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200話─騎士、雪原にて死を狩る

「聞こえるかアンネローゼ! 我輩たちを襲っていたゾンビどもの指揮官は捕らえた! 今のうちに先に進め!」


「分かった! ありがとう!」


 ネクロレジアを捕まえたクラヴリンは、ありったけの大声をあげてアンネローゼにそう告げる。かろうじて聞こえたようで、大声で返事があった。


 迫撃砲による攻撃が止まっている間にと、アンネローゼは急いで離脱していく。ネクロレジアは止めたいとは思っているが、そうもいかない。


 目の前にいるクラヴリンが、巨大なランスと盾を構えて攻撃してきているのだから。


「あーもう、邪魔だから消えてくれない……かなぁ!」


「断る。我輩の目的はお前とその配下の屍どもの討伐なのでな。ここで消えてもらおう、我が同僚の姿をした者よ! クランプルストラッシュ!」


「やーだよ。ま、ここでやられても『次のうち』が出てくるだけなんだけどねー」


 気怠げな口調で話しつつ、ネクロレジアはどこからともなく取り出した二本のジャベリンでクラヴリンの攻撃を防ぐ。


 連続で繰り出される突きを防御しながら、雪の中に通した魔力を用いてゾンビたちを修復する。こっそりとクラヴリンの背後に回し……。


「今だー! いっけー、ゾンビたち!」


「オオォォォ!!」


「なるほど、前後で挟み撃ちにする作戦か。いい作戦だな……我輩が相手でなければ、だが。ホースガーディアン!」


 後ろから迫り来るゾンビたちの呻き声を聞きながら、クラヴリンは無敵の盾を背中に生成する。横向きになったナイトの駒が描かれたカイトシールドが、ゾンビたちを弾き返す。


「あれ、そんな技あったんだ。へー、知らなかった」


「貴様、レジェの偽者なのだろう? 我輩の手の内を知らぬのか? ……いや、偽者だからこそ知らないのか」


 ホースガーディアンを見て驚くネクロレジアを見たクラヴリンは、訝しげに呟く。見た目がそっくりなため、彼は一つ誤解していた。


 目の前にいる敵は、あくまでもアンネローゼの記憶の中にある情報を元にして生まれた存在。ゆえに、彼女が知識・経験として有していないものは再現されないのだ。


 クラヴリンと実際に戦っていないアンネローゼの記憶に、彼の技の知識など存在するわけがない。


「なーにごちゃごちゃ言ってんの? そーいうのキモいんですけど! ジャベリンダンス!」


「……うむ。こういうところは本物と同じだ……な! ギガナイツシールド!」


 背後から襲い来るゾンビたちをオートシールドで防ぎつつ、クラヴリンは前から来るネクロレジアの猛攻を大盾でガードする。


 舞うような槍の連撃に襲われるも、頑強な盾はビクともしない。それどころか、表面に傷一つ付かず、逆に槍の穂先が刃こぼれしてしまう。


「うあ、マジかー……。その盾頑丈でいいなー、ちょうだい?」


「断る。全く……そういう図々しいところは本物とまるで同じだな! ウォールスパンダム!」


「へぶっ!」


 大盾による殴打を食らい、吹っ飛ばされるネクロレジア。雪原に叩き付けられた瞬間、彼女は素早く雪の中に潜り込んでいった。


「もー怒った! こーなったらヒットアンドウェイ! ……じゃなかった、ヒットアンドアウェイでやっつけてやるから!」


「ふむ、そう来るか。……なら、無理矢理にでも引きずり出してやる。ホーストランゾナス!」


 兜の上部にデザインされた、馬の頭に魔力が宿る。ゆっくりと口が開き、そこから小型のミサイルが姿を現した。


 ミサイルには魔力探知能力が備えられており、クラヴリンが指定した魔力の波長を持つ者を自動的に追尾することが可能だ。


 当然、彼が狙うのは……雪の中に隠れたネクロレジアだ。


「発射!」


「んお? ゲッ、なんか来てる!? 逃げろー!」


「無理矢理にでも真正面からの対決に持ち込んでくれる。奴が逃げ切れなくなるまでは……この邪魔なゾンビどもを滅しているとしよう!」


「ウウゥ……アアア……!!!」


 ネクロレジアを引きずり出すべく、容赦なくミサイルを放つクラヴリン。彼女が出てくるまでの間、背後に群がるゾンビたちの相手をする。


 知能がほとんどないのか、いつまでも後ろでのたのたしているゾンビたちの方へ振り向きつつ、ランスによる薙ぎ払いを叩き込む。


「ウアァ……」


「アグァ……」


「この感触……奴め、自分の魔力を混ぜ込んで修復出来るようにしているな? いい加減にこやつらも鬱陶しい、もう二度と復活出来ぬようにしてやる!」


