236話─暗殺部隊と防衛部隊
イレーナたちが忙しなく異動の準備をする中、シゼルとトゥリ率いる戦闘部隊が出撃していく。それを見送った後、ついに暗殺部隊が動き出す。
「……これより、ルナ・ソサエティ本部に向けて移動を開始する。我々の任務の成否が、戦局に大きく響くことになるだろう。確実に成功させるぞ」
「押忍!」
「……よし、では出撃!」
ジェディンを助っ人に加え、暗殺部隊はレジスタンスのアジトを発つ。獣道ばかりな山の中を、街に向かってスルスル進んでいく。
木から木へ、枝から枝へ。猿のような身軽さで、次から次へと移り渡っていく魔忍たち。彼女らを追いながら、ジェディンは身のこなしに感心していた。
「身軽なものだな。あの装束の下に、それなりの数の暗器を潜ませているだろうに」
「あ、そういうの分かっちゃう感じです? いろいろ入ってるんですよ、手裏剣とか忍者刀とか」
「お前か。確かコヨリと言ったな……俺に気付かれずに側まで来るとは、中々どうして気配を消すのが上手いじゃないか」
そこへ、いつの間にかコヨリがやって来ていた。木の枝を蹴る音すらさせず、全くの無音状態での接近にジェディンは驚き感心する。
五年の間、家族と同胞を殺した宿敵を追っていたジェディンは気配を感じ取る能力が自然と鍛えられてきた。己に向けられた気配を即座に察知し、危険なものとそうでないものを瞬時に判断する。
そうした能力を養わなければ生きていけない、修羅の世界に身を置いていた。そんな彼ですら、暗殺部隊で一番の若輩者であるコヨリの気配に気付けなかったのだ。
(……高いな、練度が。俺が想像しているより、かなり出来るぞ。これなら……可能かもしれない、七栄冠の暗殺が)
背中に生えた鎖を使い、コヨリと併走しながらジェディンはそう考える。油断はしないが、少しだけ見えてきた希望に口角が上がる。
ジェディンの希望が現実になるか、それとも潰えることになるのか……。それはまだ、誰にも分からない。
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その頃、イレーナたち三人娘はアジトを離れ前線基地へと向かっていた。防衛部隊の隊長、トワイアの意向で異動になった三人を待ち受けていたのは……。
「どうもどうもー。いやー、無茶振りしちゃって悪いねー。歓迎するよー、僕がこの要塞を任されてるトワイア・リスケンダーでーす。よろしくー」
オレンジを基調にして、青いライン模様が刺繍されたぶかぶかの軍服を着た少年……トワイアが要塞の正門に立っていた。
愛嬌たっぷりなタレ目が愛らしい少年は、ニコニコ笑いながら三人を連れ要塞の中へと入る。片手に持った虎のぬいぐるみをモフりながら。
「……なんか、思ってよりだいぶお子ちゃまっすね、トワイア隊長」
「あんまり侮らない方がいいぞ、イレーナ。ああ見えて、トワイア隊長は念動力魔法が使えるんだ。イゼルヴィアでも四人しか使い手がいない、超珍しい魔法なんだぜ」
「へえー、そうなんすか。なんか意外っすね……」
機嫌良く鼻歌を歌いながら歩いて行く。頭の上で揺れる軍帽を見ながら、イレーナとジュディはヒソヒソ話をする。
どこか頼りなさを感じているイレーナに、ジュディがそう伝える。とはいえ、口で言われただけではその凄さも伝わらない。
「まあ、実際どれだけ凄いのかは実戦で……ん? なんか奥の方が騒がしいっすね」
『緊急放送、緊急放送! テラスAにソサエティのキカイ兵が侵入! 繰り返す、テラスAにソサエティのキカイ兵が侵入! 総員、ただちに迎撃せよ!』
その時、要塞の中に緊迫したアナウンスが響く。どうやったのかは不明だが、戦闘部隊と接触することなくネクロモートが侵入してきたようだ。
「ええっ!? 嘘でしょ、どうやって要塞の中に敵が!?」
「驚いてる場合じゃねえぜサラ、早く潰しに……ってアレ!? トワイア隊長がいねえ!」
「はやっ!? もうあんな遠くに行ってるっすよ!」
放送を聞き、すぐにテラスに向かおうとするイレーナたち。三人がふと前を見ると、トワイアがいなくなっていた。
念動力で自身の身体を浮かせ、高速で滑空しているのだ。置いていかれては大変と、イレーナたちは慌てて後を追う。
「みんなー、状況はどうなってますー!?」
