272話─聖域の鍵を求めて
ゴッドランド・キーを手に入れるため、アンネローゼたちはクラヴリンに案内され暗域へ向かう。いくつものポータルを潜り、目的地を目指す。
その道中、クラヴリンはアンネローゼたちに倉庫魔界についての説明を行う。カンパニーの重要な書類等を保管していただけあり、相応に危険らしい。
「生憎、倉庫魔界のセキュリティを解除出来るのは社長以外にはいない。我輩はおろか、コーネリアス陛下ですら解除を諦めた代物。下手をすれば命を失う、気を付けてほしい」
「ほー、そいつぁ面白えじゃねえか。そのセキュリティと俺の怪盗としてのスキル、どっちが上を行くか対決してやるぜ」
「頼もしい限りね、やっぱりアンタを連れてきてよかった。……ところで、この乗り物まだ乗ってなきゃダメなの? 棺桶に押し込められてるみたいで嫌なんだけど」
「もうしばらくの辛抱だ、我慢してほしい」
現在、アンネローゼたちは暗域から切り離された別空間にある倉庫魔界に向かっている。……棺桶を彷彿とさせる、空飛ぶ鉄箱型の船で。
船自体がわりと大きいため、窮屈ではないが閉塞感が凄まじい。何しろ、ちょっとした換気口以外は窓すらないのだ。
「倉庫魔界はカンパニーの重要拠点。社内に潜り込んだスパイに場所を特定されないよう、自動運行で行き来するようになっているのだ」
「なるほど、そういうこと。オボロも詳しいわね、元社員なだけあって。……そのシステム、今はもう無意味だけどね」
「ああ、だがこのシステムは誰にも変えられぬ。それがしやクラヴリン殿、果ては上位の魔戒王ですら」
防御システムを構築したヴァルツァイト・ボーグは死んだ。だが、彼の遺したシステムがアンネローゼたちに牙を剥く。
ゴッドランド・キーを手に入れるため、危険な冒険をしなければならないことを……この時、アンネローゼ一行はまだ知らない。
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「……というわけで、ゴッドランド・キーについて知りたい。ヘカテリーム、何か知っていることはないか?」
「ゴッドランド・キー……ね。存在自体は知っているわ、長い間ルナ・ソサエティで管理していたから」
一方その頃、ジェディンとイレーナの二人はカルゥ=イゼルヴィアに飛び、新たに建設されたルナ・ソサエティ本部に来ていた。
聖礎に入るための鍵を、もしかしたらルナ・ソサエティが持っているかもしれないと考え新たな魔女長となったヘカテリームに接触したのだ。
「お、ビンゴっすね!」
「でも、残念ながら完全な形で……とはいかないの。レジスタンスが誕生、分離独立した時に彼女たちが鍵を分割し、片割れを持ち去ったから」
「えー、そうなんすか? あ、でももう片っぽは」
「そちらも今は喪失したの。ミカボシにイゼルヴィアを滅ぼされた時にね。……前任の魔女長、マーヤが生きていれば簡単に見つけられたかもしれないのだけれど……」
鍵の存在自体は、ヘカテリームが知っていた。しかし、こちらは紛失してしまったようだ。申し訳なさそうに、魔女は頭を下げる。
「仕方ないさ、無くしてしまったのなら探し出せばいいだけのこと。それと、改めて……マーヤの冥福を祈らせていただく」
「ありがとう。不思議なものね、元は敵だった貴方たちとこうして共存しているなんて。……マーヤが見たら、きっと喜んでいたでしょうに」
ミカボシとの最終決戦で、マーヤは部下たちを守るため身を挺して盾となった。その時に負った傷がたたり、戦後……ひっそりと息を引き取った。
悲しみに暮れるヘカテリームやマルカ、クウィンにローグたちの様子を今でもジェディンは鮮明に覚えている。あのローグが泣き崩れる姿は、忘れようにも忘れられないのだ。
『バカ野郎が……お前にはやらなきゃいけないことがたくさんあるだろうよ、マーヤ。なのに……俺より先に逝っちまいやがって。チクショウ……』
(……悲しいものだ。結局、あの戦いを全員で生きて乗り越えることは出来なかった。それが戦争とはいえ……無情でやるせない)
マーヤの葬儀のことを思い出していたジェディンだが、イレーナに肘をつっつかれ我に返る。いつの間にか、話し合いが先に進んでいたようだ。
「大丈夫っすか? ジェディン。疲れてるなら、先に帰って休んでてもいいっすよ?」
「いや、大丈夫だ。それで……話はどこまで進んでる?」
