第41話 砦攻め
十年程続いた戦争の初期にリント王国軍がマルダートの町を占領して砦に使っていた際に、リント王国軍の動きを監視する為にニルバ軍により作られたという砦という場所を僕たちは目指している。
戦争が長引くとリント王国軍本体がマルダートを拠点に使い、徐々に昨日盗賊達を退治した辺りまでニルバ軍が押し返されてしまいすぐに使わなくなった廃墟の砦を今は複数の盗賊からなる盗賊組合のような奴らが使っているらしく、
『えっ、普通に砦攻めって…大丈夫ですか…この戦力で…』
と、心配になっている僕であるが、ここまで殆どカサール男爵様親子のゴーレムに美味しいところを持って行かれているカサール騎士団の皆さんも、
『やっと出番か…』
と闘志を燃やし、カサールの町の門を金を受け取り解放した兵士団の裏切り者達を、
『やっとシバける…』
とばかりに殺気立つ兵士長さん達に挟まれたまま幌馬車に揺られている。
西を見ると、
『追放されてからカサールまで結構歩いたけどなぁ…』
とは思うが僕が歩いた南の街道より近道とはいえ馬車であれば途中で盗賊狩りをしながらでも丸2日程の移動で、遠くにうっすらと2年ばかり過ごした町が見える街道から外れた丘にて馬車は止まり、
「よし、ここで休憩した後にゴーレムを出して、ここから北の砦に一気に攻め込むぞ!」
とカサール男爵様が興奮し、騎士団の皆さんも異様なやる気に満ちており、近づき難い雰囲気に僕がビビッていると、クリスト様が、
「この丘はね、戦争開始すぐにマルダートの町に前線基地を構えようカサールから出発したけど、私たちが到着した時にはリント王国の勢力に攻め込まれ町から避難してきた人を保護するのが手一杯で、炎や煙が立ち上ぼり完全に占領されていくマルダートの町を眺める事しか出来なかったという…まぁ、私たちにとっての苦い思い出の場所なんだ…」
と、少し寂しそうに教えてくれたのだが、その時も参加されていたと思われるクリスト様の目にも、当時の悔しさを晴らすためなのか、静かな闘志を燃やしている様に感じる。
『クソ親父の裏家業の件で怒ったマルダートの住人の方々が武装してウチの町に殴り込んだ事がきっかけで、いきなり始まった戦争だからカサール男爵はもちろんマルダートの代官さんだって何の準備もしてなかったかも知れないもんな…開幕してすぐがこの地でマルダートが落とされるのを見せられるなんて…』
と、言えた立場でない事は十分理解しているが、気の毒に思えてならない僕は、少しの居心地の悪さと申し訳の無さを出された食事と共に噛みしめた後に、
「では、これより賊に奪われた砦を制圧に向かう!」
というカサール男爵様の号令と共に北にある高台にある砦を目指して起動させたゴーレムを先頭に移動を開始したのである。
まぁ、案の定というか、高台にある砦にゴーレム2体を先頭に砦に近づけば、盗賊達も気がつく様で、昔ニルバ軍が作ったであろう砦の石垣の上から弓を放ってきたのである。
街道や集落にての戦闘では近づけば無双状態だったゴーレムも、高低差がある砦からの遠距離攻撃に、背後の味方の盾となりながらの前進に苦戦を強いられている。
高台からの弓はギリギリ届くが、下から放った弓はまだ届かない絶妙な距離を突破して近づけば、次は弓より射程が短い魔道具の杖の魔法が飛んで来る可能性が高く、
『どうするの…相手もかなりの人数だよ…』
と焦る僕など気にしないかの様に、カサール男爵様の、
「では、ワシが突撃するので、クリストは魔法が当たる距離まで進めばこちら側の砦となり遠距離から砦を攻撃、魔法隊は倅のゴーレムの背後から魔法を放ちつつワシが門をこじ開けるタイミングを待て、弓隊は散らばり木の影から砦の敵を狙い撃て、しかし、あくまでも敵の注意を分散させる目的だから無理するでないぞ…」
という指示により部隊はそれぞれの配置につこうとするのであるが、何故か僕も中間の魔法隊のメンバーに囲まれ、
「ようやく出番ですね…」
「町を焼いたツケをキッチリ払ってもらいましょう!」
などと騎士団の方々に話しかけられているのであるが、
『弓よりも射程が長い武器の研究も兄弟子さんに依頼するべきだった…キャノンではダメ…タンクの肩の武器が良かった…』
と心の中で泣き言を言いながらも、
『リント王国側の盗賊がメインの集団ですもんね…』
と、何故か微妙に感じる罪悪感に背中を押され、
「ヨシ!」