 数十体のゾンビたちを叩き潰す際、クラヴリンは自身の魔力を流し込み修復を阻害する。ネクロレジアの魔力を上書きされ、ゾンビたちは崩れ落ちていく。


「アァ……アァァ……」


「グギ、ウギゥ……」


「欠損部を補っていた雪が溶けたか。これでもう、こやつらは戦えまい。さて、次は……」


 魔力によるコーティングが剥がれ、ゾンビたちは戦闘不能に陥った。クラヴリンは呟きながら、ゆっくりと振り返る。


 視線の先には、ミサイルに追われ逃げ惑うネクロレジアがいた。悲鳴をあげて逃げ回っていたが、つまずいて転んだところにミサイルが直撃する。


「あぶぁー!」


「安心しろ、威力は抑えてある。そんなもので決着をつけるのは、我輩の本意ではない。鍛えた技と心のぶつかり合いによって勝負を決める。それが我が流儀なのでな」


「うぐぐ……全身まっくろけになっちゃった……。そこまでして真正面からヤりたいの!」


「……変なイントネーションを付けるな。お前もレジェの魂の片鱗を持つ者なら、真正面から戦えるはず。違うか?」


 ミサイルの直撃でボロボロになったネクロレジア。彼女が得意とするのは、部下を使った撹乱や挟み撃ちに不意打ちといった戦法。


 それらをことごとく潰してくるクラヴリンとの相性は、最悪と断言していいほどだった。どうせ負けるならと、ネクロレジアはジャベリンを構える。


「ま、いっか。『次のうち』が上手くやってくれるだろうしー、ここで倒されちゃってもいーやー」


「……軽いものだな。お前は死ぬのが……いや、自分が消えてなくなるのは怖くないのか?」


「別に? アンブロシア様がいれば好きなだけ復活出来るし。消える恐怖とか分かんないな、気付けばまた畑から生えてるし。記憶も消えないからねー」


「そうか。……不可思議なものだ、お前たちは。替えの利く兵隊としては、まさに最適解と言える存在だよ。だからこそ、恐ろしい」


 滅びることを恐れず、それでいて何度消えても以前の記憶を引き継ぎ学習しながらよみがえる。そんなネクロヒューマンを、クラヴリンは恐ろしいと感じた。


「へー、うちが怖いんだ?」


「正確に言えば、お前を……いや、お前たちを作り出した存在を恐れている。ネクロマンサーは多く見てきたが、兵団の長が欲する理想の軍隊を作り上げられる力量……まこと恐るべきものだ」


 そう口にした後、クラヴリンはランスを構える。まずは目の前の敵を排除し、のちに彼女を作り出した元凶を討つ。


 ネクロヒューマンという兵器は、この世に存在してはならない。彼女らの存在が明らかになれば、その力を欲する者たちによる血みどろの戦争が起きる。


 そして、その先には凄惨な地獄のような世界が訪れる……クラヴリンはそれを危惧していた。


「だからこそ、お前もその主も滅ぼさねばならぬ。存在を許しておけば、この大地だけでなく神・魔・人の三界に災いをもたらすだろうからな」


「ふーん。そこまで言うんだ。でも、うちだって黙ってやられるつもりはないし。最後くらい全力で相手してやる!」


「……来い! アサルトホースドライブ!」


「てーい! ダブルスピアストリーム!」


 二人同時に、雪を踏みしめ走り出す。ランスとジャベリンが交差し、相手に致命傷を与えたのは……クラヴリンの方だった。


「あぐ、ふ。やっぱ、うちじゃ無理……かぁ。アンブロシア様に怒られるな……マジサイア、ク……」


「……無へと還れ、死から生まれた者よ。この雪原がお前の墓場だ。願わくば、これを永遠の別れにしたいものだが……まあ、こやつの主がいる限りは無理だろう」


 ネクロレジアの胸を貫き、仕留めたクラヴリン。彼女を雪の中に埋めた後、そう呟く。ランスには、一滴も体液が着いていない。


 そのことが、クラヴリンに強く自覚させる。自分は死者を滅し、あるべき場所へと還してやったのだと。


「急がねばならんな。アンネローゼ一人では、怒りで暴走しかねん。我輩が手綱を握ってやらねばなるまいて」


 やるべきことを終え、クラヴリンは北へと向かう。振り返ることなく歩み続ける彼の上に、粉雪がそっと降り始める。

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― 新着の感想 ―
[一言] よくあるネクロマンサー系の能力でゾンビ兵量産、戦場で敵兵アンデット化は常道戦術だけど畑から作られちゃ溜まったものじゃないな(ʘᗩʘ’) その上、個人の人格までほぼソックリだと疑心暗鬼なるぞ…
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