234話─ヴァルツァイトの決戦
その頃、ローグは一人ルナ・ソサエティ本部へ向かって移動していた。途中で時のリセットが挟まれたため、同じ道のりをもう一度行かねばならないことに不満を垂れながら。
「ったく、なんで昨日からこう不運ばっかり続きやがるんだ。女にされるわ、二度手間させられるわ……なんか良くないモンにでも取り憑かれてんのかオレは」
ぶつぶつ文句を口にしながら、急ぎ進んでいくローグ。今度こそマーヤと会い、真意を問い質しつつ敵の情報を暴くつもりでいた。
だが……そんな彼の前に、今一番会ってはならない存在が舞い降りる。今は誰も住んでいないゴーストタウンを進む彼の元に、駆動音が近付く。
「ん? なんだこの音……おわっ! あぶね!」
「見つケたぞ、我が運命変異体よ。いい加減、貴様ニうろちょろサれるのは面倒ダ。ここデ死ね」
「チッ、オレの不運も来るとこまできちまったなぁオイ。ソサエティの連中に見つかんねえように、人気の無いトコを進んでたのがアダになったか」
ローグ目掛けて、一機のネクロモートが急降下突撃を行う。間一髪、襲撃に気付いたローグは身をひるがえして攻撃を避けた。
舞い降りたのは、ネオボーグ。三度目の決戦を前にして、己の運命変異体を排除せんとついに動き出したのだ。
「そうイうわけダ。もっとモ、貴様ガ街中ヲ進んでイようが結果ハ変わらナい。関係ナい連中諸共、貴様を殺スだけノこと」
「そうかい。なら、オレの行動は正解だったな。てめぇが無関係な奴らを巻き込む前に! ここでカタ付けてやるよ! 怪盗七ツ道具、NO.4! クレヴォンの刃札!」
二人のヴァルツァイト、どちらが生き残るかを賭けた戦いが始まった。ローグは懐からトランプのカードを取り出し、ネオボーグへ投げる。
それを見たネオボーグは、盾を構えて攻撃を防ぐ。カードが弾かれる……ことはなく、金属音を響かせ盾に突き刺さった。
「ほう、中々ニ頑丈なカードだナ」
「当たり前だろ? オレが何の変哲もないトランプを投げるかよ。そいつは大抵のモンなら容易く切り裂く、切れ味抜群のトランプなんだぜ!」
そう叫びながら、ローグはネオボーグへ向かって走る。懐から新たにトランプのカードを複数枚取り出して、自身の周りに浮かべる。
適宜相手に飛ばす飛び道具であると共に、頑丈さを活かして敵からの攻撃を防ぐ浮遊盾にもなるのだ。
「くだラぬ、実にくだラぬ手品ダな。そんなモので、この私ヲ倒せルものか! ダンシングスピア!」
「っと、当たるわけにゃいかねえな。トランプシールド!」
槍を振るい、連続刺突を見舞うネオボーグ。対するローグは、トランプを操り的確に攻撃を防いでいく。甲高い金属音が、忙しなく鳴り響く。
「チッ、邪魔なカードめ! こウしてくれるワ! ブラストウィング!」
「フン、突風でオレごと吹き飛ばそうってか? ならこうさせてもらうぜ。怪盗七ツ道具、NO.3! ダレイアスの剛柔縄!」
ネオボーグは翼を羽ばたかせ、突風を巻き起こしてトランプを吹き飛ばす。ついでにローグも後ろに飛ばし、体勢を立て直す隙を突こうとする。
が、そんな小賢しい手はローグに通用しない。素早くフック付きロープを呼び出し、ネオボーグに向かって放り投げた。
フックがネオボーグの肩に引っかり、ガッチリと固定される。ローグは縄を掴み、突風に耐える。
「クッ、貴様!」
「さあどうするよ? オレは遠慮なくロープを引っ張るぜ。そうなりゃ、お前も一緒にズッコケることになるなぁ!」
「チィッ、小癪ナことを!」
すでにローグは縄を握る手に力を込めている。槍を使ってロープを切ろうにも、もう間に合わない。仕方なく、ネオボーグは羽ばたきを止める。
すっ転ばされてもすぐに飛んでリカバリー出来るよう、備えていなければならないのだ。
「オラァッ!」
「チッ、ウィングエスケープ!」
「逃がすかよ、怪盗七ツ道具NO.1! トーラスの痺れダーツ!」
ロープが引っ張られ、前のめりに倒れ込むネオボーグ。翼を羽ばたかせて転倒を防ぎ、そのまま体勢を立て直そうとする。
しかし、そうはさせないとばかりにローグが攻勢を強める。麻痺毒を仕込んだダーツを、相手の翼に向かって二つ投げた。
「フン、愚かナ。私はキカイだ、こんナものガ効くワけなかろ……なっ!?」
「ああ、んなこたぁ分かってんだよ。そいつは目眩まし、本命はこっちだ! 怪盗七ツ道具、NO.5!
