195話─レジェちゃんのあんやく
フィル奪還に向け、強力な助っ人を得たレジェ。クラヴリンをカルゥ=オルセナに送り出した後、今度は別の大地へと向かう。
彼女がやって来たのは、アゼルが住む大地。ギール=セレンドラクだった。アンブロシアと同じく、死を司る彼に助言を求めに行ったのである。
「とーちゃくっ! さーて、こっからどーやってアゼルちん探すかなー。何の策もないとかマジウケるんですけどー」
とりあえずやって来たはいいが、どうやってコンタクトを取るか考えていなかったレジェ。まあ何とかなるだろうと、到着地点である街道を歩く。
「とりあえず街に行ってー、誰かに聞けばいっかー」
親友とその恋人の一大事だというのに、呑気にそんなことを考えながらテクテク街道を進む。すでに二つ布石を打ったからか、だいぶ余裕だ。
夕暮れの街道は人が少なく、たまに旅人や商人が通っているくらい。彼らはレジェを見ても驚かず、逆に挨拶をして去って行く。
「やあお嬢ちゃん。こんな時間に一人かい? もうすぐ陽が落ちるよ、よかったら街まで乗せていってあげようか?」
「マジで! あざーす、うち歩くの疲れてきたとこなんよねぇ。ところで、その馬車どこ行くん?」
「ああ、この先にある太陽の都……ソル・デル・イスカまで行くんだ。うちの商会の本部があってね、仕入れが終わって帰るところなんだよ」
そんな中、とある商隊を率いる商人の男がレジェに声をかけてきた。相手の厚意を無下にするような真似はせず、レジェは馬車に乗せてもらうことに。
「ほへー、その街って大きいの?」
「もちろん、この大陸の南部だと一番の賑わいがある街さ。何せ、アゼル王の妻であるエイルリーク様が治めておられる歴史ある街だからね」
馬車の空き席に座り、レジェは対面にいる商人に尋ねる。すると、有益な答えを得ることが出来た。アゼルの妻がいるなら、彼女と接触すれば目的を果たせるからだ。
「おー、うちすんごい興味湧いてきた!」
「はっはっはっ、それはいいことだ。ただ、気を付けた方がいいよ。お嬢ちゃん、闇の眷属だろう? 今、ソル・デル・イスカでは闇の眷属の出入りを厳しくチェックしているから」
「え? そうなん? なんかめんどくさそー」
「なんでも、ヴァルツァイトなんとかって組織の残党が街に入り込んで悪さしてるみたいでねぇ。繋がりのある者を捕まえようと躍起になっているみたいなんだ」
「ソ、ソッカー」
商人の言葉を聞き、レジェはカタコトになりながら冷や汗を流す。カンパニー壊滅からそれなりに時間が経ったが、まだ迷惑をかける者がいるらしい。
元特務エージェントであるレジェのことも、相手はとっくに把握しているだろう。このまま街に入って、トラブルが起きたら……と頭を悩ませる。
(んー、でも今更降りて別のとこに行くのもなー。まあいーや、たぶんなんとかなるっしょー。今はもうカンパニーとは縁切ったし~)
が、持ち前のポジティブシンキングですぐに思考を切り替えるレジェ。今の自分なら、検問されても大丈夫だろう……と思っていたが。
「甘かった……ふっつーにとっ捕まるとかマジやばたんピーナッツなんすけど」
数十分後、彼女は女王の住む城の地下牢に閉じ込められていた。街の入り口にある検問所でのチェックの結果、兵士たちに捕まったのだ。
彼女が元特務エージェントであることは末端の兵士にも周知されていたようで、問答無用で地下牢へと強制テレポートさせられた。
転移の最中、魔法封じの首輪を嵌められてしまい脱獄も出来ない。ダイナモドライバーを起動させられない彼女に出来るのは、座して待つのみ。
「はー、マジめんどくさー。久しぶりにTBSだわ~」
「さっきからブツブツうるさいぞ! 少しは静かに出来ないのか!」
牢屋の中で愚痴をこぼしていると、見張りの兵士に怒鳴られてしまった。レジェはあっかんべーを返し、フンと鼻を鳴らす。
それからしばらくして、地下牢へ続く階段を誰かが降りてくる。見張りの兵士は、現れた人物に対して敬礼する。
「やあ、ここにいるんだね? 例の闇の眷属は」
「ハッ、その通りであります! しかし、ジークベルト様自らが尋問しに来られるとは……」
「半端な実力の人だと、返り討ちにされちゃう可能性があるからね。ここは慎重を期して、ってわけさ。ま、僕もロートルだけどね」
「いえいえ、そのようなことはありません! ジークベルト様は、私の憧れですよ!」
「ふふ、ありがと。じゃあ、上に戻ってて。何かあったらすぐ呼ぶから」