と覚悟を決めてボール号の背後に並び、重量軽減の魔道具を起動し、ズンズンと道端の木々の枝をへし折りながら高台の頂上へと駆け上がるカサール号を合図に、僕たちも魔法が届く位置まで前進したのであった。
移動砲台と化したボール号の両手からストーンバレットが打ち出されるが、あくまでも実験的に積んだ魔道具の為に、数は撃てるが足元に隠れながら魔法を放つ兵士達の魔道具と火力は変わらない、
『もっと高火力な魔道具の方が良かったな…』
などと、改良点を考えながらも騎士団の皆さんの数発で魔力切れとなり魔石を追加しなければならない魔道具の杖とは違い、僕もクリスト様のゴーレムもたっぷり入る魔石タンクのおかげでストーンバレットを撃ち続けられる。
相手の盗賊達も魔石切れの度に魔石を追加する作業で弾幕が薄くなるとこちらは前進し、相手にプレッシャーをかけるのだが、気がつけば両肩からストーンバレットを撃ち続ける事の出来る僕は、魔石を籠める作業が無いので魔法隊の最前列に押し出されたままとなり、
『ひぃぃぃ! 魔法が飛んで来るよぉ…石とか矢も飛んで来るよぉ~』
と半泣きのまま両肩から魔法で石を飛ばしている。
パニック気味の自分と、冷静に、
『このストーンバレットって投石攻撃と変わらないじゃないか! 生成する石をドリルみたいにして回転を加えて撃ち出せないの?!』
などと分析している自分に、
『ここにいる騎士団の方々はこんな感じの戦争を…何年もか…』
と、色々な感情で精神がグチャグチャになりそうになりながらもカサール男爵様が入り口を制圧してくださり、僕たちも雪崩れ込む様に砦を目指したのであるが、門が開けば開いたで敵も中から飛び出してきて、砦前は激戦地に変わる。
しかし対人戦闘には無類の強さを誇るカサール男爵様のゴーレムには敵わないらしく盗賊たちを砦内に徐々に押し返す事に成功し、クリスト様に続き僕も砦内に突入したのであるが、どうやら盗賊の中にはテイマーのギフト持ちでも居るのか狼魔物や馬程もあるトカゲ…というかリント王国では見ないカラフルな小型の恐竜みたいな魔物まで解き放たれ、
『何だよコレ』
と思えるクリスト様が操るゴーレムと恐竜のバトルの隣で肩から自動で放たれるストーンバレットとは別に、念のためには自前の片手剣を抜いて、
「シッ、シッシッ!!」
と狼を追い払ってみたものの肩の魔道具が悪目立ちしているのか、完全にロックオンされてしまった僕と狼の戦いが始まってしまったのである。
ゴーレムと恐竜の大戦争に巻き込まれないように距離をとりつつ、下手に振り向くと自動発射中のストーンバレットが味方に飛ぶ為に、悩んだ末に僕は砦の壁を背にして狼と戦う事にしたのであるが、
『これって、魔道具が有る分攻撃力的には有利そうだけど追い込まれた感じがして怖いぞ…』
と、逃げ場のない状態で初となる肉食獣との戦いに望む。
野生の勘というものなのか、狼魔物は完璧に僕を格下の弱い生き物と見抜いた様子で落ち着いてストーンバレットを避けながら距離を縮めて来ているのだ。
『肩に固定したキャノンからの自動攻撃だけど、照準は体の向きで調整しなきゃダメだし、発射のタイミングが規則的だから微妙に使えない…改良の余地アリだな…』
とこの状況に慣れ始めた僕は試作魔道具の評価を行っている。
これは余裕ではなく、正確にはこの戦いにおいての僕の役割に気がついた為に、少しでも自分の気を散らし、この場所にて踏みとどまるという選択を選んだからであり、本当ならばダッシュで離脱したい気持ちではある。
恐竜が一体のゴーレムと暴れており、狼に睨まれた変な魔道具持ちが足止めされてストーンバレットを乱射しているという近づき難い現場を一秒でも長く作るという行為…
「入り口はいいから奥のデカブツに集中しろ!」
などとカサール号に群がる盗賊達…奴はまだ知らない、追い込まれているのが自分である事を…前方ではカサール男爵様が威圧ギフトとゴーレムのパワーで盗賊達を薙ぎ払い、クリスト様が恐竜と、僕がこの狼を足止めしている間に、魔法隊は魔道具の杖から使いなれた近接武器に持ち替えて、弓隊も砦に到着し一気に内部の制圧が開始され、狼は注意していなかった側面からの弓矢を受けて倒れ、
「待たせたな!」
という弓隊の皆さんに、僕が、
「助かりました」
と感謝を伝えようとそちらを振り向いた瞬間に肩のストーンバレットが発射され、
「危ない!」
「こっちを向くな!」
などと弓隊の方々から総ツッコミを頂いてしまったのであった。
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