第18話 冒険者に
カサールの冒険者ギルドにて十五歳になっている僕は何の問題もなく冒険者登録が出来たのであるが、やはりベルはギフトがまだ貰えていない歳の為に登録は出来なかった。
この事により困った事が2つばかりある。
それは、身分証となる様々なギルドで発行されるギルド証があれば、一度入った町から採取や狩りなど一時的に壁の外に出て、町の門が閉じられる夕方までに帰ってくる場合は入場料は免除されるのだが、この町の住民証もギルド証も無いベルは毎回大銅貨五枚が必要となる。
それと、冒険者ギルドには冒険者宿という長期滞在に適した宿はあるが、今は金銭的にも厳しく、ベルも利用出来ない為に冒険者宿より若干割高になる町の宿屋しか選択肢がなく、その中でも最低ランクの素泊まり宿を選んだとしても一泊小銀貨1枚となり二人で小銀貨2枚…つまりホーンラビット丸々一匹分程の稼ぎは眠るだけで飛んで行く計算になる事である。
この2点の問題点に合わせ、門の外に出ても難民の方々が狩り場にしている周辺エリアでは毎日ホーンラビットを狩ることすら難しいそうなのだ。
ベルと狩りまくったホーンラビットは31匹分で、今朝手に入れた未解体のホーンラビットは一匹あたり解体料を差し引いても小銀貨2枚と大銅貨6枚
となり、それが4匹分でこれだけでも小銀貨10枚と大銅貨4枚という大金になる。
小銀貨10枚で大銀貨1枚に換金でき、だいたいの目安として1万円ほどの価値なのだが、寝るだけで二千円分の小銀貨2枚が飛んで行く事は、前世の記憶では安くも感じるが、今の僕の感覚では、
『ふざけるな!』
と思ってしまう金額なのである。
しかも面倒臭い事に、この町はスラムの難民が壁の中に住み着かない様に野宿は禁止となっているのだ。
残りの換金出来る素材としてホーンラビットの毛皮などは魔石は通常の値段であったが、その他は、
「ホーンラビットなんて肉が値打ちなんだから…」
と、やや低めの査定で、僕が処理した毛皮のクオリティーがベルが処理した物よりやはり低く、ホーンラビットの角も縄張り争いなどで欠けていた物は安くなり、27匹分もあるが大銀貨3枚と、小銀貨1枚と、大銅貨2枚となり、冒険者ギルドの買い取りカウンターに手にしたお金は大銀貨4枚以上であるが、冒険者登録費用小銀貨5枚を差し引かれ今手元にあるのは大銀貨3枚と小銀貨7枚ほどである。
盗賊の調査依頼は大体小金貨3枚であるらしく、本当に盗賊のアジトや賞金首が居る凶悪な盗賊団の情報であれば、その調査情報に価値がつき小金貨3枚程の依頼料は気にならない程のお金が手元に戻ってくる場合もあるらしいが、既に盗賊が遠くに移動していた場合などは、
『居ませんでした』
という報告のみで、丸のままのホーンラビット100匹以上のお金が無駄となるのだ。
ベルも、
「お父さんもお母さんはもう…だから盗賊は…」
と言ってはいるが、少し寂しそうである。
これは多分、仇として盗賊達を倒したいというよりは、殺された両親をちゃんと弔いたいけど、盗賊が居れば帰れないし、討伐隊を送る為の調査すら金銭的にも難しいという複雑な気持ちなのだろう。
冒険者ランクが高ければ、調査依頼を受ける側となり見てくるだけで小金貨数枚という仕事にもありつけるが、今の僕は最低のFランク冒険者でありそれも叶わない…
『ベルにこんな顔をさせて…悔しい…』
と感じたのだが、金も力も足りていない自分が憎くもある。
『こうなればホーンラビットを100匹分…いや、肉が無い場合は半額程だし買い叩かれる事も考えて200匹…いや、300は必要かな?…それを狩るか、もっと他の手だてを考えて稼ぐかだが…強くなればもっと割りの良い獲物だって…』
などと考えるが、どの選択肢を選ぶにしても僕は追放者セットと、ベルは着ている所々破れたままの服しかない為に、ベルとも相談して、
「身の回りの物から揃えるか…」
という事になり、ギャンさんのお店とやらに向かう事にしたのである。
店の場所がよく解らなかったので、冒険者ギルドの職員さんに訪ねると、どうやら町の職人通り近くの分かりにくい場所に有るらしく、
「地図は描いてあげられるけど、分からなかったら近くの人にも聞いてね…本当に分かりにくい所だから…」
とかなり心配されるぐらい初見には難しい店なのだそうだ。
「大丈夫かな?」
と少し心配になる僕に、ベルは
「お兄ちゃん大丈夫だよ、あのギャンさんってオジサンの歩いて行って方に匂いを辿れば」
と、心強い提案をしてくれたのだが、流石に街中でクンカクンカしながら、足取りを追わせるのはどうかと思うので、僕は、
「うん、手書きの地図もあるし、どうしても道が分からなくなったら頼むよ」
と優しくベルに『クンカクンカは無しで…』と伝えると、
「え~、人が多いからオジサンの足の臭いが…」
と早くしないと臭いが辿れない事に少し不満気なベルであるが、僕は笑顔のまま、
「うん…ギャンさんに足の臭いとかは言わないであげてね…オジサンって臭うとかって言われたらショックだから…」
とやんわり注意しすると、ベルちゃんは、理解してくれたのかは不明だが、
「はぁ~い」
と良いお返事は返してくれたのだった。
そして、地図と景色を見比べながら初めての町の探索を開始したのであるが、
