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255話─反乱者と逃亡者

 フィルたちが鏡の世界でローグの尋問をしていた、ちょうどその頃。ミゼー大学病院前に放置されていた激情の君の絞殺体が、おもむろに起き上がった。


「ローグめ、不意討ちをかますとは! あんなしょうもないモノを食らった私にも腹が立つ……! ぬあああああ!!」


 本体が健在である限り、分身たる四人の魔魂転写体もまた滅びることはない。己の不甲斐なさに苛立ち、激情の君は炎を放つ。


 腹いせに大学病院を爆破し、跡形もなく消し去ってしまう。多少は気が晴れたようで、本体の元に帰ろうとする。


「ふう、いつまでもここにいる意味はない。帰るとしようか……む」


「ここニいたカ。ベルティレムかラの通達ダ。マーヤなる魔女ノ痕跡を見つけタらしい。追跡せよトの命令だ」


「ようやく見つけたか。奴め、今までどこに雲隠れしていた?」


「……どうヤら、奴は小規模な世界再構築不全ヲ起こシてカルゥ=オルセナに亡命してイたようだ。今、サルベージされたネクロモートを使っテどこに逃れタか調査しテいる」


 ネオボーグが現れ、激情の君に次のミッションを伝える。イゼルヴィア崩壊の日を境に、姿を消した魔女長マーヤの足取りをようやく掴んだらしい。


「なるほどな、どうりでイゼルヴィアじゅうを血眼になって探しても見つからぬわけだ。奴め、そこまでして鏡の世界に入る魔法を渡したくないようだな」


「私が道先案内スる。そうセよと命じられタのでな。オルセナの地理はある程度把握シている、共に行くぞ」


「フン、ならさっさとしろ。……ああ、そうだ。どうせならオルセナにもミカボシの落とし子を解き放ってやるとするか」


「ナニ!? お前たチはオルセナには手を出さないノではなかっタのか!?」


 ネオボーグを案内人とし、オルセナに渡りマーヤを探せ。それが次の指令だと理解した激情の君は、とんでもないことを言い出す。


 あくまでも、滅ぼすのはイゼルヴィアだけ。オルセナそのものには手を出さない……そう聞かされていたネオボーグは、手のひら返しに驚く。


「……本体が言っていた。全てを終わらせるには、やはり完全なるミカボシの復活が不可避だと。そのためには、オルセナにいる封印の御子も殺さねばならん」


「貴様ラ……」


「何を驚く必要がある? これまで何千万とイゼルヴィアのクズどもを殺してきた。その死者のリストにオルセナに住む者たちが載るだけ、そうだろう?」


「……そウか。復讐のためナらば、何の関係モない……魔女デすらなイ者たちヲも殺す。そウいうコとなのダな?」


 理解し難い狂気に触れ……ついに、ネオボーグの中で答えが出た。そして、彼を形作るコアに新たなプログラムが生成される。


「良心回路構築……基礎性能三十パーセント向上、修復機能強化……」


「何をブツブツ言っている。さっさとしろ、私は気が短いと」


「もウ終わりダ、激情ノ君よ。これマでは、復活してモらった恩義ト我が野心ノため協力してイたが、ソれもここまデだ」


「なに? まさか貴様……我々を裏切るつもりか!」


 ネオボーグは決めた。もはや正気ではないベルティレムたちに協力するのをやめると。己の中に構築された良心というプログラムに従い、抗うことを違ったのだ。


 当然、激情の君はそれを許すつもりはない。裏切ったネオボーグを粛清するべく、全身に炎を纏う。燃え上がる炎は、不死鳥の形を取る。


「我々を裏切ることは許さん! その愚行、苦痛に満ちた死をもって償え!」


「フン、生憎私ハここで滅びルつもりハない。貴様ラの目的ヲ知った以上、やるべキことは一つ!」


「! 待て、逃がすものか!」


 今ここで戦い、激情の君を倒すことは不可能ではない。だが、倒したところで相手は本体さえ無事なら何度でも復活する。


 不毛な戦いの果てに、最終的に消耗して敗北するのは目に見えている。ゆえに、ネオボーグが選んだ選択は逃走。


 激情の君から逃れ、どうにかしてフィルたちと接触して敵の目的を伝える。そして、ベルティレムの蛮行を止めるために戦う……それが彼の答え。


「ムダだ! 私の飛行速度ハ貴様を上回っテいる。このマま逃げ切ラせてもらウ!」


「チッ、なら邪魔するだけだ! フレイム……」


「遅い! ブースター全開!」


 ネオボーグを囲むように炎の壁を作り出し、逃げ場を奪おうとする激情の君。対して、死の天使は己の耐熱性能を頼みに自ら炎に飛び込む。


 出力を全開にして飛翔し、翼が溶ける前に包囲網から脱する。追撃される前に、病院跡地から逃げ去ることに成功した。


