280話─聖礎の鍵の復活
「着いたぜ、ここがオレたちの居城……グランゼレイド城だ」
「わ、凄い! 空の上に街とお城がある!」
バルバッシュと共に、魔神たちの住む大地……キュリア=サンクタラムへとやって来たアンネローゼ。天空に浮かぶ都市を見て、目を丸くしている。
双子大地とは時差があるようで、こちらはまだ昼前なようだ。大通りを、たくさんの人々が忙しなく行き来していた。
「すげぇもんだろ? オレも初めて見た時は驚いたもんだ。さ、こっちだ。この時間なら……リオも起きてんだろ」
「いいわね、この街。フィルくんを取り戻したら……デートしたいわ」
街の中心に聳える白亜の城へ向かう中、アンネローゼはキョロキョロ周囲を見ながらそう口にする。カルゥ=イゼルヴィアほどではないが、この街も発展している。
面白いものや素敵なものがたくさんあるだろうと、フィルを助け出した後のことを夢想する。そんな彼女に、バルバッシュは答えた。
「おう、そうしろそうしろ。ここは面白いモンがたくさんあるし治安もいいからな。ここ数百年は、リオが新しく創ったスポーツが」
「おや、どうしたんだいバルバッシュ。ギール=セレンドラクで会合をしている頃合いだろう? 何か……ん、君は」
「お、ダンスレイルか。いやな、この嬢ちゃんがリオに頼みたいことがあるんだと。ゴッドランド・キーを新しく造りたいんだとさ」
「あ、ダンスレイルさん。お久しぶりね」
城へ向かっていると、空から街の警備をしていたダンスレイルが降りてくる。手短に事情を聞き、うんうんと頷いていた。
「やあ、久しぶり。ふむ……ゴッドランド・キーを造りたいか。何か複雑な事情がありそうだね、城に行きながらでいいから聞かせてくれるかい?」
「ええ、分かったわ」
ダンスレイルも加え、三人はグランゼレイド城へ向かう。一通り話を聞いた斧の魔神は、翼を畳みながら顎を撫でる。
「なるほど……そういうことなら、リオくんがなんとか出来るかな。ウォーカーの一族も関わっているわけだし、アブソリュート・ジェムでササッと造れるだろう」
「よかった~……って、もう知ってるのね。新しいウォーカーの一族のこと」
「あたぼうよ、オレたちの情報網舐めちゃいけねえぜ嬢ちゃん。旧一族よりも強くて歯応えのある連中揃いだ、新しい一族はな」
「その中でも特に、一族を纏める存在……【渡りの六魔星】なる者たちはかなり厄介な存在だ。まだ二人しか確認出来ていないが、両方強くてね。神々の軍勢も度々返り討ちにされてるくらいさ」
城に入り、玉座の間を目指す道中でも話は続く。すでに、魔神たちは新たなウォーカーの一族との戦いに身を投じているようだ。
今もなお、聖礎を守るために戦い続けているのだろうフィルを想いアンネローゼはうつむく。早く彼を助け出し、安息の日々を迎えさせてあげたいと強く願う。
「そう……。フィルくんも、そんな奴らと戦っているのね」
「ああ、そうだろう。奴らにとって、ミカボシは喉から手が出るほど欲しい兵器だろうよ。私たちとしては、どうにかフィルくんから分離させて完全に破壊したいと思っている。その方が安全だからね」
「ああ、フォルネシア機構に行って資料を見たが……ありゃヤベえわ。フィニスとは別のベクトルで存在しちゃいけねえモンだ、ミカボシはな」
そんな話をしていたところで、ようやく玉座の間の前にたどり着く。大きな両開きの扉を二人の魔神が開け、中の様子があらわになった。
広い玉座の間の天井から、巨大なシャンデリアが吊り下げられている。よく見ると、その中にベッドが作られているようだ。
「おい、玉座にリオがいねえぞ。また昼寝してんな、あいつは」
「仕方ないさ、ここ最近忙しいからね。起こしてくるから、少し待っていてくれたまえ」
「あ、うん。分かったわ」
どうやら、リオは昼寝をしているらしい。ダンスレイルは翼を広げ、愛しの旦那を起こしに向かう。ベッドを覗き込むと、リオがすやすや寝ていた。
「ぐうー……すうー……」
「リオくん、リオくん。ぐっすり寝ているところ、悪いんだけど起きてくれるかい? 君にお客様が来ているよ」
「ん……ふわぁ~。ダンねえ、起こしてぇ……?」
「クスッ。今日は甘えん坊だね、小さな旦那様? そんな君も愛おしいよ」