シヴィニョンの宝剣!」
ダーツにネオボーグが意識を向けている間に、素早く距離を詰めて懐に飛び込むローグ。ロープを消し、今度は柄頭に赤い宝石が埋め込まれた短剣を呼び出す。
「グウッ! ヤるな……だガ、そんな短剣如きデ私ハ倒せ……? 何だ、出力ガ落ちテ……」
「おいおい、これまでのオレの七ツ道具をちゃんと見てなかったのか? ただの短剣なわけねえだろ? こいつに刺された奴は、魔力を吸い取られ続けるのさ!」
不可避のタイミングで繰り出した短剣が、ネオボーグの腹部に突き刺さる。とはいえ、人ならざる存在であるネオボーグには致命傷とはならない。
しかし、ローグからすれば突き刺すだけで十分だった。赤い宝石が輝きを放ち、ネオボーグから魔力を奪いはじめる。
「グうぅ、まずイぞ……! これでハ、全力ヲ発揮出来ヌ……!」
「んじゃ、そろそろトドメといこうかね。メイナードの奴、心配のし過ぎだな。このオレがオリジナルなわぞに負けるわけ」
「ああ、負けないだろうねぇ。一対一の戦いにおいては、だけれどぉ」
「──!? てめ、なんで生きて」
「さあ、記憶を消してあげようねぇ。んふふふふ」
第六の怪盗道具を呼び出そうとした、その時。ローグの背後に、突如悦楽の君が現れた。相手が死んだものと思っていたローグは、完全に虚を突かれる。
ローグのこめかみに指を当て、悦楽の君は記憶消去の魔法を放った。これまでのことを忘れ、ローグは呆けてしまう。
まだ、眼前にネオボーグがいるというのに。
「んあ? オレは一体何をやってんだ? こんなとこ」
「隙アり! ダンシングスピア!」
「なっ……ぐあああああ!!」
何故自分がこんなゴーストタウンにいるのか。それすらも忘れてしまったローグに向かって、ネオボーグが連続突きを放つ。
全身を穿たれ、血を吹き出しながらローグは崩れ落ちる。短剣を引き抜き、ネオボーグは遠くへ放り投げた。
「危なイとこロだった……。悦楽ノ君よ、ズっと見てイたのダろう? 何故もっト早く助けナかった!」
「んふふふふ、悪いねぇ。ローグったら、中々隙を見せてくれなくてさぁ。後ろに回り込むのも、楽じゃあなかったんだよねぇ」
ネオボーグにどやされ、悦楽の君はそう答える。実は、最初から廃屋に隠れて二人の戦いを見続けていたのだ。
ローグに隙が出来る一瞬の時を待ち、絶好の機会を狙っていた。そして、その時が訪れ……素早くローグの背後にテレポートし、記憶を消したのだ。
「……フン。まあイい、これデ我が運命変異体ヲ始末スることが出来ル。では、サらばだ!」
「ぐっ……まだ、だ。オレは……死なねえ!」
倒れ込むローグ目掛けて、槍を振り下ろそうとするネオボーグ。だが、最後の力を振り絞ったローグが世界再構築不全を起こしたことで攻撃は不発に終わった。
ローグの周辺の空間が歪みはじめる中、ネオボーグと悦楽の君は素早く距離を取る。こうなったらもう、相手にトドメは刺せない。
「チッ、カルゥ=オルセナに逃げタか。ダが、あの傷だ。向こうニ逃げたところデ、そう長くハ持つマい」
「んふふふ、仮に生き延びたとしても……彼が戻ってくる頃には、全部終わってるさぁ。邪魔者は消せたし、戻ろうかぁ。ソサエティ本部にねぇ」
厄介な存在に致命傷を与えた二人は、ソサエティの本部に帰還する。ローグの脱落により、ソサエティが全面戦争の勝利に一歩近付く。
レジスタンスが巻き返せるのかは……まだ、誰にも分からない。