そんなやり取りが行われた後、見張りの兵士は入れ替わりで上の階へ登っていった。現れたのは、青い鎧を着た竜人の少年だった。
幼さの中に歴戦の強者のオーラを宿した少年は、青色の瞳でレジェを見つめる。レジェも相手を眺める中、あることに気付く。
「あれ? ぼーや、左腕ないの?」
「はは、久しぶりだな……レミーたち以外に子ども扱いされるのは。ええ、生まれつき左腕がなくってね。みんなからは『隻腕』の二つ名で呼ばれているよ」
「ほへー。ん? ジークベルト……どっかで聞ーたような……」
「自己紹介しておきましょうか。僕はジークベルト。この太陽の都を治める女王、エイルリーク様にお仕えする『暗滅の四騎士』の一角です」
「あー! そーだそーだー、思い出した! 遠い昔に、ラ・グーとかいう闇の眷属を追い返した連中の一人! へー、まだ生きてたんだー」
自己紹介したジークベルトに対し、レジェは失礼極まりないことを口にする。ジークベルトは背中に生えた翼を揺らし、ちょっとだけ不快感をあらわにした。
「……それ、僕以外の三人やエイルリーク様には言わない方がいいよ? 一瞬で滅! ってされちゃうから」
「き、気を付けやーす……」
「で、ヴァルツァイト・テック・カンパニーの元エージェントが何の用なのかな? この太陽の都に」
ジークベルトから発せられる退魔のオーラにあてられたレジェは、冷や汗を流しながら何度も頷く。そんな彼女に、少年は問う。
出来る限り穏便に済ませようと、レジェはギール=セレンドラクを訪れた理由を嘘偽りなく相手に話して聞かせた。
「なるほど、仲間を助けるためのアドバイスが欲しいからアゼルさんに会いたい……と。嘘は言ってないみたいだね、うん」
「そーそー。うちの親友のかれぴっぴがね、今寝取りの危機なの。んで、攫ってったのがチョー強力なネクロマンサーで~。餅は餅屋って言うしぃ~、なんか助言貰えないかなって」
「そういうことなら、エイルリーク様に頼んで仲介してもらえるけど……今は無理だね。早くても明日の朝になるかな」
「えー、なんでなんで? すぐ会いたいんすけど~」
図々しい要求をしてくるレジェに、流石のジークベルトも苦笑いをする。アゼルは今、とある計画に関わっているのだと少年は語った。
「今、神々は闇の眷属やウォーカーの一族との戦いを進めるための人材育成政策を推し進めていてね。冒険者限定で蘇生の力の恩恵を得られるように、いろいろ実験をしてるんだ」
「ほえー、なんか凄いことやってる……」
「そんなわけで、アゼルさんが帰ってくるのが今日の真夜中なのさ。だから、早くても明日にならないと会えないってわけ。理解出来た?」
「なーんかバカにされてる気がするけど……一応りょーかいしましたー、みたいな」
そこまで説明されれば、レジェも納得せざるを得ない。フィルの命と貞操が気がかりではあるが、奪還は万全の策を持って行いたい。
そのためには、アゼルの助力が必要なのだ。会わせてくれないというわけではないため、レジェは我慢して待つことにした。
「じゃー、うちどっかコーキューなホテルに泊まりたーい! ここホコリ臭くてさげぽよなんよねー」
「え? ダメだよ、元とはいえカンパニーの関係者だからね。万一の事態に警戒して、今日はここで一夜を明かしてもらうから」
「えー!? ご飯はー? お風呂はー? なーんもないのー? 捕虜の虐待、はんたーい!」
けんもほろろにバッサリ切り捨てられ、レジェは猛抗議する。が、ジークベルトに聞き入れられることはなかった。
「ご飯は後で持ってくるから、それまで待ってて。お風呂は……うん、レミーかフェムに付き添ってもらうのが条件だけど後で入れてあげる」
「ぶー、まーいーや。じゃ、うち寝て待ってるからー」
最低限の衣食住の保証はあるとのことで、レジェは不承不承ながら受け入れた。もう話は終わりとばかりに寝転がり、そのままイビキをかきはじめる。
コロコロ変わるレジェの態度に、ジークベルトはやれやれと肩をすくめる。喜怒哀楽の激しい人だなぁ、と呟きながら地下牢を去って行く。
「やれやれ、変な客を招いちゃったな……。ま、いいや。彼女には悪いけど、安全のためにもここにいてもらわないと」
街に潜伏しているカンパニーの残党がレジェに気付けば、確実に接触してくるだろう。そうなれば、彼女にとってよくない事態になる。
それを防ぐために、エイルリークはレジェがソル・デル・イスカを訪れたら即座に城の地下牢へ送るように指示していたのだ。
そんなことも知らず、レジェは一人夢の世界へと旅立っていった。




