230話─ネオボーグ襲撃
先遣隊が激しい戦いを繰り広げている頃、トゥリ率いる本隊は合流を目指して前進していた。その中に混ざっていたイレーナは、難しい顔をしている。
(なんスかね……いやーな感じがビンビンするっす。ものっすごく良くないことが、今にも起こりそうな……)
次々と届く、先遣隊からの喜ばしい報告に本隊が浮き足立つ中……彼女だけが、言いようのない不安感を覚えていた。
味方側が優位に立っているはずなのに、今すぐにでも戦局を引っくり返されてしまいそうな。そんな胸騒ぎを感じていた。
「ヘーイ、どうしたデース? ぽんぽんペインデースか? イレーナガール」
「あ、隊長さん。いや、なんていうか……胸騒ぎがするんすよ。とてつもなく悪いことが起こるような、そんな気がして……」
「ノープロブレム! 今から心配してもバッド! ミーたちは常にアクシデントが起きてもいいよう備えてマース! 起きたら起きたで、腹括って対応すればグッド! 余計な心配は無用ネー!」
「そういうもん、なんすかね? でも、まあ……それでいろいろ疎かになったら本末転倒っすもんね」
「イエース! もうすぐシゼルたちのところに着きマース! それから判断しても……全軍ストーップ! 頭上からのアタックに注意! シールド展開デース!」
そんな会話をしながら進んでいると、戦闘中の先遣隊が見えてきた。いざ合流しようとした、次の瞬間。トゥリが大声で叫ぶ。
魔女たちが咄嗟に頭上に結界を張り巡らせた刹那、巨大な光の柱が本隊へ降り注いできた。いきなりの攻撃に、魔女たちは混乱状態に陥る。
「な、なに!? 今のはなんなの!? 誰が攻撃してきたの!?」
「敵の奇襲!? でも、計器に新しい反応は……」
「クははハはは! ようコそ、魔女たちヨ。歓迎してヤろう……挨拶代わりダ、食らうガいい! ジャスターウイング!」
混乱が収まらぬ中、どこからともなく無機質な声が響く。そして、本隊の左側面から一機のネクロモートが突撃してきた。
翼を広げ、紫色の光の矢となったネクロモートは頭上への守りを固め、側面がガラ空きになっていた本隊を蹂躙する。
「きゃああああ!!」
「さっきのは囮……あぐっ!」
「総員、立て直すデース! 負傷した者はエスケープ! ファイト出来る者は防御陣を固めるデース!」
ネクロモートが本隊を突き抜け、壊滅的な被害が発生してしまう。命を落とした者、重傷を負って戦えなくなった者、運良く軽症や無傷で済んだ者。
部下たちの状態に合わせて、トゥリが素早く指示を出す。負傷した者たちは迷わずテレポートして離脱し、戦える者は身を寄せ合い次の攻撃に備える。
「殺せタのは数十人が精々、カ。まあイい、我が分身たちモ何体か向かわセた。本隊ヲ先に全滅させらレる絶望、とくと味わウがいい!」
襲撃を仕掛けた機体……ネオボーグは急停止し、その場でUターンする。次に狙うのは、本隊を纏めるトゥリだ。
彼女を始末してしまえば士気はガタ落ち。魔女たちは立て直すことも出来ず、ソサエティ側の戦力に蹂躙されるだろう。
「さあ、次ダ! 覚悟し」
「そうはさせないっすぅぅぅぅぅぅ!!! ていやぁぁぁぁ!!」
「なニっ!? ぐハっ!」
翼に魔力をチャージし、再び突撃しようとした次の瞬間。頭上からイレーナの声が響くと同時に、彼女が突撃をかました。
最初の奇襲を受けた後、イレーナは仲間たちを攻撃した敵を仕留めるべくこっそり離脱していたのだ。相手に悟られないよう、頭上に陣取ったのである。
前方の魔女集団を注視していたネオボーグからすれば、完全に意識外からの襲撃。左の翼を破壊され、くるくる回りながら墜落していく。
「チィッ……貴様、イレーナか。よくモ我が片翼を破壊シてくれタな!」
「お、その喋り方……お前がネオボーグっすね! ここで会ったがなんとやら、今度こそパーペキにぶっ壊してやるっす!」
「フン、今ノ私を甘く見るナよ。ネクロモートとしてよみがえったノだ、以前のヨうにはいカぬぞ!」
「へっ、望むところっすよ! お前さえ引き離せば、みんなは安心して戦えるっす。向こうには行かせない……デュアルアニマ・オーバークロス! アンチェイン・ボルレアス……オン・エア!」
残った片翼で体勢を整え、ブレーキをかけるネオボーグ。そこにイレーナが追い付き、二人は睨み合う。最初から全力全開なイレーナは、変身を遂げる。