『本当にこの先に店ってあるの?』
と心配になる裏路地の更に裏のような場所に、
『えっ、これって店?』
と思える、
「たしか生活雑貨を扱ってるって…」
とギャンさんと話した一時間ほど前の記憶を思いだし再確認作業をしたくなるような…そこは、
【生活雑貨もあるゴチャゴチャしたガラクタ置き場】
のような場所であった。
店の中と言うかガラクタの山の隙間から、
「よう、ジョンにベル。 早かったな登録は済んだのか?」
などと笑顔のギャンさんが現れ、
「ようこそ、何でもそろう俺の店へ」
と言うのである。
『ベルには注意したが確かに臭いを辿れそうな所だ…ギャンさんの店…』
と思いながらも、僕やベルにギャンさんは、
「ウチの店はスラムの人が作った革細工やカゴ、それに下取りしたり、まだ使えそうな装備をこの近くの職人達が片手間で手直してくれた物がメインだ…中には修理する時の材料としてスラムの子供が集めた壊れた装備なんかも買い取っているから少々ゴチャゴチャはしているが…」
と本人も言っているので、店がゴチャついている自覚はある様子だ。
どうやらギャンさんはスラムに住む戦争などで町を追われた難民の中で、働き手を亡くした人たちがギリギリでも生活出来るようにと、ここ十年ほどこんな感じの商いを行っているらしい。
おかげでスラムの人たちからは感謝され、成長した難民の子供達はこの店で冒険者装備を整えて母や兄弟の為に働き始めたりと楽しくは商いをしているらしいが、儲かる商売では無さそうである。
「駆け出し冒険者とダンジョンなんかでヘマをして荷物を捨てて逃げかえった冒険者の強い味方だから…」
と言っている通り、中古ではあるがここでなら何でも一通りは揃いそうである。
しかし、スラムのママさん達お手製のカゴや手直しされた武器や防具よりも、店の大半を占めているガラクタの中で、特にスラムの子供達がお小遣い稼ぎに集めた冒険者達の捨てた衣類などが僕には宝の山に見えたのである。
金持ち冒険者は鎧の下に着ている服が破れたりすれば、ツギハギをして着る事は少なく、革の鎧なんかも壊れたら金属鎧のように修理して使う手間と直したとしても強度の問題から下取りではなく捨てられるらしく、ここでは丈夫な服は勿論、まだ防御力が有りそうな壊れた革鎧がゴロゴロしており、そこそこ手先の器用さには自信のある僕ならば、リペアの魔法と知識で革装備ぐらいなら直して何とか揃えられそうなのである。
僕は、袖口が割けたシャツを1枚手にとり、ギャンさんに、
「ベルにこのシャツを買いたいんですが、いくらですが?」
と聞くと、彼は、
「そこら辺のはカゴ一杯で大銅貨5枚で子供達から買ったボロだから、こっちの裁縫上手なスラムの奥さん方に直してもらったやつにしないか?」
などとオススメしてくれるが、ギャンさんの活動には賛同するが、お金を落としてあげるには僕たちはあまりにも貧乏な為に、
「今はお金があんまり無いからギャンさん…このボロ山からカゴ一杯小銀貨1枚で僕たちに売ってよ」
とお願いすると、
「なんだ、ジョンは裁縫が出来るのか…ならばカゴ一杯小銀貨1枚ってのは貰いすぎになるぞ」
などと言うので、僕は
「良いから、良いから…そのかわり鞄やら鍋なんかも欲しいから、それはちょっとオマケしてくれると嬉しいな…」
などとおねだりすると、ギャンさんは、
「駆け出しにサービスするのはウチの流儀だから任せてくれ」
などと言ってくれたのであるが、ベルと二人で裂けた穴があるだけの服を探して、一カゴ分パンパンに詰め込んだ物を小銀貨1枚で購入してから、
「よし、この量なら魔力も足りそうだな」
と呟き、リペアの魔法をかけている僕を見たギャンさんは、
「ジョン、ずるいぞ!修復のギフト持ちか…しかもその量でも魔力が持つって、どこかのお抱え修復師か!?」
と驚いていたのであった。
魔力量は貴族家系だからかもしれないが、ただの追放者…いや先ほど冒険者になった僕は、
「いやいや、学校も出ていない僕が国の定める修復師な訳ないですよ。 現にまだ布のような物しか直せませんから、ギャンさんには僕とベルの武器や日用品を安くしてもらっても、頑張って倒したホーンラビットの買い取り代金の大銀貨三枚程度しか予算が無いので節約出来る所は多少魔力切れ気味でフラフラしても切り詰めないと…」
というと、ギャンさんは、
「修復師の勉強をせずにその量を直せるジョンなら古着屋でもやれば儲かりそうだが…今からでも学校に通って正式な修復師になれば国から給料が貰えて弟も養えるだろう」
と提案してくれたのであるが、今さら学校など…今度はクラスで一人微妙に、年上として浮きに浮きまくり、国に雇われるとしても【追放者】などと言う経歴持ちが採用されるとも思わないので、
「いや…冒険者として頑張ります」
と伝えると、ギャンさんは口を押さえながら、
「そうだったな…父ちゃんと母ちゃんが…ジョンが学校に行ったらベルが一人になるもんな…」
と涙を流しながら、僕の肩をバシバシ叩き、ベルにも、
「良い兄ちゃんだな…」
と言うと、ベルは何の話かよく分からないまま、
「うん!」
とだけ返事をしていたのであった。
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