182話─魔導騎装兵、誕生
レジスタンスのアジトにて、しめやかに葬儀が行われている頃。メルナリッソスの南西の果てにある、トトロワ地区にアンブロシアがいた。
この地区はソサエティの直轄領となっており、一般人は住んでいない。ここにあるのはただ一つ。巨大な特殊兵器工場だ。
「お待ちしておりました、アンブロシア様。例の試作兵器は、すでに実戦を想定した試験をクリアしました」
「そう、幸先がいいわ。特に問題はなかった……ということね?」
「はい、アンブロシア様の協力で、問題点は全て克服しました。こちらへ、魔導騎装兵をお見せします」
厳重に警備された工場の入り口にて、アンブロシアは男の職員と話をしていた。数年前から準備をしていた、とある兵器に関する報告を受ける。
「ふふ、あなたラッキーね。私の権限で階級を上げてあげるわ。ついでに、欲望のライセンスの使用許可も出す。アタシからのご褒美、謹んで受け取りなさい」
「ほ、本当ですか! くぅ~、ありがたいですね! この数年、試行錯誤を繰り返してきた甲斐がありましたよ!」
職員から渡されたタブレットに格納された資料を見ていたアンブロシアは、望んだ通りの結果が出たことに満足していた。
プロジェクトの主任でもある、隣にいる男へそう告げると感謝の言葉をかけられる。二人は工場に入り、奥にあるサイトGへ向かう。
「これです、どうですかアンブロシア様。ご要望通りに、戦乙女としてデザインしました」
「うん、悪くない。ただ……色合いが地味ね。こんな鋼色じゃ、ルナ・ソサエティの威光を示すのに力不足じゃないかしら」
サイトGの奥にある部屋に、一つの甲冑が飾られていた。まだ塗装されていないソレは、奇しくもアンネローゼが纏うホロウバルキリーと同じ姿をしている。
「塗装なんですが、実はまだ決まっておらず……いろいろ案が出たのですが、これがなかなか纏まらなくて……お恥ずかしい」
「ふぅん。ま、色は後でアタシが決めるわ。で、アレは動くのよね?」
「はい、勿論! 頭部と胸部の二カ所に、AIと動力炉を搭載したブレイン・コアを設置してあります。両方を破壊されない限り、魔導騎装兵は稼働し続けることが可能です」
「なるほど。で、動力はどうなってるの?」
「はい、マナバッテリーの持続時間は八時間。全ての魔力を使い切った場合、充電完了まで三時間かかることになりますね」
部屋は二階建てになっており、現在アンブロシアたちがいるのは二階部分。二階は一階の半分程度の広さになっており、前面全てがクリアガラスの壁になっている。
部屋の奥に鎮座する甲冑を見下ろしながら、アンブロシアは質問を重ねる。そんな彼女に、主任である男はハキハキと答えていく。
「そう、数はどのくらい用意してあるの?」
「現在、千体がスタンバイ状態になっています。ご命令くだされば、いつでも出撃させることが可能です。勿論、生産は続いていますのでご安心を」
その言葉を聞き、アンブロシアは鉄仮面の奥で笑みを浮かべる。自身の想定よりも生産が速いと知り、すっかり上機嫌だ
「ふむ……じゃ、最後に魔導騎装兵が戦っているところを見たいわ。レジスタンスに逆に殲滅された、ってなったら話にならないもの」
「では、魔獣と戦わせてみましょう。ちょうどメンテナンスも終わりましたからね。あー、一階職員に告ぐ! アンブロシア様のご要望で性能テストを行う。グリフォンを転送せよ!」
男はインカムを通して、一階にいる部下たちに指示を出す。職員たちが甲冑を起動させ、転位魔法を使って二階に移動する。
全員が移動した後、一階に大きなグリフォンが転送されてきた。薬品を投与されているのか、すでに興奮状態に陥っている。
「魔導騎装兵起動! 殲滅目標、グリフォン!」
『プログラム起動……戦闘モードに移行します』
職員が遠隔操作で甲冑を起動させ、戦闘モードに入らせる。ひとりでに鎧が動き出し、槍と丸い盾が呼び出された。
右手に槍を、左手に盾を持った魔道騎装兵にグリフォンが襲いかかる。勢いよく突進し、鋭い爪を振り下ろして攻撃する。
「グギャオォォ!!」
「へえ、防いだわね。ま、それくらい出来ないと困るんだけど」
『反撃開始。無力化を狙います』
