよ…」
と、勝手な約束をしてしまったのだが、奥様方には炊き出しのお手伝いをするベルに僕も知らない郷土料理を教えてくれており、
『本来ならお母さんから習うんだろうな…』
というレシピを楽しげに語るベルを見ていた為に、
「読み書きと、簡単な計算ぐらいなら任せて下さい」
と読み書きの講師を請け負い、
「住む人数が半分以上マルダートに帰ったから半分程は片付けずに置いとくか?」
と、焼け落ちたあばら屋を眺めながら呟く男性に、リーグさんは、
「かなり大変ですが、頑張って全部を片付けましょうや…なに、大丈夫でさぁ、壁が出来るのはまだ先だろうから家を建てるのは勿論のこと、住むのもかなり先になる計算…ならば、ここら辺を皆の畑にしましょうや、出来た作物をカサール男爵様に買って貰えりゃ新生活の資金になるでしょうよ…ねぇ、坊っちゃん」
と、こちらに振ってくる。
『なんで僕に振るの?』
とは感じるが、
『畑かぁ…まぁ、確かに片付けのモチベーション維持には良いだろう…』
と思うので、僕は、
「カサール男爵様が壁も作って町を広げる計画ですから、一年とか二年はかかりますね…気長にやりましょう。 皆さん仮設住宅で大変でしょうけど…」
と言って片付けを開始すると、スラムに住んでいた方々も、
「なに、ここにあった隙間風が入り放題の子供達と住んでた小屋より今の家の方が立派だから何の文句もないさね、さっさと畑を作っちまって子供達に服の一着でも買ってやれるならアタシャ頑張るよ!」
と片付けを開始してくれたのであった。
『そうか…焼け出されたから服もまだまだ足りてないのか…』
と知った僕は、
『これはギャンさんの店で手当たり次第に破れた服の修復も頑張るか…』
と気合いを入れ直して片付け作業を続けたのである。
それからは、スラムの片付けの後はギャンさんの店に行き、魔力の限り服を修復し、隣でライト兄さんが、
「ジョン、もっと聞かせてくれよ!」
と新しい魔道具のアイデアを僕から引き出そうと絡んでくるのを少々鬱陶しく思いながらも、
「いや、ライト兄さん…町を守ったり盗賊が減ったから旅人や冒険者だって増えるんだからポーションや魔道具だって売れるだろうから、そちらを作りませんか?」
と提案するのだが、ライト兄さんは、
「あーきーたーのっ! 人よりしっかり記憶出来るから新しい刺激じゃないと興奮しないのっ!!」
と、『知らんがな…』としか思わない性癖のような告白を聞かされた僕は、
「ではライト兄さん、吹き矢みたいなの作れます?」
とヤケクソ気味に聞くと、ライト兄さんは、
「あれだろ、毒とかくらわす…だから毒薬系も作れるけど、俺は魔道具が…」
というのを一旦遮り、
「毒の方じゃなくて、魔法回路を使って痺れ毒等を打ち込める魔道具ってありますか? 盗賊や魔物の討伐に使えると思うんですが…」
と聞くと、ライト兄さんは、記憶のギフトを使い脳内を検索した結果、
「無い…たしかに肺活量では針が刺さらない魔物も居るし、飛距離だって…そうか! 風魔法の回路で…」
とブツブツ言いながら工房へと帰って行ったので、
『やれやれ…』
と思いながらベルとリーグさんに、
「やっと静かに修復出来そうになったけど魔力がヤバいから今日はここまでしとくよ…」
と、良い感じ破れているボロの服を探す手を止めてもらい、ギャンさんに、
「ではギャンさん、これを格安でヨロシクね」
と、焼け出されて着替えも足りていない方々への販売をお願いして、
『なんかカサール男爵様が留守なのに部屋を間借りしてるのも気が引けるな…』
と思う仮の住まいに帰るのであった。
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