239話─暗殺開始
各地で戦いが激化する中……エスタール、ジェディン、コヨリのチームはルナ・ソサエティ本部への潜入に成功していた。
ほぼ全ての魔女が前線に出ているだけあり、どのフロアも手薄だ。とはいえ、重要な部屋やエレベーター前等には見張りが置かれている。
すでに先に潜入した仲間たちが監視装置に細工をして誤作動を起こしているため、楽に侵入出来た。
「……あそこに見張りが二人いるな。どうする、排除して進むか?」
「……当然、排除する不確定要素は極力潰していくのが我らの方針。いい機会だ、コヨリ。我々暗殺部隊の力を見せてやるといい」
「は、はい! うう、緊張するな~」
現在、彼らがいるのはソサエティ本部五階。あと四階分上がれば、七栄冠たちの自室があるフロアにたどり着くことが出来る。
そこに立ち塞がるのが、九階直通のエレベーターを守る二人の魔女だ。どちらも重装備で身を固め、即座に仲間を呼べるよう魔法のホイッスルを常備している。
二人を素早く始末しなければ、仲間を呼ばれ……最悪の場合、七栄冠が直々に侵入者を葬るために現れることだろう。
「大丈夫なのか? 彼女にやらせて」
「……問題ない。コヨリは新人だが、私自らが鍛えた自慢の弟子。これくらいは余裕でこなせる」
「うう、露骨にプレッシャーかけないてくださいよもう! ……すー、はー。深呼吸よし、ゴー!」
見張りたちがいるエレベーターから離れた物陰に潜んでいた三人のうち、コヨリが動く。懐から棒手裏剣を取り出し、狙いを定める。
エレベーターは廊下の左側の奥の壁に設置されており、コヨリから見て見張りが前後に並ぶ形になっている。ちょうど、コヨリたちのいる右側のスペースの逆だ。
「こーいう時はー……奥にいる相手を狙うのが定石なんだよねー。ってことでセイッ!」
「ぐはっ!」
「おい、どうした!? くっ、てきしゅごふっ!?」
「ごめんね~、悪いんだけど死んでもらうね。これも魔忍のサガってわけでさ」
放たれた棒手裏剣は、狙い違わず奥にいた見張りのこめかみに深々と突き刺さり息の根を止める。相方を始末され、異変に気付くもう一人の見張りだが……。
時すでに遅し、物陰から飛び出し懐に潜り込んできたコヨリによって下顎の付け根にクナイを突き刺される。クナイは下顎を突き破り、脳幹を貫通して見張りを死に至らしめた。
「驚いたな、ここまで手際がいいとは」
「……言っただろう? コヨリはならこれくらいは余裕でやると。さ、行こう。グズグズしていると見つかりかねん」
普段の朗らかさからは想像出来ない、洗練された殺しのテクニックを見せたコヨリ。魔忍たちが使う、死体処理用のマジックバッグに見張りたちの亡骸を放り込む。
「隊長、あたしの腕前どうでした!?」
「……鮮やかなものだった。奥側の敵から始末するのを忘れていなかったのは評価に値する。お前は忘れっぽいからな」
「う、人が気にしてることを……」
「話は後だ、行こう」
そんなやりとりをする二人を急かし、エレベーターの入り口の扉を鎖でこじ開けるジェディン。ついに、ヘカテリーム暗殺の時が来るのだ。
三人は乗り込むべき箱が来るのを待つことなく、そのまま壁を伝って上へと登っていく。一方、暗殺対象であるヘカテリームはというと……。
「……そろそろかしらね。ある程度は、敵の拠点にどんな防衛兵器があるかデータを取れた。これ以上戦うのは、ムダに魔女たちの命を散らすだけ」
「じゃあ、時の固定を解くのですね? ヘカテリームさま」
「ええ。あと二回……いえ、一回分もあればケリが着くでしょうね。魔女軍団とネクロモートたちがあれば……ふふふ」
私室にこもり、カーリーと共に時の固定を解除しようとしていた。ここでリセットされてしまえば、これまでのエスタールたちの苦労が水の泡となる。
そればかりか、ほぼ全ての手の内を暴かれたレジスタンスの勝ち目がゼロになってしまう。ついに、時のリセットが始まる……。
「さあ、時よ」
