276話─聖なる鍵をその手に
「七、七、三、四、八……ん、ビンゴ! ようやく金庫が開いたぜ」
「な、長かったわね……もう何時間経ったかしら? 二時間くらいやってたんじゃない?」
「あーまあ、そんくらいか? ま、開いたんだからよしとしておこうぜ」
最奥の金庫の元へたどり着いてから約二時間後、ローグはようやく解錠することに成功した。金庫を開いて、中に納められている箱を取り出す。
蓋に『封』の文字が記された黒い箱は、魔術的な防護措置が施されているようだ。今のアンネローゼたちには、開けるすべがない。
「俺にやれるのはここまでだ。こっからはイゼルヴィアに行って他の魔女たちに何とかしてもらうっきゃねえな」
「ふえ~、疲れた~。マジやばたんピーナッツ~。早く帰ってご飯食べてお風呂入って寝た~い」
「確かに……だいぶハードな一日だったからな。流石の我輩も少し疲れた」
ドローン軍団やアルギドゥスもどきとの戦いで疲労困憊な一行は、目当てのものを手に入れたこともあり退散することに。
来た時と同様に、ターミナルに向かい乗り物に搭乗する。そうして、アンネローゼたちの倉庫魔界探索は幕を閉じたのだった。
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その頃、夕方のカルゥ=イゼルヴィアにて。イレーナたちはレジスタンスのアジト跡地で、瓦礫の撤去及び埋没した備品の発掘作業をしていた。
「オーライ、オーライ。そーっと下ろして、トラックに積んでちょうだい」
「これでよし、と。今日の作業もそろそろ終わりね。いつになったら撤去が終わるのやら」
この三ヶ月、街の復興と平行してアジト跡地の整備を進めてきた。が、何せルナ・ソサエティの目から逃れるため僻地に建設されていたのだ。
そう簡単に瓦礫の撤去が出来るはずもなく、三ヶ月かけてやっと半分ほど作業が終わった……というのが現状であった。
「はー、なかなか発掘出来ないっすねー。瓦礫もまだたくさんあるし、こりゃあ時間かかりそうっす」
「まあ、焦っても仕方ない。急ぎすぎて怪我をするようなことになれば本末転倒だからな」
「そっすね……。とりあえず、あとちょっと作業やったら終わりに……ん?」
「どうした、イレーナ。なんか見つけたのか?」
ジュディとサラに手伝ってもらいつつ、鍵の発掘をしていたイレーナとジェディン。今日の作業をそろそろ終えよう……としていたところで、何を掘り出す。
「なんすかね? この箱。なんか厳重な封印がしてあるみたいっすけど」
「なんでしょうね? 今総裁に聞いてくるので、ちょっと待っててください」
X字状の紐で堅く封をされた緑色の箱を掘り出したイレーナは、何が入っているのだろうと首を傾げる。サラが箱を持ち、指揮をしているメイナードの元に行く。
しばらくして、メイナードを伴ってサラが帰ってきた。箱の中身を知っているらしく、事情を知っていることもあり封印を解いてくれることになった。
「よく見つけてくれたね。その箱の中に、ゴッドランド・キーの片割れを入れてあるんだ。守りの魔法を何重にもかけてあるから、潰れずに残ってたみたいだ。よかった……」
「おー、ラッキーっすね! そんじゃ、サクッと封印解いちゃってほしいっす!」
「ああ、任せてくれたまえ。それでは……」
「悪いんだけど、そうはいかないかなー。その箱の中身、私が貰うよ」
メイナードが封印を解こうとした、その時だった。突如、どこからもとなく大量の小さなブロックが飛んでくる。
ブロックが一つになり、人の姿を構築していく。そうして、かつてフィルとアンネローゼに倒された魔女の一人……テルフェもどきが現れた。
「お、お前は! 一体どうなってんだ、とっくの昔に死んだ奴がどうして!?」
「私はテルフェ本人ではない。聖礎に座す守護者の記憶より生まれしロストメモリーズが一人。魔女よ、その箱を渡せ。さもなくば命を奪うことになる」
「メイ、下がって。奴は俺とイレーナが倒す。サラとジュディは、万一の時に備えて他の魔女を呼んできてくれ」
「は、はい!」
「任せてくれ!」
「済まない、ジェディン。しかし……奴を生み出した守護者とは何者だ?」
ジェディンの指示を受け、メイナードは箱を守るため現場を離れる。同時にジュディとサラも、別のエリアで作業しているシゼルたちを呼びに向かう。
