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282話─交差する二人、重ならぬ想い

「悲しいです。どうしても退かないというなら……僕が全員、追い返す。ダイナモドライバー、プットオン。シュヴァルカイザー……オン・エア」


 フィルの残留思念は悲しそうな顔をしつつ、腰に巻いたベルトを起動させる。アンネローゼたちにとって見慣れた、漆黒の帝王が姿を現す。


「なら、俺たちも」


「待って、ジェディン。ここは私に任せて、みんなは先に行って。彼は……フィルくんの残留思念は私が相手をするから」


 真っ先にダイナモドライバーを起動しようとするジェディンを、アンネローゼが制止する。残留思念の相手を引き受け、仲間たちを先行させるつもりなのだ。


 シュヴァルカイザーの強さ、優しさ、気高さ……全てを誰よりも知っている自分が戦いたい。その思いを受け取り、ジェディンは頷く。


「……分かった。ここは任せるぞアンネローゼ。必ず勝って追い付け。いいな?」


「もちろん。安心して、みんな。フィルくん本人を救うためにも、ここで負けられないから! ダイナモドライバー、プットオン。ホロウバルキリー、オン・エア!」


 ジェディンにそう返し、アンネローゼはベルトを起動させ変身する。イレーナたちも変身を行い、城目掛けて突き進んでいく。


「姐御、アタイらは先に行くっす! 絶対追い付いてください!」


「負けるな~、アンネちん! ふぁいお~」


「アンネローゼ殿なら勝てる! それがしはそう信じていまする!」


「頑張れよ、アンネローゼ! 見栄張って残ったんだ、負けたら承知しねえからな!」


 イレーナたちは励ましの言葉を残し、一斉に跳躍して城のバルコニーに着地する。その様子を、残留思念は黙って見送った。


「あら、いいの? みんなを止めなくて」


「いいんだ。城の中には、僕よりも強いロストメモリーズがたくさんいるから。君を追い返せれば、それでいい。さあ……始めようか」


「ええ、そうね。貴方を倒して、先に進ませてもらうわ! 武装展開、聖風槍グングニル!」


 指先に魔力を込め、アンネローゼに向ける残留思念。魔力の弾丸を放つつもりだと看破したアンネローゼは、槍を呼び出し突進する。


 先手必勝、相手の出鼻を挫いてやろうとアンネローゼは槍を振るう。対するフィルの残留思念は、大きくジャンプしてアンネローゼを飛び越す。


「隙だらけだよ。マナリボルブ:マシンガン!」


「っと、後ろに回り込むなんて流石ね! なら……シャトルエスケープ!」


 ガラ空きの背中に、大量の弾丸を浴びせかける残留思念。直後、アンネローゼは翼を広げて上空に飛翔、攻撃から逃れた。


「反撃よ! 武装展開、ローズガーディアン! 赤い薔薇よ、輝け! フラムシパル・ガーデン!」


「マナリボルブを燃やし尽くした……。なるほど、一筋縄じゃいかないか」


「なんかいいわね、敬語じゃないフィルくんって。こんな戦いの中じゃなくて、デートの最中に聞けた方がもっとよかったんだけど」


 逃れたはいいものの、弾丸は軌道を変え、追尾してくる。アンネローゼは盾を呼び出し、弾丸に火炎を浴びせて消滅させた。


 その様子を見て、フィルの残留思念は感心しつつ警戒心を強める。着地したアンネローゼは、普段と違う口調の相手にそう呼びかけた。


「デート……か。まだ覚えてるよ、貴女と過ごした日々のことは。楽しい時間だったって」


「そう思ってくれているなら、戻ってきてよ! そこまでして自分を犠牲にする必要なんてないのに! それに……」


「それに……なにかな」


「フィルくんが消えたって、ウォーカーの一族は生まれてくるのよ。アイツらを生み出し続ける黒幕がいる限りは」


 過去を述懐する残留思念に、アンネローゼは考えを改めてほしいと呼びかける。そして、アルギドゥスもどきに会った時から感じていた疑問を投げ掛けた。


 今いるウォーカーの一族がフィル共々消えたところで、問題は解決しない。一度は根絶やしにされた一族が、再び現れたのだから。


 ゆえに、ウォーカーの一族の背後にいる黒幕を放置したままフィルが消えても意味はないのではないか。彼女はそう問うたのだが……。


「大丈夫、そこもちゃんと折り込み済みだから。本体は、ただこの大地を守ってるだけじゃない。襲ってくる一族の力を奪い、蓄えているんだ。そして……」


「そして……?」


「十分に力を蓄えた後で、こちらから打って出る。そうして滅ぼすのさ。ウォーカーの一族を裏で操る存在をね」