「先手必勝っす! ブーメランショット!」
「ククク、貴様ノ攻撃はモう見切ってアる。今更ソんな技ガ当たるものカ!」
荒ぶる北風の化身となったイレーナは、両腕の銃身から弾丸を二発放つ。機動力を大きく削がれたネオボーグだが、基礎スペックの向上によりハンデがあっても器用に避ける。
大きく曲がりながら背後より飛んでくる弾丸を、返す槍の一撃で両断し撃滅する。それを見たイレーナは、別の攻撃を行う。
「そいじゃー、こいつはどうっすかね? ビブラゼートブレード!」
弾丸を用いた攻撃は効かないだろうと判断し、イレーナはバヨネットによる攻撃に切り替えた。絶唱剣グルンディガスを振動させ、果敢に斬り込む。
「フン、私に白兵戦ヲ挑むか? 愚かナ、貴様が本領ヲ発揮するのハ銃を用いタ攻撃だロうに」
「そー思うのは、こいつを受けてからにしてもらいたいっすね! ていやあっ!」
イレーナはネオボーグに肉薄し、バヨネットの刃を叩き付ける。対するネオボーグは、左手に持った盾で攻撃を防ぐ。
攻撃自体は防げたが、片翼が破損した状態では衝撃まで消し去ることは出来ない。反動によって、ネオボーグの身体は後ろへ飛んでいく。
「まだ終わらないっすよ! ギガソニック・シンセサイズ!」
「グウッ……! 衝撃波ニよる攻撃カ!」
振動する刃同士を打ち合わせ、衝撃波を発生させて追撃するイレーナ。その最中、本隊の方をチラリと見やる。
すでに態勢を立て直し、先遣隊に加勢して敵の部隊と戦っているのが見えた。ひとまず向こうは問題なしと、ホッと安堵する。
「ふー、あっちは大丈夫そうっすね。ネオボーグが突っ込んできた時は、冷や汗ダラダラっしたよ」
「何をブツブツ言っテいる! その余裕ノ態度、崩しテくれる! ダンシングスピア!」
そこに、衝撃波攻撃を耐えたネオボーグが突っ込んでくる。今度は自分の番だと、右手に持った槍を高速で突き出す。
何度も繰り出される突きの連打を、イレーナは銃身を使って捌いていく。レジスタンスのメンバーと訓練を行い、彼女はさらに強さを磨いた。
今のイレーナに、生半可な攻撃は通用しない。それを悟り、ネオボーグはほんの少しだけ本気を出すことにした。
「やルな、私の攻撃ヲ防いでミせるとは。デは、少し出力を上げテみようカ。お前ガどこマで防げルか……試してヤる!」
「うあっ!? い、いきなり早くな……ちょ、マジで早いっす!」
「ほう、マだ対応出来るのカ。なラ、もっト出力を上げてモ問題無いなァ!」
ネオボーグの顔である聖女の面が、少しだけ微笑みを崩す。同時に、繰り出される槍の速度が飛躍的に上昇した。
一瞬不意を突かれたものの、すぐさま適応して防御してみせるイレーナ。だが、敵の出力が上がる度に段々ガードしにくくなっていく。
(こいつはまずいっす、いつかは攻撃を防ぎきれなくなる……そうなったら、全身穴だらけにされちゃうっす! それだけは勘弁っすよ~!)
「ククク、冷や汗ヲ……ムウッ!」
「ヘイ、そこまでデース! イレーナガール、ミーたちが加勢に来たデース!」
「ト、トゥリさ~ん! いやー、助かったっすー!」
少しずつイレーナが焦り出す中、彼女に救いが訪れる。戦局が安定してきたため、トゥリが二十人ほど部下をひきいて加勢しに来てくれたのだ。
「ムダなことヲ。死にたくなけレば退け。たかガ魔女風情ガ、この私ニ勝つことハ出来ない」
「ホワッツ!? こいつだけスピークスキルが違うデース! 滑らかなのかぎこちないのかよく分からないデース!」
「トゥリさん、そいつは……えーと、とにかく普通のネクロモートじゃないっす! 他の機体と同じだと思わない方がいいっすよ!」
ネオボーグのことは、余計な混乱を招きかねないためメイナードとジェディン、イレーナにローグの四人しか知らない。
イチから説明している暇はないため、とりあえずいろいろ省いて要点だけを驚いているトゥリに伝えるイレーナ。
もっとも、本当に必要最低限の情報だけだが。
「オーケー、肝に銘じておくデース! さあ皆、あのネクロモートをデストロイ! してやるのデース!」
「愚かナ、そこマでして死ニたいのカ。いいダろう、なラ一人残らズ殺しテやる」
トゥリ隊を加え、ネオボーグとの本格的な戦いが始まる。宙に浮かぶ太陽は、いまだ固定されたまま。戦いが終わるのは、いつになるのか……それはまだ、誰にも分からない。