「奴め……! まあいい、万が一裏切りにあった時の備えはある。どれだけ足掻こうが、いずれ奴は機能を停止する。せいぜい、その時までムダなことをしていればいい」


 炎を消し、そう呟く激情の君。すでにネオボーグは捕捉不可能な距離に逃げており、追うのは得策ではない。


 千里眼の魔法で見ているだろうが、一応裏切りを知らせるため本体の元に帰還することを決めた。未だ怒りの炎は消えないが、今は堪える時。


「……覚えていろ。必ず、この怒りを叩き付けてやる。ネオボーグ」



◇─────────────────────◇



 一方、カルゥ=オルセナ……シュヴァルカイザーの基地。普段は静かなこの基地が、今は大勢の人々で賑わっていた。


 ローグが連れてきた避難民たちを受け入れた結果、やいやのやいのとみな大騒ぎしているのだ。


「わー、すごーい! こんなに綺麗なジャングル、生で見るの初めて!」


「ヨロシケレバ、後デ我々ガジャングル探索ツアーヲシテアゲマスヨ」


「この基地、凄い広いなあ。探検しちゃお!」


「ああ、待ってぇ! 勝手にあちこち入っちゃダダメなんですけどおおおお!!」


 ある者は外に見えるジャングルに興味を持ち、またある者は基地の中を探検しようとあちこち走り回っている。


 彼らの対応に追われ、つよいこころ軍団やレジェたちはてんやわんやの状態だ。難民を押し付け、一人さっさと帰っていったローグへの殺意が溢れていく。


「……全く、ローグめ。わしらをなんだと思っておるんじゃ」


「まあ、仕方ないでしょう。事情が事情なのですからね」


「オボロは気楽じゃのう。まあ、確かに……故郷が滅ぼされ、おっかない化け物どもに襲われたとあっては助けぬわけにもいくまい。彼らも気の毒に」


 難民たちが泊まる部屋の割り当てや、備蓄食料のチェック等を済ませたギアーズ。オボロを相手に酒を呑みながら、フィルたちの心配をする。


「大丈夫かのう、向こうに渡ったみんなは。生きていてくれればいいんじゃが」


「そうですな。便りが無いのが元気な証拠、だといいのだが……先行していたイレーナとジェディンは大丈夫なのでしょうか」


 長らく別行動中のイレーナたちの安否が分からず、気を揉む二人。とはいえ、彼ら自身にはフィルのように世界を渡る力はない。


 彼らの方からコンタクトを取ってこない限り、無事かどうかを確かめるすべがないことにやるせなさを覚えていた。


「博士、オ客様ガオ話ヲシタイト外ニ来テイマス」


「ん、そうか。では入ってもらいなさい」


「ピピピ、カシコマリマシタ」


 二人がため息をついていると、つよいこころ一号が現れそう告げる。ギアーズが入室を許可すると、扉がひとりでに開く。


 部屋に入ってきたのは、ヘカテリームだった。一礼した後、ギアーズにお礼の言葉を述べる。


「ドクター・ギアーズ。並びにシュヴァルカイザーの仲間たち。本来ならば、相容れぬ敵である私たちを受け入れていただき……ありがとうございます」


「なあに、気にするでない。困った時はお互い様じゃよ。それに、そちらはもう侵略の意思はないんじゃろう?」


「ええ。ルナ・ソサエティは滅び、守るべき故郷も崩壊し……もう、この大地を攻める意味も必要性もなくなりましたから」


 感謝の言葉を伝えた後、ヘカテリームは深々と頭を下げる。これまでルナ・ソサエティがしてきた非道な行いへの謝罪をするために。


「私たちは、長い間間違ったことをしてきました。その償いをしなければなりません。例えこの命を失うことになったとしても……」


「待たれよ。それがしたちは何も、貴殿の命を奪うつもりはない。間違いに気付けたのならば、命を捨てずとも正す方法はある」


「オボロの言う通りじゃ。お主は生きねばならぬ。お主が死んでしまったら、避難民たちは希望を失ってしまうぞ」


「……そう、ですね。ありがとうございます、そして……ごめんなさい。ルナ・ソサエティを代表して、これまでの愚行をお詫びします」


 そう言って、ヘカテリームはもう一度頭を下げる。謝罪の後は、今後どうするべきかについての話し合いが待っている。


 オルセナとイゼルヴィア、二つの世界に住む者たちが手を取り……終焉に抗うための戦いが始まる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 滅ぼすなら皆全てか(ʘᗩʘ’) 流石のネオボーグもここまでぶっ壊れてる奴に付き合うのは義理もクソもないしな(٥↼_↼) でも良心回路って(゜o゜;古いネタを持ち出したな(٥↼_↼) お前が…
[一言] ネオボーグもついて行けなくなったか。 ……ならば、ここは手を組むしかねえようだな
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