第11話 お昼までの空き時間
修復ギフトさんが少しレベルアップしていたようで、無事に僕は枝に引っかけて破いてしまった布のズボンを修復する事に成功して、そのズボンの持ち主である幼い兄弟の弟のチル君を笑顔にすることに成功したのである。
その後、チル君のママには感謝されチル君のお兄ちゃんのジル君からも、
「凄い!お兄さんは魔法が使えるんだね」
などと尊敬されて悪い気はしなかったのだった。
僕が死んだ様に眠っていたのを心配してくれた事についてのお礼とお詫びも兼ねた修復だったのであるが、ありがたい事にズボンの修復のお礼にチル君ママからお昼を誘われ、
『いや…その前にウチの親父が大変ご迷惑をかけた町の方々にこれ以上ご迷惑は…』
と気が引けて、
「いえ、そんな…」
とお断りしたのであるが、二人の兄弟にまで、
「お兄さんも一緒に食べようよ」
「お昼まで遊ぼうよぉ」
などと甘えられると、断るに断りきれずに、
【ママがお料理する間、二人と遊ぶ代価としてお昼を頂ける…】
という事で自分を納得させ、ご厚意に甘える事にしたのだった。
『これはお昼ご飯という報酬が出るお仕事だ!』
という事で、村にご招待されて二人の幼い少年達と全力で遊ぶ覚悟なのであるが、そこで僕は、
『あれ?…この歳の一般的なお子さまって…何をして遊ぶんだ?』
と自分の過去を振り返り、前世の記憶まで振り返ってみたが、農業改革に入学準備の勉強しかやった記憶がなく、前世の記憶は古過ぎたのか子供の頃の記憶は思い出せなかったのである。
となれば僕が選ぶ方法は1つであり、ジル君とチル君兄弟のご希望を聞き取り調査するしかないのである。
しかし、これはこれで困った事になり5歳のチル君と8歳になるジル君ではニーズが違うらしく、早朝の木苺摘みで既に体力的に厳しいのかチル君は、
「お絵かきがいい」
と言って、体力的にまだまだ元気なジル君は、
「お父ちゃんみたいな猟師になりたいからお兄さんはオイラと狩りの練習に行くんだから…」
と、体を動かしたいご様子である。
僕の脳内ではこの二人の希望を叶えるべく会議が開かれ、熱い議論が交わされた結果、
『あっ、お兄ちゃんのジル君は、猟師になる練習がしたいのだから、猟師になる為の知識も必要じゃないか!』
という屁理屈にも似たアイデアから
【絵を書きながら魔物の知識を説明する】
という事に決まり、二人の家の隣の空き地にて、
「どきっ!魔物を知ろうお絵かきクイズ大会」
をチル君とジル君を回答者にお迎えし開催したのである。
二人は落ちている枝を手にやる気満々でスタンバイし、僕は、
「さぁ、お絵かきクイズの時間がやって参りました。司会は私ジョンが勤めさせていただきます…」
などと雰囲気を盛り上げ、家の書庫や学校の図書館で覚えた知識から、
「では第一問、ババン♪」
と木のヤリをスタンドマイク風に握りしめ、
「別名、【掃除屋】と呼ばれ、透けている体の中の核さえ通れば何処にでも入ってくるプルプルした魔物をお描きください!」
と僕が出題すると、二人は一斉に地面にスライムを描き始める。
流石はお絵かきを希望しただけあり絵心はチル君の方が有りそうであるが、お兄ちゃんのジル君は、実物を見た回数がチル君より多い様で、躍動感のようなものが感じられる出来映えであった。
「よく描けたスライムです…これは二人ともに大正解ですね。正解の1ポイントと出来映え点の1ポイントを与えます」
と、言って二人の顔を簡単に描いた地面の点数表にジル君とチル君双方に○を2つずつ書き入れる。
「それでは第二問、ババン♪」
と言った頃に近所の子供達も、
『なにをやってるんだ?』
といった雰囲気でチラホラと集まりだし、
「畑の土の中にトンネルを掘り、お野菜をトンネルの中から食べてしまう穴掘り名人の光が苦手な魔物は何でしょう?」
と出題すると、
「う~ん…」
と、回答者の二人の手が止まるが、観客の子供達から、
「穴掘り名人ってワームかな?」
とか
「ワームとかは目が無いから光は関係ないよ…」
などとヒントとなる声を聞いたジル君はピンときた様でチル君より先に枝を走らせたのであるが、
「穴掘り…トンネル…」
と、呟いていたチル君も答えが解った様子であり、お絵かきを開始したのである。
「はい、オイラ描けた!」
と手を挙げるジル君に遅れる事数秒、
「僕も」