「逃げるか。まあいい、邪魔者を始末してからゆっくり追えばいいだけのことだ」
「ジェディン……なんかこいつ強そうっすよ。油断しちゃダメみたいっす」
「油断など元よりしない。何のために俺たちの妨害をしてくるのかは知らぬが……邪魔をするなら排除するのみ! デストラクション・チェーン!」
作業中の安全確保のため、あらかじめクリムゾン・アベンジャーアーマーを着ていたジェディンが先制攻撃を仕掛ける。
鎖を伸ばし、相手を貫こうとするが……テルフェもどきは無造作に手を振るい、鎖を掴んで止めた。
「! 止められた……!?」
「一ついいことを教えてあげよう。守護者の記憶より生まれたまがい物ではあるが……私はオリジナルと同じ力を使えるのだ!」
「ジェディン、危ないっす!」
「くっ……ぬっ!」
魔力が渦巻くのを感じ、イレーナが叫ぶ。直後、ジェディンは鎖を自切してその場から離脱する。その刹那、凄まじい重力によりジェディンのいた地面が陥没した。
「……『圧滅』の魔女、だったか。奴の異名は」
「そうだ。オリジナルはそう呼ばれ、その暴君の如き残虐さに恐れられていた。反吐の出る話だ」
「まがい物にまでけちょんけちょんに言われるって、だいぶ哀れっすね……。ま、それはそれとしてお前は倒すっすけど! でたらめバースト!」
「フン。その程度の攻撃、防ぐ必要もない」
「あひぇっ!? フツーにバラバラになったぁ!?」
次はイレーナが攻撃を放つ……が、テルフェもどきは全く動じることなく弾丸を受ける。肉体を構成するブロックがバラバラになるも、即座に再生してみせた。
これまで戦ってきた相手とはベクトルの違う厄介さに舌を巻きつつ、ジェディンは切除した鎖を再生させる。敵を排除しなければ、安全に箱を開けられない。
「やれやれ、もう戦う必要はないと思っていたが……そうも行かないか。まあいい、フィルたちから話を聞いてお前のタネは割れている。すぐに仕留めてくれる! ストライク・チェーン!」
「ムダなことを。守護者は全て知っている。お前たちがどんな攻撃をするか、それらを食らったらどうなってしまうのかを。ゆえに……」
「! 紙一重で避けた……!?」
「こうして回避するのは簡単なことだ。……潰れろ!」
「そうはいかないっすよ! てやっ!」
「ぐうっ……!」
ジェディンの連続攻撃を全て皮一枚で避け、反撃の魔法を放とうとするテルフェもどき。そこにイレーナがマグナム弾を放ち、相手の頭を粉砕した。
その衝撃でテルフェもどきの攻撃が中断され、動きが一瞬止まる。その隙を見逃さず、ジェディンとイレーナは攻撃を畳み掛ける。
「この機を逃すな! ギガチェーン・ハンマー!」
「了解っす! フルバーストパレード!」
「チッ、再生速度以上の速さで私を崩壊させるつもりか。ムダだというのに……。他のロストメモリーズが見たら、失笑するだろうな」
相手を完全にバラバラにしてしまえば、再生も不可能だろう。そう考え、無慈悲に攻撃をブチかます。だが、テルフェもどきは逆に呆れていた。
「はあ、はあ……こんだけ弾をブチ込めば……」
「バカな奴らだ。攻撃の最中に再生出来なくても、息切れした隙を突けばいいだけだというのに。少し知恵が足りないな、お前たちは」
「……チッ。どうにもやりにくい。これはどうしたものか……」
イレーナたちの攻撃が止まった隙を突き、完全な再生を果たすテルフェもどき。どうやって相手を倒そうかジェディンが考えていると……。
「二人とも、お待たせしました! シゼルさんたちを連れてきましたよ!」
「せっかくだから、トワイア隊長とエスタール隊長にも来てもらったぜ!」
助っ人を連れたジュディとサラが戻ってきた。シゼルだけでなく、トワイアたちも見つけてきてくれたようだ。
「ジェディン! イレーナ! 話は聞いたわ、ここからは私たちが力を貸すわよ!」
「わー、ホントにテルフェだー。なんか玩具みたいな見た目してるねー、おもしろーい」
「笑っている場合ではないぞ、トワイア。奴を見ただけで分かる、実力は本物と遜色ないとな。油断はするな、下手すればやられるぞ」
強力な助っ人を加え、ジェディンたちの反撃が始まる。戦いの行く末は、果たして……。




