231話─戦闘の果てに
トゥリ率いるチームと、ネオボーグの支配下に置かれたネクロモートたちが激突する。最初はネクロモートたちが優勢だったが、じきに互角になった。
死に物狂いで行ってきた訓練の成果が出た、というのもあるが、やはり魔女たちの間で連携がしっかり取れているのが大きい。
ネクロモート一機に対し、魔女たちは複数で囲んで攻撃を行っている。いくらスペックに優れているとはいえ、一対多では分が悪いのだ。
「ちょこまかと……飛び回るな!」
「っと、もう槍の動きは見切った! 挟み撃ちにするわよ、準備して!」
「オッケー! せやっ!」
「ぐうっ! フェイタルエラー、機能障害回復……不能……」
片方がネクロモートの攻撃を引きつけ、もう一人が背後から攻撃して撃破する。この流れで、少しずつ敵の数を減らしていく魔女たち。
「ヘーイ、ユーたちはミーがデストローイしてやるデース! ミーのフエィバリット、食らうデース! サイクロンブレード!」
「ぐっ、なんだこれは……!? 剣に吸い寄せられて……うぐっ!」
「HAHAHAHA! 撃滅してやったデース!」
奮闘するのは、部下の魔女たちだけではない。彼女自身らに負けじと、トゥリもサーベルを振るいたった一人で敵を倒していく。
刀身から発せられる風によってネクロモートが引き寄せられ、そのまま胸を貫かれて機能停止する。トゥリが連れてきたシルバリオ・スパルタカスたちが補佐に回り、怪我をした者は即座に戦線から脱する。
「チッ、こちラが劣勢カ。だガ、奴らが手ノ内を晒せバ晒スほど……有利ニなるのは我ラだ」
イレーナと斬り結びながら、ネオボーグはそう呟く。当初の予定では、奇襲して隊列を崩した後、一気に瓦解させるつもりだった。
だが、イレーナの咄嗟の反撃によって作戦は失敗。自身の片翼を失い、多少被害を与えただけで終わってしまった。
とはいえ、逆に言えば自分たちが劣勢に陥ることで敵の手札を引き出すことが出来ているということになる。まだ、時のリセットが待っているのだ。
「何をニヤニヤしてるっすか! ……って、それは元からっしたね。いやー悪いっすね、コロッと忘れてたっす」
「私ヲ怒らセて攻撃ノ正確さを失ワせるつもリか? ムダだ、今ノ私にソんな戦法は効かぬ! グランジャルドストライク!」
「なんの! ビブラゼート……あれっ!? うあっ!」
ネオボーグの突き出した槍を、バヨネットで受け止めようとしたイレーナ。だが、槍はバヨネットを、アーマーを透過して直接イレーナの腹に突き刺さる。
「う、あぐ……」
「ククク、驚いタか? 大量に魔力を消費スするが、こうヤって直接貴様ヘ攻撃すルことが可能ナのだ。さア、このマま殺しテや」
「生命反応に異変を察知、救出に入ります!」
「ム、ぐおっ!」
このまま槍を振り上げれば、心臓ごとイレーナの胴体を切り裂き仕留められる。躊躇なく実行し、トドメを刺そうとしたところで妨害が入った。
シルバリオ・スパルタカスが一機ネオボーグに突撃し、間一髪のところでイレーナを救出した。彼女を抱え、素早く戦線を離脱する。
「イレーナガール! 大丈夫デースか!?」
「ゲホ……アタイは大丈夫っす、ギリギリ生きて……トゥリさん、危ない!」
「ふざケた真似を!!! ちょウどイい、まずハ貴様カら死ね! フェイタルスピアー!」
「しま……がふっ!」
それを見つけたトゥリが声をかける中、彼女に凶刃が迫る。体当たりで吹き飛ばされたネオボーグが、近くにいたトゥリに狙いを変えたのだ。
凄まじいスピードで突撃し、トゥリの身体を背後から槍で貫く。ついに、隊長格の魔女に負傷者が出てしまった。
「トゥリ隊長!」
「ほウ、たいしたモのだ。咄嗟に身体ヲ動かシて急所への直撃ヲ防ぐトは」
「げふ、ごほっ。ミーを……甘く見るなデース!」
「グッ!」
ギリギリで即死を免れたトゥリは、力を振り絞ってネオボーグに裏拳を叩き込む。相手が身体を反らしたことで直撃はしなかったが、聖女の面を吹き飛ばすことは出来た。
「おノれ……よくモやって……むっ!」
「隊長から離れろ! このキカイ野郎!」
「これ以上はやらせないわ! みんな、隊長を助けるのよ!」
「おおおお!!」
トゥリを攻撃され、部下の魔女たちは怒りをあらわにして反撃に出る。ネオボーグの槍からトゥリを救出し、治癒魔法をかけるが……。
「バット……ミーはもう、助かりまセーン……。でもドントウォーリー……時が巻き戻されれば、ミーの死もリセット……だから、悲しむ……こと、は……」
「隊長……!」
「げほっ、トゥリさん……」
部下の腕の中で、トゥリは息絶えた。最期の瞬間まで、仲間たちを安心させようと笑顔を浮かべたまま。彼女の死を、顔を無くしたネオボーグがあざ笑う。
