284話─ジェディンとフィルの絆
「そろそろ疲れてきたんじゃないのか? これだけ動き回っていればね」
「そんなことはない。俺がこのくらいの運動でヘバるほど虚弱体質ではないからな! ランペイジ・チェーン!」
戦いが始まってから二十分が経過してなお、ジェディンとアンブロシアもどきの戦いはいまだ優勢劣勢が決まっていなかった。
スケルトンの数は少しずつ増えているものの、一体一体のスペックがジェディンの想定を下回っていたからだ。
(何故だ? 本気で俺を追い返すつもりなら、もっと高い能力を持ったスケルトンやゾンビを作るはず。オリジナルの能力はクラヴリンたちから聞いている、こんなに弱いわけが……)
戦いが始まって十分ほど経った頃から、ジェディンは違和感を感じていた。あまりにも、スケルトンが弱いのだ。
それこそ、二十を超える数を余裕をもって相手出来る程度には。わざと戦力を落とし、自分を油断させるつもりなのかと訝しむ。
そして、その推測が現実のものとなる。試しにジェディンが動きを緩めた瞬間、それまで緩慢な動きをしていたスケルトンたちがキビキビ動き出したのだ。
「やはり、俺が油断するのを待っていたな! 小賢しい、その程度の策が通用するものか!」
「おや、見破られたか。でも……心外だね、そんな小賢しい策しか私に手札が無いとでも? 違うね、これは時間稼ぎでもあったのさ」
「!? なんだ、地面が揺れ──!?」
これまでとは比べものにならない速度と正確さで攻撃をしてくるスケルトンたちを、ジェディンは鎖をフル稼働させ返り討ちにしていく。
そんな中、アンブロシアもどきは溜めていた魔力を全て斧に宿して地面に叩き付ける。すると、墓地全体を激しい揺れが襲う。
ジェディンが周囲を見渡していると、まだ健在なスケルトンたちがサッと退却していく。直後、地中から巨大なサメの姿をしたスケルトンが現れた。
「これは……!」
「驚いた? これが私の切り札、スカルシャーク。お前を戦闘不能に追い込み、追い返すためのね!」
「グルカァァァ……」
四肢を持つ骨のサメは、空っぽな眼窩をジェディンに向けながら唸り声をあげる。一瞬気圧されていたジェディンは、すぐ我に返りバックステップで距離を取った。
「いいだろう、なら俺も切り札を見せてやる! デュアル……」
「させるとでも? スケルトンたちよ、奴の邪魔をしなさい! 力を解放させてはダメよ!」
「くっ、あくまでもこちらに全力を出させないつもりか!」
スカルシャークの登場で敵の攻撃が止まった隙を突き、レクイエム・レギオンへ変身しようとするジェディン。
だが、そうはさせないとアンブロシアもどきは即座に攻撃を再開する。スカルシャークが加わり、より苛烈になった攻めのせいで変身が出来ない。
「さあ、そのまま力尽きるまで戦うがいい。スタミナが切れたところを倒し……ぐっ!? お、まえ……!」
「なんだ? 急にスケルトンたちの……ん? この気配は……」
スカルシャークの体当たりを避けるジェディンを見ながら、アンブロシアもどきは相手の体力が底をつくのを待っていた。
……が、その時異変が起きる。彼女とその配下のスケルトンたちが、金縛りに合ったかのように動かなくなってしまったのだ。
突然のことにジェディンが訝しむ中、ふと背後に懐かしい気配を感じる。振り向くと、そこには……。
「お前……フィル、なのか?」
『久しぶりですね、ジェディンさん。……お察しでしょうが、僕もオリジナルから分離したロストメモリーズの一人です』
現在よりも幼い容姿をした、幻影のフィルが立っていた。右手を伸ばし、魔力を放出してアンブロシアもどきたちの動きを封じているようだ。
「やはりそうか。その姿……」
『今の僕は、アルバラーズ家の里を追放された頃の姿を取って顕現しています。……みんなをサポートするために』
「どういうことだ? フィル本人は俺たちを追い返したいんじゃないのか?」
『ええ、そうです。でも……心の奥深くでは、望んでいるんです。やっぱり、アンネ様たちのところに帰りたいって』
鎖を使ってスケルトンたちを排除しつつ、ジェディンは幻影のフィルに問う。そんな彼に対し、少年は答える。
アンブロシアもどきが何かを言おうとするも、魔力の膜で口を塞がれなにも喋れないようにされてしまった。
