第10話 ようやくスタートライン
追放者生活も3日目に突入し、最後のパンの欠片を見つめ、
『ラストを食べるか…それか、一か八かで川に撒いて食べに来た魚を狙うか…いや、魚を捕まえても火も起こせないから食べちゃお…』
などと川沿いの道端に座っていると、この生活で初となる旅の方と遭遇したのである。
彼はニルバ王国とリント王国とを行き来する行商の方らしく、
「おう、坊主…リント王国方面に行くなら乗せてやるよ」
と荷馬車の上から提案してくれたのであるが、そちらに行くと王国法により逮捕されてしまうので、
「いや…この先の冒険者ギルドのある町を目指しているので…」
と僕がニルバ王国方面の進行方向を指差すと、彼は、
「そうか、村は歩きで一日もすりゃあるが、ギルドのある町となると歩きで3日はかかるぞ…」
と言って、一旦荷馬車を止めると、
「坊主…身なりからして流れモンか?」
と、なんとなく僕の身の上を察して、昨日と今日で集めた粒魔石を買い取ってくれ、有難い事に荷馬車にある商品から必要な物を売ってくれる事になったのである。
といっても粒魔石は一粒で小銅貨数枚から少し大粒なものでも大銅貨一枚程度であり、手元にある十数粒の魔石を換金しても大銅貨八枚と小銅貨二枚であった。
しかし、これでも感覚的には、
「おじちゃん…かなり色をつけて買い取ってくれたみたいだ…」
と感じる金額である。
まぁ、それ程までに哀れな姿だったのだろう…だけどこの大銅貨三枚で大きさはそこそこある保存に長けた固いパン1個が買える金額という値段設定から、
『前世の記憶で換算すると大銅貨でも百円程度かな…移動しながらではあるが丸一日程は狩りに励んだのに…八百二十円程度とは…』
と日給の低さに悲しくなってしまう。
しかし、追放されて初となるお金は有り難く、食料もだが、火起こしも大事である為に僕は、
「火打石セットみたいな物ってないですか?」
と行商人のおじちゃんに聞くと彼は、
「火打石も有るにはあるが…坊主はナイフか何か持ってないか?」
と、聞くので作業着の腰ひもから下げた支給品のナイフを外して渡すと、それを手に取り引き抜いて刃を確かめたおじちゃんは、
「そのナイフならそこの川原で白っぽい石を拾ってナイフの背で打ち付ける様に擦れば火種ぐらいは出せるだろう…ここら辺は火打石の産地なんだから…」
と教えてくれ、
「坊主は文無しなんだろ…大銅貨五枚は使わずに手前にあるこの先のリント王国方面の占領された町から流れて来た避難民が集まって出来た村では必要無いが、その先のカサールでは町に入るのに大銅貨五枚は必要だからな」
とアドバイスまでくれたのであった。
それから彼は、
「町に入っても冒険者ギルドに登録するのにも金は掛かるから出来るだけ売れそうな素材は集めておけよ」
という情報まで教えてくれると、
「戦争で親や住む場所を失った奴は沢山いるが…なんでこんな若いモンばかり…」
と呟き、涙声で、
「坊主も強く生きろよ、これはオイラからのプレゼントだ」
とパンまで1つくれたのだった。
僕はおじさんの優しさに、2つ折れになる勢いで頭を下げ、おじさんの荷馬車が小さくなるまで手を振り見送ったのであった。
『身内以外は本当にいい人ばかりだな…この世界…』
と感じながらも僕はおじさんのアドバイス通り川原へと向かい、足元の石の中から白っぽい石をチョイスして早速ナイフの背ででカンカンと叩く様に擦ると小さな火花が飛んだのである。
それから良い感じの石を見つけては擦るという作業を繰り返したのであるが、そのうち火花の出が良い形や色の石が何となく解り、
『角のある水晶っぽい透明感のある石の方が火花が飛ぶな…』
という結論に至り貧乏性から使う用をはじめ予備も3つぐらい拾ってからスライムを狙いつつ町を目指して本日の移動を開始したのである。
そして、その日の夕方、少し遠くに集落の様な建物が見えたのであるが、僕は
『人が居る!』
と、興奮して駆け出す事は無かった…それは既に行商人のおじちゃんから、
『戦争で占領された町から避難した人達が作った村』
という事を聞いていた為に、
