第25話 知るという事
兵士の詰所へ案内されてヒヤヒヤした僕であったが、
「先日は盗賊の件で大変不快な思いをさせてしまい申し訳ない…」
と、門兵の中でも服装の違う偉いさんっぽい方に深々と頭を下げられ、
「えっ! あっ?」
と僕が驚いていると、ここ数日でこの町に起こった事を教えてくれたのだが、どうやら僕たちがウエスに行く際にあの門兵さんの態度を上司の兵士の方に、
「そんな態度では町の評判に関わるよ…」
とチクッた為に、その日から彼は再教育として三日間の罰を与えられ、ようやく仕事に復帰したかと思うと、冒険者ギルドから、
「最近盗賊に襲われて保護を求めてきた子供はいないか?」
との問い合わせが、この兵士長さんに入ったらしく、
「いや…私の所に報告は入ってませんが…」
と返事をした数日後に今度はこの町の長であるカサール男爵様より、
「返還予定の国境の町周辺の空白地には盗賊団が潜伏している可能性が高い故に、返還後すぐにニルバ王国として対処する為に少しでも気になる情報が有れば報告を上げろと通達したはずだが?」
と、どうやら戦争後のドサクサしている地域で追跡の手から逃れていた賞金首達を一網打尽にする為に国としては盗賊の情報を集めていたらしいのだが、あの門兵のグループは、
「報告書が面倒くさいし、元々困ってるヤツが冒険者に依頼するルールだろ…」
という事で職務をサボっていた事が、ウエスの冒険者ギルドの職員さんからの報告と、祝福の腕輪の納品時に僕たちが出した条件から代官である男爵様の耳に入た結果として発覚し、男爵様からは勿論、冒険者ギルドからも、数日前に盗賊の件を「知らない…」と返事してしまった事により、
【代官もブチギレ】
【冒険者ギルドもブチギレ】
【兵士長も顔面蒼白で激おこ】
という事となり、門兵グループの怠慢が調査の結果あっさりと明るみに…という流れであり、僕たち…というか主にベルが、
「大変申し訳ありませんでした…」
と兵士詰所の奥の兵士長のお部屋で謝罪を受け、甘い焼き菓子を出されてご満悦なベルが、
『なんでこの人、さっきから謝ってるの?』
みたいな雰囲気で僕をチラチラ見ながら焼き菓子を食べているという中々ややこしい状態なのである。
『あぁ、だからか…冒険者ギルドマスターが僕たちに会いたがった理由がコレか…』
と僕は理解したのではあるが、
『だったらベルは、カサールに着いた瞬間に保護されて然るべきだっただろ!?』
と、僕より身体能力は高いが、それでもまだ幼いベルが不安で泣いたり、悪夢にうなされて眠り、必死に堪えて過ごした日々を近くで見ていた為に、怒りがこみ上げ、
「申し訳ないで済まされません!」
と、ベルが門で受けた扱いを兵士長さんにぶつけたのであるが、ここで初めてあの門兵に「町の評判に関わる」とクレームを入れたのが僕たちだと知った兵士長さんはようやく『アイツが今回の元凶か!』と理解したらしく、怒りなのか驚きなのかもうよく分からない顔色になり、
「別件でもクレームの入っていたアイツは他の奴らと共に減俸の上に再教育をしておりましたが…もう勘弁なりません!」
と言い出したので、僕は
「まぁ、まぁ…」
とクビを宣告しそうな勢いの兵士長さんを宥めて、
「あんなのをクビにして野に放つと世の中の為に成りませんから、しっかりと兵士長さんが教育をして手元に置いて悪さしないように、ずっとず~っと監視を続けて下さい」
と、彼の再教育プランが一生続く事だけを願い、
「焼き菓子ご馳走様でした」
と詰所を後にしたのである。
さて、この後冒険者ギルドマスターに会わなければならない予定なのだが、流石に収容施設の作業服と破れが残る少年スタイルの二人が収入面でお世話になっているギルドのお偉いさんに会うのは失礼にあたりそうなので、ベルに、
「ギャンさんのお店に行って服を買おうか…ダンジョンでの事とかも報告したいし…」
というと、彼女は、
「いっぱい稼いだもんね」
と、待ってましたとばかりにギャンさんのお店がある職人街の裏路地へとルンルンで歩き出したのである。
『新しい服もだが、革の胸当ても酸でザラザラだし買い換え時かな…』
