298話─全てを思い出すために
アンネローゼが名を忘れた守護者と戦っている頃、足止めを買って出たローグたちは最強のコンビ相手に大苦戦を強いられていた。
なにせ、相手は魔神を束ねる頭領リオと、彼と死闘を繰り広げた伝説の魔戒王グランザーム。まがい物とはいえ、その力はオリジナルに匹敵するのだ。
「ハア、ハア……。んだよこいつら、やべぇじゃねえか。こいつらがいたら、ソサエティとの全面戦争も軽く勝てたな……」
「ルナ・ソサエティか。守護者より与えられた知識で存在は知っている。余がオリジナルであれば、かの組織に潜む強者との決闘をしていたのだがな……残念だ」
「チッ、余裕コキやがってよ……!」
五対二、先ほどのソロンもどき戦より差は縮んだがそれでも数はローグたちが上。相手が神話レベルの強者でも対抗出来る、彼らはそう考えていた。
だが、それは甘い考えだった。オリジナルを差し置いてタッグを組めるということで、リオもどきもグランザームもどきも張り切りすぎて普段の倍近い実力を発揮しているからだ。
「あがっ! ジェディン、ヤバいっすよ! あいつらどんどんボルテージが上がってって手が付けられないっす!」
「くっ、まさかこれほどとは……! だが俺たちは勝たねばならん! アンネローゼとフィルのために! 気合いを入れて持ち堪えろ、必ず勝機はある!」
グランザームもどきの振るう大鎌の一撃を食らって吹っ飛んだイレーナは、側にいたジェディンに焦りながら伝える。
だが、だからと言って退くことは出来ない。覚悟を決め直し、二人はいまだ奮闘している仲間たちの元へと向かった。
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「うわっぷ! もう、今度は海!? 危うく海水たらふく飲むとこだったわ」
その頃、アンネローゼはとある並行世界に存在する海峡に転移していた。共に来たはずの守護者の姿はなく、突き出た岩が並ぶ海が広がっている。
「また姿が見えないわね。次は何で来るかしら。クラーケンかリヴァイアサンか……意表を突いて空からなんて……あぐっ!?」
「惜しいな、どれも違う。この地における我の姿をよぉく両のまなこに焼き付けておくがいい!」
注意深く海面を見下ろしていたアンネローゼだったが、突如背中に衝撃を受けよろめく。後ろを向くと、十メートルほど離れた海上に……一隻の幽霊船が佇んでいた。
「ウソ、船になるなんてそんなのアリなわけ!?」
「問答無用……今度は海の藻屑へと変えてくれよう。次弾、装填!」
「アイ、アイ、サー」
クリスタルが描かれた旗を掲げる、ボロボロになった幽霊船の姿に変化した守護者。乗組員である自身の分身、無数のスケルトンを使い大砲をアンネローゼへ向ける。
合計八門の大砲が一斉に火を吹き、戦乙女を冷たい水底へ叩き落とさんと砲弾の雨が放たれる。先ほどまでは墜落しても砂地に落ちるだけで済んだが、今回は違う。
一度海に落ちれば、容赦ない追撃を加えられ浮上する暇もなく沈められてしまうだろう。冗談抜きに一発も食らえない。
「全く、次から次へと! でも、コツは掴んだわ。さっきみたいに私たちのことを思い出させて、あの胎児を成長させていけば……フィルくんに戻せるはず!」
とはいえ、やるべきことは分かっているためアンネローゼの心に不安はない。砲撃を避けながら幽霊船へと接近し、守護者を探す。
「甲板の上……にいるわけないわよね、流石に。となると、船内に潜んでると見ていいわ……きゃっ!」
「惜シイ、アト少シ。ワイヤーアンカー、次弾ジュンビ!」
「アイ、アイ、キャプテン」
「っぶないわね! 翼が破れたらどうすんのよこのスカスカ骨野郎ども! 全員吹っ飛ばしてやる、武装展開……ギガサイクロン!」
相手の居場所を探っていると、船乗りスケルトンたちが甲板に小さな砲台のようなものをセッティングしているのが見えた。
設置完了後、先端に銛が付いたワイヤーがアンネローゼ目掛けて発射される。直撃して翼に穴でも開こうものなら、一気に大ピンチだ。
そこで、翼を広げて勢いよく羽ばたき、突風を巻き起こしてワイヤーを跳ね返す。スケルトンたちは力なく飛ばされ、海に落ちて消滅する。
「これでよし、と。こうしとけば攻撃も来な」
「愚かな、スケルトンがいなければ攻撃出来ぬとでも思ったか? 甘い、アンカーアクス!」
乗組員さえいなければ問題なし。そう判断して甲板に降り立ったアンネローゼだが、直後守護者の声が響き渡る。
