第19話 買い物をしたら
予算に限りがある為に完璧ではないにしろギャンさんの店でかなり身の回りの物が買えそうである。
先ずベルは、お父さんの少しブカブカなハンチング帽子はそのままで、どこも破れていない町の男の子のような服になり、僕も支給品の作業着から普通な見た目の丈夫な服に着替える事が出来た。
二人ともシャツの替えも手に入れ、これでカゴに一杯分…つまり小銀貨1枚という破格のお値段である。
流石に下着は誰かが捨てるまで使った古着は少し否だったので他で買う事にし、追放の時に支給された皮袋はサブに回して、スラムの奥様お手製の革の肩掛け鞄を僕とベルの二人分で大銀貨1枚と小銀貨4枚という所持金の半分近い出費であるが、家を持たない僕たちには必要な物を持ち歩く為に大事なアイテムなので奮発したのである。
しかし、値段の割りにしっかりした作りであり良い買い物だったと思う。
ギャンさんは、
「鞄も安くするよ…」
と、言ってくれたのであるが、スラムの奥様が丹精籠めて作ってくれた鞄を安く買うのは違う気がして、新品は正規の値段で買う代わりにリサイクル品のみサービス価格でお願いし、近くの鍛冶職人さんが直してくれた鍋やフライパンなど、それに破れた所に当て布のある毛布も二人分購入したのである。
ベルは森の集落で猟師のお父さんのお手伝いをしていた為に、
「お兄ちゃん、獲物を入れる背負カゴか採取した物を分けて入れる麻袋みたいなものが欲しい」
と僕より採取や狩りに必要な物を知っているらしく、
「他に必要な物はないかい?」
というとベルは、
「お父さんはマジックバックにスコップとか弓も入れてたけど…」
とお父さんのお出かけセットを思い出してくれたのであるが、ギャンさんは、
「マジックバックか…うちには壊れたマジックバックはたまに入るが、ダンジョン産の高性能のヤツはウチでは見たことはないし、錬金ギルドで売られている見た目は良いが性能が低いヤツなら中の魔道回路が壊れた【只の革鞄】としてなら子供達が拾ってきて買い取る事はあるがな…」
と、言っているのだが、その性能が低い方という見た目の数倍の物が入るマジックバックですら新品は小金貨5枚とか掛かる為に夢の品物である。
僕が、
「マジックバックが買える程お金が有れば先に盗賊の調査依頼を出しますね…」
と残った手元のお金を見ながら、
『これは宿代で、これが食品、あっ、調味料も無いんだ…パンツの替えも欲しいし…』
などと考えているとギャンさんは、
「金か…この辺じゃ薬草摘みとか駆け出し冒険者の依頼はスラム住みの冒険者達が兄弟全員でやってるからな…小型魔物狩りをしてもライバルが多いから稼ぎにならないだろう…う~ん…」
と、暫く唸った後に、
「そうだ、乗り合い馬車でダンジョンに行ってみないか?」
と提案してくれたのである。
どうやらスライムぐらいしか出ない上にドロップ品が魔石ぐらいだから、まぁ人気が無いダンジョンらしく、ほとんどライバルも居ないので狩り放題であるが、問題はスライム系魔物は酸により武器がダメになりやすい事も不人気の原因であるそうだ。
「腕試しには良い所だぞ、五階層まで有ってボスも居るから初踏破したらボーナスで宝箱がドロップするから運が良ければ高額で換金出来るアイテムでも出りゃあ儲けモンだし、小さいながらダンジョンを管理する冒険者ギルドも有るから魔石の換金も出来るぞ…」
と、ギャンさんがオススメしてくれたので、ベルと相談した結果、
「ライバルが居ないのならば、ダンジョンだけでなく回りで狩りも出来るだろうから…」
と、いう理由からそのダンジョンにて力試しをしてみる事にしたのである。
自分たちの強さが解れば次の段階も見えて来るだろうし、何より、
『初回踏破ボーナス…』
という魅力的な響きに負けたためである。
ギャンさんは、
「そうと決まれば、装備だな。 酸で切れ味が落ちるから刃がある物は避けた方が良いな…ハンマーも良いがジョンの筋力では…あっ! ツルハシなんかは鉱山でストーンスライムを倒すのに重宝するらしいから必要だな…戦地から拾ってきたのか騎馬隊かなんかのランスも突き刺す武器だから切れ味が落ちにくいし…そうだベルはまだ小さいから盾なんてどうだ!」
と僕たちにオススメする装備の傾向が見えた様子で、興奮気味に色々な物を乱雑に積み上げられた商品の中から、
「たしかアレは…」
とガサゴソと探しているのだが、僕の頭の中では、
『ギャンさんが…ランスと盾を探している…ギャン盾は丸くてミサイルでも出るのかな?』
