第14話 次なる目標
ニカワが乾いて文字カルタが完成すれば僕の役目も終わり旅立つ準備に入る。
しかし、ママさんは、
「もうすぐ暗くなるのに、今日も泊まっていきなさい」
と提案してくれたのであるが、僕は、
「流石に二泊は…」
と遠慮するのだが、それを聞いたママさんは少しご立腹気味に、
「ジョン君…そんなに我が家って居心地悪い?」
と聞くので僕は、
「その逆です…居心地が良すぎて怖くなるから早めに旅立たないと…」
と本心を伝えるのだが、ママさんは、
「ダメです。私の【パパの本をあの子達に読んであげたい】ってワガママを叶えてくれたのに、夕方前に送り出すなんて恩知らずな真似は出来ませんからね」
と、拗ねた時のチル君みたいに頬っぺたを膨らませたかと思うと、
「明日お弁当を作るから…それまでは怖がりながらでもウチ子になったつもりで…ジルもチルも遊びから帰って来てすぐにジョン君が出て行ったら寂しがるから…」
と、優しくお願いされてしまったのであった。
そんなお願いを断ることなど出来ずに、僕は明日旅立つ事をチル君とジル君に告げ、その夜は美味しい晩御飯の後、皆でカルタを使ってみたりして楽しく過ごしたのであった。
そして翌朝…ママさんから、
「ホーンラビットのサンドイッチだから…少し多めに作ったからね。夏場は駄目だけど今なら明日ぐらいまでは大丈夫だから…」
と、お弁当をもらい、ジル君は、
「父ちゃんの本、頑張って読める様になるからね!」
という、熱い誓いの言葉を受け取り、
「ホントに行っちゃうの?」
と拗ねるチル君の頭を撫でて、
「またね…」
と別れの挨拶をし、皆さんに深々と一礼した後に村をあとにしたのだった。
逮捕された時とも違い、また追放された時にも無かった次に向かう事を嫌がる心…心地良い場所を離れる不安感…後ろ髪を引かれるという感覚が身に染みてわかった僕であるが、誰かに頼りきって安心するなどは自分の中に唯一残った貴族生まれとしてのプライドなのか、はたまた前世の記憶から来る一般的な大人の考え方なのかは分からないが許せないので、
『目指すはカサールの冒険者ギルド…まずはそこから次の目標を目指して進まないと僕の人生は本当の意味で始まらない気がする…』
と感じる僕はひたすらに東に向かう街道を突き進む。
とりあえず冒険者ギルドのあるカサールの町近くまで移動してから、町の外で罠の練習がてら倒した魔物から換金出来る魔石などの素材を集めてから町に入る予定である。
『もう、町に入る為の大銅貨五枚は有るし、少しカルタ用の買い物で減ったがジル君と狩ったホーンラビットの代金も残っているから追加の獲物の代金で冒険者登録すら出来なくても、ダッシュで外へ狩りに出てもう一度町に入る代金ぐらいはあるな…』
と、皮袋の中の全財産を確かめ、
『集めた素材を換金する予定なんたまけど、冒険者登録料以上稼がないと買い取り金額から差し引いてもらう事は出来ないんだよな…幾ら掛かるんだろう?…そのお金で冒険者登録が出来たらあとは依頼をコツコツとこなしてお金を稼いで身の回りの物を整える計画で良いかな…』
と、考える。
この計画は今までの
『とりあえず水場を探す』
とか
『村は無視して町まで急ぐ』
といった漠然としたものでなく、焚き火も使え、肉が食べられる魔物を狩る為の知識を手に入れた事により、水さえ有れば、皮袋の中の岩塩が無くなるぐらいまでなら食料の不安もなく野宿が出来るように成長したことで現実的に達成できそうなのだ。
『最初は町に着くまで生きていられるかすら不安だったけど…その目指していた町までだってもう少しだし…人間って数日で成長するんだな…』
などと、良い人達との出会いにかなり助けられた事に感謝しながら、僕は町に入る前の狩りの拠点を探しながらカサールの町を目指したのだった。
街道を行くこと3日…行商人さんの話では3日程で到着すると言っていたが、スライムを見つけたら狩って粒魔石を回収したり、薬草や毒消し草などもしもの時の為に摘んだりと、川沿いの街道だった為に飲み水の心配もなく、かなりのんびりペースで旅をしている為にまだ少しかかりそうである。
しかし、なんとなく街道を行き来する人が増え始めており、
