第13話 涙の理由
追放の経緯を告白しても尚、僕に同情し泣いてくれたママさんの優しさに感謝しながらベッドで眠りついたのであるが、収容施設では一度も見なかった夢を久しぶりに見た…それはウチの爺やであったベックさんの夢である。
ベックさんは、
「お坊っちゃま…良かった…」
とだけ言って僕を抱きしめてくれたのだった。
翌朝目が覚めると僕はまた泣いていたらしく腫れ上がった目を隠す様にまだ薄暗い早朝より起き出して顔を洗い、約束していた通りジル君と二人でホーンラビットの罠を見に行ったのであった。
村の近くの草原に向かう道中でジル君が、
「ジョンお兄さん…大丈夫?…目が真っ赤だよ」
と朝らか言うべきかどうか気をつかってくれて聞けなかったらしく、二人きりになったこのタイミングで質問して来たのである。
僕は八歳の少年の気遣いに感謝しながら、
「心配してくれてありがとね…久しぶりの人の優しさが嬉しくてね…ちょっと泣いちゃった…お兄さんなのに格好悪いよね…」
と告白すると、ジル君は、
「別に格好悪くないよ…オイラが罠の練習を頑張ってるのは父ちゃんを思い出して泣いちゃうのを隠す為でもあるんだ…ここならチルは危ないとか言えばついて来ないでしょ」
と、家でチル君には『強いお兄ちゃん』として頑張るジル君も八歳の子供である。
なので死んだパパさんを思い出して泣きたい時もあり、そんな時はパパさんから教わった罠を使い、パパさんがその罠についてのコツを教えてくれた時の姿を思い出して少し泣いちゃうらしい…
「チルは父ちゃんから罠を教えてもらえなかったから…オイラだけ特別な父ちゃんとの思い出があるから家では父ちゃんの代わりにチルのお兄ちゃんを頑張らないと…」
と、少し恥ずかしそうに語るジル君を見て、再び少年の健気さに涙が溢れそうになる…
『ダメだ…また泣いちゃう…』
と思いながら、ジル君の肩をポンと軽く叩き、
「凄いな…よく頑張ってる…」
と褒めると、彼はフッと立ち止まり僕を見て、
「父ちゃんもよく…そうやって褒めてくれたんだ…」
と、大粒の涙をポロポロと流し始めたのである。
これには僕もつられてしまい二人で少し泣いてから罠を確認に向かったのだった。
4ヵ所の罠のうち3つが作動しており、3つのうちの1つは掛かった場所が悪かったのかホーンラビットの前歯か角かでロープが切られていたが二匹のホーンラビットを捕らえる事に成功していた。
罠はホーンラビットの巣穴の出入口にロープの輪っかを仕掛けて何も知らないウサギが巣穴に出入りする時に、その輪に体を通して引っ張ると輪っかが絞まるという簡単な仕掛けである。
しかし、その単純な仕掛けこそが、焦ったらその脚力を使い逃げるにしても攻撃するにしても【突進する】というホーンラビットの特性を上手く利用し、罠が掛かる位置によれば獲物は自分の脚力が文字通り己の首を締める結果となり一撃で首の骨を折る程のダメージを負い絶命する場合まである。
そして足など致命傷にならない部分を縛り上げたとしてもロープを切られない限りはその最大の武器でもある機動力は確実に失い、倒しやすいだけの獲物に変わるのである。
『動けばきつく絞まるロープの結び方さえ覚えればこんなに簡単に…』
と、あの時放牧地にて完全敗北した強敵のホーンラビットが一匹は手を下さずとも罠により絶命し、もう一匹も
「父ちゃんみたいに弓で一撃なら良いんだけどオイラは弓はまだ練習中で…父ちゃんの本が読めたら良いんだけど…」
と、パパさん直筆の弓の指南書が読めないジル君は近くの石などを叩きつけて鈍器でドンして倒すらしいが、
「これだと、村に居る商人さんが買ってくれる角がたまにダメになるんだ…」
と言っていたので、僕は、
「ジル君パパの本の事なんだけど、昨日の晩にジル君のママにお願いされて、ちょっと良い物を作る予定だから…」
と、言いながら少しまだホーンラビットに恐怖感はあるが、ジル君の手前グッと我慢して木のヤリとナイフにてトドメからの血抜きまで行う。
これは僕の入っていた収容施設の奉仕活動の1つに、壁の工事現場周辺の魔物退治というものがあり、僕は子供だから狩りには参加出来なかったが解体作業は何度もした事がある為に死んでさえいればホーンラビットでも問題なく解体は手慣れたものなのである。
ちなみに、
『収容されていた囚人に武器を渡すと危ない』
と思うだろうが、魔物を倒した囚人達は倒した魔物の肉がドンと振る舞われ、他の囚人はスープに肉が少し増える程度の格差がその日の晩御飯に生まれる為に、遠距離攻撃魔法を放てる魔道具なる高級装備で同行している看守チームから逃げ出すよりも、黙って肉を食って、奉仕活動をちょっと頑張れば釈放になる囚人ばかりな為にあの収容施設では問題が起こらなかったのである。