『間接的に我が家のクソ親父が大変ご迷惑をかけた方々だし、下手をするとアイツが裏の仕事で直接ご迷惑をかけた家族もいる可能性が高い』
と知っていたので、
【スルーしてカサールの町とやらまで直行】
という判断をしたのと、焚き火が出来て夜も火の側なら少し安心して魔物の警戒が出来るので、この数日の様に夜中は寝ずに警戒し白々と明けた朝に軽く眠ってから行動という無理なスケジュールでは無くなったのと、まだ手元にパンが有るという安心感から、
『下手に村に入って、こんなみすぼらしい旅の若者を可哀想に思って、色々気を遣わせては悪いし…』
あのクソ親父がご迷惑をかけた方々にできる限りご迷惑を新たに掛けなくてもよい選択が出来たのである。
『本当に行商人さんに出会えて良かった…あと、本当にあのクソ親父は…生きてても役に立たなかったのに、死んでも僕に気を遣わせるとは…』
と、身内の残念さを再確認しながら集落手前の街道横にて焚き火の傍らで久々に暖かい夜を過ごしたのであった。
集落の近くという事もあり魔物もあまり近付かない様で、遠くでウルフ系の魔物の遠吠えや近くの草むらのガサガサ音も少なく、この数日の疲れもあったのかグッスリと眠っていたらしく、
「大丈夫かい?死んでないかい??」
という優しい声で僕は深い眠りから目が覚めた。
ぼやける視界に写った人影は、
「あぁ、良かったよ生きてた…」
と、言ってから後ろの小さな二つの人影に、
「大丈夫だよ」
と声をかけたのはどうやら村の奥様と、こちらに恐る恐る近づき始めたのは子供達がのようだ。
彼女は僕に、
「朝摘みの木苺を探しに行くときに見かけて、昼前に帰って来た時にも同じ格好だったからアタシは、てっきり…」
と、どうやらピクリとも動かずに爆睡していた事で要らぬ心配をさせてしまったらしく、
「スミマセン…数日満足に寝て無かったもので…」
と僕が頭を下げると、奥様の足元には幼い兄弟が木苺でいっぱいにした小さなカゴをぶら下げながら駆け寄り、奥様の足の影から、
「お兄ちゃん生きてる?」
と、恐々聞いてくるのであった。
僕は幼い兄弟をこれ以上怖がらせない為に、
「大丈夫だよ、お兄さんお寝坊さんしてただけだから」
と伝えると、二人の子供のお兄ちゃんの方が自慢気に僕にカゴを見せて、
「僕と弟は早起きして木苺摘みのお手伝いをしたんだよ…エライでしょ」
と言ってくるが弟君の方が元気が無いのである。
不思議そうに弟君を見ている僕に気がついたのかお母さんが、
「この子、今朝お気に入りのズボンを枝に引っかけて破いちゃって…帰ったら縫ってあげるって言ったんだけど気に入らないみたいでちょっと拗ねてるの…」
と、困り顔で教えてくれたのである。
なので、ご迷惑をかけまいと村の外で野宿したにも関わらず村の方に心配を掛けさせた申し訳なさもあり、
『紙はイケたし、あの頃よりもちょっとは強くなった…はず…頼むぜ僕のギフト…格好をつけさせてくれ』
と願いつつ、弟君に、
「どこ破いちゃったの?」
と優しく聞くと弟君は、寂しそうに、
「ほら、ここ…」
と太ももの裏辺りをクルリと後ろを向いて見せてくれたのである。
『あぁ、見事にカギ裂きになってるな…』
と破れ具合を確認し、
『よし、破れてはいるが部品は欠けてないし、生地も春先の薄手の布…久しぶりのリペアの魔法だけど、たぶんこれならば…』
と確信した僕は、
「うん、これならばお兄さんが魔法で直してみてあげる」
と言って、弟君のズボンにリペアの魔法を使ってみたのであった。
すると破れた生地は逆再生でもするかの様にふさがり、それを見た弟君もお兄ちゃんも、
「すごい」
「すっご~い」
と喜んでくれ、お母さんにも大変感謝されたのであった。
とてもクソ親父がかけた迷惑の代わりにはならない事は理解しているが、少しでも感謝される事が出来た事に、なんだかこちらまで追放され一般人以下の感覚を感じていたが、人としてのスタートラインに立てた気がして嬉しくなってしまうのであった。
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