などと考えながら僕もお店に向かっていたのだが、
『ん?、試してはいないが、もしかしてダンジョンでレベルアップとかしてギフトが成長してるかも…』
と、この町で唯一かもしれない【壊れた装備が何時でも有る】というギャンさんの店へと、ベルに負けず劣らずルンルンで、スキップなんかも飛び出しながら二人で路地の奥へと進んで行ったのである。
そして、ギャンさんのお店に到着したのだが、相変わらずゴチャゴチャしているお店にはギャンさんは居らず、かわりに知らないお爺さんが店先に座っており、
「おっ、お客とは珍しいのぉ…悪いが店主はスラムに行っておるようじゃな…まぁ、いつもは昼前には帰ってくるからこの老いぼれと待ってるかい?」
というと、ベルは、
「お爺ちゃん、薬草の匂いがするね」
と言いながらお爺さんの隣の売り物なのかもよく分からない木箱にチョコンと座ると、お爺さんは、
「おや、お嬢ちゃんは鼻が利くね…ワシはすぐそこに工房を持つ錬金術師のエルバじゃよ」
と教えてくれ、僕たちも、
「ベルだよ」
「ジョンです」
とエルバさんに名乗って、暫くお喋りを楽しんだのである。
エルバさんは、ギャンさんから直したテントに防水加工を施して欲しいと頼まれており、
「ここまでやっと運んだというのに留守じゃし…無用心だからのぉ…」
と店番代わりにのんびりしていたらしく、
「で、ベルちゃんだったか、お嬢ちゃんは…」
と言った瞬間に、僕は、
「えっ、さっきも一瞬違和感みたいなのを感じましたが…エルバさん、ベルが女の子だって分かりました?」
と、ベルと一緒に居て初めての事に驚き、ベルも、
「エルバお爺ちゃん凄いね」
と純粋に驚いていたので、ベルとしても珍しい経験だったのだろう。
するとエルバさんは、
「ほっほ…神様からの贈り物じゃよ【鑑定】のギフトで実は名前を教えてもらう前からワシには見えておったが、一応教えて貰うまで呼ばないのはマナーじゃからのぉ」
と楽しそうに教えてくれ、
「ジョンの坊やが【修復】のギフト持ちなのもわかる…ジョンの坊やならこのギャンのガラクタの山も宝の山に見えるのかのぉ…」
などと中々帰って来ないギャンさんを待つ間に様々な錬金術の話をしてくれたのである。
錬金術師になるには【錬金術】みたいな分りやすいギフトが有る訳ではなく、基本的には頑張って勉強をして試験に受かれば成れる職業であり、エルバさんは、鑑定ギフトにより薬の調合などが得意なようで、
「ギフトが丁度よいタイミングや分量を教えてくれるからのぉ」
と、素材から薬品へと鑑定結果が変わるのを確認しながら作業する為に手に入れた素材を無駄なく最高のクオリティーでポーションなどに加工できるらしく、その代わり、
「鑑定は出来るが、手先があまり器用ではないから魔道回路は上手く書けんのじゃよ…だから魔道具の修理は苦手でのぉ…ギャンが買い付けた壊れた魔石ランプを何個もばらして使える部品を寄せ集めてようやく1個直せる程度かのぉ…」
と、錬金術師と言っても得意分野が別れるらしく、エルバさんはギャンさんがスラムの子供達から買い取った装備などの錬金薬品による各種コーティングをポーション作りの片手間で引き受けているらしく、
「スラムの子供の為にチョイとしたお手伝いじゃよ」
などと笑いながら話してくれていたのである。
そして、僕達の事を話している最中に、
「おっ、ウエスのダンジョンから無事に戻ったか!」
と、なにやらゴチャゴチャと物の詰まったカゴを背負ったギャンさんが店に戻って来て、
「エルバさんも来てたのかい?」
と、エルバさんに声をかけたのだが、エルバさんは、
「来てたのかい?…ではない…全く無用心な…ワシが居なかったら珍しく来たお客様のジョン坊やベルのお嬢ちゃんが帰っておったのじゃからのぉ…」
と呆れた様にギャンさんに文句を言っていたのであるが、ギャンさんは、
「ん?…ベルの…お嬢ちゃん??」
と一瞬考え込み、そして、
「えぇぇぇっ!!」
という声が人気の少ない裏路地に響いたのであった。
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