第42話 再会
カサール騎士団が砦内に雪崩れ込んで来てからは案外早く決着がついた。
魔石タンクも空になりストーンバレットも撃てなくなった僕は完全にやることがなくなり、マジックバックから生活魔道具用にストックしてある魔石を念のため3つばかり背中のストーンバレットの魔道具に入れてはみたものの、すでにカサール男爵様を筆頭に監視用の塔のある建物を取り囲み盗賊狩りの仕上げに入っていた為に、
『これは行っても邪魔になるな…』
と判断した僕は、カサール騎士団とクリスト様により倒された名前も知らぬ恐竜みたいな魔物に近づき、
『うわぁ~、こんなのも居るんだ…学校の図書館にあった魔物図鑑にも無かったから他国の魔物かな?』
などと眺めていると、どうやら建物内の盗賊も制圧出来た様で、騎士団の方々や兵士団の皆さんが生きている盗賊を縛り上げ、かろうじて生きている盗賊には、
「お前に選ばせてやる、ポーションを1本飲んで神に生き残れる運命を託すか、この場で死ぬか…」
などと聞いている。
『凄い二択だな…』
と思ったのだが、それもその筈でありカサールの町を裏切った奴らに兵士長さんが武士の情けとばかりに、【盗賊として死ぬか】または【町を焼いた裏切り者としての罰を受けるか】の究極の選択を迫っていたのである。
まぁ、案の定ではあるが、元門兵の小悪党達は、
「兵士長、死にたくない…頼みます…ポ、ポーションを…」
などと、泣きついているのだが、兵士長さんは顔色ひとつ変えず、
「町の治安を守るべき兵士団の一員だったなら分かるな…この場を生きながらえてもお前らに残された道は死か、死より過酷な鉱山労働だ…」
と冷たく言い放ち、盗賊の下っぱとしてゴーレムに殴り飛ばされてしまい怪我をしている元門兵達は、すでに死んだような顔色になっていたのだった。
そんな中でもしぶとい奴は居るもので、ベルを追い返したり僕に絡んできたあの態度の悪い元門兵が、僕の姿を見つけて、
「なんでお前が! お前さえカサールに来なければ!!」
と、とんでもない言いがかりをつけてきたのである。
これには流石に温厚な僕も頭に来てしまい、僕の代わりに彼を殴って黙らせようとする兵士長さんに、
「兵士長さん、大丈夫ですから」
と一旦パンチを我慢してもらい、比較的軽傷で縛られている元門兵の彼に、
「おい、勘違いしてないか? お前がしっかり仕事をしてりゃあ、兵士長さんやカサール男爵様に再教育されて肩身の狭い思いもしなかっただろう…それに、ウチのベルがあんな辛くて悲しい夜を過ごす事も、なんなら僕がこんな面倒事に巻き込まれる事も! …いや、それについては若干身から出た錆び的なモノもあるけど…とにかく、自分が楽な方に流された結果こうなったのだから、誰のせいでもなく自分のせいだろ!!」
とお説教をしていたら、ゴーレムから降りてきたらしいカサール男爵様が、
「こんな面倒事…」
とショックそうな顔をしていたのであるが、隣のクリスト様は、
「確かに…」
と、僕の気持ちを理解してくれていた様子である。
そして、カサール男爵様率いる討伐隊の活躍により砦に巣くう60人近い盗賊達の討伐が完了したのであるが、縛り上げた賞金首達の中にちょっとした知り合いが居た事に僕は驚きが隠せなかった。
それは、男爵様達が賞金首の盗賊を確認し、
「では、リント王国側に引き渡す者は荷馬車に積んで…」
などと相談している時に、僕を見て、
「えっ、坊っちゃん!」
と、すっとんきょうな声を出す盗賊が居たのである。
その顔を見ると長い期間水浴びもしていないのか薄汚れていたが、確かに我が家の庭師だったリーグさんであった。
僕は勿論、カサール男爵様達も盗賊団のメンバーの中に僕を知る者が居た事に驚き、一部の騎士団員なんかは盗賊に知り合いが居た僕に身構える程で、現場は変な緊張感が漂う中、一旦静かな場所へと移動し僕とリーグさんのここまでに至る答え合わせが始まったのだった。
まぁ、僕の方は見事に追放されただけであるが、リーグさんはというと、
「坊っちゃん…実は自分は旦那様の監視役として…」
と、ビックリな事実を語りだしたのである。
