191話─死を恐れぬ者
「そいじゃー、サクサク死んでもらいましょーかー。えーい!」
「それがしを簡単に斬れると思うな! 九頭流剣技、壱ノ型! 菊一文字斬り!」
一対一の状況に持ち込むべく、オボロはネクロレーナに斬り込み斬撃を嵐のように叩き込む。少しでも早くもう一人の敵から引き離すのが、彼の目的だ。
「逃がすと思うか? 隙だらけだ……ボーンナムキャノン!」
「あい、させないしー。とうっ!」
「邪魔者め……まあいい、お前を先に始末してやろう」
そんなオボロの背中に向けて、ネクロボロムが砲弾を放つ。しかし、直撃させまいとレジェが射線に割って入り斧を振るう。
砲弾を真っ二つに切り裂き、攻撃を防いだ。ネクロボロムは鼻を鳴らした後、大筒をさらに一つ増やして構える。
「お前が対応出来ぬ速度で砲弾を連射してやる。全身を吹き飛ばされて死ぬがいい! ボーンナムランチャー!」
「おっ、いっぱい来た! じゃー、全部打ち落としてやるし! 鬼デコ☆キラキラテンペスト!」
二つの大筒から交互に砲弾を放ち、レジェ……ひいてはそのさらに後ろにいるオボロを爆殺せんと砲撃するネクロボロム。
対して、レジェは斧を振り回して砲弾を全て破壊していく。リーチの長さを活かし、くるくる身体ごと回転させて一つも打ち漏らさない。
「なるほど、本物の我よりは対応力があるようだ。ならば……これはどうだ!?」
「ほっ!? 砲手のクセに殴ってくるなんてマジやばたんピーナッツ!」
魔力で作り出した砲弾をリロードした後、ネクロボロムはレジェに接近する。なんと、そのまま彼女に殴りかかった。
下手をすれば装填した砲弾が衝撃を受けて爆発してしまうのに、そんなことはお構いなしとばかりに大筒を振り回してくる。
「マジ訳分かんない、なんでそんな状態で殴ってくるわけ? ちょっと怖いなんすけど!」
「フン、決まっているだろう。我は死より生まれた者だ、滅ぶのを恐れるわけがない。お前たち生者とは違い、我らは攻めあるのみなのだ!」
「ひゃー、マジで!? チョーヤバーい! ……じゃ、うちも遠慮なくやっちゃうもんね!」
元々ネクロシードから生まれた彼らは、命というものを持たない。故に、死ぬことを恐れる必要はなく、痛みを感じることもない。
そんな敵が相手ならと、レジェは斧を持つ手に力を込める。向こうが自爆上等で攻めてくるならば、こちらも果敢に攻めてやろうと腹を括ったのだ。
「やれるのか? 生者であるお前が。命ある者は弱いぞ、何故か分かるか?」
「さー? うちパリピだから、そーいう難しい話わかんなーい☆」
「なら教えてやる。お前たちは死を、痛みを恐れる。だから、ここぞという時に迷いが生まれる。あと一歩でトドメを刺せる……だが、反撃を食らい傷付き、最悪死ぬのが怖い。そんな思考に支配された腰抜けなのだよ!」
レジェの振るう斧を大筒で受け止め、弾き返しつつそう叫ぶネクロボロム。体勢を崩したレジェの土手っ腹に、近距離から砲弾を撃ち込む。
「おぶふっ! いったー、今のは効いたんすけど! マジおこ! 激おこぷんぷん丸!」
「頑丈な鎧だ。仕留めるには、そいつを破らねばならぬか」
「ぬあー、無視すんなし! ……あ、そうそう。さっきの話だけどー、一つ訂正するとこあんのよねぇ」
「ほう、なんだ? 言ってみろ」
「うちは別に、死ぬのは怖くないし。だって、一度死んでるからね! キラデコ☆ジュエリートレイン!」
アーマーのおかげで致命傷こそ免れたが、痛いものは痛い。悪態をついた後、レジェはネクロボロムに反論する。
彼女は一度、アンネローゼを守るため命を落としている。時間こそかかったが、こうして蘇生した以上は死を恐れることはない。
お返しとばかりにショルダータックルを叩き込み、今度は自分が敵を吹っ飛ばす。
「ぐうっ!」
「仮にここで死んでも、死体を回収してもらえばまた生き返れるし。うちねー、アンネちんたちのためなら何回だって死ねるから」
「理解出来ない……生き返る? バカな、一度死んだ者が蘇生するなどありえん。そんな奇跡、神でもなければ起こせるはずがないだろう! ボーンナムキャノン!」
アゼルの存在や蘇生の炎のことを知らないネクロボロムは、そう口にしつつ砲弾を放つ。それに対し、レジェは迎撃しなかった。
