237話─進みゆく戦局
「……しくじッたか。敵ノ要塞、かナり堅固な守りヲ誇るヨうだな」
戦いが始まった後、ネオボーグは部隊から離れて一人特殊兵器工場の跡地に潜伏していた。今回、ソサエティの作戦に彼は加わっていない。
魔女の軍団がレジスタンスの主戦力とぶつかっている間に、ネクロモートたちを敵のアジト及び防衛拠点に送り込む。そして、情報を集める。
ネオボーグの役目は、仲間の機体から送られてくる映像や音声を記録し、必要なものと不要なものに選り分けることだ。
「ふム、このデータは要る……これハいらナい。全く、何故コの私ガこんなヒラ社員ノような業務ヲせねバならぬノか……」
最初に要塞に攻撃を仕掛けていった三十機のネクロモートたちから送られてくる情報を処理しながら、ネオボーグはつまらなさそうに呟く。
かつては天下に名をとどろかせた魔戒王、今では顎で使われる下っ端。その落差に、いい加減不満が溜まってきたようだ。
(今ニ見てイろ、悦楽ノ君。私ヲ飼い慣らシたつモりでイるようダが、いずレそれガ慢心だといウことを教エてやる)
とはいえ、今反旗をひるがえしても勝ち目は薄い。千八百機のネクロモートのうち、自分以外の全機がレジスタンスのアジトを攻撃するため出撃している。
しかも、ご丁寧に悦楽の君が扮するベルティレムによって情報共有以外のリンクシステムを解除・一時使用不可能にされてしまった。
これでは、他の機体のコントロールを奪取して反乱を起こすことが出来ない。もっとも、今起こしても七栄冠四人が健在なので、すぐに鎮圧されるが。
「ま、ヨい。焦らなくとモ、いズれ機会ガやって来るダろう。それヲ待てバいい、果報ハ寝て待つト言うカらな」
情報の選別を続けながら、ネオボーグはそう口にする。面従腹背、今は時を窺うべきだと考えたのだ。当座の目標、ヘカテリーム暗殺もやらねばならない。
「……しカし、不思議ナものだ。突然ネクロモートの動きガ止めラれ、撃ち落トされてイる……。この機体は装甲が勝手ニひしゃげてイくし、何が起きてイるといウのだ?」
作業を続ける中、ふと疑問を抱く。迎撃に当たっている魔女たちが何かをしているわけでもないのに、勝手にネクロモートたちが撃沈しているのだ。
流石のネオボーグでも、トワイアが念動力魔法を使って撃墜していることには気が付かなかった。彼がそれを知るのは、まだ先の話である。
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「全軍、進むデース! ソサエティのアーミーをデストローイ! してやるデース!」
「おおおおお!!!」
その頃、レジスタンスとルナ・ソサエティの軍勢は三度目の大規模戦闘を繰り広げていた。場所は前回、前々回と同じ空域。
お互い千五百人からなる軍勢同士の、天下分け目の一大決戦だ。今回は両軍共に、小細工無しの真正面からの戦いとなる。
「死ね……うぎゃっ!」
「隊列を乱してはなりまセーン! 焦らず慎重に! 確実に敵をキルしてやるデース!」
「三列砲撃の陣! 一列目、撃てー!」
ソサエティの魔女たちが襲い来る中、トゥリとシゼルの命令を受け、レジスタンスの魔女たちの一部が前後三列に並ぶ。
陣に加わっていない仲間たちが囮になり、敵を誘き出してきたところに魔導砲の一斉掃射を浴びせる。敵は集中砲火を受け、空の藻屑となった。
「くっ、まずいな……これじゃ迂闊に近寄れない!」
「慌てるな、敵が対応出来るのは正面だけ。それも射程はさほど長くはない! 側面や上下から攻撃を加えるのだ! 奴らの陣形を崩してやれ!」
だが、ソサエティ側も負けてはいない。時のリセットで死をなかったことにして復活したメンダーソンの指揮の元、敵の切り崩しを図る。
白兵戦仕様のレジスタンスの魔女たちの攻撃をかわし、三列砲撃の陣を形成している者たちの側面や上下に回り込む。
「敵が来るわ、総員マジックシールド展開!」
「敵の攻撃をディフェンス! するデース! ソルジャー隊はその間に敵をデストローイ! するのデース! 迅速果敢に仕留めなサーイ!」
「ハッ、かしこまりました!」
射程距離の短さと、前方以外への対処能力の低さという弱点を早い段階で見抜いたメンダーソンの指示により、攻撃を行うソサエティの魔女たち。
それに負けじと、シゼル及びトゥリも部下たちに守りを固めるよう命令する。陣を形成している三百人の魔女たちは、球状のバリアを作り敵を寄せ付けない。