『……どんなに心を固めても、やっぱり思っちゃうんです。まだ、みんなと一緒にいたいって。ダメですよね、僕はヒーローなのに。ヒーローは、自分を犠牲にしてでも……』
「世界を救わねばならない、そう言いたいんだろう? 本当に……バカだよ、フィル。そんな悲しい結末を、俺やアンネローゼたちが望むわけないだろ!」
『ジェディンさん……』
「フィル。心の片隅で帰りたいと思っているなら、俺たちは手を差し伸べる。お前がいないと、せっかく平和になった世界が味気ないからな」
フィルの幻影を一喝した後、ジェディンは微笑みながらそう口にする。みな、待っているのだ。数多の悪を打ち破り、何度も大地を救ったヒーローの帰還を。
『……僕は、本体が心の奥底にしまい込んだ願望から生まれました。もし、みんなが……アンネ様が僕の帰りを待っていてくれるなら。僕は』
「……ぷはっ! いい加減にしろ、同じロストメモリーズが邪魔をするな! スカルシャーク、あの裏切り者を消せ!」
「そうはいかないな。もう好き勝手はさせない! デュアルアニマ・オーバークロス! レクイエム・レギオン……オン・エア!」
フィルの幻影の言葉を遮り、魔力の膜を消滅させたアンブロシアもどきが叫ぶ。スカルシャークが拘束を破って動き出す中、ジェディンが反撃に出た。
鎮魂歌を奏でる哀しみの戦士へと変身し、得物であるハンドベルを呼び出す。自身の隣にいるフィルの幻影に突進してくる骨のサメ目掛け、一撃を放つ。
「俺はフィルを救う! そのためにも、ここでつまずいているわけにはいかん! アベンジャーベル・ハンマー!」
「ゴグッ……ガァッ!」
「スカルシャークの顎を! でも残念、私が魔力を注げば何度でも再生し続ける!」
「させると思うか? 現れよ、ぬいぐるみたちよ! 奴お得意の数の暴力というものを、逆に分からせてやれ!」
ハンドベルを振るい、スカルシャークの頭部を粉砕するジェディン。アンブロシアもどきは即座に砕かれた部位を再生しようとするが、そうは問屋が下ろさない。
ジェディンの呼び出した、魂の宿らぬぬいぐるみの群れがスカルシャークに群がり爪や牙で骨を破壊しはじめたのだ。
いまだ拘束から抜け出せていない他のスケルトンたちも、ぬいぐるみの軍団によって破壊されていく。これでもう、大勢は決したと言えるだろう。
『今です、ジェディンさん! 彼女にトドメを!』
「ああ、任せておけ! これで終わらせる……奥義! レクイエム・コール・プレッサー!」
「くっ……ああああああああ!!!」
フィルの幻影の言葉を受け、ジェディンは力を込めて跳躍する。ハンドベルを巨大化させ、渾身の力を込めてアンブロシアもどきを押し潰した。
断末魔の叫びを残し、ロストメモリーズの少女は消滅した。直後、残っていた墓石も全て溶けるように消えていく。
「ありがとう、フィル。君のおかげで……待て、どこに行くんだ?」
『ジェディンさん以外にも、ロストメモリーズとの戦いで苦戦している仲間たちがいますから。彼らのサポートをしてきます』
「……そうか。分かった、行ってこい。その間に、俺は先に進む。そして……フィル本人を無理矢理にでも連れて帰るさ」
『お願いします。どうか、僕に思い出させてあげてください。全てを背負って、一人で戦い続ける必要はないんだってことを……』
そう言い残し、フィルの幻影もまた溶けるように姿を消した。その直後、城の中へと続く扉が開く。ジェディンはクリムゾン・アベンジャーの姿に戻り先へと進む。
「……ああ、もう二度と忘れないように記憶に刻み込んでやるさ。お前がいないと、みんな悲しむということをな」
先に進めば仲間と合流出来るかもしれない。淡い期待を胸に、ジェディンは廊下に足を踏み出す。一方、その頃……。
「も~、マジあり得ないんデスケド!? なんでウチの相手が魔神なワケ~!? ガチ萎え~!」
「さっきからピーピーやかましいね、少しは黙ったらどうなのさ? うるさい女は嫌われるよ?」
仲間と分断されたレジェは、城の武器庫に飛ばされてた。そこに潜んでいたロストメモリーズ……斧の魔神ルテリもどきに襲われていた。
「や~だよ、お喋りやめたら寂しくてマジ死んじゃうって感じだしぃ~。チミ倒して、さっさとフィルちんへるぷっぷしに行くも~ん」
「へー、言うじゃん。ならやってみな? 記憶の欠片から生まれた存在とはいえ、魔神に勝てるんならね!」
アンネローゼ、ジェディンに続く第三の戦いが幕を開けようとしていた。




