第2話 動き始める
収穫されたパタタの畑ごとの不安定さに悩む僕を心配したメイドのメリーさんが、今回、実験的にパタタを作ってくれた農家の情報を聞いてきてくれた様で、
「買い物ついでの世間話ですよぉ」
とメリーさんは言ってくれたが、町の端に位置する協力農家の全てに買い物ついでに世間話をしに行く事は距離的にも、
『農家からの聞き取りのついでに買い物…』
と言った方が正しく、使用人に荷馬車を与えれる程の余裕も無い我が家では、メリーさんはテクテクと歩いて点在する協力農家をめぐってくれたはずである。
「ありがとうね、メリーさん」
と感謝を伝える俺に、彼女は、
「いやですよ、坊ちゃま…メリーは立派なご領主様を目指す坊ちゃまのお役に立てるのが嬉しいんです…だからもっとこのメリーをこき使ってくださいませ」
なんて言ってくれているのであるが、メリーさんも爺やのベックさんに負けず劣らず、僕が生まれる前に亡くなったお祖父様の代から我が家に使えてくれている大ベテランなのである。
父のオシメを取り替えていた事もあるメリーさん体…というか特に彼女の膝間接辺りのダメージを心配してしまう僕は、我が家でも【使用人達の買い出し用】という名目で何かしらの魔物を馬車用の馬魔物達がいる厩舎の端で飼えないかベックさんに相談する事を誓ったのだった。
という事で、本当はあからさまに膝にダメージが来ているメリーさんの頑張りのお陰で、どうやら改良した農具を着けた牛魔物による畑の耕作や収穫には皆さん満足してくれたのであるが、収穫量やパタタ自体の品質にバラつきが有った原因が、錬金術師の作る万能肥料が年々高価になり各自の畑に撒く量にバラつきが出た事や、全く万能肥料を撒かずにパタタを作っていた農家は連作障害からの不作だとわかった事が僕たちの計画を次のステップに進めてくれたのだった。
同じ作物を作る事により土の中の栄養分のバランスが崩れて不作になってしまう連作障害という知識は前世の記憶がある僕はハッキリ理解しているが、どうやらこの世界ではあまり知られていないのか、はたまた錬金術師の作る万能肥料の性能が良すぎて知識として忘れ去られたのかは分からないが、一部の農家さんが、
「不作になった畑は一年休ませて…」
みたいな言い伝えを知っていただけだが、それも、
「万能肥料が買えたら不作だった事がなかったからな…」
と言った具合で、高性能であるがお値段もお高い肥料に稼ぎの多くを持っていかれ農家は万年苦しい状態だったのにも関わらず、数年前から原料の一部が隣国から買えなくなった為に農家の生命線だった万能肥料を更に値上げしたのである。
そうなると、ジワジワと肥料の購入量を減らして耕作し、収穫量も徐々に減少…魔物を狩って副収入にしていた農家の男手は数年前のペアの市街戦にて失われ抜け出す事が出来ない負の連鎖に入ってしまっていたのだった。
この状況が把握出来ただけでも我が家にとってはラッキーであり、メリーさんの大手柄である。
という事で、再び作戦会議をしたのであるが、前世の記憶から作物を育てる為に必要な知識を何とか引っ張りだして、ウチの領地でも作れそうな自家製肥料を考案する事にしたのだ。
ちなみにだが、僕の前世の記憶の事はベックさんと僕だけの秘密であり、いつも協力してくれているメンバーにも、
「ジョンお坊ちゃまは、神童であり幼くして書庫の本を読破した物知り…」
という事になっている。
まぁ、役に立ちそうな書物は粗方読破したから、全くの嘘という訳ではないので許して欲しい…ただ、書庫のお掃除も担当しているメリーさんに、
「では、旦那様が購入された【女性を喜ばす夜の技】も坊ちゃまは…」
と、あらぬ疑いをかけられそうになったが、そこはベックさんが、
「あの本とあと数冊はジョンお坊ちゃまが学校を卒業された後にお勉強する用に除外してある…」
と、アドリブでフォローしてくれ、夜の技をマスターした八歳児という間違ったラベリングをされずに済んだのだった。