その時に聞いた声は、今までで一番不快感を覚えたとのちにイレーナは語った。トゥリの亡骸を抱えた魔女たちが離脱する中、ネオボーグの声が響く。
「ハハハはは! 愚かナ女ダ、死にカけの仲間ニ気を取られテいるカら自分が死……グオッ!」
「黙れ! お前なんかに隊長の何が分かるんだ!」
「そうよ! 隊長はいつだって、私たちのことを一番に考えてくれてた! どんな状況でも、私たちを見捨てずに全員で生き残れるように頑張ってくれた……そんなトゥリ隊長だから、私たちは一緒に戦ってきたのよ!」
「そうだ! それを貴様のようなキカイなんぞに侮辱されたんじゃ、こっちの怒りが収まらない! スクラップにしてやる、覚悟しろ!」
不用意な発言が、魔女たちの怒りに油を注ぐこととなった。時の固定が解除されれば、トゥリの死は確かになかったことになる。
だが、この瞬間に彼女が命を落としたという事実は、記憶は……決して消えない。だからこそ、彼女たちは仇討ちを行う。
いつも自分たちを大切にしてくれていた、大好きな隊長のために。
「チィッ、雑魚どモが調子ニ乗るナ! オールウィングレーザー!」
「みんな、攻撃が来る! マジックシールドを発動して!」
「ええ、分かった! ……イレーナちゃん、あなたは逃げて! その身体じゃ戦えない、ここは私たちがなんとかするから! トゥリ隊長のことを、シゼル隊長に伝えて!」
「わ、分かったっす……!」
ネオボーグの攻撃を防ぎながら、魔女の一人がイレーナに向かって叫ぶ。元はと言えば、イレーナが負傷したことがトゥリの死の一因。
それなのに、彼女を恨みもしない魔女たち。イレーナは泣きそうになりながらも、大きく首を振って頷いた。
「シルスパ、目的地変更っす! あっちで戦ってるシゼルさんのとこに連れてって!」
「了解しました、マジックバリア起動。目標人物に向けて飛翔します」
トゥリの死をシゼルに伝え、今後の判断を仰がなければならない。当のシゼルはというと、ちょうどメンダーソンを討ち取るところだった。
ハンマーの一撃で薙刀をバッキリへし折り、その勢いのまま相手の頭部に必殺の一撃を叩き込んでいる。
「これでトドメよ、この空の塵となりなさい!」
「がふぁっ! む、無念……反乱分子なぞに、この私が……」
「ふう、これでこっちはあらかた片付いたわね。本隊が来てくれて助か」
「シゼルさぁぁぁぁん!!!」
頭をカチ割られ、血を吹き出しながら落下していくメンダーソン。鎚頭に付いた血を拭い、一息ついているシゼルの元にイレーナがやって来る。
「イレーナ! どうしたの、その傷。敵にやられ」
「と、トゥリさんが。トゥリさんが……ネクロモートに、いや、ネオボーグに……やられ、やられちゃったっす……アタイの、アタイのせいで……う、うわぁぁぁぁぁん!!」
シゼルの元にたどり着いたイレーナは、トゥリの死を伝える。直後、自責の念に耐えきれなくなり泣き出してしまった。
同胞の死に衝撃を受けるシゼルだが、呆けているわけにはいかない。ソサエティの魔女部隊は滅し、残るはネクロモートが十数機。
「……全員、聞きなさい! トゥリが敵に討たれたわ、これ以上の被害が出る前に……全部隊、撤退する! 総指揮を私が執る、ジェディン! サラ! ジュディ! しんがりを任せるわ!」
「分かった、俺たちに任せろ!」
トゥリが討たれた以上、魔女たちの士気の低下は避けられない。このまま戦って敵を全滅させられたとしても、増援が来れば負けるだろう。
迷うことなく撤退の判断を下したシゼルは、ジェディンたちにしんがりを任せ魔女たちを戦闘空域から離脱させる。
「ひっぐ、ぐすっ。えぐっ」
「大丈夫よ、イレーナ。自分を責めないで、戦争だもの。いつかこうなっていたわ、残酷だけれど……これが戦いなのよ」
「逃げルつもリか……まアいい、これデ敵の士気モ落ちるダろう。イレーナも、上手くいけバ……ククク、もう二度ト戦えヌかもしれんナぁ」
シゼルの命令には逆らえず、ネオボーグと戦っていた魔女たちもテレポートして撤退する。追撃しても無意味と、ネオボーグは追わなかった。
すでに敵の手の内をある程度暴き、隊長を仕留めたとあらば戦果は十分。今回の出来事がきっかけで、イレーナが心を病み戦えなくなるかもしれないとあれば……もう、彼がやることは何もない。
「待て、ネオボーグ。撤退する前に、一つ宣言しておくぞ」
「なんダ、まだいたノかジェディン」
「……トゥリの仇、いずれ俺が取る。イレーナの心的外傷の分も含めて、必ず報いを受けさせてやるから覚悟しておけ!」
最後まで残っていたジェディンは、そう宣言しレジスタンスのアジトに戻っていった。二度目の戦いは、ネオボーグの戦術的勝利で幕を閉じたのだった。