「ええ、まずはメイナードのところに行ってみるべきだと提案したところよ。レジスタンスのアジトは辺境にあったから、ミカボシの分身の被害も少なかった。多分、残骸の下を探せば鍵の片割れを見つけられるはずよ」
「……そうだな、行ってみるとしよう。イレーナ、出発だ。ヘカテリーム、いろいろとありがとう」
「礼はいらないわ。私の方も、マルカや御子様と協力して鍵を捜索する。……大きな恩があるもの、シュヴァルカイザーには」
「ありがとっす! んじゃ、アタイらはもう行くっすね」
ソサエティが管理していた鍵の片割れの捜索は魔女たちに任せ、ジェディンたちは元レジスタンス基地の復興作業をしているメイナードたちの所に向かう。
転移魔法で作業員たちの暮らす仮設住宅地に行き、サラとジュディに会い事情を話す。結果、すぐにメイナードと会うことが出来た。
「なるほど、ゴッドランド・キーの片割れを探しに来たのか。それならちょうどよかった、今瓦礫に埋もれてる貯蔵庫の発掘作業をしててね。そこに鍵を納めた金庫もあるんだ、上手く行けばあと数日で取り出せるかもしれない」
「ホントっすか! じゃあじゃあ、アタイたちもお手伝いするっすよ! その方が早く発掘も終わるし! ね、ジェディン!」
「ああ、そうだな。微力ながら力になろう。なんなら、今からでも手伝うぞ?」
幸いにも、こちらは鍵の片割れがキチンと保管されていた。とはいえ、瓦礫の下に埋もれてしまっているためそう簡単には手に入らない。
少しでも早く手に入れるため、作業の手伝いを申し出るイレーナたち。仮説事務所を出て、早速作業に加わろうとするが……。
「えっ!? じ、ジェディン! あそこ、あそこ見てほしいっす! し、しししシショーが! シショーがいるっす!」
「なに!? ……本当だ、どうしてあんなところにフィルが!?」
「あ、消えちゃった……。なにあれ、幻ってやつっすかね?」
作業着に着替えるため、宿舎に行こうとしたイレーナが瓦礫の山の上に立つフィルを見つけたのだ。全員で駆け寄ろうとすると、フィルは消えてしまう。
イレーナの言う通り、単なる幻だったようだ。だが……フィルの幻影を見たジェディンは、どこか言いようのない不安に駆られる。
(……何故だ? あの幻……何か不穏な気配があった。うつろな表情をしていたからか? それとも……)
今、フィルの身に何が起こっているのか。それを知りようもないジェディンは、仲間の無事を祈りながら瓦礫の撤去を行うより他はなかった。
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同時刻、双子大地の中心にそびえる聖礎にて。闇の中に浮かぶ石造りの巨城を囲むように、無数の黄金の門が現れる。
そこから、基底時間軸世界で新たに生み出されたウォーカーの一族の戦士たちが大量に飛び出す。目的は、聖礎の制圧。そして……ミカボシの奪還。
「突き進め、あの城に侵入しろ! アレさえ制圧すればこの大地は我らのモノだ!」
「不甲斐ない旧一族よりも我らの方が強いことを見せつけてやる! 者ども、かか……ぐあっ!」
城に近付く戦士たちへ、攻撃が浴びせられる。城の窓から、大量のレーザーが放たれたのだ。レーザーは自在に軌道を変え、一気に複数人を殺していく。
辛うじてレーザーをかわし、何人かが城にたどり着く。が、どれだけ攻撃を加えても全く傷を付けられず疲弊するばかりだった。
「はあ、はあ……どうなってやがる? ただの石の城がなんでこんなに頑丈なんだ?」
「チッ、こうなりゃ裏口を探して侵入してや」
『そんなに入りたいの? いいよ、なら、入れてあげる。その代わり、二度と外には出さないから』
どうにか城に入り込もうと悪戦苦闘していると、どこからともなく声が響く。そして、城の正門が開きそこから大量の金色に輝く腕が伸びてきた。
「うわっ!? な、なんだこりゃ……ああああ!!」
「逃げろ、引きずり込まれるぞ! クソッ、こうなりゃ門を開いて……!? なんでだ、門が開け……うわああああ!?」
ある者は腕に掴まれて城の中に引きずり込まれ、ある者はウォーカーの門を作ろうとして失敗し捕獲された。そうして、あっという間に侵略者たちは全滅する。
「……誰も、この地を犯させない。ぼくが……ぼく……ぼくは、だれだっけ? まあいいか、とにかく……ぼくが守る。この双子大地を、永遠に」
城の中、玉座に座った一人の幼い男の子がそう呟く。その背後には、黄金の輝きを放つ正八面体の物体が鎮座していた。