ソサエティの魔女たちが手をこまねいている間に、剣や槍等を装備した者たちが攻撃を仕掛ける。前をバリア、後方を敵に挟まれてはどうにもならず、次々倒されていく。
「メンダーソン司令、このままではこちらが一方的に倒されるばかりです!」
「問題ない、もうすぐソサエティ本部から増援が来るからな。奴らも、陣に参加していない者らは少しずつ倒されてきている。数で上回れば、すぐ優位を取り戻せるだろうよ」
作戦がうまく行かないことに焦る副官に、メンダーソンはそう答える。敵の全力を引き出し、ある程度損耗させたところで援軍を投入、一気に壊滅させる。
それがメンダーソンの作戦だ。例えどれだけ損害が出ようとも、後二回時のリセットがあると知っていれば痛くもかゆくもない。
とことんまで敵を追い詰め、戦術や戦略に関する情報を引き出した上でリセットまで待てばいいのだ。
「は、はあ……かしこまりました」
「焦る必要はない。ほれ、見てみろ。奴らは今回でリセットが終わりだからと、張り切って攻撃してきておる。それが、自分たちの首を絞めているとも知らずにな」
レジスタンスの魔女たちを見ながら、せせら笑うメンダーソン。だが、彼は知らなかった。すでに、レジスタンスの暗殺部隊が動き出していることを。
彼女らとジェデインの行動により、己の目論見が崩れ去ることを。やり直しが効くからと、慢心したツケを支払う時が、刻一刻と近付いていた。
◇─────────────────────◇
「……着いたな。ルナ・ソサエティの本部に」
「ここからはどう行動する? お前が隊長だ、指示に従おう」
「……ここからは、別れて行動する。三人一組になり、別々のルートから内部に侵入するのだ」
戦闘部隊が決戦を繰り広げ、防衛部隊が次の襲撃に備え守りを固めている頃。暗殺部隊の面々は、ついにソサエティ本部に到着した。
本部から南に数キロ離れた場所にある、レジスタンスが密かに購入・保有している廃ビルから双眼鏡で様子を見る魔忍たち。
「……ジェディン、コヨリ。お前たちは私と共に来い。北ルートから新入し、最重要暗殺対象のマーヤ及びヘカテリームを狙う」
「分かった。共にやり遂げよう」
「は、はい! 頑張ります隊長!」
ルナ・ソサエティの本部には、トリン率いる工作部隊が送り込んだスパイによって作られた秘密の侵入路が複数存在している。
そのうちの三つを使い、三人組になって内部に潜り込むつもりなのだ。エスタール班がマーヤとヘカテリームを、残りの二班がそれぞれマルカとベルティレムを担当する。
「……お前たち、忘れるな。最優先任務は生きて帰ることだ。無理だと判断したら、迷わず撤退しろ。後一回時のリセットがあるとはいえ、死は苦痛だぞ」
「押忍! 分かりました、隊長!」
「……それでいい。では出発する。それぞれ班を組んだ者たちと共に、各自のルートに向かえ!」
エスタールの言葉に従い、魔忍たちは行動を開始する。まずは二つの班が手脚の間に魔法で作った皮膜を張り、透明化の魔法をかけてからムササビのようにビルから滑空する。
そのままソサエティ本部の西と南東側へ向かい、姿が見えなくなる。少し遅れて、エスタールとジェディン、コヨリも動き出す。
「……私たちも行こう。ここからだと、目的のルートの入り口が遠い。急いで進むぞ、遅れるな」
「押忍! 自分、ピッタリ隊長の後ろをくっついていきます!」
「さて、いよいよ正念場だな。ここで七栄冠たちを仕留められれば、全てが終わる……」
エスタールたちはビルから飛び降り、仲間たちのように透明になった状態で滑空していく。ソサエティ本部の周囲は、警備の魔女たちが飛んでいる。
そう簡単には発見されないが、万一見つかれば面倒なことになる。そのため、少々迂回しながら北ルートの入り口へと向かう。
「……おかしい。全面戦争の真っ最中だというのに、やけに巡回している魔女が少ない。普段の三倍はいると踏んでいたのだが」
「その分の魔女も、戦闘部隊に回しちゃったんじゃないですかね? 私たちが忍び込んでくるなんて、想定してなかったりして」
「……それはあるまい。向こうとて、暗殺される可能性は考慮しているはず。……罠でなければいいんだがな」
そんなやりとりをしながら、先へ進む三人。暗殺任務は無事成功するのか、それとも……。