そんな手際の良い僕の作業を感心しながら見ているジル君は、
「ちょっと良い物って?」
と聞くのだが、僕は、
「あとのお楽しみだよ」
と、もったいつけて獲物を回収してから二人で帰路についたのである。
手に入ったホーンラビットは村の近くの川で解体し肉は食卓行きとなり、毛皮と魔石や角、それに前歯などは村に唯一ある商店へと持ち込むと買い取ってくれ、残された骨すらスープの出汁として使われる為に無駄にする所は全く無い…
『あっ、前歯も売れるのか…』
という新しい発見と、素材を販売した代金はジル君が山分けにしてくれたので、僕はお金まで手に入れたのである。
毛皮は村に居る革細工職人さんに卸され、角や前歯などは工芸品や矢じりなどに加工される為に職人さんに安く卸す為に町よりも少し安く買われたのであるが、スライムの魔石よりも大きなホーンラビットの魔石は生活魔道具のランプなどに重宝される為に町と同じ金額で取引してくれ、小銀貨一枚と大銅貨五枚というお金を手にする事が出来たのである。
大体の内訳は魔石が小銀貨一枚で、あとの素材が大銅貨五枚と言った感じで、冒険者ギルドでなら肉までまとめて売っても解体料を抜かれて小銀貨二と少し程度なのでかなり良心的な買い取り価格だと思われ、僕はジル君に分けてもらったホーンラビット一匹分の肉以外の素材の代金を使い、
『僕も罠用のロープとか買っちゃお』
と、今回のホーンラビット狩りに味をしめて、ジル君直伝の罠セットを購入し、追加で紙などを購入してホクホク顔にて連れて行って貰えずに膨れっ面のチル君の待つ家へと戻ったのである。
お昼はママさんのホーンラビット肉料理を頂くと僕は昨日ママさんから依頼されたある物の製作に入ったのである。
ジル君とチル君は、
「ジョンお兄さん、何を作ってるの?」
と興味津々であるが、近所の子供達が、
「昨日のヤツやりたいから…」
とジル君とチル君を審査員としてお絵描きクイズをしてみるらしく呼びに来て、
「お兄さんも…」
と可愛いお嬢ちゃん達に誘われたのであるが、
「ゴメンよ…お兄さんはお仕事があるんだ…」
と、あと10年後に同じ感じに誘われたらホイホイついて行きそうなお誘いを断り、僕はジル君達の家の裏にて、
「でっきるっかな♫」
とご機嫌な鼻歌を歌いつつ、先ほど購入した物を使い文字のお勉強が出来るグッズを作っているのである。
実はジル君達のパパさんはリント王国出身の為ニルバ王国文字を読み書きはギリギリ出来たが、自分用のメモ書きから始まった罠などの指南書はリント王国文字で書かれており、リント王国っ娘だったママさんにも読めずにジル君やチル君に読み聞かせする事が出来なかったらしいのだ。
凄く読みたがるジル君に何とか読めるようにしてあげたかったが、
「敵国の文字が読める方…」
とは近所の方々にも聞けずに、
『まずはニルバ王国文字を私が教えてから…』
と、今に至ったのだそうで、
「リント王国文字の表みたいな物を…」
と、昨日お願いされたのである。
リント王国もニルバ王国も文字は違うが言語は同じルーツらしく共通している為に、前世の知識も使い、
『いろはカルタがあるじゃないか!』
と閃き、先ほど購入した紙を同じサイズに切って一枚には絵を描いて、もう一枚にはその絵の頭文字をリント王国文字は僕で、ニルバ王国文字はママさんに描いてもらった物をパパさんの罠や弓矢作りの為の工具をお借りして、薄くナタでスライスした薪用の木に天然接着剤であるニカワで合体させると、
【ニルバ&リント文字カルタ】
の出来上がりとなる。
まぁ、僕も絵には少し自信があったのだが、パパさんの絵心を受け継ぐチル君が本気で描けばもっと良いものになると思うので、壊れたりした場合に作り直す時にも必要だろうし、今後僕もニルバ王国内で町の入門表や国境などでサインする時に必要になるので、勉強用に二つの文字が並んで書いてある早見表を書く予定であり、その表があれば、もしもチル君達がこのカルタの文字を覚える前に壊してしまった時は勿論、ママさんがパパさんの指南書を読む時に便利なはずである。
そしてニカワが乾くのを待つ間にママさんは僕に、
「ジョン君も読んでみる?」
とのお許しを頂いたので、文字表を片手にチャレンジするママさんの隣で、勝手知ったるリント王国文字で書かれたパパさんの指南書を熟読し、使えそうな技を購入した紙にメモして、
『師匠…ありがとうございました…』
と、顔も知らぬジル君達のパパさんに感謝の言葉を述べたのであった。
読んでいただき有り難うございます。
よろしけれはブックマークをポチりとして頂けたり〈評価〉や〈感想〉なんかをして頂けると嬉しいです。
頑張って書きますので応援よろしくお願いいたします。