話を整理すると、あのポンコツなクソ親父は見事にポンコツだったらしく、どこぞの貴族の陰謀で闇の奴隷商の黒幕をやらされていたのだそうだ。
『いや、領地もまともに管理出来ないポンコツが陰の黒幕だなんてあり得ないと思ってたんだよ…』
と、妙に納得な事実を知り、リーグさんはクソ親父が国に悪事をバラさないかを見張る役目を受けて我が家に派遣された、【どこぞの貴族お抱えの何でも屋】みたいな怪しい組織の人間だったのだという。
裏家業で親父が稼いだ金も、秘密のケモ耳ハーレムも実はその貴族達の為であり、親父は雇われ店長的なポジションだったのに、黒幕として罪を擦り付けられたというのであるが、僕としては、
「いや、ちゃんと盗賊を使って悪さはしてたから裁かれて当然…」
としか感じない。
そして、リーグさんはというと、十年以上我が家に潜入していて、やっと組織に戻ったのであるが、我が家に居た人間を組織に戻すと、悪名高い我が家との繋がりを調べられてウッカリ真実に辿りつかれては困る人間からの指示により、どうやらリーグさんは身に覚えのない罪により指名手配となりリント王国から命からがら逃げて来たのだそうで、なんやかんやで今に至るらしく、最近では南の獣人族の国から商人が見世物として連れてきた先ほどの恐竜の飼育担当がテイマーのギフトを持つリーグさんの仕事だったのだそうだ。
まぁ、あの恐竜もその見世物小屋の商人の馬車を襲って奪ったものだと言うので、リーグさんとて立派に盗賊をしていたのだろうが…
「指名手配ねぇ…」
と、リーグさんをこのままリント王国へ送れば口封じされてしまう未来しか見えない為に、
「これは困った…」
と、色々と考えてはみるが、僕にはどうしようもない。
しかし、カサール男爵様は僕に、
「ジョン殿としては如何致す?」
と聞いてくるのだ。
「イカがも何も、僕には致しようが無いでしょう」
と困り果てる僕に、クリスト様は、
「いや、ジョン殿のお父上が黒幕ではなく、真の黒幕が居たとなればジョン殿の罪は不問となり元の貴族に…」
と言いかけたのを僕は、
「要らない、要らない! 貴族に戻りたいなんて全く考えた事も有りませんから…」
と、遮るとカサール男爵様まで、
「いや、しかし…」
と言い出すので、僕は更に、
「ペアの町はバートン様っていう立派な領主が居られるから全く心配していないし、まぁ、クソ親父の背後にもっとクソな奴が居たのも今知って、ソイツが今も楽しく生きているのは癪ですが、クソ親父も罰を受けるだけの悪事をしてましたし、追放について僕としては文句は無いので…」
と、伝えるのだが、
『そうなると、リーグさんをリント王国に送ったら真のクソ野郎の思うツボか…』
と閃いた僕は、
「カサール男爵様ぁ~、今回僕って、かなり頑張ったと思いませんか?」
と、カサール男爵に上目使いで聞いてみると、男爵様は、
「うむ…確かにゴーレムの件もだが我が家はジョン殿にかなりの恩が…」
と言い、僕が何か閃いた事に気がついたらしいクリスト様も、
「何か考えが有るなら協力する」
と、言ってくれたので僕は、
「では、このリーグさんを僕に下さい」
と、お願いしてみたのである。
この提案にはリーグさん本人が一番驚いていたのであるが、
「ほら、親父を裏で操っていた奴の思い通りって癪じゃない? リーグさんが生きていてニルバ王国に居るって知ったらソイツはリーグさんから悪事がバレないかヒヤヒヤで不眠症にでもなれば良いんだ。 指名手配までして消そうとした奴の下にリーグさんだって帰るつもりなんて無いんでしょ?」
と僕が聞くと、リーグさんは、
「だけど坊っちゃん…自分は…」
と、親父を奴隷商の黒幕に仕立て上げた組織の一員だった事を気にしている様子なので、
「ゴチャゴチャ言うのなら、親父が娘さん達にやったみたいに奴隷紋をリーグさんに刻んででも、僕の細やかな嫌がらせに協力してもらうからね!」
柄にもなく駄々を捏ねてみると、どうやら観念した様で、僕は頑張ったご褒美としてリーグさんを貰う事が決定したのであった。
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