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238話─攻める者と守る者

 激しい戦闘が繰り広げられているのは、天空の一角だけではない。レジスタンスのメンバーが立てこもる要塞、そしてアジトでも戦いが行われていた。


「死ぬがいい、レジスタンスども!」


「そうはいかないわヨ! あたしたちが作った迎撃兵器の味、もうイヤってくらい味わわせてやるんだからネ! 総員、砲撃開始!」


「イエッサー!」


「サーじゃないわ! マムと叫びなさぁイ!」


「イエスマム!」


 レジスタンスのアジトでは、工作部隊や研究部隊の魔女たちが襲い来るネクロモートたちの迎撃を行っていた。


 テレポートを駆使して、要塞にいる防衛部隊の攻撃を振り切ったいくつかの機体が襲撃を仕掛けてきたのだ。


 だが、いくらネクロモートとはいえ所詮二桁に届かない数でアジトに侵入しようなど不可能。スーマンやトリン指揮の元、各個撃破されていく。


「総裁、報告します! 現在、要塞を抜けてきたネクロモートは全部で八機! うち五機をすでに撃墜しています!」


「そうか、よくやってくれた。やはり、多少撃ち漏らしが出てしまうのは避けられないね。それでも、今のところこちらの被害が無いのがありがたい」


「はい、トワイア隊長率いる防衛部隊の魔女たちのおかげです。彼ら彼女らのおかげで、我々が被害を受けず敵を倒せるのですから」


 報告に訪れた部下から戦闘映像を見せられつつ、現在の状況を聞くメイナード。今のところ、前線基地にて奮戦する仲間たちのおかげで危機的状況には陥っていない。


 だが、映像を見るメイナードの顔は険しかった。彼女には一つ、懸念材料があったのだ。それは……。


(……ネクロモートたちの喋り方が、人間のソレと同じになってきている。進化する力があるのか……? だとしたら、予想外の事態が起きるかもしれない。備えておかなければ)


 ネクロモートに搭載された人工知能の、急速な進化を危惧していた。最初はキカイ音声そのままの、事務的な口調でしか話せなかった。


 だが、今は違う。抑揚もイントネーションも人間のソレとほぼ変わらない、聞き分けがつかないレベルになりつつあるのだ。


 ここからさらに、ネクロモートの人工知能が予測不可能な領域へ進化することもあり得る。今後の状況と併せて、警戒しなければならない。


(この戦い、どうも良くない結果に終わりそうな気がする……。ソサエティとレジスタンス、どちらかが倒れるだけで済まない……もっと最悪の事態が起きかねないような、嫌な予感がするな……)