「あっ、隊長! 敵は三十機、テラスを制圧して要塞内に侵入しようとしていると連絡がありました! 現在、仲間が防衛兵器を使って食い止めていますが……」
「ちょっときついー、って感じかなー? じゃあ、僕も加勢するよー」
一足先に、城壁の上に設置されたテラスに続く連絡通路にたどり着いたトワイア。ちょうど鉢合わせた部下に、現在のテラスの状況を聞く。
増援を呼ぶ魔女の連絡を受け、ある程度敵の戦力を把握していたためすぐに伝える。それを聞いたトワイアは、ほんの少しだけ表情を引き締めた。
「隊長が加われば鬼に金棒! ネクロモートだかなんだか知りませんが、全部返り討ちですね!」
「こーら、油断はだーめ。とにかくー、急ぐで……あ、そうだ。あの子たちー、忘れてたー。それっ!」
すぐに加勢するため、連絡通路を登……ろうとしてイレーナたちを置いてけぼりにしてしまっていたことを思い出すトワイア。
すぐさま念動力を使い、三人娘を自分の方に引き寄せる。
「ぎゃー!? か、身体が浮いて……のわー!」
「はやっ、ちょはやっ! おああああ!!」
「きゃああああ!! ローブが、ローブがめくれるぅぅぅぅ!!」
一方、廊下を走っていた三人は突然身体が浮き上がり、勢いよく前方に引っ張られたためパニックを起こしてしまう。
トワイアの緻密なコントロールで人や壁等にぶつかることはなかったが、ちょっとした恐怖体験として三人の脳に刻まれることに。
「いきなりごめんねー、驚いちゃったかなー? 後でお詫びするからー、今は敵の殲滅に協力してねー」
「ひ、ヒドイ目に遭ったっす……。くそー、このストレスを敵にぶつけてやるっすー! うがー!」
「そーそー、その意気だよー。じゃ、れっつごー」
イレーナたちと共に、テラスへ飛び込むトワイア。すでに激しい戦闘が展開されており、多数の魔女たちが魔導大砲を使い空を飛ぶネクロモートを砲撃していた。
「狙いよし! てー!」
「バカめ、そんなもの当たるわけが……ん? 身体が動かごはっ!」
「不具合発生、不具合発生、外部からの圧力により装甲が変形……コアの機能維持、ふかの……」
ネクロモートたちは空を飛び回り、槍の先端からビーム状の魔力を放って攻撃している。大砲を破壊し、テラスに降りようとするが……。
突然、何体かのネクロモートの動きが止まった。まるで、見えない何かに捕まったかのように。そこに砲弾がブチ込まれ、大破して墜落した。
またある機体は、勝手に装甲がひしゃげてコアを潰され、機能停止してしまう。イレーナには何が起きているのか分からなかったが、他の者には分かっていた。
「みんなー、助けに来たですよー。怪我してる子はいるかなー? いたら下に運んであげるねー」
「キャー! 隊長が来てくれたわ! おかげで助かりましたぁ、トワイアキャプテン!」
「いつ見ても惚れ惚れしちゃう強力ですよ、隊長の念動力魔法! ネクロモートがあんな簡単にペチャンコになっちゃうんですもの!」
念動力を使い、ネクロモート同士をぶつけ合わせて破壊したり大砲の的にしてしまうトワイア。彼が来てから五分もしないうちに、死の天使は全滅してしまうことに。
負傷者がいないか声をかける少年に、テラスで戦っていた魔女たちの黄色い声が飛ぶ。よく見ると、何人かは『I❤トワイア』という刺繍が施された腕章を身に着けている。
「ジュディ、あの魔女たちが着けてるのなんすか?」
「アレか、トワイア隊長の親衛隊兼ファンクラブ会員の証なんだと。アレを着けてる奴ら、クッソ強いんだぜ」
「隊長の役に立とうって、士気が凄い高いって話を聞いたわ。シゼル隊長指揮下の私とジュディみたいにね」
「は、はあ。どこの世界にも、モテるショタっているんすね……」
親衛隊の魔女たちに纏わり付かれ、賞賛の嵐を浴びつつ揉みくちゃにされるトワイアを見ながらイレーナたちはそんな話をする。
目を回しているトワイアに、アンネローゼに猫可愛がりされている時のフィルの姿が重なって見えたイレーナは吹き出してしまう。
「どした、いきなり笑い出して」
「いや、なんでもないっす。ちょっと個人的に……ぷふっ」
「ひゃー、誰かたーすーけーてー! めーがーまーわーるー!」
肩を奮わせるイレーナと、彼女を見て首を傾げるサラとジュディ。そんな彼女らの側で、トワイアがヘルプコールを発していた。