そして、背後に水飛沫が飛び背中にイカリが叩き付けられる。スケルトンがいなくとも、船そのものとなった守護者にはいくらでも攻撃手段はあるのだ。
「いったぁ……やってくれたわね、ならこうしてあげるわ!」
「何を……むっ!」
潰れたカエルのように甲板に叩き付けられたアンネローゼは、すぐさま立ち上がり先ほどスケルトンたちが用意したワイヤーアンカーの発射台へ向かう。
相手の兵器を逆に利用し、イカリを弾いて再び海中に沈めてみせた。ついでに、発射台を再利用されないようこれも海に捨てる。
「さて、やっとこれで守護者の本体を探しに行けるわね。どこに潜んでようと見つけ出してあげる」
一通り片付け終わったアンネローゼは、船内へと侵入し守護者を探す。すぐに見つけられるだろうと思っていたが、そうは問屋が卸さない。
「テキ、テキ、テキ……排除セヨ」
「排除セヨ……」
「あー、抜かったわ! 船内にもスケルトンがいるかもって可能性すっかり頭から抜けてたわもう! 何でこいつらこんなにいるのよ!?」
船内には、部屋の掃除や料理番をしていた二十体ほどのスケルトンが待ち構えていたのだ。狭い船内を舞台に、大暴れするアンネローゼ。
「ていっ、はっ! 得物が槍でよかったわ、おかげで距離を取って戦えるし……ね!」
「迎撃、迎撃セヨ……」
「うるさいわね、アンタたち全員! 大人しく眠っときなさい! 白い薔薇よ、輝け! ホーリー・エアー!」
アンネローゼはローズガーディアンの力を使い、スケルトンたちを一気に浄化していく。が、数の多さゆえに魔力の消耗もバカにならない。
少しフラつきながら、アンネローゼは船の中を奥へと進み……やがて船長室にたどり着く。彼女は直感でここに守護者がいると判断し、扉を押し開いた。
「やっぱりね、ここにいたわ。さあ、次の一撃をブチ込んであげる」
「ようこそ、我が部屋へ。だが、あいにくもう戦いは終わりなのだ。さらばだ、乙女よ!」
船長室の奥、肘掛け椅子の上にクリスタルが浮かんでいた。アンネローゼが槍を構え、飛びかかろうとした瞬間。
アンネローゼの対角線上、部屋の天井と壁の境目付近に飾られていた絵の飾られていない額縁にマスケット銃の絵が出現する。
「なに……うっ!?」
「この船は我そのもの。我が望めばどのような事象をも引き起こすことが可能。勝負はついた、乙女よ。腹部を撃たれては動けまい?」
「やられた、わね。でも……諦めるつもりはないの。あなたを、フィルくんを取り戻すまでは!」
絵から弾丸が放たれ、アンネローゼの脇腹を貫く。幸い、致命傷には至らなかったが軽視出来るような傷でもない。
腹を押さえてよろめくアンネローゼをさらに攻撃せんと、守護者は銃の絵を増やす。直後、追撃はさせないとばかりに乙女が飛びかかる。
「くっ、まだそのような力が残っているのか!」
「そうよ、あなたに全てを思い出させるまでは止まらない! さあ、思い出して! 私たちが過ごしたあの日々を!」
「ぐっ……おおお!!」
かろうじてアンネローゼの攻撃が間に合い、クリスタルに槍が叩き込まれる。そうして、再び守護者にかつての記憶がよみがえっていく。
『あっ、そうだ! シュヴァルカイザーに会ったら頼みたいことがあるんだった!』
『頼みたいこと、ですか?』
『お願い、アタイを弟子にして! アタイもシュヴァルカイザーみたいな、みんなを守るヒーローになりたいんだよ!』
『そうか、貴殿らがそれがしをよみがえらせてくれたのか。かたじけない、感謝する』
『いえ、気にすることはないですよ。……それにしても、随分古風な話し方をしますね』
『それがしの名はオボロ。ヴァルツァイト・テック・カンパニーにて製造されたサムライ型戦闘アンドロイド。お二人とも、これよりよろしくお頼みもうす』
そうしてよみがえってきたのは、イレーナやオボロと初めて出会った頃の思い出。フィルが出会ってきたのは、アンネローゼやギアーズだけではない。
イレーナたちもまた、苦楽を共にしてきたのだ。彼ら彼女らのことを思い出し、クリスタルの中の赤ん坊が二歳児程度に成長する。
「ぐう、あ……! おのれ、まだだ……まだ、我は!」
「また世界が変わるのね。いいわ、何度並行世界を渡ろうと私のすることは変わらないわよ!」
再び世界が歪み、景色が移り変わる。アンネローゼはクリスタルの中の子どもを見つめ、勇ましく叫んだ。