 ただ敵を迎え撃っているだけでは無意味。そんなことは、守護者ことフィルも重々承知していた。ゆえに彼は待っているのだ。


 十分に力を蓄え、自分たち新旧ウォーカーの一族を生み出した黒幕を討伐出来る時が来るのを。そうして宿敵を滅ぼした後、自分も消えるつもりなのだ。


「今はまだ、十分な力がない。千年の時を経てもなお、ね。でも、いつかは」


「……ごめんね、フィルくん。貴方の決意とプランは分かったわ。でも……それを実行させるわけにはいかないの。貴方を失いたくないから!」


 残留思念の言葉を遮り、アンネローゼは相手の懐に飛び込む。翼の先端を使い、相手の両手を包み込んで魔力を流し込み一時的に機能を喪失させる。


「たった一人で抱え込んで、自分を犠牲にするだけで済むならそれでいいなんて……本当に貴方の悪いクセね、その考え方! 私が矯正してあげる、そんなことしなくてもいいんだって!」


「何が分かるのさ、君に。ウォーカーの一族として生まれた僕の苦悩なんて理解してもいないくせに!」


 アンネローゼの言葉に反発し、残留思念は天高く飛び上がる。力尽くで翼を振りほどき、アンネローゼをクラッチする。


 上下が反転したアンネローゼと背中合わせになり、四肢を固定したまま落下していく。かつてフィル自身が食らい、敗れた奥義。


 夜空流星落としをアンネローゼに仕掛けたのだ。相手の言葉を受け、戦乙女は静かに語り出す。


「……そうね。フィルくんの哀しみや苦悩は、貴方だけのもの。それを完全に理解出来るなんて、傲慢なことは言えない。でも……それでも! 悩みや苦しみを分かち合うことは出来るのよ!」


「うっ……!? ど、どこからこんなパワーが……!? まずい、振りほどかれ……」


「フィルくんが悩み苦しんでいるなら、私も一緒に苦しむ! 喜びを味わっているなら、私も共に歓喜の涙を流す! それが貴方の恋人である、私に出来ることだから! シャトルエスケープ!」


 相手の全てを理解出来ずとも、抱く想いを分かち合うことは出来る。だからこそ、アンネローゼは改めて決意する。


 フィルを止め、二人で共に新たなる脅威に立ち向かうべきなのだと。たった一人の大切な恋人と、大勢の無辜の民。


 両方を救うことが出来なければ、ヒーローになどなれない。ゆえにアンネローゼは飛翔する。


「くっ、抜けられ……」


「ごめんね、こんなことをしたくはなかった。でも……貴方をここで倒しておかないと、イレーナたちが後々苦労するから。だから……」


「いいんだ、気にしないで。アンネローゼ……本当は、本体も分かってるんだ。貴女たちが正しいと。だから、彼を……僕を、救ってあげて」


 今度はアンネローゼが残留思念の襟首を掴み、天高く舞い上がる。そして、そのやり取りの後……意を決したアンネローゼは、相手の身体に槍を突き刺す。


「……約束するわ。必ずフィルくんを救うって。そうして、みんなでいえに帰るの。……これで終わりよ!

天翔奈落落とし!」


 誓いの言葉を口にした後、アンネローゼは勢いよく急降下していく。虹の橋にフィルの残留思念を叩き付け、決着をつけた。


「……ありがとう。どうか、終わらせて……あげて。僕の……旅を。それが出来るのは……貴女、しか……いな、い……か、ら……」


 弱々しい声でそう口にしながら、フィルの残留思念は優しくアンネローゼの頬を撫でる。その直後、力尽きた残留思念は溶けるように消えてしまった。


「……ええ。貴方の想い、受け止めたわ。さあ、行かなきゃ。私も……あの城の中に」


 残留思念が消滅してから数分後、アンネローゼはゆっくりと立ち上がり後ろを振り向く。すでにジェディンたちは城内に突入し、バルコニーにはいない。


 堅く閉ざされていた城の正門は、いつの間にか開いていた。アンネローゼを誘うかのように。戦乙女は一歩踏み出し、門へと向かう。


「さあ、行くわよ。この先に誰が立ち塞がろうと、私のすることは一つ。自己犠牲したがりな恋人を、引きずってでも連れ帰ってやるんだから」


 そう呟き、アンネローゼは不敵な笑みを浮かべた。

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― 新着の感想 ―
[一言] たかが残留思念で勝てると思ったか(ʘᗩʘ’) 千年経っても掠れ消えるだけの奴の思念と居なくなった時からの悲しみの日々を一日千秋で過ごした女の意地(-_-メ) 最初から結果は見えてしたぞ(…
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