と、前世の中でもどうでもよさそうな記憶からギャン盾の登場を一瞬期待していたのであった。
という事で本当ならば剣のひとつでも腰から下げて冒険者としてのスタートをきりたかったのであるが、予算の関係もあり、僕は肩パーツの取れた革の胸当てにツルハシがメインというやや見た目が残念な装備となった。
僕もであるが、ベルも重いランスを扱えそうでなかったので、ベルは戦地から拾って来たであろう片手で扱えるメイスと丸盾と、ベルトが千切れてサイズ調整が出来なくなった革の胸当てがベルにはピッタリサイズだったので、僕より少し冒険者っぽいスタイルに落ち着いた。
中古の装備であるが一式揃える事が出来て、ライバルが多く町周辺では採取も狩りもままならないこのカサールの町にいても滞在費ばかり掛かるために、今日中に調味料や下着の替えなど全ての買い物を終え、宿代金で文無しになる前に翌日には冒険者達に人気の無いスライムだらけのダンジョンのあるウエスの村へと乗り合い馬車にて2日の旅に出発したのである。
出発の時にあの感じの悪い門兵に、
「調査依頼料の為に鉱山労働か?それとも金を借りて借金奴隷になる練習か??」
と、装備が木のヤリからツルハシに変わった僕に嫌みを言ってきたのだが、もう門兵の圧力に負けない余裕がメイスとギャン盾を手に入れた事で湧いてきたのかベルは、
「お兄ちゃん、誰コイツ…馴れ馴れしいけど知り合い?」
と、既にアイツの顔すら忘れたのかの様に本人に聞こえる声量で「馴れ馴れしい…」とナイスな嫌みを言い放つので僕も話を合わせ、
「誰だろうね…馴れ馴れしい…」
と言ってやると、イラッと来たのか、
「なっ!」
と何か言い返そうとする門兵を遮り、僕は他の門兵さんに、
「お宅の門兵さん態度悪くない?こんなんだとこの町の評判にかかわるよ…」
と言ってやると、ついにキレたらしい態度の悪い門兵は僕たちに飛びかかろうとして、上司らしき人に首根っこを掴まれて連れて行かれたのであった。
町の門を出て、乗り合い馬車の乗り場に向かいながら僕は、
「昨日の仕返しが出来たね」
と言ったのだが、しかしベルは、
「本当に誰だったんだろう?」
と真顔だったので、本気でヤツを記憶から消していたらしく、僕は、
「うん…名前も知らないし…誰なんだろうね…」
とだけ言って、彼の事は僕も忘れることにしたのであった。
さて、僕たちが乗り込んだ定期の乗り合い馬車はウエスというダンジョン村にある冒険者ギルドなどに物資や手紙を届ける為の荷馬車の端を間借りする為に一人あたり小銀貨2枚と安宿二泊分の料金と大変リーズナブルであるが、移動中の2日間はとてもじゃないが乗りながらうたた寝すら厳しい乗り心地であった。
『パトラッシュの引く荷車より弾んで腰が…』
と、やはりそれなりに舗装された町中の道ではなく街道の道は凸凹も多く、僕は荷馬車の荷台の縁を握りしめ弾んだ拍子に飛び出さない様に必死であったが、ベルは、
「馬車だ!馬車だ。 ずっと乗って見たかったんだ…」
などと終始目をキラキラさせて、住んでいた集落には無かった乗り物を満喫していたご様子であった。
運転席の御者のおじちゃんもキャッキャとはしゃぐベルが気に入ったらしく、
「坊主、乗り物が好きなのか?」
と馬魔物に水を飲ませたりする休憩の度に、ベルに話しかけ、
「どうだい、おじさんの跡取りになるか? 毎日馬車に乗れるよ」
などとスカウトしているのであるが、ベルは、
「馬車は楽しいけど、ボク、お母さんみたいなお嫁さんが良いな」
と答え、御者のおじさんは一瞬空を見て数秒固まった後に、
「あぁ、大丈夫だ。おじさんも奥さんは居るから坊主も御者になればお母さんみたいなお嫁さんだって養えるさ」
と、おじさんなりに解釈したのであるが、ベルちゃん的には、
『馬車は嫌、お嫁さんになりたい』
という意思表示は済ませた事になっており、この後、
【御者は良いぜぇ】
と薦めるおじさんと、
【お母さんの料理が美味しいからお父さんもメロメロで…】
と、理想のお母さんみたいなお嫁さんについて熱く語るマイペースなベルという二人の会話が微妙に成り立たなくなり、最終的には、
「坊主…おじさんの飲み仲間にも居るが、あんまり母ちゃん、母ちゃんって言ってたらモテないんだよ…」
とだけ言って、ベルのスカウトを諦めたのであった。
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