と精一杯ピンと空に手を伸ばすチル君の完成した絵を見比べると、スライムの時にはあまり差が無かったが、絵心の差がここでは現れ、どちらも【畑荒らし】と呼ばれる大きいモノは体長60センチにもなるモグラ魔物の絵が地面に描かれているのであるが、明らかにチル君の方が上手なのである。
こうなると出来映えポイントに差を着けるしかなく、僕は、
「ではジル君とチル君…一斉に何を描いたか発表してください」
と言って、「どうぞ」の合図で二人は、答えを発表するのであるが、ジル君は
「畑荒らし」
と、正解を発表したのであるが、チル君は、
「マークおじさんの敵?…」
と少し自信なさげに発表するとこの頃には集まった観客に大人も混じり、笑いが起こっている。
これは間違えたチル君を笑う為ではなく、
「確かにマークの宿敵だから兄ちゃん、チル坊も正解にしてやってくれや!」
などと応援してくれていたので、この村では畑荒らしは【マークおじさんの敵】でも正解である…というか、そちらの方が面白い方の大正解なのだろう。
知らぬ間に観客の心を掴んだチル君は観客の拍手による審査でも絵の出来映え点でお兄ちゃんであるジル君に勝利し、チル君の一点リードで迎えた第三問、
「黒くて空を飛ぶ魔物でクチバシで実ったお野菜や果物の中にある硬い種までバリバリ食べてしまう魔物は?」
と僕が出題すると、既にジル君は解った様子であり、弟に、
「チル、次のはマークおじさんの空の敵って答えは無しだからな!」
と先回りで畑の作物を狙う魔物全般にオールマイティーな正解となるマークおじさんの敵シリーズを封印しようとしたのであるが、かえってそれがヒントになったらしく、
「ありがとー、お兄ちゃん」
と言ってチル君はサラサラと【コルボザ】という大きい目のカラスの魔物を描き始め、
「クソ…」
と自分の失敗を理解したジル君は必死に自分のコルボザの絵を描き始めるのであるが、やはり出来映えでチル君には劣ってしまう。
『絵は得意、不得意って有るから…』
と思いながらも正解発表に移るのであるが、ジル君の作戦は効いていららしく、
「コルボザ!」
と答えたジル君に対してチル君は、
「コル…なんとか…」
と答え不正解となり、
「マークの敵でも、良いじゃねぇか!」
などというチル君贔屓の近所のオッサンからのヤジも飛んだが、
「馬鹿ねぇ、それなら殆どの魔物はマークの敵だろ」
と、洗濯を干したついでに騒がしい空き地の様子を見に出てきた近所のおば様まで加わり、気軽に始めた兄弟のお昼までの暇潰しクイズ大会が思わぬ盛り上がりを見せていたのである。
猟師を目指し魔物に詳しいが絵心が足りない兄と、絵心があり兄と同じく魔物に興味は有るが知識に不安がある弟の抜きつ抜かれつの戦いは、お昼ご飯というタイムリミットいっぱいの最終十五問目に突入したのであった。
「それではジル君が1ポイントリードで迎えました最終問題…なんと、この最終問題はポイントが2倍のチャンス問題となります」
と僕が発表すると、ジル君は、
「えっ!? それじゃあチルだけ有利じゃないか…絵が上手いんだから…」
と、選ぶ魔物さえ間違えなければ名前を間違えても描いた魔物の出来映えでポイント的に食らいついてきたチル君が有利と考えたのだろうが、お兄ちゃんは絵こそ微妙であるが、ここまで全問正解はしているのである。
その事を気がついている観客達は、
「ジル坊、お兄ちゃんならドンと迎えうってやれや、ジル坊の方が物知りなんだからな」
と、すっかり楽しんでいるおじさんの声が聞こえてくる。
他には、
「次は私もやってみたい…」
などとお嬢ちゃんから参加希望の声が上がる程に大盛況の中で、
「では、最終問題です。ババン♪」
と僕が出題に入ると空き地は一瞬静かになり観客達も耳を傾けている。
「この地方では森の主とも呼ばれ、フォレストウルフなども蹴散らす強さを誇り、その肝は上級のポーションの材料となり高く売れ、牙や鋭く尖った爪等の素材は武器などとして加工され、毛皮に肉、骨まで余すところ無く利用出来る事から【鳴き声以外は全て売れる】と言われる猟師達の憧れの魔物は?」
と、僕が出題すると、ジル君もチル君も一斉に地面に絵を描きはじめるのだった。
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