『まだ町は見えないが、どうやら近隣の小さな集落から荷物を運ぶ荷馬車も増えてきたし、他の街道と合流し始めたから町は近いのかな?』
と感じた僕は、
『よし、あまり町に近づくと町の冒険者さん達と獲物の奪い合いになったら嫌だからここらで狩りをしますか!』
と決めて、街道が合流する地点の近くの道端の広い野原にて、休憩や野宿の為に出入りの激しい商人さん達の荷馬車の邪魔にならない様に奥の方にポツンと拠点を置くことにしたのである。
拠点周辺を散歩がてらに回ってみて、ジル君達のパパさんの手引き書で読んだ知識を使い、ホーンラビットの巣穴らしきものにはジル君にも手解きを受けた、例の獲物が引きずると締まるタイプのくくり罠を2ヵ所に仕掛け、何かは分からないが小型の魔物の通り道風の草の切れ目には今回初となる生えている木の枝のしなりを使った跳ね上げ式のくくり罠も2ヵ所ほどチャレンジしてみた。
これは、しならせた木に括ったロープの輪っかが獲物に引っ掛かると地面とロープを止めてある枝のピンが抜けて、しならせた木が戻る力で締まったロープが獲物ごと少し宙に吊り上げて自由を奪う仕掛けらしいが、
『上手くいくか心配だな…』
という不安はあるが、手引き書を読んだだけでは不十分であり実際に試して上手くなるしかないだろう。
さて、罠が仕掛け終わると、あとは翌朝までママさんの手料理を思い出しながら皮袋の中でカッチカチになってしまった食べかけで放置していた日持ちだけが売りの行商人さんから購入したパンでもかじって、焚き火を眺めながら眠るつもりである。
そして翌朝…あれほど追放初日に、
「パンうめぇぇぇ!」
と、騒いで食べたのが嘘のように、いかにママさんの手料理やお弁当にもらったサンドイッチが美味しかったかを再確認しただけとなった昨夜のカチカチパンの顎へのダメージを引きずりながら、
『あのパンはカチカチになったらネズミ系の魔物の罠の寄せエサにでもしよう…』
などと考えながら罠を確認に向かうと、4つのうちに1つだけホーンラビットを縛りあげており、もう1つのホーンラビットの罠は外れの巣穴だったのかそのままの状態であり、悔しいのが川沿いの草むらの獣道っぽい場所に仕掛けた跳ね上げ式のくくり罠である。
それは何故かというと、ロープだって今の僕には限りある資源だと言うのに罠は発動したらしいが罠本体のロープがブチブチに切られて壊されていたのである。
『くそ…跳ね上げ式は、引きずり式よりロープを沢山使うのに…二つとも壊す事ないじゃないか…』
などと悔しさを噛みしめながら、壊れた罠を回収し、運良く手に入れたホーンラビットの解体を川の側で行い、肉と角と前歯、あとは毛皮と魔石を手に入れると、
「骨や内臓は…そうだな、スライムさんにお任せして、何時間かしたらそのスライムさんを倒しにくるか…」
と、ホーンラビットの塩焼きを楽しむ為にウキウキで拠点の焚き火の所に帰り、そこらの枝をブッ刺したホーンラビットの肉に岩塩をナイフでカリカリっと削ってふりかけ、じっくりと焼き上げる。
「今食べる分はしっとり系で良いが、一人で1匹は大変だからカリカリに焼いて保存食の干し肉代わりにするか…」
などと、一人バーベキューを楽しんでいたのであるが、
『腹もいっぱいだけど、スライムが骨を食べに集まってるかも…』
と、まだ半分以上残る肉はじっくりと焚き火の遠火で水分を飛ばしている間にチョチョイとホーンラビットを解体をした川の所までスライム狩りに来たのであるが、そこにスライムは居らず、ホーンラビットより一回り大きな蟹の魔物が一匹、ホーンラビットの骨にこびりついた肉や内臓など捨てた部位をモリモリと召し上がっていたのである。
一瞬目の前の光景に固まった僕であるが、無残にブチブチに壊された跳ね上げ式のくくり罠を思い出し、次に立派な蟹のハサミを確認し、
『もしや』
と、頭を過った疑念は確信に変わり、
「お前がロープをブチブチに!」
と、木のヤリを握りしめ怒りのままにお食事中の蟹に戦いを挑むのであった。
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