さて、『万能肥料が無ければ作ればいいじゃない!』というノリで幾つかの肥料を前世の知識を頼りに試作してみたいのであるが、【窒素】【リン】【カリウム】という3つが畑の三大栄養素だという知識はあるが、実際に何にどれぐらいそれらの栄養素が含まれているのかは解らず、どうやら前世の僕も専門家ではなかったらしく、庭いじりの為に立ち寄ったらしいホームセンターの商品などの知識から、
『肥料には牛フンとか、鶏ふんとか有ったし…田舎と言えば田舎の香水でお馴染みの肥壺か…』
と閃き、
「よし、皆のウンコを集めて肥壺を…」
と田舎の人間の発想で提案したのであるが、これには、
「坊ちゃま、お気をたしかにっ!」
と乱心したと間違われ却下した。
まぁ、よくよく考えると馬魔物の糞やら牛魔物の糞など堆肥に使える物は沢山あり、わざわざ各家庭のウンコを集めなくても良さそうであるが、この世界で問題なのは、その糞を集めて堆肥を作ろうとするとスライムという魔物が集まってしまう点である。
『それならば肥壺も無理だな…』
と理解したのであるが、ならばどうやって堆肥を作るかがミソになる。
前世で庭先で生ゴミや庭の落ち葉を使いコンポスターで堆肥を作った事が有り、定期的に混ぜ返して空気を入れる事が肝心な事は知っている為に、
「よし、現地でご本人に生産してもらおう!」
という事で、一番不作だった畑を一年借りる形で、
『確かマメ科の植物の根っこに暮らす菌が土壌回復に良いんだっけ…』
というオボロ気な記憶から庭師のリーグさんと相談した【牛魔物が大好きそうなマメ科っぽい草の種】をバラ撒いて畑作業用の牛魔物を放牧すれば、食べて、こいて、歩き回り、スライムが群がる前に土に練り込まれて現地で堆肥に変わる予定である。
あと、作物が病気に強くなる為の栄養素であるリンやカリウムだが、これは日頃煮炊きをしている竈の灰でも撒いておけば対応出来そうだし、堆肥が足りない場合も考えて、
【スライムが入らないコンポスター】
を試作すれば肥料問題はかなり解決する筈であり、思い通りの成果にならずとも、畑を休ませたり転作の効果もゼロではない筈であるし、何よりかなりの出費になっていた万能肥料の代金は失くせる為に、豊作と言わなくても不作でさえ無ければ農家の収入が増える予定である。
さて、先行きは明るくなったが、どうしても不安な事が一点…それは今年一年を堆肥実験の為に休ませた農家へ畑の使用料を納めないとイケない事である。
僕の事に興味が無い父でも、【親】としての気持ちは有るのか貧乏貴族ながら毎月ベックさんに、
「教材代だ…」
と少額の金銭を渡しているらしく、
「ジョンお坊ちゃまは、教材もなにも不要ですからな…」
と積み立ててくれているお金が有るには有るが、それを吐き出しても一年分の畑の賃料には足りないし、リーグさんやお友達の鍛冶職人さんにお願いする農具の改良に必要なお金は残しておきたい…そこで名乗りを上げたのが料理人のダグおじさんである。
今年取れたポタタを食べ比べする為に農家さんより買い付けたのであるが、新ジャガの誘惑に負けた僕が、ダグおじさんに無理を言ってポテトチップス…いや正確にはポタタチップスを作ってもらった事があり、どうやらこちらには【揚げ物】という文化があまり無いらしく、
「ひぃ、高い油をこんなに沢山…」
と最初は驚いていたダグおじさんだったが、ポタタを2ほど薄切りにすればかなりの量になり、味付けも塩だけで十分満足出来る未知の料理に、
「切るのが酷く面倒ですが、これは酒場で売れますぜ坊ちゃん」
と言ってくれた事があり、面倒な薄切りが簡単に出来るスライサーの開発は一旦後回しにして、包丁で細切りにすれば出来るフライドポタタを教えてあげたのだが、彼は、
「いつかは坊ちゃんのお役に立てると信じて、この時を待ってました」
と言って、僕の新ジャガへの欲望を満たす為に作ってもらったポタタチップスとフライドポタタのレシピを商業ギルドに登録していたらしく、
「各地の酒場からレシピ使用料を取るもよし、ペアの町の名物にするもよしでさぁ!」
と言ってくれたので有った。
これで少額の教材代金を元手に少し大きな収入が見込めるようになり僕たちの領地内での農業改革が本格的に動き出したのだった。
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