何の策も構えもなく、真っ直ぐ砲弾へ突撃する。直撃を食らい、爆風に包まれるが……何事もなかったかのように姿を現す。
「バカな! 直撃したはずだ、何故生きている!?」
「ふーんだ、このアーマーの頑丈さ舐めんなし。真っ直ぐ走り続けて、爆風突っ切ったから最小限のダメージで済んだんよねー」
「貴様、バカなのか? 普通なら……普通の生者なら、死を恐れてそんな真似はしないぞ!」
「そーだよ。でも、うちふつーじゃないんよ。さっきも言ったけどさー、怖くないんだよね。死ぬのは。アンネちんのためなら、何度でも死んでやんよ!」
斧を地面に叩き付けながら、レジェはドヤ顔をキメる。そんな彼女を見て、ネクロボロムは動揺を隠せない。
「そこまで言うなら試してやる。お前が本当に死を恐れぬのなら! この攻撃から仲間を守り抜いてみるがいい! ボーンナムレイン!」
そう叫び、斜め前方に向かって砲弾を二つ発射する。緩やかな放物線を描き飛んでいく砲弾は、上空で破裂し無数の尖った破片になった。
遠くの方で戦っているオボロの方に降り注いでいく破片を指さして、ネクロボロムは叫ぶ。死を恐れぬのなら、アレから仲間を守ってみろと。
「アレをまともに浴びれば、お前もお前の仲間も無事では済むまい! 怖いだろう、全身を貫かれて死ぬのだからな。さあ、どうするかを選べ!」
「えー? じゃあこうするし!」
レジェは気負うこともなく、いつものペースで上下逆さまにした斧に乗る。破片の元へと向かい、アーマーの背中に装着された宝石を剥がして投げ付ける。
「そりゃっ! ラグジュアリ・シェル!」
投げ付けられた宝石が光り輝き、砲弾の破片を吸い込んでいく。破片を取り込む度に少しずつ大きさを増していき、最終的にバレーボールの二倍近い大きさに膨らんだ。
「なっ、貴様……」
「いやー、死ぬのは怖くないけどさー。傷付かずに解決出来る方法あるのにそれやらないとかさ、ただのバカじゃーん?」
「人をたばかりおって、この……」
「はい、ゴミは持ち主が処理してねー! ラグジュラリエンド・ボム!」
身を挺して仲間を守るか、見殺しにするか。そのどちらかを選ぶとばかり思っていたネクロボロムは、想像もしていなかった方法で攻撃を防がれ怒りをあらわにする。
そんなのは知ったことではないと、レジェは破片を収集した宝石を手元に呼び戻した。それを、相手めがけて勢いよくブン投げる。
「く、まず……」
「あーんど! ラグジュラリアット・ボンバー!」
「!? 自分から突っ込んでくるだと!?」
「ゴミごと纏めて! どっかーん!」
我に返ったネクロボロムは回避しようとする。が、頭部を透明な宝石で覆ったレジェが突っ込んできたため動きが止まってしまう。
支離滅裂な攻撃に度肝を抜かれた結果、回避が間に合わなくなる。そのことにネクロボロムが気付いたのは、宝石爆弾とレジェの攻撃が直撃した瞬間だった。
「しま……ぐあああああ!!」
「言ったっしょ? うちは死ぬのは怖くないの。あんたを倒すのはさー、こうやって意表を突くのが一番って考えたんよ。ざまぁ!」
爆風と砲弾の破片、斧の一撃と三位一体の衝撃をモロに食らったネクロボロムは、断末魔の声をあげ爆散した。
死を恐れず……というより、相手の予想の先を行ってやろうとしたレジェの捨て身の攻撃により、勝敗は決した。
「今の爆発……そうか、向こうは終わったか」
「ありゃー? ネクロボロム、負けちゃったみたいすねー。アンブロシア様に怒られちゃうなー」
「そのわりには、随分と淡泊な物言いだな。仲間を倒されて悲しくないのか?」
「別にー? あたいら、野菜みたいに畑でいくらでも採れるしー。一人倒されても、アンブロシア様がいればどんどん増えるっすからー」
遙か後方で起きた爆発、そして邪悪な気配が消えたのを感じたオボロはそう呟く。一方、ネクロレーナはのほほんとしていた。
オボロに問われ、さらっと恐ろしいことを口走るネクロレーナ。自分たちの偽者が大増殖しる光景を想像し、オボロは鳥肌が立つのを感じた。
「冗談ではない、そんなのは御免被る。早急にお前を倒し、そのアンブロシアとやらを排除しなければ」
「むりむりー。あんたじゃあたいは倒せねーす。えっへっへー」
にへっと笑い、ネクロレーナは大刀を構える。もう一つの戦いが、クライマックスを迎えようとしていた。