「……おっと、そうはいかない。月輪七栄冠が一人、ヘカテリーム! 貴様の命、私が貰い受ける!」
「!? お前はレジスタンスの魔女!? 見張りは何をしているの!」
「ヘカテリームさま、危ない!」
かと思われた、その時。ジェディンやコヨリと別れ、一足先に九階に向かったエスタールが天井を突き破って攻撃を仕掛けた。
不意を突いたクナイの一撃は、ヘカテリームの脳天を確実に貫く……そう思われた。が、間一髪でカーリーが割って入り、暗殺は阻止されてしまう。
体当たりで自分ごとヘカテリームを吹き飛ばし、どうにか不意討ちはかわした。だが、相手は一人だけではないことをカーリーは知らない。
「……しくじった。コヨリ! ジェディン! 二の矢三の矢作戦だ!」
「はーい! へかテリーム、覚悟ぉぉぉぉぉ!!」
「悪いな、お前たち個人に恨みはない。だが、この大地のために消えてもらう!」
ベッドの近くに倒れ込むヘカテリームとカーリー目掛けて、床を突き破ってコヨリが。部屋の入り口からはジェディンが突撃してくる。
エレベーターホールを登る際、確実にヘカテリームを仕留めるため時間差攻撃作戦の打ち合わせをしていたのだ。
それを実行に移して、ヘカテリームを追い詰める三人。しかし、一つ誤算があった。太陽の魔女には、守るべき者がいる。
その者……カーリーを傷付けんとする者には、小熊を傷付けられた母熊の如く苛烈な怒りが叩き込まれることになるのだ。
「これ以上近付かせないわ! フレアウォール!」
「うわっ! あちちちち、燃える燃えるー!」
「くっ……なんて熱量だ、鎖が溶けるどころか蒸発するとは!」
「……よくもやってくれたわね、レジスタンスのウジども。大方、私たち七栄冠を暗殺しに来たってところかしら? なら残念、私たちはそう簡単に……死なないのよ!」
炎の壁を作り出し、コヨリとジェディンの攻撃を防ぐヘカテリーム。あまりの高温に、クリムゾン・アベンジャーが操る鎖の先端が蒸発してしまう。
これにて、迅速な暗殺は不可能になってしまった。だが、まだ勝機はジェディンたちにも残されている。暗殺が出来ないなら、普通に殺せばいいのだ。
「……コヨリ、ジェディン! 作戦変更だ、このまま数の差で押し切り奴を仕留めるぞ!」
「させるものですか。転移魔法陣展開! 連れて行ってあげるわ、お前たちを太陽に近い場所へ!」
狭い部屋の中なら、小型の暗器や柔軟に扱える鎖を武器にするジェディンたちが有利。それを見越して、ヘカテリームは魔法陣を起動させる。
自分とエスタールたちを包み込み、ルナ・ソサエティ本部の屋上へとテレポートする。当然、カーリーは部屋に残してきていた。
「広い場所だな……ここはソサエティ本部の屋上か? ここなら、こちらも敵も存分に全力を出せるというわけだ」
「……ああ。こうなっては、撤退も難しいな。せめて、他の班は上手くやってくれているといいのだが……」
「ひえぇ、ここ柵がなーい……吹っ飛ばされたらヤバいですよ隊長」
ソサエティ本部の屋上で、ヘカテリームと対峙するジェディンたち。魔女は最後に炎の輪を作り出しながら、ゆっくりと宙に浮き上がる。
両手を横に伸ばし、右手に青色の、左手に赤色の炎を呼び出す。己自身を太陽へと変え、ヘカテリームは攻撃の準備を行う。
「本当はあと二回、時をリセット出来るのだけれど……今回はもうやめたわ。ここでお前たちを殺して、このまま戦争終結まで突き進む。覚悟しなさい、ソサエティに刃向かう逆徒たちよ」
「……望むところだ。暗殺部隊隊長の誇りにかけて……ここで貴様を倒し、レジスタンスの悲願達成に近付くのみ!」
「お前たちは多くの罪を重ねすぎた。俺たちが裁いてやる……ヘカテリーム、懺悔するがいい!」
「懺悔? しないわ、そんなもの。私がするのは、お前たちを殺すことだけ。さあ、来なさい。『太陽』の魔女が相手をしてあげるわ」
互いにそう啖呵を切り、戦いの火蓋が切って落とされた。勝つのは暗殺者たちか、ヘカテリームか。その行く末は、果たして……。