 全面戦争も終盤に突入していく中、メイナードの胸中に渦巻く不安はより一層強く掻き立てられる。この時、まだ彼女は知らなかった。


 その不安は、想像を超える最悪な形で現実になってしまうことを。カルゥ=イゼルヴィア崩壊の刻は、すぐそこまで来ている。



◇─────────────────────◇



「そーれ、がっちゃんこ!」


「がはっ!」


「ごふっ! 致命的損傷発生、修復フノウ……」


 前線要塞では、トワイア率いる防衛部隊が次から次へと湧いてくるネクロモートたちを撃墜していた。強力な念動力(キネシス)魔法には、最新鋭のキカイも為す術がなく。


 ある機体は紙の人形でも握り潰すかのように、またある機体は他の機体と激しくクラッシュさせられ。どんどん撃破されていった。


 もちろん、トワイアだけが活躍しているわけではない。


「魔導砲、撃てー! 隊長にいいところを見せてよしよしして貰うのよ!」


「いいえ、もっと凄いご褒美を貰えるように敵を一機でも多く仕留めるのよ! 目指せ、膝枕のご褒美!」


「っしゃああああ!! 想像したらやる気と鼻血があばばばばば!!」


 トワイア傘下の魔女たち、通称親衛隊が中心となってネクロモートたちを潰していく。必要に応じて自ら出撃し、キッチリ殲滅してくるあたり練度は非常に高い。


「そりゃっ! 心眼一閃撃ち!」


「がふっ! メインカメラ損傷、サブカメラへの移行を」


「させるかよ! サラ、やるぞ!」


「ええ、任せて! えいやっ!」


 もちろん、イレーナたち異動組も獅子奮迅の活躍をしている。トワイアが見込んだ通り、イレーナは遠距離狙撃でネクロモートに致命的なダメージを与え。


 隙が生まれた相手を、ジュディとサラのコンビが仕留めて撤退する。この連携で、ネクロモートをかなりの数屠ってきた。


 すでに倒した敵の数は四百機を超えており、このまま行けると思われたが……。


「たいちょーさん、大丈夫っすか? なんだか、顔色が悪いっすよ?」


「あっ、大変! 隊長、そろそろ」


「うん……よし、今からおやつターイム!」


「えっ」


「えっ」


「えっ」


 順調に敵を撃破していたトワイアの顔が、少しずつ青くなっていく。そのことに気付いたイレーナに指摘され、少年魔女は突拍子もないことを叫ぶ。


 三人娘が驚いている中、テラスに続く通路から花柄のエプロンを身に着け、大鍋を持った屈強な体格を持つ魔女(♂)たちがえっさほいさと走ってくる。


「ソイヤ! ソイヤ! ソイヤ! ソイヤ!」


「隊長のおやつタイムだ! 全員道を開けろ! さもなくば踏み潰すぞ!」


「えっえっ、何が始まるの?」


「トワイア隊長はね、強力な魔法を使える代わりに燃費が物凄く悪いの。だから、こうやって『おやつタイム』を開催して甘いものを補給しないといけないの」


 これから何が始まるのか困惑しているサラに、近くにいた防衛部隊所属の魔女が答える。曰く、トワイアの用いる念動力(キネシス)は魔力の消耗が激しいのだという。


 その弱点をカバーするため、大の甘党であるトワイアが素早く魔力を補給出来るよう考案されたのがこのおやつタイム……らしい。


「わーい! おーやーつー! 今日はなにかなー?」


「イエッサ! 今日は大鍋いっぱいのホットチョコレートにマシュマロをイン! したものをお持ちしましたァ!」


「猫舌な隊長に合わせて、いつも通り若干ヌルめに温度を調整してありまァす! ご賞味あれ!」


「わーい、ありがとー。じゃ、いただきまーす」


「えっ、鍋から直接飲むのかよ!?」


 トワイアはニコニコ笑顔を浮かべ、念動力(キネシス)を使って鍋を運ぶ。そして、ダイレクトに直接ドロドロに溶けたチョコレートを飲み始める。


 すると、勢いが衰えてきていた攻撃にキレが戻り、これまでの倍の速さで敵が殲滅されていく。テラスに甘い香りが広がり、イレーナは思わず喉を鳴らす。


「なんか美味しそうっすね……たいちょーさん、アタイも一口欲しいっす!」


「ぷはー。えー、だめー。甘いものは全部僕のだもーん。あーげないよー」


「んなっ!? ちょっとは頑張ってる仲間にご褒美くれたっていいじゃな……ヒィッ!?」


「新参者が……腕章すら持たない小娘の分際でご褒美を要求してんじゃないわよ……」


「隊長が飲んでるホットチョコレートを飲ませてもらう? 羨まけしからん死ね」


 トワイア・リスケンダー十二歳。甘いものに関しては、徹底的にガメつい欲張りさんだった。子ども相応の意地汚さに、苦笑したいところだが……。


 残念ながら、そんな暇はイレーナにはない。彼女の発言が、親衛隊メンバーたちの逆鱗に触れてしまったのだ。


 突き刺すような視線と、わりと洒落にならない本気の殺意を向けられ思わず縮こまってしまう。それを見ていたジュディとサラも、他人事ながら震えていた。


「こっわ……一気に雰囲気変わったぞ、あいつら」


「敵に回さない方が良さそうね……やらかしたら、多分闇討ちされるわよこれ」


「みんなー、今は戦闘に……ごくごく、しゅーちゅーする時だよ! まだ敵はいっぱいいるから……もぐもぐ、やること終わってからにしようねー!」


「どの口が言うんすかね、これ……」


 一人おやつを補給しながら、親衛隊を宥めるトワイア。九死に一生を得たイレーナだが、釈然としないものがあるようだ。


 もっとも、それを声高に言えば同じことの繰り返しになるので、今回は小さく呟くだけにしたが。


「僕たちが頑張れば頑張るだけ、アジトにいるみんなの負担が軽くなるんだよ! だから、無茶しない範囲でたくさん敵をやっつけようね!」


「おおおおお!!」


「……無茶しない範囲で、か。ま、それもそうだよな。欲張ったら手痛いしっぺ返し食らうからなぁ」


「ええ、今は攻めてきたネクモロートを仕留めるのが最優先。上空で待機してるのは後回しね」


 アジトの防衛は、現在レジスタンス側が優位に立っている。このまま、時のリセットまで優位を保てればいいのだが……。


 そう上手くいくかは、誰にも分からない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 溶かしたチョコ+マシュマロで糖分がレッドゾーン通り越しキルゾーンな代物をゴクゴク一気飲みか(ʘᗩʘ’) 普段からこんなん飲んでるならコイツの口の中どおなってんだ(?・・) 銀歯4、5本じゃ…
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