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267話─最後の核を砕く時

 時は少しさかのぼる。ローグたちが悦楽の君と戦いはじめた頃、フィルとアンネローゼはミカボシの頭部に侵入していた。


 二人が破壊すべき核は、頭蓋骨の中……脳と共に存在している。普通の生物なら耳があるであろう、頭の側面にある穴から内部に入ると、早速敵が現れた。


「うわっ、なにこのぶよぶよしてるの。気持ち悪~い!」


「おそらく、ミカボシを守るために白血球かなにかが迎撃に来たのでしょう。アンネ様、ここは僕が!」


「ダメダメ、フィルくんばっかりに任せっきりじゃあここまで来た意味ないもの。二人でやりましょ、あれくらいならすぐ慣れるわ」


「分かりました、では……あの細胞たちを全滅させますよ!」


 大きく長いトンネルを通り、頭蓋骨の中に向かう二人の元にミカボシの細胞の群れが現れた。少し気持ち悪がるアンネローゼだが、すぐに気を取り直す。


 ミカボシの中でも外でも、仲間たちが戦っているのだ。自分だけ拒否するわけにはいかない。うごめくピンク色の塊に、アンネローゼとフィルは突撃する。


「てやっ! 片っ端から貫いてやる!」


「直接触れない方がいいですね、何か毒を持ってるかもしれませんから。というわけで……マナリボルブ!」


 迂闊に接触すれば、毒を打ち込まれるかもしれないと考えたフィル。直接触れないよう、遠くから魔力の弾丸を撃ち込み処理していく。


 そうしてミカボシの細胞の群れを始末し、耳の代わりの穴の奥へと進む。しばらくして、今度は背後から気配を感じ取った。


「ん? 今後ろの方……うえっ!? い、いつの間にか壁が!」


「こっちに迫ってきてます! アンネ様、急いで奥に!」


「あんなトゲだらけの壁に追い付かれたら、どんなことになるか想像もしたくないわ!」


 後ろを向くと、青色の細胞が床に落ちトゲがビッシリ生えた壁に変化するところが見えた。変化を終えた直後、フィルたち目掛けて突進してくる。


 追い付かれれば、トゲに串刺しにされてしまうだろう。走りながら攻撃すれば破壊出来なくもないだろうが、安全を優先しひたすら奥へ逃げる二人。


「はあ、はあ……。どう? フィルくん。まだ追ってきてる?」


「ええ、バッチリ追いかけてきてま……うわっ!? ま、前からも来た!?」


 全力疾走で逃げ続けていると、今度は進行方向にも壁が現れる。こちらはトゲではなく、丸ノコのようなナニカがビッシリ表面に生えていた。


 挟み撃ちにされる形になり、逃げ場を失う二人。このまま潰される……と思いきや、そうはならなかった。


「じゃ、ウォーカーの力であっちの壁の先に行っちゃいましょうか。アンネ様」


「そうね、よく考えたらバカ正直に逃げる必要なんてないし。さ、レッツゴー」


 ここまでくると、もう正攻法で突破するよりさっさとウォーカーの力で抜けた方が早いとフィルが判断したのだ。


 一旦平行世界に逃げ、壁の反対側に座標を合わせて戻る。結果、あっさりと細胞トラップを突破することに成功した。


「さあ、あの壁が反転して戻ってこないうちに行っちゃいましょう!」


「ええ、突撃よ!」


 ウォーカーの力で難所を突破した二人は、急ぎ頭蓋骨の中へと進んでいく。そうして、核のある場所にたどり着いた。当然、そこには……。


「ふふふ、久しぶりだね。私の相手が君たちとは……これも運命というやつかな?」


「アンタは! どういうこと? あの時ぶっ殺してやったはずなのに」


「ミカボシの核を守るための、別個体が私なのさ。驚いてくれたかな?」


「ええ、ですが……一度倒した相手など、恐るるに足りせませんね」


 最後の番人、憂いの君が待っていた。赤黒く明滅するミカボシの脳の前に立ち、アンネローゼたちの訪れを歓迎するように手を広げている。


「確かに、あの時は敗れた。でも、今の私は強いよ? 試してみるといい」


「ふぅん、じゃあ遠慮なく! ホロウストラッシュ!」


「なら僕も! 奥義、シュヴァルブレイカー!」


 憂いの君に挑発されたアンネローゼたちは、それぞれの必殺技を放ち瞬殺しようとする。だが……すでにアンネローゼと一戦交えている憂いの君に、攻撃は通用しない。


「悪いけど、君の手の内は全部見えているんだ。本体から、強力な学習能力を与えられているからね」


「! こいつ、連携攻撃を避けた!?」


「さあ、次はこちらの番だ。ティアーズ・ボム・レイン!」


「アンネ様、僕の側に! 武装展開、氷の大盾(アイスシュルト)!」


 アンネローゼとフィルの攻撃をひらりとかわした憂いの君は、宙に浮き上がりしずくの形をした爆弾を七つ作り出す。