猫さんマークがたくさんついたパジャマを着たリオは、寝ぼけてダンスレイルに抱き着く。斧の魔神はそんな彼をよしよしと撫でながら、むにむにと頬を摘まむ。
「ん、ふぁ~。よし、起きた! よっこら……あれ、アンネローゼさんだ。この城に来るのははじめましてだね!」
「ええ、そうなるわね。リオさん、実は貴方にお願いがあって来たの。えっとね……」
シャンデリアベッドから飛び降りたリオは、アンネローゼを見つけ嬉しそうにしっぽを振る。事情を聞いた後、猫耳をピコピコさせながら答えた。
「なるほどー、そういうことなら僕がお助けするよ! 鍵の片割れって、今持ってる?」
「ええ、ヘカテリームから預かってきてるわ。はい、これ」
「ありがと。ちょっと待っててね、今アブソリュート・ジェム呼び出すから。……てやっ!」
アンネローゼからゴッドランド・キーの片割れを受け取ったリオは魔力を解き放ち、緑と黒の宝石……『創造のエメラルド』と『境界のオニキス』を呼び出す。
あらゆるモノを創り出す力と、現実を改変する力を合わせて失われた片割れを生み出し、鍵を完全なものにするつもりなのだ。
「ダンねえ、バルバル、アンネローゼさん連れてちょっと下がってて。加減間違えると爆発するかもしれないから」
「あいよ、んじゃ奥の方に行ってるわ。行くぞ、アンネローゼ」
「はーい。……大丈夫かしらね、これで失敗なんてしたら目も当てられないわ」
「大丈夫さ、リオくんなら何があってもしくじらないよ。絶対にね」
万が一に備え、玉座の裏に隠れるアンネローゼたち三人。固唾を飲んでい見守る中、リオは二つのジェムを使い鍵をよみがえらせる。
「むむむむむ……!!! やっぱりゴッドランド・キーを造るってのは大変だね……。でも、格好つけた手前絶対に成功させるぞ! やあっ!」
「きゃっ、まぶし! ど、どうなったのかしら? 成功? それとも……」
宝石を介して鍵の片割れに魔力を注ぎ込み、復元を試みるリオ。数分ほど魔力を注いでいると、鍵からまばゆい光が放たれる。
平然と目を開けているダンスレイルたちとは対照的に、あまりのまぶしさに目を閉じるアンネローゼ。しばらくして、光が消えると……。
「ふー、疲れた。でも、たくさん魔力を注ぎ込んだ甲斐はあったね! ゴッドランドキー、完全復活! わっはっはっー!」
そこには、ビシッと決めポーズをしながら鍵を天高く掲げるリオがいた。どうやら、無事にゴッドランド・キーを復活させられたようだ。
「ほら、言った通りだろう? リオくんなら絶対に成功するってね」
「す、凄い! ホントに鍵が復活したわ! これでやっと、フィルくんを助けに行ける……!」
シャンデリアの下に戻り、リオから鍵を受け取るアンネローゼ。これで、フィルのいる聖礎へ入るための準備は整った。
後は双子大地に戻り、万端の支度を調えて仲間と共にフィルを救うだけ。リオにお礼を言った後、アンネローゼはバルバッシュに連れられ帰っていく。
「……さて。僕が手助け出来るのはここまでだね。後は、アンネローゼさん自身が道を切り開いていくのを祈るだけだよ」
「そうだね、リオくん。彼女は救えると思うかい? 愛しい伴侶を」
「出来るさ! 彼女ならきっとね。……あふ。お昼寝の途中だったから、また眠くなってきちゃった」
「ふふ、ならもう一度お眠りよ。そうだ、今度は私のふかふかの翼でリオくんを包んであげよう。今なら子守歌も付いててお得だよ?」
「じゃあ……一緒に寝るー。ぎゅー」
「……全く。本当にリオくんは甘えん坊で可愛いね。これはもう『仲良し』しないと失礼だね? ふふふふふふふ」
目がとろんとしてきたリオは、睡魔に襲われダンスレイルに抱き着く。伴侶を抱き返し、ダンスレイルは己の唇を舐める。
そのままシャンデリアベッドへと飛び、二人でお昼寝タイムに突入しようとするが……。
「こらー! 抜け駆けは禁止だよ、ダンスレイル! 拙者は全部見てたからねー!」
「く、クイナ!? いつの間に天井裏に……!」
「そっちが抜け駆けするつもりなら! 拙者も混ざっちゃうもんねー! お邪魔しまーす!」
天井板の一部がズレ、そこからクイナがエントリーしてきた。下手に拒否して大事になるより、三人仲良くしていた方がいいと考えダンスレイルは彼女を招き入れる。
なお、その後アイージャにバッチリ抜け駆けを見抜かれ二人一緒にお説教されることになったのは言うまでもない。