盾をかざし、魔導騎装兵は爪を受け止める。薬の力で強化されているグリフォンの攻撃を受けても、ビクともしない。
腕を振り、グリフォンを払い除けると反撃に出た。槍を振るって相手を牽制しつつ、隙が出来るのを待つ魔導騎装兵。
思うように攻撃出来ないグリフォンが苛立ち、強引に反撃しようとした瞬間。目にも止まらぬ速度で繰り出された突きの連撃が、魔獣の翼を貫いた。
「グギャァァァァァ!!」
『両翼の破壊を確認。飛行能力を封じました』
「ギギギ……ギャアース!」
翼を破られたグリフォンは、後方に跳躍しつつ獄炎のブレスを放つ。千度を超える業火に包まれ、魔導騎装兵が見えなくなる。
「ちょっと、大丈夫なの? 溶けたりしないわよね? あれ」
「ご安心ください。耐熱性、耐腐食性共に完璧です。理論上は八千度までは耐えることが出来ますよ」
主任の言葉通り、一切傷の無い魔導騎装兵が炎を突っ切って飛び出してきた。背中に生えた翼を広げ、グリフォンの頭上へ飛ぶ。
相手が逃げる間もなく槍を振り下ろし、頭蓋骨を叩き砕いて息の根を止めた。断末魔の声を残し、グリフォンの巨体が倒れ動かなくなる。
「素晴らしいわ! これだけやれるんなら十分よ。よくやってくれたわ、サイトGの勤務者全員に特別ボーナスを出すわ。給料の一年分よ」
「な、なんと! そんなに貰ってよろしいのですか!?」
「問題ないわ。ただ、三つこちらから要望があるわ。一つ、頭部をフルフェイスタイプの兜に変えて。あれじゃ見た目が間抜けよ」
現在魔導騎装兵が装備しているのは、顔が露出するタイプの兜だ。それが不服なようで、アンブロシアは一つ目の要望を突き付ける。
「二つ目、アレの塗装は紫にして。アタシのシンボルカラーで統一するわ」
「かしこまりました。それで、三つ目のご要望は?」
「魔導騎装兵の正式名称を『ネクロモート』にしなさい。どれだけ傷付いても死ぬことがない、魔法とキカイが融合した不死の騎士にピッタリな名前だから」
そう言うと、アンブロシアはきびすを返し部屋を去ろうとする。その途中、何かを思い出したようで主任に声をかけた。
「そうそう、アタシ明日からカルゥ=オルセナに行くから。ネクロモートの出撃指令とかはマルカにやってもらって。本人からも了承してもらってるから」
「はい、かしこまりました。アンブロシア様、ご武運を」
「フン、アタシを誰だと思ってるの? テルフェみたいに負けるつもりはないわ。……やらなきゃならないことがあるしね」
そう口にした後、今度こそアンブロシアはサイトGを去って行った。ソサエティ本部にある自室に戻り、ルームウェアに着替えてベッドに寝転がる。
鉄仮面を外し、机の上に放り投げつつタブレットを手に取る。スイスイと操作市、ある動画を再生する。それは、監視水晶の映像だった。
『叔母様……くっ、行くわよフィルくん! 部屋の奥に置いてあるダイナモドライバーを取り戻すの! そしたら叔母様に加勢するわよ!』
『はい! 急ぎましょう、アンネ様!』
映し出されているのは、フィルとアンネローゼがマルカの隣をすり抜けようとする映像だ。以前、フィルたちがソサエティ本部から脱出しようとしていた時の映像を、アンブロシアが眺める。
「……はぁー。このフィルって子、すっごい可愛い! いいなー、こんな子が彼氏だったら毎日すっごい楽しいんだろうなー」
オリジナル個体であるアンネローゼ同様、アンブロシアもまたフィルに惹かれていた。是が非でも、あの少年を自分のモノにしたい。
だが、オリジナルであるアンネローゼがそれを許すことはないだろう。故に、アンブロシアは決意した。アンネローゼを排除し、自身がオリジナルに成り代わると。
「ふふふ、オリジナルなんかには勿体ないわ。このアタシが、フィルを寝取ってやる。プロポーションはこっちが上だし、誘惑すれば簡単に……うふふふふ」
仰向けからうつ伏せに寝返りすると、彼女の豊かな胸が潰れぶにゅりと広がる。艶めかしく舌なめずりをしながら、魔女は何度も映像を再生する。
「今から楽しみだわ。アタシの腕の中で、フィルはどんな声で啼いてくれるのかしらね? ふふ、うふふふふふふ」
自身の身に、別の意味で危機が迫っていることを……フィルはまだ知らない。