 それらを投げ付け、敵を爆殺するつもりだ。フィルは素早く盾を呼び出し、アンネローゼを呼び込んで守りを固める。


「ムダさ、そんな盾など破壊するだけ。さあ、二人仲良くあの世に行くがいい!」


「そうはさせないわ! 二人分の魔力を注ぎ込めば……」


「絶対に砕けない無敵の盾になります!」


「そうかい? じゃあ……本当にそうなるか試してあげよう!」


 大盾に隠れ、降り注ぐ爆弾をやり過ごす二人。七つの爆発によって発生した爆風に包まれ、姿が見えなくなる。


「さて、二人はどうなったか……。この程度で死にはしないだろう、必ず反撃に出るはず。例えば……」


 そう呟いた後、憂いの君は両手を後頭部へ回す。そして、背後から振り下ろされた剣と槍を受け止めてみせた。


「爆風で視界が利かないのを利用して、背後に回り込んで奇襲……とかね」


「くっ、読まれていましたか!」


「そんなの関係ないわよ、フィルくん! このまま力で押し込めば!」


「ムダさ、私はそういう攻防は好きじゃないのでね」


 奇襲を防がれるも、力でゴリ押ししようとするアンネローゼ。そんな彼女やフィルから逃れるため、憂いの君は手を離して前進する。


 武器を掴まれた状態でバランスを保っていたフィルたちは前につんのめるも、すぐに体勢を立て直す。即座に追撃するも、魔法結界で攻撃を阻まれてしまう。


「フン、やな結界ね! 時間稼ぎでもしようってわけ?」


「その通り。君たちをここに釘付けにしておけばおくほど、こちらにとって有利だからね。ああ、そうそう。私を無視して直接核を破壊しようとしてもムダだよ? そちらにも結界を……うっ!?」


「な、なんです? 急に様子が……」


 攻撃を防ぎ、得意気にしていた憂いの君の様子が突如変わる。この時、カルゥ=イゼルヴィアではベルティレムがウォーカーの一族の思念に身体を乗っ取られていた。


 本体の自我が消えたことで、魔魂転写体である憂いの君にも悪影響が現れたのだ。結界が消え、無防備な状態になる。


「何が起きてるのか分からないけど、今がチャンスよ! フィルくん、核は私が壊す! あなたはコイツにトドメを!」


「ええ、分かりました! では……やりますよ!」


「ぐうう……待て、それだけは……」


 突然のことに驚きつつも、好機を逃すまいと行動に出るアンネローゼたち。最後の核を破壊し、ミカボシの半身を滅ぼすため……それぞれの得物を振るう。


「これで終わりです! シュヴァルブレイカー!」


「脳ミソごとぶっ壊してあげる! ホロウストラッシュ!」


「ぐ……あああっ! バカな……本体に、何が……起きたと、いうんだ……?」


 フィルに斬り捨てられた憂いの君は、そんな呟きを残し消滅した。同時に、ミカボシの核が砕け……凄まじい揺れが二人を襲う。


「きゃっ! な、なにこの揺れは!?」


「多分、ミカボシが悶え苦しんでいるんです! きっと、今のが最後の核だったんですよ! だから、ミカボシの半身はもう消滅するはず!」


「ああ、そうだ。全く、お前たちにはしてやられてばかりだ。本当に苛立たしい……一族の面汚しめが」


 目的を達し、喜ぶフィル。そこに、双子大地からベルティレム……否、ベルティレムの身体を奪ったウォーカーの思念が転移してくる。


「あら、ようやく本体のお出ましってわけ? ちょうどいいわ、アンタもここで」


「待ってください、アンネ様。……お前、何者です? ベルティレムではありませんよね。魔力の波長が、完全にウォーカーの一族のソレになっていますから」


「ほう、見ただけでそこまで分かるか。流石、基底時間軸世界の同胞だ。力の強さはお前が上だな」


「え? どういうこと? だってそいつ、どう見てもベルティレムってやつでしょ? マルカから顔写真見せてもらったわよ」


 二人のやりとりを聞き、困惑するアンネローゼ。彼女に対し、ウォーカーの思念は笑みを浮かべながら答える。


「ああ、肉体はそうだ。だが、すでに意識は我々……ウォーカーの一族の残留思念が乗っ取り済みだ」


 その言葉が発せられた直後、フィルとアンネローゼの背後に黄金の門が現れる。誘おうとしているのだ。二人を……最後の戦いの舞台へと。

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― 新着の感想 ―
[一言] ウォーカーの一族の因縁事態がある意味、不完全燃焼な部分が多かったが(ʘᗩʘ’) それも全て連中がボカしてた自分等の主的な存在だけど(٥↼_↼) 残留思念如きがそこに招待ってか?(⌐■-■)…
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